宮東ガンジュの悲喜こもごも   作:みのやき

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書き方が固まってきたと言ったな。あれは嘘だ (白目) 。
もっと投稿頻度を上げたいと言っていたな。あれも嘘だ (口泡) 。

皆様、今年も一年よろしくお願いいたします。


アビドス編2 (日記 + 一人称)

〇月×日

 

アビドス編2日目。

何事も無く夜が明けた。

『うへえ』と鳴くアビドスケサランパサランが職質してくることも無かったし、

キャッホーな連中が訪問してくることも無かった。

 

『おはよう』と、先生と朝の挨拶を交わした。

それだけで妙に感動する自分がいた。

“前”のお父さんのことを少しだけ思い出していた所為かもしれない。

あの人は『おはよう』も『おやすみ』も言ってくれない人だった。

お母さんはどんな人だったろう?

まあ、思い出さなくてもいいや。

もう二度と会えないし、会いたいとも思わないから。

 

昨日と同じメニューの食事を済ませて、早々に出発した。

スクーターは一人乗りなので先生に乗ってもらい、私は徒歩で。

そのまま先行してもらえばよかったんだけど、『生徒を置いていくわけにはいかない』と言って聞かなかった。

まずは目の前の生徒に寄り添う的な彼の流儀なのだろう。

仕方がないので徐行運転で並走してもらうことにした。

 

今日中にはアビドス高校まで辿り着けるだろう。

そんなことを考えながら歩いていたら、通学途中のアビドススナオオカミと遭遇した。

「「「あっ」」」 けないファーストコンタクトだった。

珍しい校区外からの訪問者に、思わずロードバイクを停めてこちらを見やる白と黒のオッドアイ。

セミロングの銀髪。

オオカミの耳と人耳のコラボレーション。

大切な青のマフラー。

ブレザーと、微妙に下着が透けて見えるチェック柄のスカート。

その光景はまさしく、先生との出会いでお目見えするイベントスチルだった。

ごっつぁんです。

「「助けてください」」

何とかなりそうな気もしたけど、折角なので先生と一緒に土下座外交を敢行した。

第一声が完璧にハモった。

少しだけ面白かった。

彼女はちょっと引き気味に快諾してくれた。

流石はブルアカのメインヒロインだと思った。

 

残念ながら、シロコさんに背負われた先生が『シロコの匂いは最高だよ』と真顔で口にする紳士イベントはスキップされてしまった。

あれが何らかのフラグではないことを祈ろう。

 

三人で駄弁りながら進むこと2時間。

ようやくアビドス高等学校を訪れることができた。

背景イラストで何度も目にした高等学校。

その外観は、“前”の日本の学校に最も近い。

学校。

社会で生きていくために必要な場所。

“前”の学校は、2度も3度も通いたい場所ではなかったと思う。

(アビドスには関係ない) この形の建物を目にするだけで、陰鬱な気持ちが湧き上がってくる。

私の態度にも問題はあったのだろうけど。

きっと、知らない間に消えてしまっても気に留めることはないと確信する程度には。

ミレニアムのことはそうでもない。

私にとってそうである以上に、ホシノさんたちにとってのアビドスがそうなんだ。

だからたった5人になってしまっても残り続けている。

 

アビドス廃校対策委員会の面子と顔を合わせた。

相変わらず壮観だった。

先生のおまけとはいえ、彼女たちに直に会えてしまった。

そして例によって喜ぶ間もなくカタカタヘルメット団の襲撃イベントが始まった。

連中については特に書くことは無し。

地元のヒャッホーたちと同じくらいの腕前だった。

私でもどうにかできそうなレベルでは、先生+ホシノさんたちの敵になることはできないだろう。

 

大人のカードが光る瞬間を直に見た。

先生が持つオーパーツ。

キリスト教の“聖杯”が元ネタとされるクレジットカード (?) が輝くと共に、大量の物資が現れた。

皆『凄い』で済ませていたけど、凄いどころじゃない。

物質の転送技術は、キヴォトスでも一般的には実用化されていないから。

そもそも転送なのだろうか?生成した?何処からどうやって?

