ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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3章後日談《間幕》 それぞれの夏休み
番外編(1/4) 不幸な夕輝の忙しい休日①


 ピコピコ、ガヤガヤ、と騒がしいゲームセンターの中は少し埃っぽくて、アタシはむず痒くなった鼻を右手で擦った。

 

 

〜〜〜take 夕輝〜〜〜

 

 

 ショッピングモールに併設されている、このゲームセンターでは今日、ダンシングリズムゲームの大会が行われている。そして、そんな大会に何故か出場することになったアタシは、多くの人に囲まれてダンシングリズムゲームの機械の上に立っていた。

 

 ……どうしてアタシってこう、巻き込まれやすい体質なのだろう。そう思うと自然に、ため息が出た。

 

 アタシの足元には十字形に4つのポイントがあり、目の前のモニターに流れてくるアイコンと同じ位置のポイントを踏むゲームだという。他にも上半身の動きをセンサーが検知しているらしく、同じくモニターに流れてくるアイコンと対応する動きをしないといけないらしい。

 

「お姉ちゃん、頑張れ〜!」

 

 夜都弓の、そんな応援が聞こえてきて少し拳に力が入る。けど。やはり気乗りはしない。元々、やりたいわけじゃなかったってのもあるけど、何より大勢に囲まれて、注目されているのがヤだ。

 スクールアイドルとして、そこそこ場数は踏んできたけど目立ちたがりな性格には、なれないのだと思う。

 

「それではダンス×ダンスEX、第3回大会! Bブロック1回戦、開始です‼︎」

 

 大会を進行するMCのお姉さんがマイク越しに、そう宣言しアタシの乗る機械が音楽と共に動き出した。

 

 ああ……なんでアタシこんなことやってんだろ。

 

 ※

 

 現在、8月頭。演劇部とスクールアイドル部のコラボレーションである『月夜の下でキミと踊ろう』、の公演も無事終了し、アタシたちは夏休みを迎えている。

 劇の反響は上々で、配信したものを編集し残したアーカイブの視聴回数も今だに増えていると、美烏が言っていた。やっぱり、親子初共演の劇で絶賛活躍中の葉月がサプライズ出演したのが話題を産んだのだろう。

 

 陽夏先輩も喜んでたし、ユカも笑ってたから、あのコラボは文句なしの成功だった。

 

 夏休みの間は、葉月が帰ってくるまでは目立った活動は控えて力を蓄える期間にするって、美烏が決めた。アタシもそれには賛成だし、ユカやレナも当然のように賛成した。

 だから、毎日あっつい日差しの下で、朝から晩まで練習して体はボロボロ……。

 店内の人は多いけど、オフの日に来るショッピングモールのクーラーがキモチーよホント……。家だと節約しなきゃだから、思う存分クーラーかけらんないもん。

 

「お姉ちゃん。後なにが必要なんだっけ?」

 

 日用品の買い溜めに付き合ってくれている夜都弓がキョトン、とした可愛い顔で聞いてくる。

 

「んー。そういえば夜都弓、練習用のシューズ痛んでなかった? お姉ちゃん、バイト代入ったから新しいの買ったげよっか?」

「ホント⁉︎ じゃあ、お姉ちゃんとお揃いのやつがいい! お揃いで新しいの買お‼︎」

「えぇ、アタシはいいよ別に。ちょっと痛んできてるけど、まだ使えそうだし」

 

 アタシがそういうと、夜都弓は少しムッ、とした表情を見せた。

 

「ダメ! お姉ちゃんはスクールアイドルなんだよ? アイドルは汚れた靴で外を走っちゃダメだよ。誰が見てるか分かんないんだから!」

 

 別にそんなこと……そう否定しようと口を開きかけて、最近のことを思い出す。ユカが土宮のりく先輩と始めた路上ライブをきっかけに、アタシたちエンシードはかなりの知名度を得た。

 アタシも、美烏や葉月に比べたら全然だけど、応援してくれるファンの人が増えた気がする。この間、練習終わりにユカとレナの3人で帰宅していると、駅のホームで同年代くらいの女の子に声をかけてもらえたのが良い例だ。

 ユカとレナもサインをせがまれていて、ユカは待ってました!、と言わんばかりに、熟考していたサインを披露できて嬉しそうだった。レナは驚いてたけど、変なとこで肝が座ってるから全然、大丈夫そうだったし、アタシも木蔭に頼まれて冗談半分に作ってたサインがあったから何とか対応できた。

 

