ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第8話 練習始めました!

 カラスの鳴き声が茜の空に連続して広がっていく。

 住宅街の中でも一際、存在感を放つ立派な豪邸。洋式の建築で、庭も広く、周りの一軒家が四つ建つほどの敷地にそれは建っていた。

 その豪邸の中にある一室。一面鏡張りの部屋で、床には明るい色をしたオーソドックスな木目のフローリングが広がっている。

 

「いったん、休憩にしましょう!」

 

 額に大粒の汗を浮かべる結花凛(ゆかり)夕輝(ゆうき)葉月(はづき)の3人に向かって、有矢琴音(ありや ことね)は元気よく声をかけた。

 

「きっつうぅぅ! 走り込みとは全然、違うわ。ダンスとかムズイし、これしながら歌うとかムリすぎるじゃん!」

 

 両膝に手を置き、低い体制で荒い息をする夕輝。そんな夕輝の姿を見て葉月はタオルで汗を拭いながら、爽やかな笑顔を見せた。

 

「ハハ、ファイトだよユウキ!」

 

 500mLサイズのスクイズボトルを片手で絞り給水をしながら、葉月はもう一つのボトルを夕輝に手渡す。それを受け取った夕輝は腕に血管が浮かぶほどボトルを強く握り、勢いよく飛び出してきた冷水を直接、喉の奥へと送り込んだ。

 

「ああ〜、水が美味しすぎる! あんがと葉月」

「どういたしまして」

 

 比較的、体力に余裕がある様子の葉月に比べて夕輝と結花凛はかなりの消耗を見せていた。しかし、この場の誰よりも結花凛の瞳はキラキラと輝いている。

 

「あはははは、ずっごい! 足ガックガクだよ〜‼︎」

「疲れすぎて、ユカが壊れちゃったよ……」

「そうかな? ボクには平常運転に見えるけど。すごく楽しそうだね」

 

 フローリングに尻餅をつき、少し上を向いて結花凛はケラケラと笑っている。そんな姿は確かに充実しているように見えた。

 

「でも凄いですね。こんなに立派なレッスン場がお家のなかにあるなんて」

 

 3人のコーチ役を買って出た琴音が、葉月に向かってそう言った。

 

「ああ、両親に感謝だよ。稽古も勉学も、昔から何不自由なく、させてもらっているからね」

「てか家、広すぎじゃん? 1人だと迷子になりそう……」

「母が大のインテリア好きでね。理想の部屋を作るためにと、建築段階から張り切りすぎて気がつけばここまでの規模に広がってたらしいよ」

「天然なお母さん、なんだね!」

 

 そう言われ、葉月は1人で笑い飛ばす。

 

「確かにね。特に浴場は広くて、ほとんど銭湯といっても過言じゃないよ」

「ぐうの音も出ない金持ちじゃん。家、入るとき使用人みたいな人いたし……」

「いいなあ〜、お家に大っきいお風呂あるの」

 

 テレビのCMを見てその商品を強請る幼児のように、結花凛は羨ましそうな声を出す。

 

「練習が終わったら皆んなで入っていくかい?」

「いいの⁉︎」

「もちろんさ。ちょうど練習後用に着替えも準備しているわけだしね」

「やった〜‼︎」

 

 快く受け入れた葉月に対して、結花凛は両手を上げて全身で喜びを表現した。そんなやりとりを微笑ましそうに見つめながら、琴音はパチンと手を叩く。

 

「さあ、練習を再開しましょう!」

 

 その掛け声を受けて結花凛は立ち上がり、3人で横並びになった。

 

「ではまず、さっきやった基本ステップ10種類のおさらいから。初めはできなくてもいいので、基礎の動きを、しっかり体に教え込んでダンスの土台を作っていきましょう!」

 

 その声に3人は声を揃えて返事する。そして、琴音が数える1〜8のローテンポな8ビートに合わせて、3人は琴音の動きを見ながら身体を動かした。

 

「2セット目! スピード上げていきます」

 

 一通りの動きを終えようとしたところで琴音はそう告げる。そしてカウントするスピードが上がり、3人はそれに連動して身体の動きも速めていく。

 

 次第に夕輝の動きはリズムを乱し、周りの動きとのズレが生まれ出した。結花凛も動きを間違えたりと、ミスを出しながらも、なんとか修正を加えつつ食らいついていく。

 

 そして3セット目は1〜16の16ビートへとテンポが変わり、4セット目はハイテンポな16ビートをして琴音は終了の合図を出した。

 

「皆さん、お疲れ様です。これからは毎回のダンスレッスンの前に、今の一連の基礎練習をするので今の感覚を覚えておいてくださいね」

 

 息を荒くしつつ、3人は琴音の声に頷いて見せる。葉月は体の基礎が出来上がっているのか比較的、動きを習得する速度が早い。そして、結花凛は体も体力も人並み程度だが、ずば抜けたリズム感で、何とか食らいついていた。自分だけ明らかに遅れている。そのことを肌で感じ取ったのか、夕輝の表情は暗いものだった。

 

緋花(ひばな)さん、初めはできなくて当然です。私もそうでした。でも、緋花さんはこの中で1番体のキレはいいですし、コツさえ掴めばすぐにできるようになると思いますよ」

 

 そんな夕輝の表情を読み取ったのか琴音は夕輝の側で小さくそう告げる。そして、表情筋に抗いながら夕輝は微笑みを返した。

 

「ありがとう」

 

 一息ついて、再度3人は横並びにになり琴音は3人の前に立つ。

 

「今日は基本の動きをしたので、明日からは基礎の練度を上げながら、クルフルの楽曲を使って本格的なダンスの練習へと入って行きます!」

 

