黒い兎   作:森の狐

16 / 18
第十六話

「ぬーーはははは!!!」

大降りに振り下ろされたアシモノヌシの前足が、先ほどまで天邪鬼が居た場所を粉砕する。

床に転がりながら、辛うじてそれを避ける天邪鬼。

思わず反撃しそうになるが腕の付け根がズキリと痛む、天邪鬼の得物は特大級の鈍器だ・・現状でとても振える代物ではない。

 

「・・くそっ!」

あれは運が悪かった、上階で聞こえてきた明らかな戦闘音に気を取られアシモノヌシとエンゲージしてしまう。

最初は、上階から降りてきたアシモノヌシに気が付かず、そのままスルーして通り過ぎた。

そして肩をチョイチョイ突かれた、何の気なしにそれを払いのける。

今度は後頭部を小突かれた、なんだよ?と振り返るとヤツがいる・・ミミズがのたくった様な目で満面に浮かべた邪悪なエビス顔。

そこから決死の追いかけっこが始まった。

 

廊下の窓に無数のアシモノヌシの顔が映りこんだかと思うと伸び上がり喰らい付いてくる!

全力で駆け込み顔面地帯を駆け抜ける!・・ズキリ!・・足が痛む、どうも走りぱなしは無理だ。

 

階段を駆け上がろうとすると、階段全域に生えてくる小型化した無数の黒い腕・・触手のように蠢く。

此方には向かって来ず非力そうだが、これを掻き分けながら進むのは色んな意味で憚られる・・迂回。

 

廊下曲がった奥に佇むアシモノヌシ・・廊下一杯に広がる黒紫色のブレス!

全力で引き返す!ふと見ると、触手腕が消えている・・・痛み出す足を叱咤しながら駆け上がる。

瞬間、ブレスが廊下全域を埋め尽くす・・・酸味の強い焦げたような臭い、明らかに超濃密度の瘴気だ。

 

そして場面は先ほどの光景に戻る。

立てないほどの足の痛みに顔をしかめながら、尻餅状態で後ずさりする天邪鬼。

それを舌舐め釣りをしながらにじり寄るアシモノヌシ。

「ぬは、そろそろ仕舞いか?・・なぁに恐れる事はない、すぐには殺さぬよぉ?

た~~~っぷり、犯してから食うやろうぞぉ?具体的に言うとねー」

「こ・・の!変態!!」

 

聞くに堪えぬおぞましい妄想を垂れ流すアシモノヌシに、背筋に冷たいものが伝うのを感じ取りつつ

天邪鬼は、先ほどの一撃で飛んできた廊下の破片を投げつける。

 

・・コロン・・・

 

肩に力が入らないその一投は、アシモノヌシに届きすらせずその足元に転がる。

ヌハハ!愉快そうにその瓦礫を踏み潰すアシモノヌシ!

 

・・・ゴッ・・・・ゴゴゴゴ・・・・ミジィ!!!

 

超重量の前足で大亀裂の入った廊下に、その踏み付けは致命傷となった、陥没する廊下に飲み込まれるように下階へ落下していくアシモノヌシ!

「ぬあーーーーーーーーーーーーーーー!ちょっと待ってちょっと待って、我そういうの聞いてない!」

 

散歩と騙され獣医に連れて行かれた犬のような顔で・・・闇の中に消えていった。

「・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・あほだ・・・・・・・」

 

あちらとこちらを分断するように崩壊した廊下の奥を覗きこみ、天邪鬼は呆れた声を出す。

再度廊下が崩落する音が下から聞こえた。

先ほどの瘴気ブレスで下階もボロボロになっていたのか、土煙と登ってくる残留瘴気に思わず顔を上げる。

「ともかく、時間は稼げる・・・これ下階どうなってるかな、他の幸せの部屋とやら崩壊してないだろうな・・」

 

天邪鬼は壁を支えに立ち上がり、軽くびっこを引きながら探索を再会した。

しばらく進む・・・先ずは、一番手近な教室「2-C」

「はは・・・当時のアタシの教室だ・・・くろうさぎと会わなかったら、

あの時勇気を出して声を掛けなかったら、きっとみーちゃん以外友達出来ないまま渡米してたろうな・・」

 

少し、干渉に浸りながら天邪鬼は室内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二対の黒い影が図書室中を飛びまわる!

影からは霊気を纏い輝く矢が、邪気を纏い澱む矢が縦横無尽に飛び交う!

