またえらい時間が経ちました。
言い訳する間に1文字でも書き進めたいと思います。
無駄に長かったりグダグダ癖が抜けませんが夜露死苦。
またオリ主の一人称視点にしてみました。
三人称のつもりで書いていても、表現の仕方が主観に引きずられている気がしてならなかった次第です。
ぶっちゃけ読む分には大して変わりないと思います。
カイザーPMCが完全に撤退するのを確認した後、私たちは休む間もなく次の戦いへ備え出した。
不屈の闘志を不可解に滾らせる大人たちは、前以上の戦力を無意味な軍事行動へ投じてくるだろう。
《大人のカード》のおかげで補給の心配は無い。
ホシノさんのアホ毛については、先生が正確な座標をあっさりと仕入れてきた。
シロコの姉御らは、セリカちゃんの時と同様にセントラルネットワークへ不法侵入してくれたのだと解釈して、何度目かもしれない感謝の意をささげた。
黒服とOHANASHIした成果であろうことを知る私は、それをひけらかす行為に意味が無いので黙っておく。
多分、会談は無事に終了したのだろう。
知識だけではなく、実際に先生を尾行することでも確認しようとして、無駄に終わった。
フラリと出かけた先生が、往来の真ん中で忽然と姿を消してしまったからだ。
異様な出来事であるにも関わらず、直ぐにでも忘れてしまいそうなほどに簡潔な光景だった。
どうしようもないことは諦めて、後は戦力をどのように、どれだけ拡充できるのかという問題だけが残された。
物語の流れが決まっていても、変わらぬ物量差に磨り潰されない保証はない。
できるだけのことはやっておきたかった。
とはいえ、これまた原作に毛が生えた程度の状況になることは明らかだった。
人を雇うにも先立つものが無い。
数ばかり揃えたところで十把一絡げのチンピラゴボウでは話にならない。
自ずと廃材で手持ちの機械をアップデートする方向でお茶を濁すことになった。
「ん、ガンジュ、GO」
「わん」
「あはは……」
幸いPMCが大量の中古品を無償で提供してくれた。
腐っても大企業は太っ腹だった。
アヤネちゃんの眼鏡に協力して、時間と設備の許す限り、随伴させるロボット軍団へ手を加えた。
予め頭の中で設計図は組み上げておいたので、そこそこの数を仕上げることができた。
天下のカイザーが制式採用している構造材は、小型化と軽量化に余念がない。
ビーム兵器は冗談にしても、鈍重な陸ガンもどきが随分な細マッチョになってくれた。
……その代償としてか、ちっとばかし凶悪な人相になってしまった。
髑髏を彷彿とさせる禍々しい面構えが復讐のレクイエムを奏でそうな酷薄さを纏っていた。
若干少々の不安に駆られたが、AIに異常は無い。
きっと悪い大人が使う部品を組み込んだ所為だろう。
見た目については諦めて使うことにした。
今回も陽動および攪乱用に投入する。
説明のマンネリ化については致し方ない。
ブルーアーカイブという物語全体の傾向として、多勢に無勢というエンドレスワルツな状況が延々と繰り返されるのだ。
やったね、五飛!
戦いは終わらないよ!
……ごめんって、青龍刀は仕舞って?
「伝手を頼ってみるよ」
生徒たちが奮闘するのと並行して、先生は方々に働きかけてくれた。
ゲヘナの風紀委員会には御身自ら、トリニティへは暗黒街で縁を結んだ阿慈谷ヒフミを介して。
シャーレの名前で、決して無理強いはせず、断ってもデメリットは一切ない旨を添えて、密かに援助要請が発信された。
そして、この世界線には私という異物がいることで、ミレニアムへもお伺いを立てる流れになった。
『寝ぼけたことを言わないで頂戴。貴方がその増援よ。エージェントとして務めを果たしなさい』
「/(^o^)\」
こちらの交渉は速やかにオワタ。
即答だった。
けんもほろろだった。
ユウカ先輩の太ももへ繋いだはずの通信回線は、自動的にミレニアムタワーの機密区画へと転送されて、ビッグシスターの冷たい視線に晒されてしまった。
仕方ないとはいえ、この時期の彼女は想像以上に不愛想だな、と私は敢えて他人事のように捉えて悩まないように努めた。
駄目で元々の提案なので不満は無い。
撤退の許可が下りているのに増援の陳情が通るわけもないのだ。
どうやらキリングマシーンとしても自分に期待しているらしいセミナー会長の視線を受けながら、通信は終わった。
これで良かったのだと、自分を納得させた。
一人だけ増援を呼べなかったような形にはなるものの、本来、この時点でミレニアムは無関係だ。
これでいい。
むしろ、うっかりメイド服を纏った戦闘民族や、副部長以外の全員がクソガキで構成されているハッカー集団が介入してきた場合、色々な意味でやり過ぎて別の問題が起きる可能性が非常に高かった。
だから今は、先生とリオ会長の言う通りにするのが一番だった。
出来るかどうか、などとは言えない。
ミレニアム最強チームの称号を背負う (予定) 以上は、一人でも援軍になってみせなければならない。
そう気負わずにいるのは困難だった。
やはり理事の手足を切り落として首と胴体を持ち帰るべきだろうか?
