黒い兎   作:森の狐

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第一話

N県 松路和市 貴常月町

 

貴常月町は山間部にあるひなびた田舎町である、昭和初期までは村だったのだが近隣の村と併合し現在の町の形を取る事になる。

 

その町にある識媛中学校は、人と式姫が同じ学び舎にて学ぶ形式の学校だ、もちろん式姫の教師も居る。

この時代基本的には人は人の式姫は式姫の学校に通うのが通例であり

この学校の教育スタイルは、全国でも数件の例を見るだけの極めて珍しいものだった。

 

妖が半ば覇権を握り大手を振って暴れていた大昔ならいざ知らず、時折起こる怪異事件も政府の手により速やかに闇から闇に葬られている現状、

もはや妖の存在すら、極稀に見る友好的な存在以外見たことのない一般庶民にとっては、式姫も時折奇異の対象と見えることもあった。

 

しかし文明開化が謳われ始めた頃より、積極的に式姫を受け入れ続けてきたのがこの一帯の風土である。

そのおかげか、この町一帯では人間の式姫の持つ人智を超えた力への畏怖も、人ならざる者への奇異感もかなり薄いものであり

式姫に取っては、気兼ねの無い居場所となっている地域だった。

 

さて件の学び舎は二つありどちらも3階建て、第一棟を1~2年と各種学科実習室に使用し、

第二棟を一階を3年教室、二階は図書室・視聴覚室と各文科系部活の部室。

そして受験シーズンを迎えると普段使っていない3Fを特別学習室として開放する・・そんな方針の学校だった。

最も特に進学校という訳でもなく、使用するものはほとんど居ないのが実情だが。

 

第二棟に幽霊が出る、そんな噂が出だしたのは受験も大詰めを向かえた頃だった。

部活等も引退し、下校のチャイムと共に一足先に3年生は帰宅していくのでほぼ無人になる第二棟は、

下級生の格好の遊び場になっている。

噂も相まって、今年はいつもより騒がしい事になっていた。

 

 

1年生の黒兎は図書室の常連組であった、いつもは他にも十数名ほどの読書好きはいるのだが・・・・

 

「ウェーーーイ!!」

 

「ちゅうもーーく!!これからハバキリ先生の真似しまーーーす!!wwww」

 

「おまwwwwwなんで衣装もってんのwwwwwww」

 

図書室の外から響き渡る大騒ぎ。

この時期はパリピ勢が棟を遊び場にするので喧騒を嫌いあまり寄り付くものも少なく、今日に至っては図書室内は黒兎のみである。

 

「もおぉぉ・・・煩いな・・・」

ロップイヤーをさらに限界まで垂らし、喧騒を遮断しようと試みる黒兎・・・徒労だった。

ため息を付き、文字に集中し外から響く騒がしい声を自らの精神から放逐する、もはや読書というよりも瞑想だ。

 

 

さてこの黒兎、事実上この学校の図書館の主といっても良い様な存在だった。

図書委員達はどうにもこぞってやる気がないらしく、いつも遅くまで居座る彼女にコレ幸いと部屋の鍵を預け早々に帰ってしまう体たらくだ。

なので、気の済むまで読むと部屋の明かりを消し図書室の鍵を掛け宿直室に戻し、当直室にある裏口から帰宅する。

・・ほぼ新入生当時から続くこのルーチン。

もはや、当直の教師や用務員も「そういうものだ」と認識してしまい気にも止めない。

最も彼女にとっては好都合だったのだが。

 

 

何冊読んだだろう・・・ふと意識が外を向き、そして時計に目が行く・・・23時。

 

「うわ、やばっ・・・」

 

流石に遅すぎだ。

ぼそりと呟き、本を戻し下校しようとする、流石に静まり返り廊下の明かりも消えている、光源は常夜灯のみだ。

彼女は、手馴れた感じで鞄から懐中電灯を取り出す、半年貯金を貯めて買ったIZANAGI社製のフラッシュライトだ。

田舎町ゆえに街頭はかなり少なく、さらにいつも帰りが遅くなる彼女の愛用の品だ、防犯用でもある。

 

(肝試しに来た不良たちに絡まれませんように・・)

そう祈りながら階段を下りる彼女、何事も無く一階の宿直室まで来て・・足を止める。

図書室の鍵を閉め忘れた、こういう事柄は信用第一だ。

忘れたまま帰ったとあれば、叱責は受けるだろうし何より遅くまで図書室を利用させて貰えなくなるかも知れない。

ため息を付き、黒兎は再度図書室に戻っていった。

 

黒兎が階段を上がりきった頃、ふいに1Fに人の声が聞こえだす。

 

「おい・・まだか?」

「静かにしろって、バレんだろ・・・もうちょい・・開いた!」

「おめーの声が一番でかいってのw」

 

何とも器用に正面の鍵をピッキングし侵入する人影、明らかに生徒ではない男三人、概ね20代くらいか。

全身全霊で田舎のDQNですと主張している井出達のその3名は、ご他聞に漏れず肝試しだろう・・黒兎が最も遭遇したくない人種だ。

彼らは、当直や用務員にばれるのを警戒してか明かりも付けずに常夜灯の光源のみを頼りに校舎の探索を開始する。

 

 

一方、図書室まで戻り施錠を確認したのち黒兎は途方にくれていた。

彼女は兎の式姫である・・・その鋭敏な聴覚は、一階の声や物音を聞き分けていた。

 

「うわァ・・・いやだなあ・・・・会いたくないなあ・・・」

 

そうこうしてるうちに、足音は階段を登ってくる。

慌てて、再度図書室に舞い戻り鍵を掛け貸し出し室に隠れる黒兎、その間も耳に全神経を集中させ動向を探る。

 