 常に誰かに見られてると思うと、容易く汚れた靴で外を走っていても関係ない、なんて言えない。そんなことを言ったら、きっと美烏も夜都弓と同じようなことを言うだろうし、否定ばっかりしていたら応援してくれる人にも失礼だと思う。

 

「んー、そだね。お揃いの買おっか」

「やったー‼︎ 行こ、お姉ちゃん!」

 

 喜ぶ夜都弓が一歩前に跳ねて、遅れるアタシに手招きする。

 病弱だった妹が、こうして元気に笑ってくれているだけで正直、救われる。

 心から、そう思った。

 

 ※

 

 ショッピングモール3階のスポーツ用品店で、青色に紫のアクセントが入ったオシャレなシューズを2足買い、店を出た。

 正直、お財布には優しくない出費だった。だけど、夏休みは清掃のバイトもかなり入れてて、財布は少し潤っていたから然程、問題にならない。ウチの会社は民間の部屋や、廃業施設にエージェントを派遣する形の事業をしていて、過酷な業務のかわりにバイトのアタシも、かなりの時給で雇ってもらえている。パパの稼ぎには届かないけど、生活の足しくらいにはなっていた。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん! あっちの方なんだか騒がしいね?」

「ん? ああ、そうだね。何やってんだろ?」

 

 ゲームセンターの方を指差す夜都弓と、そんな会話を交わした。

 

 ゲームセンターが騒がしいのは普通のことなのだが、いつにも増して人がいる。そして、特殊な雰囲気を放っていた。

 

 そんなゲームセンターの方向をボヤっ、と見つめていると、後ろから徐々に大きくなる足音が聞こえてくる。次の瞬間――アタシの肩が、何者かによって触れられた。

 

「やあ、緋花くん。こんなところで会うなんて、奇遇だな」

 

 声のする方へ振り向いてみると、そこには出来れば見たくない顔があった。

 

 学校で会うのもイヤなのに、休みの日に外で会うなんて、サイアクじゃん?

 

「おいおい……開口一番、随分とイヤそうな顔をするなあ」

 

 露骨に感情が顔に出ていたのか、ウチの生徒会長である青峰若葉は憎たらしい口調で、そんなことを言う。

 

「先輩……確かにこんなところで会うなんて奇遇ですね」

 

 アタシが静かにそう返すと、若葉は少し目を丸くして様子を伺うように、こっちを見た。そして、夜都弓の存在に気付き、合点がいったかのようにニヤリ、と笑う。

 

「もしかして妹さんか? 緋花くん、妹がいたのか」

 

 若干わざとらしく、そう切り出し、話題の中心にあげられた夜都弓は慌てて若葉に頭を下げた。こういう姿を見ると、やっぱりスポーツマンは礼儀がしっかりしてるなぁ、と思う。

 

「あの、妹の緋花夜都弓です! お姉ちゃんの先輩……ですよね?」

 

 夜都弓に気を遣って若葉であっても丁寧に接したつもりだったが、何かただならぬ雰囲気を察知したのか、夜都弓はアタシたちの関係を不思議がっているようだった。

 

「うん、若ノ芽の生徒会長。ユカの昔の知り合いらしくて、アタシともちょっとだけ接点があるの」

「はじめまして、青峰若葉だ。よろしくね、夜都弓ちゃん」

 

 妹に対して和かに挨拶をする若葉に寒気を感じつつ、夜都弓はさっきの説明で納得したのか、笑顔を見せてくれている。

 

「先輩はここで何してるんですか?」

 

 さっさと帰って欲しいけど、露骨に態度に出すと夜都弓を心配させるから、仕方なく話を振ってみた。すると、若葉はアタシの態度が面白かったのかクスリ、と笑い、それから答える。

 

「いや、本屋に新しい参考書を買いにね。私も例に漏れず受験生だからな」

「へえ、やっぱ先輩、大学行くんだ」

「ああ、夢というほどの目標もないが、進学は無難な選択だからな」

 

 無難な選択、そう聞かされ少し複雑な感情を思い出した。

 

 今、アタシがユカやレナたちと同じ高校に通えてるのはママが残してくれた、アタシのための学費貯金とママの生命保険金があるからだ。それがなかったらアタシは若ノ芽女学院に通えていない。だから、アタシは3年後、無難には大学に行けないだろう。

 

 昔から不自由なくその才能を伸ばすユカやレナに比べて、アタシは間違いなく様々な面で恵まれてはいなかった。そんなことを言うと、居なくなったママや毎日働いてくれているパパに、すごく失礼なことは分かっている。けど、その埋められない差だけはずっと心の奥に感じていた。