ラボに放り込んで脳みそを切り開けば情報という宝物を大量にゲットできるだろう。
如何に敵対しているとはいえ一生徒が大企業のトップを公然と拉致するのは考えるまでもなく悪手だがそれくらいやってみせなければならないのではないか。
或いは自分もイオリアシナメ種にトランスフォームしてゲヘナ学園との関係を強固なものとすることでせめてもの結果とするべきか。
これでいいと言いながら、やっぱり割り切れずにグズグズと考えていた。
母校の上司から感じる妙な期待がプレッシャーと化してのしかかった所為で、少しだけ思考が危険な方向へ傾きかけたものの、幸いにして危険なレバーが倒れきることはなかった。
自分の言葉から、個人的に重要なイベントが起きることを思い出したからだ。
「そうだイオリさんの足ペロだ」
誓って、面白半分に離席したわけではない。
先生の安全を確保するためであると、誰にともなく言い訳する。
和解したとはいえ、ひと悶着あったゲヘナ学園へ訪問する先生の身を案じたアビドス生らの要望に応えた結果であり、一人の生徒として先生の“覚悟”を見届けるべく同行したものである。
決してセンセイオンナタラシがイオリアシナメタロウに変態する愉快な瞬間をこの目に焼き付けようとしたわけではない、と。
「お前も止めろ馬鹿! 魔女!」
「魔女って言うな」
「言われたくなかったら止めろ! なにガン見してんだ!?」
「想像以上にキモい舐め方でワロタ」
「うあーー変態、変態! 出会え、出会え!」
何も問題は起こらなかった。
先生の誠意あふれる説得に心打たれたイオリさんは、ヒナ委員長への取次ぎを快く引き受けてくれた。
続けた直談判も首尾よく終わり、風紀委員長の協力を取り付けた上で無事に帰投した。
そしてアビドス高校へ着く頃には、シャーレの秘匿回線でファウスト様からの連絡が届いていた。
ティーパーティーが、演習の名目で砲撃支援を実施することを約束してくれたのだ。
支援の輪は順調に広がっていった。
あれよあれよと言う間に、作戦を決行する時刻は迫ってきた。
残された時間は生徒たちの体調管理に充てられることになった。
私はもうひと踏ん張りと意気込むアヤネちゃんに協力して古き良きガンヘッドを作ろうとしたが、先生に静止された。
「もう十分だよ。一番の戦力は君たちだ。明日に備えて休もう」
その言葉に抵抗する理由は無かった。
そもそも現在のアビドスは、戦車のような軍用重機を組み上げる設備を保有していない事実を思い出したということもある。
私は、ワンマンアーミーをやってみせると思いつつも、アビドスへの組織的なサポートが無い事実に対する後ろめたさを機械に注ぎ込んでいるのだと気が付いて、引き下がった。
実際には言葉にせずとも、ミレニアムが増援を寄越してくれた事実をアビドス生は認識していたけれど、私も自分のことになると馬鹿だった。
二手三手先は読めるのに一手先はライブ感で決める宇宙世紀の仮面リベンジャーくらい鈍感だった。
最後に見張りを警備システムに任せて、全員が寝袋に潜り込んだ。
おそらくはアロナ会長も見守ってくれているのだろう。
電子的な防御方法に関してはキヴォトス最強と言える存在が味方に付いている以上、こちらは敵勢力からの物理的なアプローチだけを気に掛ければよい。
「いよいよですね」「うん」というノノミさんらの囁き声が天然のASMRとなり、緊張の緩和に一役買う。
骨格が整っている美人は、自ずと声質も洗練されやすい。
羨ましいものだと、私は自分を棚に上げた感想を抱く。
キィーーン
相変わらず、脳裏には奇妙な金属音が鳴り響いていた。
真っ暗闇の奥底から聞こえてくる。
耐性は付いてきたので引き寄せられることはしない。
ただ向こうはこちらの動揺を誘うようにスピリチュアルなデシベルを上げてくる。
近づいてくる。
明日はアレと会わなければならない。
私はダレと会うのだろう?
ソレがもたらす圧迫感をエジプト神話の神々に中和してもらいながら、私は目を閉じた。
◇
明朝。
キヴォトスならではの忙しなさから、侵攻も反抗も速やかに執り行われた。
神秘の力が時間の概念を曖昧にした。
僅かな猶予でお互いに十全の備えを済ませることに成功させていた。
前回に引き続き、アビドス廃校対策委員会は寄せ集めの装甲車両で砂漠へ向けて出発した。
懐の寒い彼女たちに、空の足を用意する余裕は未だ無い。
PMCから供給されたパーツはどういう訳か軒並み墜落の衝撃で破損しており、使い物にならなかった。
鉄道を使えば、回避行動を取れない車体では奇襲に対応しづらく、また利用者は少なくとも民間人への被害も出る。
そうそう死なないからといって巻き込んでいいとはならなかった。
「マップは最新の状態へ更新済みです。可能な限り接近します!」
何時になく荒っぽいアヤネちゃんの運転で、カイザーPMCの設置した哨戒網と地雷原をすり抜けつつ、砂の海をひた走った。
今度は感情に振り回されず、ホシノさんのアホ毛を助けるために潜行する心構えでいたことで、神秘のステルスシステムが十二分に機能した。
生徒として存在する忘れられた神々は「その気になるだけで」科学を越える。
忍び込みたいと思うだけで、本当にレーダーをはじめとしたあらゆる観測機器を欺くことができてしまうのだ。
ただ大人たちも、そうした子供だけが持つ“オカルト迷彩”の概念は承知していた。
故に、同じ神秘で欺瞞を中和できる生徒の兵士を積極的に監視へ充てる。
人海戦術でアビドス生らの居場所を掴もうと躍起になっていた。
不可視の領域でサイエンスとミステリアスがぶつかり合い、鎬を削り、次第に数で勝る側が優位に立つ。
目的地が近づくにつれて網の隙間は狭まり、捕捉される瞬間が近づいてくる。
その時を1秒でも先へ延ばすためにドローンとオートマタを起動。
けん引してきたトレーラーごと放出して、ご下命を如何にしても果たしてもらう。
「捕捉されます! 降りてください!」
さして間を置かず、私たちも車から飛び出す時がやってきた。