知りたいことはスケバンの数だけあったけど、知るのが怖いので止めておいた。

黙ってヘルメットを弾丸でカチ割る作業に集中した。

 

対策委員会の戦闘能力は、最低でもC&Cのエージェントに匹敵するだろう。

仮にネル先輩に『どちらが強い?』と尋ねられたら、上手に答える自信がない。

彼女が勝てないかもしれないとは言いたくないけど、パイセンに嘘も付きたくない。

正直に言ったところで怒らない気はするけど。

 

問題なく追い払った後、改めて委員会の面子と顔を合わせた。

私という他校区の生徒は当然ながら警戒された。

特にホシノさんの笑顔が怖かった。

アホ毛が蛇のように鎌首をもたげてこちらを睨み付けてきた。

一応、説明して理解を求めた。

自分はミレニアムの生徒だが、今回はシャーレの一員として同行している。シャーレの部員としての守秘義務があるので、活動内容をセミナーへは報告しない、と伝えた。

調月リオ個人には報告することと、伝える情報を私の独断で取捨選択することは伏せておいた。

具体的にはこれから誕生する銀行強盗団の正体については明言を避ける。

カイザーは…いいや。カイザーだもん。

会長に黙っておくのはちょっと怖いけど、今の彼女はワンマン体制でブイブイいわせている状態だ。

他校の弱みを握らせると拙い。

先生たちが上手くいかなければキヴォトスが滅んでしまう。

それは自分にとっても大きなデメリットだから、選択肢なんてあってないようなものだ。

幸い会長からは意外と信用されているようで、身体に盗聴器の類を付けられたりはしていない。

やってみる価値はありますぜ。

 

先生もとりなしてくれた。

「ガンジュのことは信じていい。シャーレが保証する。何かあれば私が責任を取る」

オイオイ

流石すぎるよ。

そんなことを言われたら、余計に頑張るしかなくなる。

私がやらかせば、先生への信頼も損なわれる。

そのありふれた人間関係の不具合が、割とストレートにキヴォトスの滅亡へと繋がる。

やるしかない。

余計なことをしてはいけないが、出来ることはやろう。

さしあたってはヘルメットを狩り尽くそう。

 

だいたい討伐しかしてないな私。

 

 

 

〇月×日

 

アビドス編3日目。

カタカタヘルメット団の前線基地を急襲した。

異常なし。

アビドス校を襲う武装集団の拠点を叩いたので、しばらくは大人しくなるかもしれない。

 

やっぱり荒くれ者にしては良い装備を使っていた。

一般的には生産が中止されたモデルだっけ?今の私ではそこまで判別できない。

ただ作動する際の“音”が違うことは理解できた。

見た目は汚してあるけど、工作精度の高い既製品特有の綺麗な音が聞こえる。

この手の人たちが愛用する不良品ではなかった。

 

適当なやつを捕まえて情報を聞き出した。

といっても、尋問なんていう大袈裟な作業は必要ない。

キヴォトスに生息する知的生命体は、よくも悪くも素直な連中が多いので、ありきたりな話をするだけでも幾らか情報が手に入る。

『誰かに頼まれてアビドスを襲っていたのか?』と尋ねれば、あっさりと教えてくれた。

ヘルメット頭はふてぶてしい態度を装いながら、決定的なボロは出さないように言葉を選びながら答えてくれた。

 

「何言ってんのか全然わかんねえや」

言えない。雇われたことは秘密にしておきたい。

「さっさと出ていった方が身のためだぜ。もう手遅れだろうがな」

「アタシらを潰したくらいで調子に乗るなよ」

依頼人は、お金と武器と人材を山のように持っている。

「お前ら全員の顔と名前を覚えたからな。何処へ逃げても無駄だぜ」

依頼人はアビドス以外にも、何ならキヴォトス全域に影響力のある存在。

「大人を味方に付けたからっていい気になりやがって。そんなヒョロいオッサンなんざ直ぐに潰してやる」

向こうにも大人が付いている。先生よりも図体のデカい大人が。

 