 

 その時の胸の痛みと、同じ痛みを今すごく感じている。

 

「若葉さん、見てください! お姉ちゃんがバイト代でお揃いのシューズを買ってくれたんです‼︎」

 

 夜都弓が手にさげていたシューズの買い物袋を持ち上げて、笑顔で若葉に見せびらかす。そんな姿を見て、若葉は和かに対応した。アタシの目には、心なしか若葉がいつもより優しく笑っているようにうつる。

 

「そうか。よかったね。良いとこあるじゃないか、緋花く……紛らわしいから夕輝くんにしようか」

「そうなんです! お姉ちゃん昔から、すごく優しくて……私が病弱だから看病とか、お家の手伝いとか、自分の時間を削って、いつも忙しそうにしてて」

「へぇ、そうだったのか」

 

 感心した風にこちらを見てくる若葉。上からな態度に少し腹が立つが実際、上級生なわけだし文句のつけどころが難しい。アタシが軽く否定しながら会釈すると、若葉はゆっくりと首を横に振った。

 

「謙遜する必要はない。優しくて良い、お姉さんじゃないか……私とは違う」

「え?」

 

 少し寂しげな雰囲気で、いたって真剣にアタシを持ち上げる若葉の最後の一言に、思わず疑問の声を鳴らす。すると、それをかき消すように若葉は笑顔を取り戻し、再び夜都弓と談笑を始めた。

 

「夜都弓ちゃんは、体はもう大丈夫なのか?」

「はい! 最近は目立った病気も、持病の発症もなくて、今ではバスケ部でキャプテンを勤めさせてもらってます‼︎」

「そうか、それは良かった。運動神経の良さは姉譲りだな」

 

 今日はいつになく若葉の雰囲気が柔らかくて調子が狂う。アタシと同じで、夜都弓に気を遣ってくれているのだろうか。

 そういえば、若葉にも妹がいると言っていたし、そういう気を遣ってしまうアタシの気持ちが分かるのかもしれない。

 

 仲良さそうに談笑する2人をボーっ、と見つめていると、遠くの方から早歩きで忙しなく、こっちの方向に移動してくる人影を見つける。公共の施設だっていうのに迷惑なヤツもいるもんだなぁ、なんて思っていると、近づいてくるその人物に見覚えがあることに気付いた。

 

「あああぁ‼︎ 若ノ芽の⁉︎ どうして、こんなところにいるんっすか⁉︎」

「ゲ……ウザいのが増えた」

 

 偶然居合わせた土宮の女学院のスクールアイドルである竹下淳美を前に、思わずアタシはそう声を漏らしていた。

 若葉がアタシの失言を掬い取り、少しだけムッ、とした顔でこちらを見ている気がするが気付かないふりをする。

 

「なんか見るからにうるさいヤツがいると思ったら……そっちこそ何やってんの?」

「あ! そうだった……アレっすよアレ‼︎」

 

 そう言って淳美が指差す方向を見てみると、さっき夜都弓と騒がしいね、と話していたゲームセンターを示していた。

 

「あそこでダンシングリズムゲームの大会が開かれるんす。出場するつもりだったのに寝坊しちゃって……エントリーがギリギリになりそうなんすよぉ!」

「リズムゲーム? 意外な趣味してんじゃん?」

「趣味じゃないっす! 景品っすよ‼︎ 2位の賞品が目的なんす!」

「2位の?」

 

 微妙なところを突くなぁ、と思いながら聞き返すと、淳美は強い目力で頷く。

 

「高級ジュースの詰め合わせっす! しかも、ケチな缶じゃなくて、贅沢にビンの詰め合わせっす‼︎」

「は?」

「だから! 詰め合わせの中にある高級トマトジュースを、りく先輩への手土産にするんすよ‼︎」

 

 軽くヒステリックを起こしながら淳美は、そんなことを言うが、こちらとしては、まだピンと来ない。目の下がピクピクと動く感覚を受けながら、思わず、ため息を吐いた。

 

「りく先輩はトマトが大の好物なんす! だから、手土産はどうしようかなぁ、って考えてたところに、この大会の情報をネットで見て、これしかない!、って思ったんすよ」

「そもそも、なんの手土産なわけ? もしかしてアイツ身体壊した? 熱中症? お見舞いってこと?」

「違うっすよ! もちろんパーティに持ってく――ッ⁉︎」

 