花火のように炸裂した数条の光が勢いを失うことなく、むしろ加速しながら意思を以て軌道を曲げる。
手当たり次第にも見える動きで獲物に激突して、より大きな華を砂漠に咲かせた。
後はもう、遮二無二吶喊するだけだった。
先生の指揮も意味があるのか無いのか。
それ以前に執っているのかどうかすら判然としない。
テンションが上向きに振り切れたアビドス生徒たちの攻撃能力は留まるところを知らない。
9mmパラベラム弾の一発ですら、戦闘車両に致命傷をもたらす凶器と化す。
これに加えて、非公式ながら複数のマンモス校が粒ぞろいの戦力を提供している。
もはや始める前から勝敗は決まっているようなものだった。
「は、早すぎたーー! まだボスキャラとエンカウントしてないわ!?」
「アルちゃん、シーっ!」
ちょっぴり突入のタイミングを間違えたらしい便利屋68の助太刀を得て突き進む。
ドドドド――
トリニティのL118牽引式榴弾砲から放たれた105ミリメートルの雨粒が降り注ぐ。
砂の海に物騒な花園が造成される。
花の棘に触れぬよう、合間を縫って、ひたすら前に。
『み、皆さん、ご無事ですか!? うっかり巻き込まれていませんか!?』
「大丈夫です☆」
「ん、問題ない。貴方の部下を信じて」
「恩に着るわ、ファウスト!」
「ファウストさんのご厚意に感謝します!」
「ファウストの前でそんな無様は晒せない」
『ひぃん……』
遠くからは、別の邪気の集まりが壁にぶつかって右往左往している様子が聞こえてくる。
ヒナ委員長以下、ゲヘナ風紀委員会の幹部陣による足止め、というよりは蹂躙が為されているのだろう。
生徒たちの連合軍は、これまでの鬱憤を晴らす勢いでカイザーPMCを蹴散らしていく。
PMCは先日に倍する戦力を投入してきたが、その努力の全てが無に帰す運命にあった。
「物語のあらすじ」というメタフィクション的な超常現象の具現。
先生だけが持つインチキには、どれほど強大で崇高な存在であろうとも逆らえない。
それに戦場を支配されているとはつゆにも思わない社員たちは懸命に抗い続けて、報われぬまま倒れ伏す。
あれは未来の私なのかもしれない。
木の葉のように吹き散らされる迷彩柄のブレザー制服に自分を重ねて、今は考えないようにする。
『クソガキが!』
何時の間にか、実験施設のあるアビドス高等学校本校跡地まで迫っていたらしい。
近衛兵らに紛れて、自らゴリアテに乗り込んだ理事が襲い掛かってきた。
「嫌い嫌い」とオープンチャンネルで罵声を振りまいている。
強制的に植え付けられたプログラムの様だった。
「何かロボに乗ってる!? 何で!? アニメ準拠!?」
「アル様それ以上いけません!」
重厚な外観とは裏腹にすばしっこい。
バッタのように飛び跳ねながら砲弾の雨を注いでくる。
しかし、剥き出しとなった感情が動向を正確に伝えてきて、こちらの回避を容易なものとする。
あまり構っている時間は無い。
ホシノさんの現在の状態が分からない。
実験の開始時刻は不明のままだ。
先生も黒服から必要以上の情報は訊き出していなかった。
余計な対価を要求されるリスクを避けたのだろう。
果たして周辺一帯でどんちゃん騒ぎを繰り広げている状況で、呑気に理科の授業をやるものか疑わしいが、キヴォトスならではのお気楽さで続行している可能性は捨てきれない。
研究スタッフの所属先にもよる。
ゲマトリア側の人材であれば黒服と共に撤退しているだろうが、カイザーの雇われであれば“腹いせ”に強行してしまう可能性が残ってしまう。
ピョンピョンと落ち着きのない人型戦車が10体。
その背後に目的地が見える。
砂に埋もれたアビドス高等学校本館の跡地。
そのように偽装された掩体壕 (バンカー) の面積は、情報によれば東京ドーム1個分。
巨大な円柱形の実験施設が、こんな僻地に、ホシノさん1人のために。
人目を避ける以外にも、ホルス神をこの場所で使うことに意味があるのだろう。
それが何かは、私の記憶にある限り語られたことは無い。
説明されたところで何処まで理解できるものやらだし、やることも変わらない。
小鳥遊ホシノはアビドス校をめぐる物語のキーパーソンだ。
それだけが理由ではないけれど、一秒でも早く到着するに越したことはない。
だから誰も理事の物言いに心を動かすことはしなかった。
「ああ、もうっ、鬱陶しいわね!」
咆哮と共に生徒たちが一斉に発砲。
神々の圧縮された激情が、銃弾を通して解放される。
タンタンと、淡々と。
引き金を引くたびに、ゴリアテの機体がボロボロと欠けてゆく。
リミッターを解除した決死の機動も空しく、1つ、また1つと捕捉されて餌食となる。
周囲へ展開する部隊も同様に溶けていく。
『何故だ!? どうして我々が追い込まれている!? カイザーだぞ!』
“ジャンル”の呪いは未だ解けないのか。
相当な被害が出ているにも関わらず、理事は戦いを止めない。
推進剤の切れたゴリアテを必死に操作ながら、矢継ぎ早に増援を呼び寄せる。
幸い、ヘリコプター以上の航空戦力を投入してくる様子は無い。
例えばMLRSによる面制圧を受けたり、RQ-1モデルやAC-130モデルの大群に囲まれた場合には、デコイをばら撒いて逃げ回るしかなかったけれど、その辺りもご都合主義による干渉を受けて無意識下に調整しているのだろうか。
幾ら強化されていても、こちらは基本的に携行火器での接近戦になるので有り難い限りだった。
(どうしようかな)
正直、理事の未来には関心が無い。
彼はこの後、未成年者拉致などの罪状で指名手配されることになる。
本社からは切り捨てられつつも捕まりはせず、逃亡の果てに左遷という顛末を迎える。
私が知る限り、二度とメインストーリーに絡むことは無い。
シナリオに従うのであれば、ここは見逃すのがよいのだろう。
しかし被弾に砂地という悪条件の重なりから、稼働率が低下したゴリアテの動きは鈍い。
ワタワタと藻掻きつつ手近な私に飛びかかって来るものだから、自分が疑われないためには彼を捕捉する以外になかった。
『邪魔だ!』