たぶん相手は、筋書き通りカイザーコーポレーションでいいのだろう。

よかった。

知らない人たちだったら、関わり方を考えなければならなかった。

教えてくれてありがとう。

御礼を言ったら変な顔をされた。

 

狩猟の後は、柴関ラーメンで一日の疲れを癒した。

グゥレイト!なお味でした。

ミレニアムでは会長にガッツリ栄養管理されていたので、余計に美味しく感じた。

 

先生と私は、生きている市街地で辛うじて営業を続けているビジネスホテルを利用することにした。

学校からは少し離れているけど、アヤネちゃんお手製の最新マップをもらったから、もう迷う心配は無い。…無いよね?先生?

もちろん別室だ。

シャーレの費用はかさむけど同棲は拙いので仕方がない。

初日については非常時と言うことでノーカンよろ。

 

初日に引き続き、部屋の周囲に人感センサーやら振動センサーやらの検知機器をこっそり設置して侵入者に備えた。

気分はレイン〇ー・シックス・シージ。

バリケード!は流石にホテル側に悪いので設置しなかった。

先生が狙われることは未だ無いだろうけど、念のため。

 

 

 

〇月×日

 

4日目。

セリカちゃんの拉致イベントが発生した。

何事も無く先生のお姫様 (実は) 第1号を救出することができた。

 

知っていても何もしなかった私は酷い奴だ。

でも、こうして先生と生徒が信頼関係を築き上げていかないと、もっと酷いことになるから、どうしようもない。

どうしようもないって言葉を使うのは何回目だろう?

日記を見返そうとしたけど面倒臭いので止めた。

 

閉じ込められただけで暴行は受けていなかった。

ありえない選択肢だけど、放置しておくと文字通り砂漠に埋められていたという話は本当なのかな?

最終編のクロコの回想で、セリカが行方不明になった理由はそれだって。

いくらカイザーでも、直に人を手にかけることは早々しない気もするけど。

 

セリカちゃんを何処まで運ぶ予定だったのか?

先日とは別のヘルメット頭に尋ねると、今度は黙り込んだ。

ただチラチラと廃線路の向こうへ視線を送っていた。

ノノミさんの実家らしいセイント・ネフティス社が引いた路線。

レールは砂漠のど真ん中で途切れている。

そこは砂の海のポイント・ネモ。

何もないところへ行って、やることは一つしかない。

 

そうなんだ。

最終的には殺す気だったんだ。

そういえばヘルメット団も紙芝居の中で、捕らえたセリカを殺害する選択肢を平然と検討していた。

アリウス自治区に限らず、キヴォトス人でも殺す場合はあるんだ。

 

怖い人たち。

気が立っている人は恐ろしい。

こういう人とは目を合わせたく無いけど、そういうわけにもいかないのが辛い。

セリカちゃんが無事で本当によかった。

 

ホシノさんが『似たようなことは前にもあった』と呟くように言った。

暁のホルスの瞳だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

先生という奇妙な大人と共にやってきた物静かな女の子は、

『ぼうっ』とした無気力そうな印象とは正反対の働き者だった。

 

学校周辺の“掃除”を熱心にこなしてくれた。

1年生とは思えない戦闘能力。

洗練された動作で無感動に不良集団を蹴散らしていくその姿は、訓練を受けた猟犬そのものだった。

『理系のシロコちゃん』と評したら、本人は (何故か) 感動に打ち震えているように見えた。

我が家の狼ちゃんも嬉しそうに瞳を輝かせて、妹分に銀行強盗の何たるかをレクチャーしていた。

――彼女は非常に熱心に聞き入っていた。

駄目だよ?

