「なるほど。中々、強引になりそうだが大丈夫だろうか……」
「大丈夫です! 要は成功例さえアレば、
「まあ、色々と言いたいことはあるけど、その後のフェスに出るためには曲と衣装が必要だよね。追々、ぶち当たる課題ではあったんだけど、フェスまでに解決できるだろうか……」
メンバーを4人集めて部として成立させることは、あくまでもスタートラインに過ぎない。次の課題として、ライブをするのに必須といえる曲と衣装を準備しなくてはならない。そのことを葉月は苦言する。
「ユカリは作曲とかはできないのかい? アレだけ素晴らしい歌を歌うんだ、音楽の知識にも精通していると思うんだが」
「作曲⁉︎ ムリムリ、そんなむずかしいことできないよ! 歌だって無意識に歌っただけだし、音楽の知識なんてないよ」
「そうなのかい? それは残念だね」
「あの〜、作詞と作曲ならアタシにアテがあるかな〜って……」
「本当かい⁉︎」
「う、うん。私がやるわけじゃないんだけど両方できる知り合いがいるんだよね……」
「すっごい! 夕輝ちゃん、交友関係広いんだね‼︎」
純粋に目を輝かせる結花凛に夕輝は乾いた笑いをアハハ、と返し頭の後ろをかく。
「とりあえず連絡してみる。もしかしたら衣装の方もなんとかなるかも。その子、手先も器用だからわりかし何でもできちゃうんだよね」
「それはスゴイ才能だね。うちの学園の人かい?」
「え⁉︎ う〜ん、まあそうなんだけど……色々あってまだ登校してきてないんだよね。早く来ないと退学になっちゃうかも……」
左下に目線を落としながら覇気のない声で夕輝は話した。
「それってもしかして……隣のクラスの
「あー、はいはい! この話おしまい‼︎ ごめん、脱線させちゃった。とりあえず、曲と衣装はアタシに任せて」
そう言うと夕輝は机の上に置いていた水をいっきに喉へと流し込む。それからフライドポテトを3本掴み取り、口の中へと放り込んだ。
「じゃあ、フェスへの参加は問題ないということでいいですか?」
「そうだね。近隣のスクールアイドルが集まった合同ライブか……初陣にしては派手でちょうどいい」
琴音の確認に3人は首を縦に振る。葉月に至っては今から、ステージの景色を想像して燃えているようであった。
「では、来月のスプリングフェスに向けて必要なのは練習です。力不足ではありますが私が皆さんを、立派なアイドルになれるよう、お力添えします」
「ああ、それは助かるよ。ボクたちにはアイドルのノウハウがないからね。ちょうど困っていたんだ」
「はい、では改めて予定を擦り合わせましょう!」
琴音は結花凛たちと連絡先を交換し、こうしてその日は過ぎていった。
※
次の日の朝。早速、結花凛は部活申請の紙を美烏の元へと持っていった。
それを受けた美烏は嫌な顔一つ見せず、素直に名前を記入して形上、スクールアイドル部に加入することを認める。
そして、昼休み。結花凛は1人で生徒会室を訪れるのだった。
「うん、確かに受理させてもらうよ。よかったねメンバーが見つかって」
書類を受け取った生徒会長、
「はい!」
「そうだ。この前、裏庭で歌ったキミの歌声、とても素晴らしかったよ」
「ほんとですか⁉︎ 聞いてくれてたんですね!」
「うん、どうだろう。ちょうど、貰い物のまんじゅうがあるんだが、食べていかないか? お茶も入れよう」
「いいんですか⁉︎ やったー!」
両手を上げて溌剌に笑顔を振り撒く結花凛。若葉に促されるようにして生徒会室の脇の方にある面会室へ行き、対面になるように配置された2つのソファーに腰をかける。
「はい、どうぞ」
結花凛の目の前の小さな机に焦茶色の古風なまんじゅうと暖かい緑茶が若葉の手によって準備された。緑茶の日本を感じさせる香りが鼻腔の奥へと広がっていく。
「いただきます!」
舌の上でほろほろと崩れる餡は豆の風味がしっかり残った上品な味わい。ほんのりと甘い薄皮の生地と相まって緑茶によくあっていた。
「美味しい!」
「ハハハ、それはよかった。それでなんだが、結花凛くんは花園音楽教室という場所を知っているだろうか?」
結花凛の対面に腰をかける若葉が、唐突に真剣な顔つきでそう聞いてくる。
「花園音楽教室?」
「その様子だと知らないのかな。まあ、いいや。少し私の話を聞いて欲しい」
一度、緑茶で喉を湿らせてから若葉は真剣な声色で話し始めた。
「私は幼少期からヴァイオリンを嗜んでいてね。件の花園音楽教室というところで日々稽古に励んでいたんだ。そこは大きな音楽スクールで、音楽にまつわるすべての分野を手がけている」
都心に立つビルのような、そんな施設を若葉の言葉から連想できる。音楽にまつわるすべての分野を手がけている、そう謳っているのだから、有名人を排出するような実力のあるスクールなのだろう。
「私の2つ下の代、つまり結花凛くんと同い年の歌唱クラスに、他のクラスにも名が通るほどの天才が現れたという話があってね。実際に会ったことはないんだが、ちょうど去年くらいかな。突如として、その天才は姿を消してしまったのだよ……私もそこそこの古株だからね、一度くらいは会ってその歌を聞いてみたいと思っていたんだが…………」
話を続ける若葉であったが、聞いている結花凛の表情にはクエスチョンマークが浮かんでいた。その様子を若葉は一度確認し、少しばかり唇を尖らせてみせた。
「その様子だと本当に心当たりはないようだね。私はてっきり…………いや、やめておこう。これ以上は失礼だね」
そう締めくくり若葉の話は、他愛のない世間話へと移行した。そして、美味しそうにまんじゅうを頬張る結花凛を微笑ましそうに眺める。
「ごちそうさまでした、青峰先輩!」
「うん、困ったことがあればいつでもおいで。相談に乗るからさ。それと、若葉でいいよ」
「はい! 若葉先輩‼︎」
まんじゅうと緑茶をたいらげた結花凛は生徒会室の扉の前で、ぺこりと若葉に礼をして、元気いっぱいの笑顔を見せた。
そして、手を振る若葉に見送られ、生徒会室を後にするのだった。
「相変わらず元気いっぱいだったね……でも、キミの笑顔はどこか空っぽに見えるよ、結花凛くん…………」
表情を暗くさせ、しっとりとした声色で若葉は、そう言いこぼした。