ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第66話 やります!2人の文化祭補助員

 同日の6時間目。

 

 まだ暑い気候の中、土の混じった枯れ葉の匂いが鼻腔をくすぐる9月の半ば。

 

 教壇にはクラスの文化委員が立っており、クラスの副委員長が後ろで黒板に文字を書く準備を初めていた。そして、その脇にはクラス会議の総司会である委員長が大人しく立ち、様子を見守っている。

 

 そう、二学期の大イベントである文化祭に向けて、一度目の会議を行っているのである。

 

「それでは改めて文化祭に向けてクラスの出し物を決めたいと思います」

 

 文化委員のそんな言葉を聞いて、結花凛は今にもはち切れんといった笑みの含んだ顔で、分かりやすく胸を高鳴らせていた。

 

 クラスの出し物といっても選択肢は様々だ。飲食を扱うクラスもあれば、レジャー系で攻めるクラスもある。各々のクラスの特色が文化祭を彩っていくことだろう。

 

「何か希望がある人はいますか?」

 

 そう質問されて数秒の間が空いた後、口々に意見が飛び交った。

 

「はいはーい! 喫茶店とかやりた〜い!」

「DIYでジェットコースター作ろー!」

 

 他には、鉄板で焼きそばを作りたいだとか、たこ焼きをクルクルしたい、などの声が飛び交っており副委員長はそれを忙しく黒板に書き記す。

 

 そんな中、結花凛のファン代表を名乗る笹原香代が大きく手を挙げて口を開いた。

 

「せっかく結花凛ちゃんたちがいるんだしさ、コスプレ系で攻めようよ! 王道ならメイドカフェ? チェキ撮影会とかいいかも!」

 

 そんな香代の提案にクラスメイトはかなり好意的な姿勢を見せる。そもそもスクールアイドルが好きな生徒が数人いるうえに、葉月や美烏の人気を目の当たりにしながら共に生活をしているメンバーでもある。それだけ香代の提案が需要を満たすことを理解している。

 

 香代の一言で結花凛たちスクールアイドル部は議題の中心へと躍り出た。こういった場合、当然矢面に立たされるのは部の代表を担う美烏である。クラスメイトの視線を一身に受け、美烏は軽く顔を引きずらせた。

 

「そ、そうね。チェキ会はクラスの出し物というかスクールアイドル部のイベントみたいになりそうだから、あまりよくないかもしれないわね……」

「ええ~、それならコスプレ喫茶は?」

「んんー……それならまぁ、ぎりアリじゃないかしら?」

 

 あくまでも仮ではあるが、美烏のGOサインが出て香代を中心にクラスメイトの熱はさらに熱くなる。

 

「皆さん! 他に案がある人はいませんか?」

 

 司会である文化委員の声も届かないほどに一部の生徒は衣装の案を口々に飛び交わせた。

 

 あまりの盛り上がりに会議が脱線し始めたその時、ピシリと真っ直ぐに葉月は手をあげる。

 

「1ついいかな?」

 

 ヤケに通る葉月の声を聞き、クラスメイトの意識は会話から彼女へと移り変わる。

 

「これはクラスの出し物だろう? ボクたちスクールアイドル部を前面に押し出してくれるのは嬉しいけど、ミウも言っていたが意識としてあくまでも主役はクラスそのものであるべきだ」

 

 冷淡な口調でそう説明する葉月の言葉は、さっきまで盛り上がっていた熱を一気に冷ました。僅かにピリついた空気が妙な緊張感を生み出している。

 

「そこで代案なんだけど、教室に写真撮影ができる"映えスポット"を作る、というのはどうだろうか? 装飾の案は後々クラスで話し合うとして、SNSでバズりそうな写真が撮れるスタジオを皆んなで作り上げるんだ。運良くシフトが合えば、教室にいるボクたちとチェキを撮ることもできるしね。それくらいなら、クラスの出し物を私物化することにはならないだろう?」

 

 そう補足した葉月は暖かく笑い、張り詰めていた教室の雰囲気を優しく緩ませた。

 

「イイかも! イイよそれ‼︎ ハートの風船いっぱい飾ったり、小さいプラネタリウムとかも良さそう!」

「女子校だし、SNSやってる子も多いから受け入れやすそうだね」

 

 葉月による代案は、さっきまで盛り上がっていたクラスのメンバーにも受け入れられたようである。新たな熱が、ジワジワと広がって教室に笑顔が戻ってきた。

 

「それでは他に案のある方はいませんか?」

 

 程よく盛り上がる教室に再度、別案がないか問いかけたところ、とくに手を挙げる生徒は見られない。

 

「じゃあさ、決を取ろうよ! 映えスポットで賛成の人〜!」

 

 教室の様子を見渡した香代が、我先にと手を挙げて言う。

 文化委員も、香代の行動力に呆れた表情を見せつつも、追って多数決をとる旨を示した。

 

 香代をはじめとし、やつぎばやにクラスメイトは手を挙げる。同じ意志を持つもの。どちらつかずだが、それ以上の案を出すことができない生徒、と順に手は上がっていく。

 他にも出た、たこ焼きやジェットコースターなどにもチラホラと票は流れるが、圧倒的に葉月の案が人気であった。

 