地を駆け、浮いた書物を遮蔽物に時折足場に、それは宛ら忍者同士の戦いにも見えてくる。

黒兎の一撃はクロウサギに当たらない、身かわしの術の回避性能の賜物だ。

クロウサギの一撃も黒兎に当たらない、まるで彼女の一撃が其処に来るのを知っているように。

 

「・・・何故だ・・・・何故、あたらない?」

繰り返される千日手に、苛立ちを隠そうともせず呻くクロウサギ。

タッと本の浮島の上に着地して、それを見下ろす黒兎。

 

「何故か?・・・分らない?」

「ああ、分らないね・・・お前は古の技を知らない、かぶきりひめの分身を使う訳でもない。

弓の錬度も、身体能力も、動体視力だってボクのが上だ・・なのに、なぜ。」

浮島の黒兎目掛けて5本纏めて矢を放つクロウサギ・・・が、軽くそれをよけ着地。

 

「それは、ね・・・・僕が黒兎だから、そして君もクロウサギだから。

僕らは、色こそ違えど因幡の末(すえ)だ・・君は僕で僕は君だ、くろうさぎだってそうだ。

ある程度練磨したものがさ、自分の動きを、読めないわけないじゃないか。」

 

その回答に一瞬きょとんとした顔になり、顔上半分を掌で多い愉快そうに「は、は、は!」と笑う。

「ああ、そうか・・・・ああ・・そうか・・・確かにそうだ、ははは!

そうか・・・じゃあ、クロウサギとしての動きや技は無意味って事か・・・ははは!」

 

「じゃあ」クロウサギは構え方を換える、その姿は宛ら雷霆を撃ち込むが如し!

「これは、どう?本来ボクらが持ち得ない技・・・

****がさ、態々ボク何かに継承させてくれた技・・・神威種の式符まで使って

・・・****・・?もう少しで・・・こいつころせば、わかるかな?」

 

さらに弓を引き絞る!腕全身が血走りその細い腕に似合わぬ流脈が浮き上がる、それと同時に詠唱開始!

「かけまくもかしこみ、いざなみのおおかみ、よりいでし、うじよ、たかれ、こころ、なれ、みぎうでに、さくみかづち、ひだりうでに、わかみかづち、よみの、いかづちがみを、もて、こなたのやに、らいでん、ともすべし・・・雷光弓!!」

 

そして、クロウサギの弓から漆黒の雷が一直線に解き放たれる!

その反動で、たたらを踏みながら後ずさるクロウサギ!会心の笑み・・・がその顔は瞬時に凍りつく!

 

「そう、当たり、他の業を使う・・・でも、僕以上に使いこなせてないね。

死ぬ気で、研鑽と練磨を積んでたら、祝詞なんて要らないよ・・」

すでに黒兎はそこには居ない!着弾した黒い爆雷が図書室を半分吹き飛ばす!

黒兎は・・・真上だ。

 

「身の丈に、合わない技を見につけたのは・・お前だけじゃない。」

黒兎の黒い瞳はどこへやら、そこに輝くのは何者かの加護を受けたかのような、叡智の顕現が如き翠い双眸。

慌てふためき、破れかぶれの乱射を撒き散らすクロウサギ・・・が、未来予知に近い速度で動き全弾回避!

 

「思兼様に師事してて良かったよ、極弓・機略再興」

流石に黒兎も神の業は使いこなせない。

反動はある、しかしその反動は単身である事で有利に働く!

 

「ぐう!?動きが・・・・・!!?」

その反動は、自分以外の全てに状態異常と速度低下を撒き散らす。

・・・が、くろうさぎもハバキリもリタイアだ!

 

「加えて・・大盤振る舞い・・・・だ!!通し矢!!」

「そんなもの!当たりはしない・・・・・ガッ・・ぁ・・・!!」

確かに直撃は避けた、しかし拡散する真空刃がクロウサギを切り刻む!小柄な彼女にはほぼ致命傷だ!

 

「やっぱりそうか・・・お前、その身かわしの術、範囲攻撃には効かないだろ。

お前本来の動きじゃ、さらに足が鈍っていたら・・・避けきれないよ。」

立て続けの神業の行使に、流石に足を震わせながらようやく立ち言い放つ黒兎。

 

「あ・・・ああ・・・痛い・・ボクに傷が・・・痛い・・痛い痛い痛い痛い!・・・ああああ!!!」

必要以上に苦痛にのた打ち回るクロウサギ。

さもありなん、身かわしに頼りきりそれでも被弾する場合は生徒達の亡霊を盾にして来たのだ。

熟練の兵も何十年と痛みを忘れた状況では、痛みへの耐性も忍耐力も低下する。

 

「・・テンプレ最強装備はね、その牙城が崩れたときほど、反動、大きいんだよ・・・」

ネットゲームで黒兎が何度も味わったナーフと言う名の牙城崩壊、自らに言い聞かせるように言う。

 

「痛い・・いた・・・いたいあたいあいたいITEAIIIIIIAAAAAAAAA・・・・・あ・・・・・?」

「・・・え?なん、で・・・?」

 