やったらめんめだよ?

 

校内の環境整備も手伝ってくれた。

スクラップの山から使える部品を拾い集めて、瞬く間に警備用のドローンとオートマタを組み上げてくれた。

アヤネちゃん曰く、部品の吟味が異様に早かったらしい。

まるで予め知っていたかのように状態の良いパーツを掘り返していたそうだ。

おかげで睡眠時間が増えたと喜んでいた。

 

そして周囲のことをよく“観ていた”。

先生の指揮能力、私たち一人一人の戦術機動、アビドスの街並み、気候、ゴロツキの勢力図、カイザーの動向。

彼女が誰かの飼い犬であり、目的は偵察であることを直ぐに窺い知ることができた。

セミナーの、噂のビッグシスターの差し金か。

頭でっかちの科学者連中は無能な連邦生徒会ともつるんでいるのか。

今のところ観測するだけで、それ以上の横着をする様子は無い。

妙な動きを見せたら即座に取り押さえて締め上げるつもりだった。

 

アヤネちゃんには宮東さんのことも調べてもらった。

彼女がミレニアムの諜報員である証拠を掴め、などとは言わない。

ただ参考までに表面的な情報を仕入れておきたかった。

 

――情報を集めた彼女が泣きそうになっていたので慰めておいた。

 

「ミレニアムはどうしてこんな人を…」

ヨシヨシ、後はおじさんに任せなさい。

 

 

とは言ったものの、魔女サマはなかなか尻尾を見せなかった。

いっそ任務は片手間に処理して、後はアビドスでの生活を満喫しているようにすら見えた。

先生もそうだけど、こんな砂と後輩しかいない大切な校区で何が楽しいんだか。

 

このままでは埒が明かない。

カマをかけてみるか。

そんなことを考えていた時、セリカちゃんが攫われた。

相手はヘルメットキノコの刈り残しだからどうということは無かった。

ただ、この手口は久しぶりだったからちょっと驚いた。

 

「似たようなことは前にもあった」

そう呟くと、全員が顔を歪めた。

宮東さんも初めて感情を明確に表現した。

不安と恐怖と怒り。

その姿を目にして、警戒レベルを一段階だけ下げることにした。

人が死ぬ可能性に対して心を動かさない生徒であれば、ガンジュと、彼女を信じた先生に対しても疑いを強めていたかもしれない。

人としてはちょっとだけ信じてあげることにしたから、締め上げるのは止めておいた。

ただいちおう訊くだけは訊いてみよう。

 

 

お姫様の救出劇から2~3日後。

私が昼寝に使っている廃教室の一つに呼び出すと、ガンジュは何ら警戒することもなくやってきた。

「ホシノさんならいいか」

そして割とあっさり白状してくれちゃった。

…いいんだけどね?