足元へ纏わりつく私を除けるべく、機関砲弾と共にゴリアテのマニピュレーターが振るわれる。
分かりやすい弾道と軌道をかいくぐる。
丁度いい位置にアームが来てくれる未来を理解して跳躍。
踏み台で飛距離を稼ぎ、首元へ取りついた。
「手に乗った!?」
大袈裟に驚く理事の顔を間近に見やる。
ゴリアテのコックピットは頭部砲塔の根元に設置されている。
パトレイバーのイングラムよろしく昇降が可能らしい。
今のように、破損による索敵能力の低下が起きた際は、有視界戦闘へ移行できるようになっている。
私は硬くて不味そうなタケノコを操縦席から引き抜こうと試みる。
タケノコは私を振り落とそうと機体を右へ、左へ振り回す。
メンテナンス用の取っ手に捕まって抵抗しながら操縦席へ這い寄る。
ますます顔を引きつらせた (ように見えた) タケノコが操縦桿を引き千切る勢いで操作する。
無理な挙動を要求されたゴリアテの関節が悲鳴を上げる。
「ば、化け物め!」
手が届く直前でタケノコは地面に引っ込んでしまった。
モニターが死んだから顔を出したのだろうに。
幼稚な足掻きに呆れる。
自棄になって爆発オチに持ち込まれても困るので、強引に行かせてもらう。
大きな駄々っ子が巻き起こす振動に耐えながらハッチの上に仁王立つ。
ジョイントに向けて、久しぶりに取り出す気がするSIG P210モデルのハンドガンを向ける。
9×19ミリメートルパラベラム弾をマシンピストル程度の間隔で1斉射。
エジプトの神々ほど強力な神秘を持たない私では、諸々のブーストを加味してもヴォルフスエック鋼鉄を織り交ぜたチョバム・アーマーを粉砕するには及ばない。
だが、今はそれで十分だ。
昨日ああは言ったものの、やっぱりうっかり理事を王/里/事にしてしまっても困る。
ブカブカになったハッチの淵に手をかけた。
「ひぃ――」
力を込めてバキゴキとこじ開ける。
ヘイローが紅い輝きを放ち、私のイメージに応じて筋力が強化される。
ビスト神拳というよりは鉄仮面の所業だな、こりゃ。
ふははは、怖かろう (棒読み) 。
操縦桿から手を放してしまったのか、ゴリアテがドシンと横倒しになった。
最後の大揺れをやり過ごして作業を続ける。
隙間から理事の耳障りな悲鳴が漏れ聞こえる。
『ガンジュ、理事を拘束したら追ってきて』
『ん、回収して後で身代金『シロコ先輩?』』
「Oui, monsieur」
私がモタモタしている間にも、姐御らの手によりPMC軍は深刻な消耗を強いられていた。
収穫された司令官を救う余裕は無い。
投入する端から戦力が溶けて消える。
崩壊する指揮系統を維持すべく狂騒の中にあった。
最早、というよりも遥か以前に彼らにとっては利益にならない戦いだ。
遠からず撤退命令が下るだろう。
トテチテと集まってきた改造ドローンとガンダムの生き残りには周囲を警戒させておく。
理事をコックピットから引きずり出した。
ゼノモーフに捕まったかの如く怯えきった姿に心の中で遺憾の意を表明しながら、電子錠で手足を縛った。
ガンダムに背負わせて、そのまま追随させることにする。
VIPの身柄を“保護”しているアビドス陣営に対して、PMCは砲撃の手を緩めざるを得ない。
しばらくの間、弾避けのお守りになってもらう。
もうここに留まる理由は無い。
後はビーチフラッグの要領でホシノさんのアホ毛を一直線に目指すだけだ。
勝ったな、風呂入ってくる。
チリン
「え――」
鈴の音が聞こえた。
ギロチンの報せ。
首をはねて衆目に晒す道具。
人を殺して辱める狂気の沙汰。
キヴォトスには、少なくとも現在はありえないものの音色。
それが意味するところを理解する前に行動へ反映させた。
ゴリアテの上から飛び退く。
私の居た場所に何かが突き刺さり、ゴリアテの装甲を紙粘土のようにひしゃげさせた。
周囲に桜の香りが舞ったように感じた。
「あ……」
ソレは生徒の姿をしていた。
砂漠迷彩のコートを纏い、顔には黒いガスマスク。
これでもかと武器を満載したバックパックを軽々と背負っていた。
個性を塗りつぶされた顔の向こうで機械じみた獣の瞳が爛々と光っている。
こんなに近づかれるまで、どうして気づかなかったのだろう?
「あなた誰?」
「Vantas vanitatum et omnia vanitas」
ソレは入力されたコマンドを繰り返すように呪いの言葉を繰り返す。
言葉の意味は、コレがアリウス分校に属する事実を示している。
彼女たちは来るべき蜂起に備えて出稼ぎに勤しんでいるのだ。
ここは数ある派遣先の一つに過ぎない。
それでも私の感覚はその認識を否定していた。
アレは何か違うモノだ。
周辺一帯に大量の煙幕弾が降り注いだ。
噴出する白煙に包まれて、動揺する先生たちの姿が見えなくなる。
塞がれた視界の向こうで、純粋無垢な敵意が粛々と配置に付く。
「何でいるの?」
「XXXXXX XXXXXXXXXX XX XXXXXX XXXXXXXX」
聞こえない言葉。
理解したいのに、未だしてはいけないと認識する。
ソレは嬉しそうにMINIMIモデルの軽機関銃を私へ向けた。
引き金を引いた。
◇
アリウス分校に属する彼女は奇妙な高揚感に満たされていた。
「身体に芯が通る」と表現するのが最も近い。
いつもの傭兵稼業だった。
“マダム”をはじめとした大人たちに言われるがまま銃を取り、現地へ赴き標的を沈黙させる。
劣悪な生活環境について物申したい部分はありつつも、戦うことそれ自体に不満は無かった。
性に合っていたのだろう。
いつになく心が昂っていた。
アビドス自治区への派遣。
いつも通りに十把一絡げの不良集団と共にかき集められた後、碌な指示も無く前線へばら撒かれた。
大人を名乗る木偶人形からすれば、自分たちはデコイと肉壁を兼ねた存在に過ぎないのだろう。
彼女も同じ認識だった。
戦争屋気取りでがなり立てる低級AIなぞ、適当に責任を押し付けるための山羊でしかなかった。
そんなことよりも、この砂漠に何よりも重要な存在がいるという確信の方が重要だった。
何が?
どうして?
どのように?
