ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう 〜社畜剣聖、配信者になる〜   作:熊乃げん骨

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第8話 田中、治療する

"なに今の!? マジで何も見えなかったんだけど!?"

"今までのも本気じゃなかった……ってコト!?"

"これもまだ本気じゃない可能性もあるぞ"

"「相手が悪かったな」……だっておww 俺も言ってみてえ……"

"ガチで相手が悪いの草なんだ"

"我流剣術、他にどんなのあるんだろ"

"田中ァ! 抱いてくれェ!"

"俺おっさんなのに田中を見てると心臓がバクバク言うんだ。もしかしてこれって……"

"動悸でしょ"

 

 コメントが何やら騒がしいけど、ひとまず俺は助けた女性に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?」

 

 俺が助けた女性、名前は確か星乃唯だったか? は、よほど怖かったのかポーっと呆けた顔をしている。顔もほんのりと赤いし、心配だ。

 

「あ、はい! だ、大丈夫でひゅ!」

 

 思いっきり噛んでるけど、まあ元気はありそうだ。

 これなら自分の足で帰れるかな?

 

「ひとまずここに居続けるのはよくない。壁際で一回態勢を立て直しましょう」

「わ、わかりました!」

 

 俺と星乃さんは一旦その場を移動する。開けた場所だとモンスターに襲われる可能性が高いからな。

 

 俺は移動しながらちらっとコメントを確認する。ちなみにコメントはスマホを見なくてもドローンが空中に小さな画面《ウィンドウ》を投影してくれるのでそれで確認できる。

 

"ダンジョンの中に若い男女……何も起こらないはずもなく……"

"R18配信ですか!? 規約違反ですよ!"

"田中ァ! 優しくしてやれよォ!"

"俺のゆいちゃんが……"

"俺の田中が……"

"ハーレム一人目ですね。やったぜ"

"今の日本、ダンジョンのせいで格差社会が進みすぎて重婚OKになったからなあ。ガチでハーレムもありえるんよな"

"昔だったらありえんけど、世界的にそういう流れなんだよな。おっさんはついていけん"

 

 コメントでは好き勝手言われていた。

 俺が手を出すわけないだろ。そもそも俺はこの子と五つは歳が離れている。向こうから見たら俺もおっさんに見えるだろう。

 いい子そうだから恩は感じてくれてるかもしれないけど、恋愛感情はそれとは別だ。

 ここを出たらもう会うこともなくなるだろう。

 

「よし。ここで一旦休憩するか」

「はい」

「じゃあ今から怪我の手当をするので一旦配信を切ります。少ししたら再開します」

 

"え、ちょま"

"金! 金なら払うんで!"

"後生ですから!"

"そりゃないぜ田中ァ!"

 

 ブチッ。

 俺は流れるコメントを無視して容赦なく配信を切る。

 配信していたら彼女も話しづらいだろうからな。当然の処置だ。

 

「星乃さん……でしたよね。怪我の手当をするので痛い箇所を教えていただけますか?」

「あ、はい! すみません、何から何までお世話になってしまって……。助けていただき、本当にありがとうございますっ!」

 

 星乃さんは申し訳無さそうな顔をしながら、地面にめり込みそうな勢いで頭を下げる。

 

「田中さんが来なかったら私、あそこで死んでました。このご恩は絶っ対に忘れません! 必ずお返しいたします!」

「いいですってそんなの。同業者を助けるのは当然の行動なので」

「いえ! そういうわけにはいきません! 恩を受けたら倍返ししろとお母さんに言われて育ったので!」

 

 キラキラとした顔で星乃さんは言う。

 なんというか……『陽』って感じの子だ。『陰』の俺には眩しい。

 昔は俺にもこんな感じが少しはあったかもしれないけど、長い社畜人生で完全に真っ黒になってしまった。

 彼女がブラックで働くことにならないことを祈るばかりだ。

 

「それと田中さん。私は歳下ですし、探索者としての経験もずっと短いです。なので敬語はやめていただけませんか? なんだかこちらが申し訳なくなってしまうので」

「うーん……分かった。それなら少し砕けた感じでいこうか」

 

 俺たちはこのダンジョンから一緒に脱出しなきゃいけない。

 いつまでもお互いに固いと、動きも悪くなる。今だけでも仲良くなっておくのは得策かもな。

 

「えっと……星乃。どこが痛む?」

「一番痛むのは足ですね。オーガの攻撃が当たっちゃいまして……」

 

 星乃は座りながら足を俺の前に出す。

 確かに彼女の足は赤く腫れていた。これは痛そうだ。

 

「分かった。今治療する」

 

 俺はスーツのポケットから緑色の液体が入った小瓶を取り出す。

 そしてそれを自分の手に伸ばし、彼女の足に塗る。すると星乃は驚いたように目を丸くする。

 

「それって回復薬《ポーション》ですか!? そんな貴重な物を……」

「まだ持ってるから大丈夫。気にしなくていいって」

「うう……申し訳ありません……」

 

 回復薬《ポーション》はダンジョンの中で採れるもので作られた、回復作用のある液体の総称だ。

 地上でお金を払って買うことも出来るけど……結構高い。

 支給してくれるギルドもあるけど、俺の所属していたギルドはもちろん一回もくれなかった。なので俺は自分で回復薬《ポーション》を作っていたんだ。

 

 深層までしょっちゅう潜ってた俺は貴重な素材をたくさん採る事が出来たからな。素材には困らなかった。

 素材そのものを許可なく持ち帰ることや、ダンジョン内の物を加工して売ることは禁止されているけど、加工したものを自分で使う分には法律的に問題ないんだ。

 

「よし。これで終わり」

「ありがとうございます。わ! もう腫れが引いて来ました……凄い!」

 

 星乃はその場でぴょんぴょんと跳ねて見せる。

 その度に彼女の大きな胸が揺れて、非常に目のやり場に困る。配信を切っておいてよかったな……。

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