手間が省けて。

楽ちんなのは素晴らしい。

ただ君のためにおじさんの可愛らしい脳みそが消費したブドウ糖とタンパク質を返して欲しい。

あと、よく知らない人にフラフラと付いてくる君の将来が心配だよ。

「会長に見て来いって言われた」

彼女の言い分を信じるのであれば、その正体と目的は、私の見立て通りだった。

主目的は先生という奇妙な大人の人柄を掴むこと。

その次にアビドス自治区の被害状況を把握。

セミナーのブラックリストに登録されている多“校”籍企業カイザーコーポレーションの監視。

あくまで調査するだけ。

例えば先生を篭絡しろとか、アビドスのセキュリティシステムにバックドアを仕掛けて来いとか、そういう物騒な作業は命じられていない。

むしろ禁則事項です、と。

「ふーん…」

嘘を付いている様子は無い。

情報を伏せる素振りも。

疑いを完全に晴らすわけではないけれど、問い詰めるにしても証拠が無い。

想像以上の収穫を得られたし、今日はここまでにしておこう。

それにしても『被害状況』か…。

「ビッグシスターは、アビドスのことをどう見てる?」

「絶望的。いずれ砂漠とカイザーコーポレーションに全ての土地が飲み込まれる」

だろうね。

子どもでも分かる。

…あと『カイザーがアビドスの土地の大半を所有している』とか割と重大な情報をシレっとぶち込んでくるのは止めてね。

おじさん心臓が弱いんだから勘弁してよ。

「知らなかったの?」

ガンジュは私らが知らないことに対して驚いていた。

それもそうか。

土地の所有権などという校区を維持運営するための基本情報は、普通の生徒会なら常に把握している。

それすら管理できない程にアビドスは落ちぶれている。

人も土地も、権利も記録も失って今に至る。

アヤネちゃんは自分には勿体ないほどの才媛だが、限界はある。

かつてはアビドス本校の生徒会だけでも100人単位の生徒を擁しており、総出で広大な校区を管理していたらしいのだ。それをたった一人で賄いきれるわけも無い。

他の子は、私も含めて前線向きだからね。

 

改めて自覚する。

先生たちが来てくれて、変わったような気になっていた。

何も変わっていなかった。

アビドスを取り巻く破滅の色彩。

無情な閉塞感に息が詰まりそうで、

「どうにかなると思う?」

私の方こそフラフラと、大して知りもしない他校生に弱音を漏らしてしまった。

「思う」

ガンジュは即答した。

その、コンビニに出かけるような気軽さに苛立ち、思わず声を固くする。

「何を根拠に?」

「根拠は無い。上手くいってほしいという切実なお願い」

 

――アビドスが救われないと、キヴォトスが滅びるから――

 

「どういうこと?」

この子は本当に、とんでもないネタを簡単にぶちまけてくる。

違う意味で息が止まりそうだ。

こんな広いだけが取り柄の田舎が、大人たちに奪われたところで大した影響は無いだろうに。

だから誰も見向きもしなかった。

連邦生徒会も、他の学校も、誰も彼も、何を考えているのか分からない黒服とカイザーの大人たち以外は。

それが何故、キヴォトスの滅亡などという大惨事に繋がるのか。

「大人に飲み込まれた学校は、大人の道具になる」

彼女は一年生とは思えない視野の広さを披露してくれた。

「アビドスにカイザーの学校が出来上がる。お金の力で生徒はすぐに集まる」

巷に溢れる不良集団を捕獲して、動物を飼い慣らす感覚で教育を施す。

私が言ったように、生徒が増えれば連邦生徒会へ議員を選出することができるようになる。

「証拠は未だ集まっていないけど、カイザーは連邦生徒会との癒着も噂されている」

事実であれば、そこにカイザーの子飼いが堂々と送り込まれることで、連邦生徒会は直に支配されてしまうだろう。

テロ企業に侵された連邦のことを誰も信用しなくなる。

支配しようとする連邦と、抵抗する学園連合の間で摩擦が起きる。

最悪、キヴォトスを二分する戦争に発展するだろう。

戦争となれば、“子供”では“大人”に勝てないかもしれない――

「――――」

ガンジュの淡々とした口調で語られる破滅的な展望に言葉を失う。

その未来予知めいた視野の広さに舌を巻く。

どうにか苦労して言葉を絞り出す。

「流石は、ビッグシスター直属のエージェントといったところかな?」

「別に、普つ…会長のおかげだよ」

「そこまで予測しているなら、今までに助けてくれてもよかったんじゃない?」

「悪いとは思うけど、ミレニアムもバタバタしてる」

曰く、彼女の母校も他所に勝るとも劣らぬ変人たちの楽園で、連邦生徒会長の失踪に伴う混乱もあって対応に難渋しているらしい。

うん、君を見ていると分かる気がするよ。

「…どうすればいい?」

「このまま進む」

「それじゃ何も変わらない」

「先生とホシノさんたちなら大丈夫。私の話は忘れて、思った通りに行動してもらえば、絶対に大丈夫。私も、大したことはできないけど、やってみる」

とりあえず狩ってほしいものや獲ってきてほしいものがあれば遠慮なくいってほしいと。

狩猟はいいからおじさんと話そう、ね?