腹の底から湧き上がる機械的な攻撃衝動を言葉で説明するのは難しい。
標的へ向けて突き進むミサイルに意味を問う行為がナンセンスであるように。
だから無線から聞こえくる前線の状況が絶望的であろうと、彼女が心を揺らす事項ではなかった。
撤退命令が下されていない以上――否、今回に限ってはされていたとしても――自分のやることは変わらなかった。
「では、当方は独自に行動させていただく」
『勝手にしろ!』
「了解した……記録したな?」
「はい!」
無用の折檻を避けるために言質を取った上で、分隊員と共に突入した。
統制という概念が秒単位でスクラップ・アンド・ビルドを繰り返している現状、各戦術ユニットがスタンドアローンで判断を下す他ない。
幼いころから虐待じみた訓練を積み重ねたことで感覚を麻痺させている同胞たちは粛々と従った。
そして、見つけた。
生徒とマシンの群れが巻き起こす砂塵の中に奴が居た。
Sηsぁjく-V9Q
目標α。
ΞΓфΛ〈Иω-Шн-§-ρの最優先監視対象にしてアンチテーゼ。
漆黒に塗りつぶした髪と瞳。
偽装しているつもりなのだろうが、色白い肌が本性を物語る。
蒼を基調としたミレニアムサイエンススクールの制服。
アレが潜伏先に科学の都を選ぶのは妥当である。
……いったい何の話をしている?
何を知った風な口を利くのか。
潜伏?
否、そもそも現状の全てが不可解の一言に尽き、おそらくは互いに正確な事情を把握していない。
自分を理解しきれぬまま、ただ本能の赴くままに引き金を引く。
理事を救出「するために目標αを初めとした敵性体を破壊」する。
目的のために手段を選ぶ行為を肯定した。
「何よ、こいつら!?」
他の標的については副官以下20名の部下と機械人形に一任。
当機はαの破壊に集中する。
以降、当機の状況については一切考慮せずに行動する旨を通達してある。
彼女はそれを無責任とは認識しない。
ρИωТЖΞΠОにはρuωn-ЖyΠОを叩きつけるのが道理である。
議論の余地も、余裕も無い。
道中でくすねたカイザーPMC製の携行型無反動砲を右肩に構えて投射。
38ミリメートルの小口径に加えて5発入りのカートリッジ式弾倉という珍しい構造をしており、炸薬の積載量を犠牲にする代わり、連射性能と給弾効率を大幅に向上させている。
弾種は散弾、バードショットを選択。
一定距離まで近づくとレーザー式の近接信管が作動し、数千発のペレットをまき散らすことで高速機動する生徒を捉える。
目標は回避。
投網のように飛散する金属球の一粒に至るまで挙動を読み切り、僅かな隙間を抜ける。
同時に発砲。
ステアーAUGモデルのブルパップライフル。
ミレニアム製の5.56×45ミリメートル高速徹甲弾。
当方の移動先をミリ単位の精度で割り出して銃弾を“設置”してくる。
最小限の進路変更で回避しつつ、こちらも同じ手段で対抗する。
敵機の機動を追尾に留めず“追い越す”。
戦略戦術思考およびモーションパターンを解析……し尽くしているので不要。
――初対面であるはずなのに何処で知りえた?
疑問は脇へ置き、無限に等しい予測結果の奔流から正解を導き出す。
バズーカの弾幕で相手のルート選択を絞りつつ、左に抱えたMINIMIモデル軽機関銃による並射で詰める。
生徒の出力をもってすれば、重火器を両手に携えた状態でも精度と速度を保つことが可能となる。
ランダムに軸線をずらしながらグルグルと回り続ける。
人の営みが巡るように引かれてはぶつかり合う。
予測線を予測して、一を観て百を読む。
果てしない応酬の末、
――命中。
目標の左肩に衝撃を与えた。
相手の予測を上回った喜びに心の中で口角を上げる。
当機も防弾プレートに被撃。
損傷は軽微。
任務を継続する。
互いに小規模な被弾を繰り返しながら砂漠を駆けた。
楽しい。
愉しい。
嗚呼、ただひたすらに。
純粋に仇敵との手合わせを楽しんだ。
「どこの連中!?」
「ヘルメット団じゃない! PMCとも違う!」
猫耳を生やした娘がフレームまで響くような怒声を上げる。
喚きつつも動きは鈍らせず、アビドス陣営はアリウス分校の出稼ぎ労働者を、そうとは知る由もなく追いかけまわしている。
CQC (Close Quarters Combat 近接戦闘) を仕掛けるにはパワーがダンチに過ぎた。
傭兵たちは俗にいう引き撃ちを重視した立ち回りで“辛うじて”戦線を維持していた。
遺憾ながら、彼我の戦力差は想定を超えている。
今は不意を突く形で戦ってみせているが、早々に限界を迎えるのは火を見るよりも明らかだった。
PMC理事だけは回収した後、同胞らが撤退してしまえば、一人だけでも対応に難儀する猛者たちが自分へ向けて雪崩れ込む。
その結果は語るまでも無い。
(意気揚々と馳せ参じておいて、この様か)
心の内で歯噛みする。
互いに本調子ではないものの、久方ぶりに巡り合えたというのに、楽しんでばかりはおれぬ現実を理解する。
「名残惜しい」などという表現では生ぬるい激情に晒される。
しかし戦闘ユニットとしての役目は全うするべく、一気呵成に決着をつける方針を固める。
「吶喊します」
唐突に敬語が出た理由はさておき。
彼女はPMC残党による無分別な砲撃支援に合わせて勝負に出た。
味方ごと薙ぎ払う大人たちの姿にアビドス生徒らは困惑するが、アリウス分校の隊員たちは揺るがない。
背後から撃たれる状況など慣れ切っており、むしろ敵との相対距離を保つために利用するふてぶてしさを披露する。
分隊長である彼女は殊に戦場を俯瞰する能力へも長けていた。
降り注ぐ雨粒の一つ一つが生み出す爆風の範囲まで正確に割り出し、示し合わせたかのような精密さで爆風の合間を駆け抜ける。
ヂィン
左腕に衝撃。
敵機により、MINIMI機関銃の銃口が狙撃された事実を認識する。
舌打ちと共に投棄。
撃ち尽くしたバズーカも捨てて僅かなりとも機動性を確保する。
バックパックに下げていたスコーピオンEVO3モデルのサブマシンガンを引き抜く。
9×19ミリメートルのパラベラム弾をばら撒きつつ、ダメージを許容して時間を惜しむ。
Sηsぁjく-V9QにБйηの兆候は無し。
аΠЁも同様。
ΥЮОベースからの´°も観測されない。
熱光学迷彩システムを起動するも、砂塵の吹き荒れる地形では意味を為さない。
破損しているのか、休眠状態にあるのか。
いずれにせよ敵機の弱体化は著しく、現状の当機でも十分に撃破が可能である。
千載一遇の好機。
「あうっ!」
「ぐっ!」
最後に防弾プレートを犠牲にすることで、標的へ組み付いた。
VнУΠ-ωは逃れようとするも、単体での性能は当機が上回る。
このまま押し切らせてもらう。
右腕に内蔵したЮ÷фΚοΚИュΓ〈λ´を起動して――
(何を、言っている?)
