ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう 〜社畜剣聖、配信者になる〜   作:熊乃げん骨

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第7話 田中、無双する

「立てそうですか?」

「は、はい。大丈夫です……」

 

 俺は抱えた女性を優しく下ろす。

 あちこち服は擦り切れて、体にも小さなキズがある。体力はかなり消耗してそうだけど、深いダメージは負っていなさそうだ。

 

「私は田中誠と言います。貴女は?」

「え、田中さんってあの社畜剣聖さんですか!? びっくり……じゃなかった。えっと私は星乃唯《ほしのゆい》と言います。一応ダンジョン配信者をやっています」

 

 星乃と名乗った彼女の近くには、ひび割れて煙が出ているドローンがふらふらと飛んでいた。どうやらオーガに壊されてしまったようだ。

 

 それにしてもこんな偶然会った子にまで俺の名前が知られているなんてな。思った以上に社畜剣聖の名前は広がっているみたいだ。ネットの力って凄い。

 

"この子、ゆいちゃんねるの人じゃん。"

"最近『かわいすぎる探索者』でバズったよな"

"ゆいちゃんかわいい。チャンネル登録してこよ"

"そういえば突然配信切れたってさっきSNSで話題になってたな"

"まさかのコラボ"

"異常事態《イレギュラー》のことは迷宮管理局に通報したけど、動いてくれるかな?"

"探索者の救助まではしてくれんでしょ"

 

 コメントをチラ見して現状を把握しておく。

 迷宮管理局に通報してくれたのは助かる。だけどコメントにある通り、俺たちを助けには来てくれないだろう。中で起きたことは全て探索者の自己責任。それが嫌なら会社《ギルド》に入るしかない。

 ま、俺の入っていたギルドは助けになんか来てくれなかっただろうけどな。

 

「なぜこんな状況になったのですか?」

「それは……私も分からないんです。中層の浅いところで配信していたら、急にオーガが襲いかかってきて……。私下層なんて行ったことないから必死に逃げたんですけど、どんどん下の方に追い込まれて、どうしようもなくなっちゃって」

 

 星乃さんの目に涙が浮かぶ。

 追いかけられた時のことを思い出して、怖くなってしまったんだろう。俺もダンジョンに潜りたての時はよく恐怖を感じることがあったので、気持ちは分かる。

 

 俺は震える彼女の肩に手を乗せると、勇気づけるように言う。

 

「よく頑張りましたね。もう安心して下さい。ここからは――――俺《・》の業務《しごと》だ」

 

 外行きの敬語モードから、業務《せんとう》モードに意識を切り替える。

 相手はオーガ十体。深層での戦いに比べたら退屈な相手だが、まあいい。普段は無視する上層のモンスターを相手にしてて退屈だったところだ。

 

 俺は一歩、オーガたちのもとに近づく。

 するとオーガたちは一歩、俺から後ずさる。

 

『グ、ウ……!』

「なんだ、逃げるのか?」

 

 挑発するように言うと、オーガたちは覚悟を決めたのか武器を強く握り『ガアアアアアッ!!』と咆哮する。

 そして一斉に俺に向かって突っ込んでくる。

 

"ぎゃあああああ!!"

"オーガ、こっわ"

"オイオイオイ、死んだわ"

"まあ見てて下さいよ一見《いちげん》さん。ウチの社畜はここからが凄いんです"

"切り抜き班頼むぞー"

"[\10000]田中さん! やっちゃって下さい!"

 

 俺は思考の全てを目の前の敵に集中し、踏み込む。

 

『ガ……?』

 

 一瞬にして目の前に現れた俺を見て、オーガは呆けた声を出す。

 俺はその顔が驚きに変わるよりも早く剣を抜き放ち、オーガを袈裟斬りにする。

 

『グ、オ……』

 

 傷口から大量の魔素が飛び散り、オーガは崩れ落ちる。

 すると仲間がやられたことに気がついたオーガは棍棒を握り、俺を囲むように襲いかかってくる。

 

『ガアアアッ!』

「……遅い」

 

 俺はその場で飛び上がりオーガの攻撃を躱すと、空中で一回転して後ろにいたオーガの首に空中回し蹴りを打ち込む。

 めきり、という骨が砕け散る嫌な音共に、オーガの頚椎は完全に破壊される。

 

 そのままオーガの体を蹴飛ばし空中で加速した俺は、何が起きたか分からず硬直する奴らを、次々と一刀のもとに斬り伏せていく。

 

"ヤッッッッバ。切り抜きで見たことあるけど、生は迫力が違えわ"

"これよこれ! これが見たかったんだよなあ!"

"マジでウチのギルド入ってくれないかな……"

"シャチケンはギルドに収まるような器じゃないでしょw"

"アンチだったけど改宗します。これは本物だ……"

"オーガをムカつく上司だと思いながら見てます。私も社畜卒業したい"

"社畜界の星"

"シャチケン見てる唯ちゃんの顔見ろよ。完全にメスの顔してやがる"

"俺の唯ちゃんが……"

"まあ強い男に惹かれるのはしゃあない"

"俺も鏡見たらメスの顔してたわ。もしかしたら俺も女なのかもしれない"

"奇遇だな、俺もだよ"

"視聴者が全員メスになっちゃう……(´;ω;`)"

 

 次々と倒れていくオーガたち。

 気がつけば残り一体になっていた。

 

『グ、ググ……!』

 

 力の差は分かっているはずだけど、オーガは逃げず手にした棍棒を構えた。

 一応戦士としての矜持は持っているみたいだ。

 

「分かった。全力で相手しよう」

 

 俺は剣を鞘に収め、居合の構えを取る。

 するとオーガは今が好機と襲いかかってくる。

 

 奴からしたら剣をしまっている今は隙に見えているかもしれない。だけどこの構えを取った時点で、額に拳銃を押し付けているようなものだ。

 後は引き金を引くだけで、勝負はつく。

 

「――――我流剣術『瞬《またたき》』」

 

 閃光が走り、俺とオーガの体は一瞬にしてすれ違う。

 オーガは何が起きたか分からず、振り返り俺の方に来ようとするが、三歩ほど歩いたところで胴体が両断されその場に崩れ落ちる。

 

 瞬《またたき》は、斬られたことにすら気づかないほどの最速居合術なのだ。

 

「お前も強かったが……相手が悪かったな」

 

 俺はチン、と剣を完全に鞘に収めると、星乃さんのもとに歩き出すのだった。

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