今にも会談を打ち切って飛び出しそうなミレニアムマジョオオカミの首根っこを掴んで引き止めながら、次の言葉を捻り出そうとするが――出てこなかった。

どうして君は、そんなに確信めいているのか?

先生を、私たちを信じているのか?

疑問だけが湧いてくる。

それらを彼女にぶつけても益は無い。

彼女自身が、確固たる理由は無いと断言している。

要は直感だ。

科学の徒らしからぬ回答に溜息を一つ。

“あの頃”の私だったら鼻で笑って撥ねつけていただろう。

ただキヴォトスが崩壊するというビジョンが、決して荒唐無稽な妄想ではないことは認めざるを得ない。

威張るしか能の無い連邦生徒会に、鬱陶しいカイザーはお似合いのカップルだ。

組み合わされば、碌でもない化学反応を引き起こすことは間違いない。

…仕方がないね。

沈黙したのは、10秒だったか100秒だったか。

「分かったよ」

大きなため息を、もう一回。

魔女の言葉をひとまず素直に受け止めることにした。

鵜呑みにするわけではない。

完全に納得したわけでもない。

ただ彼女の言う通り、私たちは目の前の問題に一つ一つ取り組む他に道が無い。

あるならとっくに実行している。

黒服との胡散臭い取引は最後の手段だ。

「ここでの会話は、無かったことにしてほしい。君が持っている情報も、私が今ここで手に入れた情報も、先生たちには未だ知らせないで」

「分かった」

ガンジュは素直に頷いた。

 

 

想定外に刺激的な会談が終わった。

仮眠を取りたい気分だったが、そろそろ皆のところに戻らないと。

休息を諦めて教室を出ようとすると、ガンジュに呼び止められた。

「最後に、一つだけ」

彼女は別の議題を立ち上げてきた。

何故か人差し指をピッと立てた老紳士のスタイルだった。

「ホシノさんは別の禁則事項に抵触している。今すぐ止めてほしい」

「私が?」

反射的に身構える。

魔女はしっかりと溜めてから口を開いた。

「そう。それは――ミレニアムの魔女というデマを拡散させているということ」

「―――へっ?」

虚を突かれた。

脈絡のない話に困惑した。

つい今しがたまでキヴォトスの滅亡という深刻な話をしていたのに、この子は何を言っているのだろう?

しかしガンジュにとってはそれに匹敵する重要な事案だったらしい。

彼女はシリアスパートよりも熱を込めて弁を振るい始めた。

「それなりに戦う力はある。色々と物を壊しているのも本当。そこはただ認めて次への糧とするしかない。でも、それ以外は大半が嘘だから信じないで」

ええ…。

もう何と答えたものやら。

おじさんヘトヘトなんだからホント勘弁してよ。

「“魔獣”と呼ばれ恐れられていた凶暴なスケバンの背骨を折って引退に追い込んだとか…」

「キャスパリーグは五体満足で普通の女の子に戻ったの。今はきっと友達と一緒にスイーツをドカ食いしてる」

「裏社会と繋がりがあって、君を倒せば拍が付いてブラックマーケットでのし上がれるとか…」

「ラブとかが勝手に思い込んで噂をばら撒いただけ。見かけたらまたOHANASHIしておくから」

「悪い大人を半殺しにして黙らせたとか…」

「うっかり手足を千切っちゃっただけだからロボだから大丈夫だから」

「分かった。分かったよ」

信じる。

反社系の子にやたらと詳しそうな気はするけど黙っておいてあげる。

手足モギモギとか素敵なワードも無視してあげよう。

だから私のアホ毛を掴んで拝むのは止めてね?

温厚なおじさんもホルスっちゃうよ?

