ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう 〜社畜剣聖、配信者になる〜   作:熊乃げん骨

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第二章 田中、配信者始めるってよ
第1話 田中、よく寝る


「ふあ……良く寝た」

 

 退職騒ぎがあった翌日の昼頃。

 俺は久しぶりにアラームをかけずに起床した。

 

 こんなに気持ちのいい朝は何ヶ月ぶり……いや、何年ぶりか?

 たまの休みも次の仕事が憂鬱で気持ちよく眠ることが出来なかったからな。これからは毎日好きなだけ寝ていいと考えると、心が軽くなる。

 

「だけどまあ、財布も軽くなるよな……」

 

 それを考えると心が沈む。

 黒犬《ブラックドッグ》ギルドからロクな退職金が出るとは思えない。

 須田も逮捕されたし、ギルドは事実上の解散をするだろう。あの会社を立て直そうとする社員なんていないだろうしな。

 

「残された社員は大変だろうし、そこに乗り込んで退職金を寄越せなんて言えないよな……。彼らも被害者だし」

 

 甘いと言われるかもしれないけど、退職金《それ》を貰うのは諦める。

 なに、社畜時代はお金を使う時間もなかったので少しは貯金できている。まあそもそもの給料が低かったからそれほど多くはないんだけど。

 

「にしても……腹が減ったな。昨日は帰ってすぐ気絶するように寝ちゃったし。何か食べに行くかな」

 

 そう考えていると、見計らったようにスマホが振動する。

 画面を見てみると、足立からメッセージが届いていた。

 

《そろそろ起きた頃か? 話したいこともあるし飯でも行こうぜ》

 

「……あいつ、俺の家にカメラでも仕込んでいるのか?」

 

 少し怖くなって部屋を見回すけど、そのような物はなかった。

 あいつの洞察力と言うか観察力は少し恐ろしい所があるな。

 

「ちょうど腹も減ってたし、行くとするか。話したいこともあるしな」

 

 俺は手早く準備を済ませ、家を出る。

 ちなみに服装はいつも通りビジネススーツだ。なぜならもう数年遊びに行ってないのでこれ以外に着れる物がないからだ……。

 

 服も今度買いに行きたい……。

 

◇ ◇ ◇

 

「よー田中! 見たぜ配信! いい暴れっぷりだったな!」

 

 近所のファミレスに行った俺は、足立と合流する。足立も俺と同じでスーツ姿だった、仕事を抜け出して来たのだろうか?

 外食なんていつぶりだろうか? 普段はコンビニやスーパーの弁当で済ませてるからな。ダンジョンの中にある物を食べたりもしてるけど。

 

「あまりデカい声出すなよ。バレたらどうすんだ」

「おっ、早速有名人気取りか? 人気者はつらいねえ」

「帰る」

「おいごめんって! 冗談だよ冗談!」

 

 必死に引き止められて、俺は仕方なく席につく。

 

「お前はいつも三言多いんだよ」

「悪いな、ついたくさん喋りたくなっちゃうんだよ。詫びと言っちゃなんだが、好きなだけ頼んでいいぞ。退職祝いだ」

 

 ファミレスで退職祝いかよ、と思わないでもないけど無職の俺からしたらそれは助かる。

 店員を呼び出した俺は遠慮なく頼むことにする。

 

「特大チーズバーガーに超鬼盛りポテト。このステーキも……はい、一番大きいサイズで。ご飯も大盛り付けて下さい。後はビッグカレープレートにこのパスタも一番大きいので。はい、後はドリンクバーとパンケーキタワーで。はい、ひとまず以上で」

「いや多いな!?」

 

 嫌そうな顔をする足立をよそに、俺は注文を終える。

 まあこれだけ食えば足りるだろ。

 

「おい田中! いくらファミレスとはいえ、頼みすぎだろ! お小遣いなくなっちゃうぞ!?」

「お前の奥さんはしっかり者だからな。いい気味だ」

 

 うろたえる足立を見て俺はにっこり笑みを浮かべる。

 俺の胃を甘く見たな。

 

「お前が現役探索者ってことを忘れてたぜ……。あんだけ動くんだ、そりゃ食うよな」

「まあな」

「ていうかお前、だいぶ目のクマも良くなったな。少し健康に見えるぞ」

 

 確かに社畜時代の俺は顔が死んでた。

 だけど朝鏡で見た顔は、瀕死くらいには回復していた。このまま生者の顔に戻りたいものだ。

 

「足立、ところで話ってのはなんのことだ」

「ああ。じゃあ料理が来るまでの間に軽くしておくか」

 

 足立はビジネスバッグから書類を取り出し、俺の前に置く。

 そこには文字がびっしりと書いてあった。

 

 タイトルは『田中誠、人気配信者への道』と書かれていた。

 

「これって……」

「仕事の合間を縫って作ったんだよ。どうせ配信のことなんてよく知らないだろ? だけど安心しろ、必ず俺がお前を世界に通用する配信者にして見せる」

 

 足立はストローで底に残ったコーラをすすると、キメ顔でそう言うのだった。

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