刹那、意味不明な言語を発した自分自身に疑問を覚える。
当方は生身の生徒であり、オートマタでもサイボーグでもない。
そのような兵装は支給も、ましてや開発した記憶など持ち合わせていない。
土壇場で思考 (ソフト) と肉体 (ハード) が乖離する。
(何が不調だというのだ!)
怒りと焦燥で強制的にバグを押しつぶす。
こうなってしまった以上、できることは限られている。
´÷ξТЬΕфΛ〈ΞΨが使えなくとも、生徒の怪力が生み出す高トルクを利用したパンチであれば!
ゴッ
藻掻く敵機の得物を払い除けた後、左側頭部を右の拳で打ち据える。
加減を忘れたがために手製のスタンナックルは一撃で破損。
コンバットナイフも同じ運命を辿る。
不測の事態に気を取られていた彼女は構わず殴り続ける。
思考を乱すノイズを振り払うように、何度も何度も何度も何度も。
ヘイローによる不可視の守りが限界を迎え、肉体へダイレクトに衝撃がねじ込まれる。
砂漠の片隅で鮮血が散った。
◇
頭が割れるような痛みがした。
血の匂いがした。
命の匂い。
この宙 (そら) を支える力の気配。
星の海が広がっている。
大きな星が点いたり消えたりしている。
彗星かな。
いや、違う。
彗星はもっとバアッって動く。
あれはお月様だ。
桜の花も咲いている。
綺麗だな。
でもあの桜は何だか怖い。
硬くて鋭くて、いつも私に纏わりついてくるから。
「――!」
「~~!?」
先生たちの叫びで意識を現実に繋ぎとめる。
頭皮に若干の挫創。
スタンナックルによる麻痺を認めつつも、筋骨格および神経系統は健在。
痛みは……ひとまず峠を越えて自制の範囲内。
行動に支障なし。
シロコの姉御がまたテラー化しそうな形相をしている。
こちらに向けて駆けつけようとして、敵方の妨害に遭う。
理事がモタモタと逃げ出している。
PMC残党が這い廻る芋虫を拾うべく躍起になっている。
渦中へ飛び込む羽目になった救出部隊は、しばしば流れ弾でオートマタが首や手足を無くしたりと散々な目に遭いつつも、目的は達成しつつあった。
アビドス側は奇妙な敵増援への対処に集中していたため、ゴミ収集車への関心は無きに等しい。
「ちっ、硬い!」
「気を付けて、そっちも仕留めきれてない!」
角付き合う生徒の傍らで同様に振る舞う機械人形たちが見える。
黒いガンダムもどき。
RX-78をベースにした、どれともつかない形をした2本角が、私のEXもどきと激しい応酬を続けている。
性能は概ね同等。
オートマタはやられ役というテンプレートから逸脱するスピードとパワーで、敵味方問わず生徒の手を煩わせている。
奇しくも同じ装いである事実に対して、不思議と納得する自分が居た。
「ずおおっ!」
暑苦しい気迫を乗せて殴りつけてくるアリウス生徒の形をしたモノ。
こいつだ。
こいつならガンダムでもおかしくはない。
ずっと感じていたプレッシャー。
どうしてこんなところに居る?
〇〇したはずなのに。
――彼女とは初対面でしょう?
コレは駄目だ。
УηοΓΞйは今ここで改めて〇〇する。
そうしないとキヴォトスが駄目になる。
ここに存在している以上は、
――そんなことはしなくていい。君も彼女も
「私がやらないと」
圧倒的なエネルギーゲインを誇るアビドスの子供たちに〇〇させるのは、手っ取り早い道筋ではあるが故に、安易に選択することはできない。
ルールやモラルといった倫理的な概念が曖昧模糊としているキヴォトスにあっても、〇〇だけは明確に、外の世界以上に忌避される。
そうあるべきだろう。
彼女たちが余計な業を背負えば、個人の未来にも物語にも致命的なエラーを引き起こす。
そうでなくとも“余所者”の不始末を現地住民に丸投げするのは不義理が過ぎる。
だからアレと同じ÷ω§фЭ○×Θеが、キヴォトスを△△する前に。
原始的な攻撃に耐えながら、本機のみで敵機のヘイローを〇〇する手段を策定。
現状、ЮаΠШは機能の大半が喪失ないし休眠状態にあると見受けられるが、こちらのコンディションも同様に低下しており、選択肢は限られている。
詰まるところ敵機と同様、キヴォトスで最も強力な兵器といえる「生徒」の肉体を使うしかない。
「疑似#フ÷ールド入力」
パワーを両腕部に集中。
私の意思に反応して、ヘイローの光が目に優しい緑色から攻撃色の赤へシフト。
生徒が持つ高次物質化能力、サイコフレームを初めとしたイメージフィードバックシステムに酷似した性質を利用して、敵機に向けた破壊衝動をトルクへと転換させる。
ピンポイント・バリア・パンチ。
「ぎっ!」
意趣返しというわけではないが、目標の左側頭部にインパクト。
人間を模した構造である生徒の肉体は、人体と同じ急所を抱えている。
速やかに致命傷を与えるために有効な部位を集中的に狙う。
「馬鹿め!」
敵機の右中段回し蹴り。
バリアの配置を左わき腹に変更してガード。
続けて襲い来る猛攻を同様に、図らずも文化を取り戻すために戦った超時空要塞にあやかる戦術で凌ぐ。
ρИ◎еπの攻撃パターンを解析。
右腕部による打突を多用する傾向あり。
また同時に、インファイト開始以降の一挙手一投足につきコンマ1秒未満の挙動不全を認める。
敵機より肉体と精神の不均衡に対する困惑を読み取る。
詳細は不明。
出力調整は不要。
反応速度は当方優勢。
キヴォトスにおいて0.1秒は十分な隙となる。
CQCのモーションツリーを再構築。
敵機の行動に対して脊髄反射 (オートリアクション) 設定。
思考との融合によりタイムラグを極限まで短縮。
実行。
「おのれっ!」
敵機が当機に対応してパターンを変える。
――依然として挙動には微妙な遅延を認める。