 何かを言いかけて淳美はハっ、と手で口をおさえる。首を傾げて何を言いたかったのか、訴えてみるが教えてくれる様子はない。

 

「まあ、何でも良いじゃないっすか!」

「なんか怪しいな……教えない、って言うならアタシがそれに出てアンタのこと倒しちゃおっか?」

 

 反骨精神で心にもないことを言った。しかし、冗談めいた口調で言った為、マジメに相手はされないだろう。

 

「ふんっ、いくら体がキレるからって若ノ芽の素人には負けないっすよ? 身の程をわきまえた方がいいっす」

 

 淳美は両手の平を上に向け、ニタリ顔で、そう吐き捨てた。

 

「は?」

 

 アタシが、さっき言った、相手にされないだろう、ってのは前言撤回する。コイツはそんな、空気の読めそうなヤツじゃなかった。

 

 アタシのことは眼中に無いだけの、りく先輩に比べて、コイツはシンプルにウザい。

 

 夜都弓の手前、良い子に徹して、まともに会話してみたけど裏目に出たよ……。元々、敵同士とはいえ流石に遠慮ってもんがなさすぎるんじゃん?

 

 ああ、ウザ。もういいや、無視しよ。

 

 思わず大きな、ため息を吐き、アタシが淳美の相手を放棄すると、意外なことに若葉が一歩前に出て、淳美との間に割り込んでくる。

 

「聞き捨てならないな。ウチの生徒を侮辱する発言は、撤回してもらおうか?」

「誰っすか……?」

「私は若ノ芽女学院の生徒会長、青峰若葉だ」

「……部外者は引っ込んでいて欲しいっす」

 

 高圧的な若葉に気圧されて及腰で淳美は抵抗した。

 

「夕輝くん、ここまで言われちゃ引き下がれないだろ? 若ノ芽の力、そこの小娘に見せつけてやるんだ」

「え……?」

 

 若葉の顔はムッ、としていて、どう見ても怒っている。アタシの露骨に嫌そうな声を聞いても、若葉は逃がしてくれそうにない。

 

「夕輝くん、優勝してくるんだ。キミなら出来るだろ」

「いやいや、いくらダンスのゲームでも、やったことないし。簡単に優勝とかムリなんじゃん?」

「キミの運動神経なら大丈夫だ。少なくとも、間抜けな顔をした、そこの彼女には負けない」

 

 口悪……こいつ怒ったらメチャクチャ口悪いじゃん。いくら売り言葉に買い言葉とはいえ、流石に返しの火力が高すぎるよ。

 

「カッチーン……流石に今のは怒ったっすよ? 若ノ芽になんて絶対、負けないっす! 優勝するのは、この私っす‼︎」

 

 目的、変わってるし……

 なんで、こんなことになってんの?

 

 互いに睨み合い、視線の交わるところで火花を散らしている。なのに、戦わされるのはアタシって……やるなら自分で、やれば良いのに。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん。見て、これ」

「ん?」

 

 アタシの袖を軽く2回引き、夜都弓が見せてきたのは話題の中心にある大会のネット広告だった。

 

「優勝賞品。おっきいテレビだよ!」

「え……? ほしいの? でも、ウチに、そんな大っきいテレビ置くとこなんて……」

「売ったら、お金になるよ! お姉ちゃん‼︎」

 

 夜都弓が両手でガッツポーズを決めて大層、目を輝かせ、そんなことを言ってくる。

 

「……夜都弓」

 

 貧乏なのは分かるけど、そんな純粋な笑顔で悲しいこと言わないで。

 

「あっ⁉︎ 早くエントリーしに行かないと、間に合わなくなるっす!」

 

 そう言って淳美は忙しくゲームセンターの方へと走っていく。そんな淳美の背中を若葉は、ハっ、とした顔で見て、後に続いた。

 

「夕輝くん! 代わりにエントリーしておくぞ!」

 

 その声を聞いて、2人の背中が見えなくなるまでそう時間はかからず、アタシと夜都弓は、その場に取り残される。

 

「お姉ちゃん、頑張って! お姉ちゃんなら優勝できるよ‼︎ テレビ売って、美味しいもの食べよ!」

 

 キャッ、キャッ、とはしゃぐ夜都弓を見てから、思わずアタシは目を瞑った。黒くなる視界の中で複雑な感情が徐々に整理されていき、行き着く先でアタシは大きな、ため息を吐く。

 

 なんで、こんなことになったんだろ……。

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