ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう 〜社畜剣聖、配信者になる〜   作:熊乃げん骨

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第4話 田中、モンスターを屠る

"ぎゃあああああ!! 落ちるうううう!!"

"死ぬ! 死ぬって!"

"前にも落ちてたからな。俺はもう慣れたもんよばばばばば"

"シャチケンの配信は初めてか? 肩の力ぬけよばばばば"

"誰も慣れてなくて草"

"酔い止め必須だなこりゃ"

"これマジで死なない!? いくら覚醒者が頑丈だからってこの速度で落ちたら流石に死ぬでしょ!!"

 

 俺は落ちながらもコメントが爆速で流れていくのを確認する。

 なんか分からないけど盛り上がっているみたいだ。どうやら飛び込んで正解だったみたいだな。

 

「そろそろ減速するか」

 

 徐々に底が見えてきたので、俺は腰に差した片刃の剣を抜き放つ。

 そしてそれを遠慮なく崖に突き刺して、その刃の背に足を乗っける。形としてはスケボーみたいな感じだな。滑っているのは雪じゃなくて崖だけど。

 

「よ……っと!」

 

 十分に減速した俺は、崖を蹴って飛び上がる。

 そして空中で数度回転してから、しゅたっと着地する。社畜時代、果てしないノルマをこなすためにダンジョンの中を飛び回って移動していたので、こういうアクロバティックな移動には慣れているんだ。

 

"め、目が回った……"

"見てるだけなのに死ぬかと思ったわ"

"めっちゃ刺激的でよかった! こんなに動き回れるなんて私も覚醒者になりたいなー"

"いや普通の覚醒者はこんな動きできんぞ? もし出来るならここにエレベーターなんて設置されねえ"

"※ただし田中に限る。こうですかわかりません"

 

 コメントの反応も上々だ。

 やって正解だったな。

 

「えー、じゃあさっそく『西新宿断崖ダンジョン』に入っていきたいと思います。お見苦しい点もあるかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです」

 

"クソ丁寧で草"

"社畜根性が染み付いている"

"でも配信者って失礼な奴も多いから俺は好印象だわ"

"分かる。俺も安心する"

"こういうのでいいんだよこういうので"

"普通で安心する"

"待ってくれ。今さっき崖から飛び降りたの忘れていない!? 普通じゃないよこの人は!"

 

 俺はコメントを尻目にダンジョンの中に足を踏み入れる。

 例外はあるけど、基本的にダンジョンは地下に続いている。壁は洞窟のように土や岩をくり抜いたようになっていて、中には遺跡のような物があったりもする。

 

 そして何よりの特徴は中にモンスターがいるということ。

 基本的にモンスターはダンジョンの中にのみ生息するけど、たまに外に出てくる個体もいる。そういう時はまず天月の所属する魔物討伐局に連絡が行って、そこの職員が討伐に向かうんだ。

 

 ……と、考えている間にモンスターのおでましだ。

 

『ギ、ギギ……』

 

 耳障りな声を出しながらやってきたのは、緑色の肌をした子鬼、いわゆるゴブリンだ。

 ナイフとかの武器を使うけど、知能も身体能力も全然高くはない。

 探索者協会が設定している危険度ランクもD。最低クラスだ。

 

 現れたゴブリンは全部で五体。

 それほど多くはないし、撮れ高にはならなそうだ。

 

「よっ」

 

 軽く踏み込んで、ゴブリンたちとすれ違う。

 そしてその刹那に剣を一振り。五体のゴブリンたちの胴を切り裂いて見せた。

 

『ガ……?』

 

 ゴブリンたちは何が起きたのかも分からず、その場に崩れ落ちる。

 あいつらの目じゃ俺の姿を捉えることも出来なかっただろうな。さて、早く中層に行って見どころを作……

 

"は!? 今なにやったの!?"

"全く見えなかったんだけど!?"

"俺、一応Bランク探索者なんだけどマジで見えなかったわ。自信なくす……"

"これもうカメラの性能が追いついてないだろ。コマ送りしてもわけわからん。いつ移動したんだ?"

"人間の技術の敗北だろこれ"

"カメラに映らない!? いいこと思いついた"

"おまわりさんこいつです"

 

 チン、と剣を鞘に納めると、コメントがやたら騒がしい。

 どうやら今の動きで盛り上がっているみたいだ。

 

 うーん。相手はゴブリン、誰も苦戦するような相手じゃないのにな。探索者じゃない人が見てるから、今のが凄くないってことが分からないのかな?

 

「あの、喜んでいただけるのは嬉しいですが、今のはゴブリンなのでたいしたことないですよ。あれくらい少し練習すれば出来ます」

 

 そう説明したらコメントが爆速で流れる。

 

"出来てたまるか!"

"俺もゴブリンくらいなら倒せるけど、あんな風には無理だよ……"

"あれ、俺なんかやっちゃいました?"

"ガチでやってるパターンも珍しい"

"シャチケン「なにって……カメラでも追えない速度で斬っただけだが?」"

"田中ァ! 違うモンスター来てるぞ!"

 

 気づけば灰色の大きなネズミがこちらに向かってきている。

 あれはダンジョンラットか。ゴブリンと同じくらいの強さだけど、速いし何より臭い(・・)

 

 あいつの血を浴びるとしばらく腐ったような臭いが取れないんだ。昔は苦労させられたなあ。

 

 見ればコメントにも

"うげ、ダンジョンラットじゃん"

"臭くて苦手なんだよなあ"

 などの声が出ていた。

 

 みんな思うことは同じみたいだ。

 

「あ、じゃあダンジョンラットのいい倒し方を教えますね。それほど難しくありませんし、これなら臭いもつきません」

 

"そんな方法があるの?"

"聞きたい聞きたい!"

"期待"

"嘘だぞ絶対難しいゾ"

"言うなよみんな分かってるんだから"

 

 俺は向かってくるダンジョンラットを見据えると、鞘から剣を高速で抜き放つ。

 

 剣閃が奔《はし》り、不可視の刃が放たれる。

 

 音速を超えた時に発生する衝撃波、いわゆる高速衝撃波《ソニックブーム》というやつだ。俺は『飛来刃』と呼んでるその刃は、ダンジョンラットの体を両断した上で、その体を吹き飛ばしてしまう。

 これなら俺に臭いがつくこともない。

 さて、コメントの反応はどうだろうか。この方法を意外と知らない人も多いんじゃないか? 役立ってくれると嬉しいんだけど。

 

"やっぱり無理じゃん!!"

"知ってた"

"知ってた"

"しってた"

"ほらね"

"人間は普通衝撃波出せないのよ"

"※彼は特殊な会社で働いてました"

"あんなの撃てたら楽しいだろうなあ"

"覚醒者ってあんなこと出来んの!?"

"出来てたまるか"

 

 なぜか想定とは違う反応だった。

 うーん、なんでこう上手くいかないんだろう。やり方を変えたほうがいいのか?

 

 そう思っていると、そんな俺の気持ちを見透かしているかのように、足立から「いいぞ。その調子でやれ」とメッセージが届く。

 不安だけどあいつが言うならもう少し続けてみるか。

 

「えっと、それじゃあ中層に入ります。SNSには質問箱も用意していますので、質問がある方はそちらにお願いしますね」

 

 俺は慣れないカメラ目線でそう言うと、更にダンジョンの奥に行くのだった。

 

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