 今後の流れを耳にして、葉月と結花凛は燃え上がるような闘志が宿った瞳を見せる。しかし、夕輝の表情は再度曇りを見せていた。

 

「今日は基礎トレーニングをして終わりにしましょう!」

 

 琴音の指導のもと、腹筋や体幹、スクワットなどのバランス感覚を鍛える運動や、音楽に合わせてウォーキングをする、リズム感を鍛える運動が行われる。おおよそ1時間ほどのトレーニングを行い、今日の全体練習は締めくくられた。

 

 ※

 

 英刈(えがり)家のレッスン場から、浴場に移動して4人は脱衣所へと入っていく。そこは自宅、という枠組みから逸脱しており本当に銭湯を思わせる作りになっていた。洗面台に荷物を置く棚、入浴に必要なものなどが完備されている。

 

「すっごい、ハードだったね!」

「ああ、ダンスのノウハウがボクたちにはないから先生がいてくれて本当によかったよ」

「そんな、先生だなんて言い過ぎです。元々は美烏ちゃんが考えたメニューですし、やるのも教えるのも美烏ちゃんの方が上手ですよ」

 

 どこか照れくさそうに表情を綻ばせながら琴音は返事をした。

 

「美烏ちゃんって、すごいんだね!」

「はい! 美烏ちゃんはすごいんです! 努力家で、可愛くて、アイドルが大好きで、正義感が強くて」

 

 ギリギリ聞き取れるほどのスピードで言い立てる琴音。鼻息を荒くして次々と言葉を並べていく。

 

「でも、今の美烏ちゃんは意気地なしです……昔はもっと自分に素直でした」

 

 取って代わって暗いトーンで琴音は口にする。そんな琴音を、それと似たようなテンションで見つめる3人だったが、夕輝だけは一際暗い表情が続いていた。

 

「じゃあ、ボクたちは彼女が昔の自分を取り戻せるような、最高のパフォーマンスをしなくちゃいけないね! そうだろう、ユウキ」

 

 夕輝のそばまで近づいて、その肩に腕を回し、声を張り上げて葉月は言った。その表情は煌びやかな笑顔で、なんでも包み込んでくれそうな包容力があった。

 

「そうだね……ありがと葉月」

「ああ、ユウキならきっと大丈夫さ。なぜならキミはボクをも超える運動センスの持ち主で、誰よりも内に秘める灯が熱いからね。そのことを忘れちゃいけないよ」

「何それ……でも、あんがと。アタシ、頑張るよ。ちょっとはあのマジメっ子のこと見習ってみようかな…………」

 

 少し、元気を取り戻し夕輝は、最後に小さく呟いた。

 

 雑談を終え、葉月が用意したバスタオルをそれぞれ受け取りながら、棚に着替えを置き、それぞれ汗が染み込んだシャツに手をかける。

 

「えッ⁉︎ 葉月ちゃん、そんなの着けてたの⁉︎」

 

 それは突如、発せられた結花凛の驚く声であった。その声に注目して、夕輝と琴音は自分のシャツを脱ぐ前に葉月へと視線を集めた。

 

「お、おいおい。そんなに見つめないでおくれよ……」

 

 胴回りを覆い締め付けるようなタイプの黒色の下着。それは葉月の胸をつぶす働きをなしていた。スラリと伸びた手足にくびれのある腰つき、そして――

 

 注目を浴びつつ珍しく頬を赤らめる葉月は胸を腕で隠しつつ、サラシタイプの下着をゆっくりと外す。すると締め付けられていたものが解放されるのだった。

 

 男型として舞台で活躍し、普段の私生活でも華のあるイケメンフェイスを振りまいている葉月だが、そこにいるのは紛れもない純粋な女の子である。

 

「凄い……英刈さん、スタイルいいんですね!」

「あ、あんまりジロジロ見ないでおくれよ……」

「葉月ちゃん、モデルさんにもなれるんじゃない⁉︎ だって、すっごくスタイルいいんだもん!」

「もう、ボクのことはいいだろ!」

 

 そういうと葉月は素早く脱衣をし、タオルを持って浴場の方へと逃げていった。

 

 そんな様子を静かに見ていた夕輝。すると、夕輝の荷物を置いていた棚から着信音が流れてきた。

 夕輝が自分のスマホを確認すると、そこには『レナ』、と書かれた人物からの着信を知らせる画面が写し出されている。

 

「あ、ごめん2人とも先行ってて、アタシ電話してからいくから」

「分かった!」

 

 結花凛がそう返事をし、琴音は一度ぺこりと頭を下げた。

 そして、2人は服を脱ぎ、葉月の後を追うようにして浴場の中へと消えていった。そのことを確認した夕輝はスマホの画面を操作して、その着信に応答する。

 

「もしもし、レナ?」

『あ、ユッちゃん…………この前の作曲の話、なんだけど……』

 

 スピーカーの向こうから、か細く可愛らしい女の子の、どこかビクビクとした声が聞こえてくる。

 

「うん、やっぱりキビシかった?」

『ううん、完成したから……聴いてほしいなって…………』

「え⁉︎ もうできたの? 相変わらず凄いな……」

「凄く……ないよ」

「ごめん、アタシ今からお風呂入るから、またかけなおしてもいい?」

『うん、わかった……よ』

「あ、そうだ! それともう1つ、()()()()というか、()()()()()()()()があるんだけど、それも頼めないかな?」

『加筆…………? よく、わかんない……けど、やってみる……よ。また、あとで連絡するね』

「ホントにありがとね! レナ」

『うん……』

 

 そういうとレナは電話をきった。

 

「凄いなぁレナは……」

 

 そう言うと小さくため息をこぼす。そして――

 

「よし! アタシも頑張んないと……」

 

 胸の前で小さくガッツポーズを作ると、夕輝はそう声に出すのだった。

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