久し振りに“あの頃”を思い出しちゃうよ?

 

 

そうして、最後は何だかグダグダな感じでお開きになった。

もしかしたら場が暗くならないように、ワザとお馬鹿ムーブをかましてくれたのかもしれない。

 

まだ信じたわけではない。

あのビッグシスターが、これだけデキる子を“社会見学”のためだけに派遣してくるとは考えにくい。

本人にその気が無くても、飼い主が何かしら“爆弾”を仕込んで送り出している可能性はゼロではない。

彼女を見せ札にして、別に工作員を潜入させているかもしれない。

おじさんの疑り深さを舐めちゃいけないよ。

こう見えても人生経験は豊富なんだからね?

 

折を見て、アヤネちゃんには裏取りを頼んでおこう。

せっかく時間が増えたところを申し訳ない。

おじさんのことを恨んでほしい。

 

ただ彼女なりにアビドスの未来を案じてくれていることには感謝する。

カイザーのような“大人”に対して、厳しい目を向けていることについても共感を覚える。

それが仮に私たちを騙すための演技だったとしても、ありがとうと言っておく。

 

はてさてどうなることやら。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

〇月×日

 

ホシノさんと呼ばれて二人っきりでお話しした。

てっきり他校区からのSPYとしてホルスられてしまうのかとビクビクしていたが、普通に情報を交換しただけだった。

 

会長の差し金であることは正直に話した。

実際、何か仕出かすわけでもないし、ホシノさんなら大丈夫だと判断した。

個人的にもミレニアムの一生徒としても、事実上のアビドス生徒会長と呼べる彼女とは信頼関係を築いておいた方が良い。

この砂の国を舞台に綴られる物語は、キヴォトスの行く末にも大きく絡んでくることは間違いないから。

 

暁のケサランパサランは、親交の浅い私にすら本音を漏らすほど疲弊していた。

リオ会長と一緒だ。

どうにも、私は弱り切った人に鉢合わせる確率が高い気がする。

物語に関わっているわけだから当然と言えば当然か。

 

何だか偉そうに色々と語ってしまった。

恥ずかしくて書く気にもならない。

何だよ『大人に飲み込まれた学校は大人の学校と化す』とか、知った風な口をききやがって。

詰まるところ原作知識という降って湧いたチートスキルに縋っているだけの自分が。

誰かに訳知り顔で語る機会なんて“前”は絶対にあり得なかった気がする。

碌な反論も思いつけず縮こまって、他人が気持ちよくなるためだけの説教を喰らうだけの存在だった。

だから初体験と思われるシチュエーションに、感情を制御するのに苦労した。

 

ただ一応、嘘を言った覚えは無い。

カイザーがアビドスの大半を掌握していることは、リオ会長もとっくの昔に把握していた。

常在戦場の心構えで行けと、事前に警告を受けていた。

言ってから思い出した。ばーか。

対策委員会の面々も近日中に知ることになるのだから、大して影響は無い、と思いたい。

 

あのロボ軍団がアビドスを手に入れれば、要するにプレミアムなアリウス自治区が爆誕してしまうのだろう。

そうなれば、後の惨状は想像するに難くない。

碌に管理する気の無いように見える大人たちが、崇高だかお金だかのために力の限り暴れ回り、

キヴォトスは荒廃していく。

例えばアーマード・コ〇を陳腐にしたような世界になってしまうのだろう。

ロボットのような大人たちに管理される生徒たち。

それはもう私の好きなキヴォトスではない。

だから私にとっては滅亡と同義だ。

そうだ。

キヴォトスは怖いところだ。

セリカちゃんの一件も思い出す。

会長に守られていて忘れかけていた。

 

お願いだから救われてほしい。

私は俗物で自分のことばかり考えている。

どうにかなる。

なってほしい。

ならなければならない。

だから、やろう。




ふええ…日記形式を止めたい気もするけど捨てると更に執筆速度が落ちるよお…。
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