 

「あれ? 1人足りない?」

 

 クラスの人数が合わないらしく、決を取り数え直すがやはり足りないようで、文化委員が訝しげな表情を見せていたところ、別のところでは、ある生徒に視線が集まっていた。

 

「なんで手、上げないの? 別にやりたい案とかあるわけ?」

 

 クラスの中でただ1人手を挙げなかった少女、浅野愛紗に対し、香代は不満気に問いかける。

 

「別に。どうでもイイから手を上げなかっただけ。やりたいならイイんじゃない? 勝手にすれば?」

 

 目を合わせることなく、頬杖をつきながら愛紗は言った。

 

「だったら合わせて手、上げたらいいのに……」

 

 ボソリ、とどこからともなく、そんな声が聞こえてくる。愛紗の僅かな抵抗は思いの外、敵を産んでいた。

 

 よくない空気が教室に立ち込みはじめ、教壇に立つ文化委員は手を叩き大きな音で、それを振り払う。

 

「はい……! それでは多数決の結果、1年B組は映えスポットの撮影スタジオを作る、ということでよろしいでしょうか!」

 

 改めて確認をして、口々に聞こえる合意の声を聴き胸を撫で下ろした。そして直ぐに表情を引き締めて息を吸う。

 

「それでは2つ目の議題です。文化祭を運営するにあたって文化委員、生徒会の他に各クラスから2名文化祭補助員を募集します。仕事内容は当日までの公的な準備の手伝いと、当日の運営、等です。どなたか、やってくださる方はいませんか?」

 

 議題の内容が書かれているであろう紙に目を落としながら、クラスメイトに向けて文化委員は問いかけた。しかしながら、快く引き受けると宣言する生徒は現れない。

 

 かつて美烏が美化委員としてボランティアを募った際は快く手を上げた結花凛も、ラブライブ地区予選を控えていることを自覚しているのか、手を上げることを自重している。

 

 そんな時、クラスの誰かが小さく呟いた。

 

「クラスの出し物の方は、やる気なさそうだしさ。浅野さんにやって貰えばイイんじゃない?」

 

 そんな言葉に賛同する声がチラホラ、と増えていく。

 

「……チっ」

 

 常に気にしない素振りを見せていた愛紗が、眉を寄せ舌打ちを鳴らした。すると教室はスっ、と静まって意識は愛紗へと集められる。

 その時、愛紗は初めて、そらしていた視線を教室へと向けた。

 

 どこを見ても味方はいない。口を開くが、息の吸い方を忘れてしまったかのように、直ぐに下唇を噛んだ。

 

「いいよ。やるよ、それくらい」

 

 ダルそうな声で愛紗は了承し、すぐさま教室の外へと視線を逃す。

 

「……じゃ、じゃあ1人は浅野さんということで――他にどなたかいませんか?」

 

 なんとも歯切れの悪い決まり方ではあるが本人が、やると言ったのだから、それ以上口を挟まない選択を取ったらしい。

 

 愛紗と共に参加する生徒を呼びかけるが、皆んな目があわないように視線をそらしている。

 

「それじゃあ、じゃんけんをして――」

「はい! やる。私、やります!」

 

 最終手段のじゃんけん大会が始まろうとしたその時、溌剌とした結花凛の声が教室に響いた。文化委員の目には、笑顔で真っ直ぐに手を上げる結花凛の姿がくっきり、と映る。

 

「え、でも。結花凛ちゃん、ラブライブ地区予選があるんじゃ……」

 

 焦りと心配が感じられる声で、香代が言った。文化委員を含む他の生徒らも、そんな結花凛の事情を知っていた為、困惑した様子を見せる。

 

「大丈夫だよ。それはそれ、これはこれだから。どっちも、こなしちゃうよ!」

 

 結花凛はそう言うが、あまり納得が得られなかったようで、クラスメイトらは助けを求めるかのように美烏へと視線を集めた。

 無言の圧をかけられた美烏は「んんん……」、と考えながら苦い笑顔で口を開く。

 

「まあ、結花凛がやるっていうなら」

「仕方ないんじゃないかい?」

 

 美烏の言葉に、柔らかな表情の葉月が重ね、2人のGOサインが出た。スクールアイドル部の二本柱が、いいと言うのだから、それ以上部外者がどうこう言う問題ではない。そう判断したのか、クラスメイトらは結花凛の決断から渋々といった顔で引き下がった。

 

「それでは1年B組の文化祭補助員は、浅野さんと春野さんに決定しました。文化委員からの議題は以上になります」

 

 クラスメイトの拍手に包まれて文化委員は自分の席へと戻る。その際、美烏の視線は同じクラスの夕輝へと向けられていた。

 

 会議の最中、ずっと難しい顔をしながら話し合いに参加する素振りも見せず、ただただ黙って座っていた彼女を案じている瞳。

 対して夕輝は自分が見られていることなど気づかないほどに深く深く、何かを考えているようだった。




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