ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう 〜社畜剣聖、配信者になる〜 作:熊乃げん骨
体内に射し込む光を頼りに、俺はそのモンスターの体内を突き進む。
すると唐突に周囲が明るくなる。どうやら無事外に出ることができたようだ。
「……よっと!」
空中で体勢を整え、着地する。
そして抱きかかえていた星乃をそっと地面に下ろす。
「きゅう……」
結構速く移動したから目を回しているけど、怪我もなく血も被っていない。これならすぐに動けるようになりそうだ。
「大丈夫か星乃?」
「ひゃい……い、いけます!」
顔をパンパンと叩いて、星乃は意識をはっきりと取り戻す。
そして俺たちは、今まで俺たちのことを
「なるほど、こいつだったか……」
「で、でっかい! なんですかこのモンスターは!?」
俺たちの前に
地竜は四本脚で歩行する、翼のない竜種だ。飛べない分、脚の力が強くて体が硬い傾向がある。
目の前の地竜も鱗が硬い岩盤になっていて、半端な攻撃じゃ弾くほど硬い。俺も素手で戦ったら苦労させられるだろう。
「田中さん。このモンスターって……」
「S級モンスターの『マウントドラゴン』だ。別名『山脈竜』、岩の体を持つ、巨大な地竜だが……ここまで大きな個体は初めて見た。おそらく
普通のマウントドラゴンの体長は十メートルから二十メートル程度だ。
しかし目の前の個体は全長百メートルはある。まるで本当に『山』が動いているようだ。
"あれがモンスターなの!? でっっっか"
"デカ過ぎんだろ……"
"異常成長個体なんているんだ"
"あれ人間がどうにかできるレベルじゃなくね?"
"ミサイル打ち込んでも平気そう"
"流石のシャチケンでも無理じゃね? 体内から出られたし逃げたほうがいいっしょ"
"たしかに"
コメントの中にちらほら逃げることを薦めるものが流れてくる。
マウントドラゴンの速度は遅い。逃げることはそれほど難しくないだろう。だけど、
「ご心配いただきありがとうございます。しかし今この個体を討伐しないと
政府にはモンスター狩りを専門とする集団『討伐課』がある。
だけど彼らは手一杯で中々仕事が回りきっていない。黒犬《ブラックドッグ》ギルドで政府の仕事もやっていた俺はよく知っている。
討伐課の課長である天月もあまり寝れていないはずだ。だったらあいつに貸しを作るのも悪くない。
「悪いな星乃。帰るの少しだけ待ってもらえるか?」
「……! はい! もちろんです!」
「助かる。少しだけ待っててくれ」
同行者の同意を得た俺はマウントドラゴンの前に歩き出す。
まだ警戒して襲いかかってこそ来ていないが、マウントドラゴンは腹を割かれてご立腹のようだ。
グゥゥゥ……と低い唸り声を上げながら俺を睨みつけている。
『ガアアアアッ!!』
マウントドラゴンは叫びながら襲いかかってくる。
なんの工夫もない体当たり。だけど山の如き質量を持つマウントドラゴンが放てばそれは必殺技になる。
"うわああああっ!?"
"山が襲いかかってきた!"
"土砂崩れみたいだ"
"これもう災害だろ"
"オイオイオイ死んだわアイツ"
目の前に迫る動く山。
俺はマウントドラゴンのその一撃を……正面から素手で受け止めた。
「ふん……っ!」
両手を広げてマウントドラゴンの頭部を受け止める。
少しだけ後ろにズズ……と下がったけど、マウントドラゴンの体はピタリと止まる。
「流石に重いな……」
"流石に重いな……、じゃないが?"
"なんで山受け止めてるの?"
"何トンあると思ってんねん"
"これもうバグだろ"
"流石にキモいレベルの強さ"
"剣とか関係なくフィジカルモンスターなのよ"
"ゆいちゃんも引いてるじゃん"
"よく見ろ、顔赤いからあれ惚れ直しているゾ"
"戦闘民族過ぎる"
『ガ、ガウ……?』
自分の体が止まったマウントドラゴンは困惑したような声を出す。
何が起きているか分かっていない様子だ。
俺はその隙に腕に力を入れて、そのままマウントドラゴンを前方に
体を数秒宙に浮かせたマウントドラゴンは、地面に落下し轟音を鳴り響かせる。
「これくらいじゃあ効いちゃいないだろ? 相手してやるよ」
『ウゥ……!』
立ち上がったマウントドラゴンと俺は、視線をバチバチにぶつけ合う。
久々に少しだけ全力を出しても平気そうだ。
俺は時間をちらと確認すると今の時刻はもう17時だった。
もうすぐ18時……つまり定時だ。
「悪いが残業はしたくない。
俺はそう宣言して駆け出すのだった。