『なあ、こっから別個に行動しねえ?』

『お、おう・・・でもヨームインとかに見つかる可能性でかくならねえ?』

『そんときゃボコせばいいっしょwてかビビってるぅ?』

『びびってねえし!』

 

典型的なDQNトークを一頻り終えた後、足跡は三つに散っていく。

今日で何度目かのため息を付き頭を抱える黒兎。

 

「なんでだよ、一塊で行動してよ、ていうかカエレ」

 

ここでこうしていても埒が明かない。

最大限に集音しつつ、ソッと鍵を掛けなおし物音から遠ざかるように動く黒兎・・最寄の階段からは下に下る音が聞こえる。

なので、廊下の奥にある階段を目指す・・それほど広くない校舎だが、不審者がうろついているといだけで廊下が長く感じる。

階段にたどり着き、下ろうとしたその時だった。

 

「あれ~?生徒まだ居たの?・・・てか女の子じゃん」

 

                  ビクリ!!

 

跳ねるように体をビクリとさせ、振り向く黒兎!そこには物陰に隠れるようにして佇む一人の男。

 

「いやあ、ツレ脅かそうと待機ってたんだけどさw・・・・もっといいもんと遭遇♪」

 

完全に犯罪者の目で黒兎をジロジロみやる男、黒兎は「あ・・う・・お」と、どもりながら男を見上げる。

その反応に、さらに気を良くしたのかニヤリを笑みを浮かべながら肩に手を触れる。

 

さて、男は完全に失念していた。

目の前に居る少女が式姫であり、引っ込み思案のコミュ障なだけで・・・決して、臆病者でも腑抜けでもない事を。

ソッと宛がわれた手を取る黒兎、そのままグイッと引っ張り込み男がそれを引っ張り返した瞬間!

その張力を利用し、男の腹に強烈なドロップキックをブチかます黒兎!!

基本的に避けれる戦闘は全力で避けるタイプの彼女だが、有事の際はコレこのとおり。

 

「ぐべあァァ!!」

 

豪快に吹き飛ぶ男・・・その物音に足音が聞こえる!

教師か用務員が来てくれた!・・・と一瞬期待したがそれは秒で裏切られた、男の仲間たちである。

 

「おいおい、なんの騒ぎだよ」

「こ、このガキがいきなり!!」

「ええwお前子供にボコされたのウケるww」

「ガキじゃねえ!式姫だ!」

 

式姫をいう言葉に一瞬怯む男たち・・・しかし、三対一という余裕からかすぐに好戦的な笑みを浮かべる。

 

「俺知ってるぜーこの子のタイプ、基本亜種てのだろ?式姫でも雑魚よザコw」

「おう、ボコッて分からせてやろうぜ!!」

「れっぇつ!拉致監禁拘束飼育調教FUUU!!」

 

ジリジリと間合いを詰める男たち・・・・そして、その戦いは一瞬で決着がついた。

10秒ほどかあるいは5秒、その僅かな間にボコボコにされ横たわる男三人。

「フンッ」と鼻息を漏らし、体の埃を払う黒兎。

 

「うん、最初からこうしておけば良かったかな・・・まあ、君たちは先生に突き出すから」

 

ここで、黒兎に隙が出来ていた・・・人間相手という事もあり手加減しすぎたのもある。

三人はいきなり立ち上がり・・・起きざまに何かを拾い上げ猛ダッシュで逃げていく!

 

「捕まるかよ!バーカ!」

「てめ!こら!覚えとけよ!」

「あ、これもらってくねーーー肝試しの記念ww」

 

見ると、手には図書室の鍵。

 

「そ、それ・・・返せ・・・」

 

男達は全力で逃げるが、あっという間に追いつかれる・・そして鍵を持つ男にタックルを仕掛け・・・

 

                 ガシャン!!!

 

 

 

その手からすっぽ抜けた鍵は、豪快に窓ガラスを割り校舎の外へ・・・・トポンという音がかすかに聞こえた。

 

「あ・・・あう・・・・・」

 

苦虫を噛み潰したような顔で、割れた窓と完全に眼を回した男を交互に眺める・・他の二人は逃げ去ったようだ。

 

「これはもう、正直に言うしかないかなァ・・・・」

 

がっくり項垂れつつ、黒兎は男の襟首を掴み宿直室に向かった。

 

 

 

 

 

宿直室までたどり着いた黒兎、しかし当直の教師の姿は見えない・・・と、デスクに書置きがあった。

 

「黒兎ちゃんへ。少し用事があるので用務員さんと一緒に第一棟に向かいます、鍵はいつものホルダーに戻しておくこと、○○」

 

なるほど、あれだけ騒いでも誰も見回りに来ないわけだ、しかし何かあったんだろうか。

一先ず、男を拘束する物が無いか探す黒兎・・・そのまま、警察を呼んでしまえば一件落着だったのだが。

ふと此処で、欲が出る。

 

(騒ぎになれば、もう遅くまで図書室を使えなくなるかもしれない・・というか、不審者侵入とか確実にそうなる)

 

・・・・・。

 

・・・・。

 

おもむろに、男に活を入れ意識を戻す黒兎。

 

「も、もう良いから、か、帰りなよ・・・でも次は、無いよ?」

 

シッシッと追い払うしぐさをする黒兎。

 

「あ・・あざーーーっす!このご恩は忘れないっす!」

 

調子の良い事を言い、逃げさる男。

後は、鍵を見つけ出し・・割れた窓の案件は、夕刻騒いでたパリピに犠牲になってもらおう。

そう策を練りながら黒兎は、鍵を探しに校舎の外の探索に向かった。

 

 

フラッシュライトを片手に歩く黒兎・・・それを校内から見下ろす影があった。

先ほどの男たちではない、明らかに異形のシルエットには黒紫のまなこがどんよりを浮かんでいた。

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