リアルタイム補正で対応を継続する。
ガチン
ゴチン
バキン
肘打ち、裏拳、正拳掌底膝蹴り掛け蹴り浴びせ蹴り――
殴りつけるたび、何処からかあの音が聞こえる。
血肉がぶつかり合うそれとは違う、プラスチックも似た甲高い金属音。
疑問に思うことはしない。
むしろそれが当然とすら認識する。
ガスマスクが弾け飛ぶ。
相手の顔が露になる。
どこか私に似た顔立ちだった。
薄緑色の髪と瞳。
ヘイローも同色の金属質な形状をしている。
人形染みた白い肌。
不遜な光を放つ切れ長の目で私を見る。
額や唇から血を流しながら、何が楽しいのか哄笑を上げる。
こんなにも痛くて怖いのに。
「楽しいなぁ!」
叫ぶ声が動作を鈍らせた。
避けられることを前提に放った左足がρИЖЮΝの顔面を薙ぎ払う。
ゴロゴロと砂地を滑る。
ダメージが蓄積したことでヘイローが輝きを失い、明滅を繰り返す。
身体が動かなくなっても、なお笑い続ける姿に呆れる。
周囲の状況は終息に向かっている。
敵勢力はただ一人の例外を除き、撤退を開始。
眩い光を放つ信号弾がクルクルと空を舞い、どんちゃん騒ぎの幕引きを示す。
要人の回収を終えたPMCは、残った弾薬をばら撒きながら戦域を離脱していく。
アリウス生徒も大人たちへ同調しつつ、致命的なスタンドプレーを継続する隊長へ必死に呼びかける。
「自爆しろ」
私は呼びかける。
彼女は笑顔を絶やさない。
意思を諒解する。
止めないなら、終わらせるしかない。
懐から爆弾を取り出す。
アサルトライフルの弾倉にも似た直方体は、電動バイクに搭載されていた自爆装置。
電気信管であること以外、爆薬の配合等は不明。
製作者であるヒビキに尋ねたが、猫のように光る瞳で「浪漫」というのみだった。
それを大の字に寝転がるЮρ○фΠの胸元に放り投げる。
「もう消えよう」
「消えないさ。忘れることなどできないのだから」
起爆させた。
ドッ
ボタンをポチッた瞬間、私の身体も吹き飛ばされた。
“あの”エンジニア部製であることを承知の上で、距離を取らなかった自分も正気ではなかったのだろう。
グルグルと視界が回る。
遊園地のコーヒーカップなど比較にならないスピードで景色が流れていく。
クルクルと世界が廻る。
遂には砂地に突っ込み、ブラウン管テレビのように意識がプツリと暗転した。
最後に見たのは、目にするだけで魂まで蒸発してしまいそうな白と赤だった。
天高く立ち昇るキノコ雲。
膨大な熱エネルギーが局所的かつ急激に解放されたことで、大気中の水分とレイリー・テイラー不安定性を引き起こして強烈な上昇気流を生じる。
その結果として、巨大な菌糸類を彷彿とさせる対流雲を形成するのだ。
核兵器ではない。
高度はせいぜいが100メートル。
核分裂の音色は聞こえない。
あくまで高性能のプラスチック爆薬と生徒の神秘によるブーストが引き起こした、極めて小規模な厄災。
それでも嫌な光景だと感じた。
天を焼く火。
地を薙ぎ払う熱。
その土地を、ともすれば千年万年と続く不毛の大地に変貌させて、死ななかった者たちも後遺症による生き地獄へ突き落とす。
十字架を掲げながら都合の悪いものを悪魔に仕立てる人々は、都合のよいものには触れず、ああだこうだと詭弁を弄しながら過ちを繰り返した。
記憶と実際の知見にある限り、キヴォトスに核兵器が存在する明確な描写は無い。
エデン条約編を筆頭に巡航ミサイルと呼ばれる装備は幾度か登場するものの、いずれも大規模な破壊をもたらしこそすれ、詳細なスペックは不明ないし通常兵器に位置づけられる存在だった。
存在しないとみてよいだろうか。
無いことを祈る。
あってはならない。
こんなものはШТρの中だけで沢山だ。
だからアレも、
だから私も、
――ここに居ていいんだよ。
◇
「ん、起きた」
目を覚ますと、銀色に輝く川が波打っていた。
シロコさんの御髪だった。
ノノミさんの愛用品を参考にした化粧水で中和された汗のにおいを鼻腔に感じる。
自分が彼女に背負われている事実を認識した。
はからずもファーストコンタクト時の役得を先生から奪ってしまっていた。
すまねぇ、姐さん。
二重の意味で謝罪しておく。
「ん、問題ない。ガンジュも大事なアビドスの後輩だから」
「他校生でしょ!」
「『嘘も100回言えば真実になる』って偉い人が言ってた」
「それヤバい人だから!」
「ええと……ヤバいかどうかはともかく、実際にはそういう言い方はされていないそうです」
周囲は無機質な静寂に包まれ、アビドス生の忙しない靴音だけがコトコトと響き渡る。
如何にもインテリの巣窟らしい白を基調とした金属質の通路には、人を歯車として使い潰す冷たさが漂っていて、ミレニアムのそれとは似て非なる空気を感じる。
実験施設とやらの中だった。
敵意のある吐息も、それを吹きかけられた機械の駆動音も聞こえない。
悪い大人たちは残らず撤収している確信を得て安堵する。
「社長たちは?」
「先に逃げたよ」
足早に駆け抜けながら先生たちが説明してくれた。
PMCが撤退したことで便利屋68も撤収。
放棄された車を拝借して、逃げるついでに周辺を偵察してくれるらしい。
感謝ぁ (ナツ風味) 。
ガンダムもどきは例のごとく全機大破したために放棄。
ん、毎度のこと。
次。
「痛い」
「当たり前です! 動かしたらめっですよ!」
頭だけではなく両手も痛む。
ヒビの入った左は包帯が巻かれ、完全に折れた右前腕はギプスでカッチリ保護されていた。
膨れ上がった右手は何処かの誰かに似ていて、日常生活が一時的な不自由になるだけではない不快感を覚えた。
どうしてこんなことになったのだろう?
考えて直ぐに思い出す。
「アイツは?」
「あの妙な傭兵団のことでしたら、撤退しました」
ヴァニヴァニと植え付けられた呪詛を繰り返す生徒たち。
このタイミングでアリウス分校が、あそこまで印象深い登場をする展開は無かったはずだ。
どうして?
「アイツら何だったの?」
私の疑問を、異なるニュアンスながら先生たちも共有していた。
数合わせのチンピラゴボウとは段違いに洗練された部隊。
しかし、PMCの走狗となっている生徒とは違う。
異様なパフォーマンスを発揮したオートマタは私のガンダムと瓜二つで、隊長と思しき少女は私に露骨な執着を見せて……。
自ずと私へも疑惑の目が向いた。
姐御らの視線が痛い。
彼女たちがそうしているのではなく、私がそう感じている。
せっかくアビドスピンクケダマの取り調べや、ゲヘナヨコチチハミデテルヤンの嫌がらせをやり過ごしたと思ったのに。
「知り合い?」
「あんなやつ知らない」
「でも、あれは“ガンダム”だった」
「うん……」
アリウス分校のことは黙っておく。
今はまだ姐御らが知る必要の無い情報だ。
あのストーカーのことも。
どうしてアレが縁もゆかりもないアリウスにいるのか、なんて。
知らないのに知っている。
知っているのに知らない。
バグって文字化けしたパソコンのように言語化できない。
後ろめたさの重ね掛けだった。
何だかアビドススナオオカミの背中を借りているのが申し訳なくなって、腕以外は無事なので歩こうとしたのに止められた。
「動いちゃ駄目。頭を殴られてる……あのリーダー、笑ってた」
曰く、酷く愉しそうな顔で逃げていった。
まるで爆発のエネルギーを吸収したかのように、突如として力を取り戻したらしい。
「ガンジュに似てた。顔立ちというか、体つきというか、上手く言えないけど」
姐御に淡々と詰められて返す言葉が無かった。
実際、私は後にアリウス分校と判明する勢力との関わりを疑われても仕方がない状況にある。
痛くもない腹を探られる可能性に頭を抱える。
下手をすればゲヘナ風紀委員会の時よりも話が拗れてしまう。
二大学園の対立にミレニアムがダークライよろしく巻き込まれる未来を想像して、傷の痛みとは違う意味で青褪めた。
まいった。
自分というやつは、どうしてこうなってしまうのだろう?
「この話は後にしよう」
いつも以上に黙り込む私をみかねたのか、先生が切り替えてくれた。
ホシノさんの名前を出すことで、全員の思考をそちらへ向け直す。
鶴の一声は有難いものだった。
しかし私の心は晴れない。
もともと陰キャのメンタルに雲一つない青空など存在しないが (暴論) 。
「ごめんなさい」
「何で謝るのよ?」
何だか余計なことばかりしている気がして。
ミレニアムの看板がアコちゃんさんの横乳を刺激してしまった。
死に損ないの馬鹿がハッピーエンドをトリガーハッピーに取り違えて無駄な戦闘パートを差し込んできた。
大半は廃棄or回収済みだろうが、あわよくばカイザーやゲマトリアの実験データを…と思っていたが、そんな横着ができる状態ではなかった。
負傷と消耗に加えて気分的にも、これ以上みんなの邪魔をしないために動かない方がいいという考えに支配される。
「ガンジュ、仮に言えないことがあったとしても、無理に言わなくていい。おそらく彼女たちも雇われただけで、今回はこれっきりだろう」
「ん、特殊部隊の1つや2つは誤差の範疇。私たちを負かしたければ、その30倍は持ってきてほしい」
「弾薬が足りないかと……」
「最後は全てを打ち砕く自慢の拳で」
「それ漢の教科書! これブルーアーカイブ!」
気にしなくていい。
大丈夫だよ。
先生たちの有難い励ましで、沈下していた意識を浮上させる。
私がしぼんだ自我にシュコシュコと空気を入れて膨らませる間に、姐御たちは行く手を阻む隔壁を次々に突破していた。
シッテムの箱によるクラッキング、指向性爆薬にブリーチング弾、果てはアビドス生のマジンパワーを活かしたオラアラオラアラ。
施設に突入して以降、それ以外に障害は無かった。
黒服のサービスとも嫌がらせともつかない配慮なのだろう。
そこかしこにクツクツという笑い声がこびりついている。
だったら壁も取っ払ってほしかったけれど、変にゴネると余計な契約を結ばされそうだから、やっぱり止めておこう。
先生大好きスレンダーマンの情報に従って、今度こそ何のイレギュラーもなく実験室へ辿り着いた。
驚きのあまり声が出ないホシノさんを解放して撤収。
ワラワラと来た道を引き返して外へ出た。
今度こそ余計なトラブルは起きなかった。
透き通るような青空の下、道すがら先生に促されたホシノさんが、〆の言葉を口にした。
「ただいま」
もう嫌な音は聞こえなかった。
次回は日記形式でアビドス2章の終わりをダイジェストで。
その次は同じく日記体でパヴァーヌ1章をやります。