ズタズタに切り裂かれたクロウサギの全身の傷が徐々に塞がって行く、その粘土を捏ね繰り回すような再生現象には見覚えがある。

 

「・・・・アシモノヌシ・・・か・・・」

「は、はは・・・・アイツ、こんな加護をボクに・・・はは!言ってくれれば良かったのに・・ははは!!」

ギロリ、と再度クロウサギの目に闘志が宿る。

 

「はは、痛いけど・・・死なないなら、負けない・・・ははははは!!!ああ、いいよ!何度でも撃ってこいよ!!はははっは!!!!」

「くそっ・・・!あいつを先に討つべきだったか・・・・!!」

 

狂的な哄笑を上げるクロウサギと対照的に苦渋に唇をかみ締める黒兎、何度でもというが神技の連発でもはや霊力も体力も限界に近い、動きが遅れる。

明らかに弱体化したのを確認したクロウサギは、引きつった笑みを湛えたまま矢を番える。

 

「じゃあね、黒兎・・・さっ、さっきのさ、僕は君で君は僕っての、少し、嬉しかったよ・・」

 

そして・・・ドゴッ!!

 

 

 

 

 

 

重く鈍い、骨肉を貫く音と共に・・・クロウサギの胸から日本刀の刃が生えた。

信じられない顔をして、後ろを振り返るクロウサギ。

そこには顔を自らのもので真っ赤に染上げ、定まらない瞳孔をふら付かせながらもハバキリをドスのように構え、突撃したくろうさぎの姿があった。

 

「な・・・」

ほとんど聞き取れない小さな擦れた声で、くろうさぎは言う。

「なめ、るな・・・・・ぼくだって、式姫だ!戦えないからって、舐めるなくそおおおおお!!!!」

擦れた声は徐々に高くなり、最後は大音声!その声量に一瞬ビクリとなる黒兎。

 

「い・・いだ・・・いだい!ぐぞ!この、雑魚がぁ!こんなので・・くそ!アシモノヌシぃ・・どうせなら、痛覚も消しておいてよ・・・ぐふっ・・・うぐ・・・で、でもこんなのすぐに!」

 

再生は、始まらない。

 

「なん、で・・・なんで・・・なんでなんで!なんでだよぉ!!」

『それはそうよ』

自らに食い込んだ刃・・・ハバキリからの声が聞こえる。

『私は、スサノオ神が振るいし破邪の太刀、まがつ神の与えた邪悪な力を阻害する事なんて容易い。

・・本来なら、一刀の元に祓うのだけどね。』

「ちくしょおおおおお!!!あああああ!!!」

 

必死でハバキリを引き抜こうとするクロウサギ、しかしくろうさぎがそれをさせない!

加えて、剣の素人が素手で刃を握ったため掌が裂かれ、さらに苦悶の声を上げる。

どれくらい攻防が続いただろう・・・ふとクロウサギがその動きを止める。

 

「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・思い、だしたぁ・・・・・・」

 

次の瞬間、全教室全施設全廊下・・・全てが真昼のように輝きだす。

クロウサギの手がだらりと落ち、膝から崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

くろうさぎと共に過した、短いが宝石のように輝くあの日。

随分と昔のことで、少々色あせていた思い出もあったが今全てを鮮烈に思い出していた。

 

ふう、とため息を付き静かに目を開ける、そこには先ほどと打って変って真昼のような明るさになった教室があった・・微かにだが、談笑やチャイムの音らしきものも聞こえる。

 

「ああ、これか・・・確かに、幸せの部屋だな」

しかし、ここで思い出に浸っている暇はない、くろうさぎ達と合流を果たすべく少々後ろ髪を引かれながら教室を後にして、驚いた目で周囲をみやる。

 

重く曇った薄暗さは完全に消え去っていた。

廊下中が真昼のように輝き・・・破壊された部分も元通りだ、微かにだが活気のようなものも感じる。

「ああ、ああ・・そうだ・・こんな感じだったよな・・この学校。」

 

思わず伸びをして、痛みに顔をしかめる天邪鬼。

何処となく軽くなった足取りで歩を進め・・・・

 

「ハーイ!女児ぃ~~~~」

全部を台無しにするかのように立ちはだかるアシモノヌシ!

 

「誰が女児だ誰が」

 

「ぬは!オノゴロ島発生以前生まれの我から見れば、式姫なぞ大半ロリよ!

ぬはは、ついに、ついに!我が事成れり!!この書物は浄化された、クロウサギも浄化されるだろう!・・・・・そう、心も式姫に戻る」

 

「は・・・はは、なんだよハッピーエンドじゃないか、いや心が式姫か・・・それは、つまり・・・」

 

「そうとも、式姫として「己が所業を認識する」・・それは、とてもとても辛いだろうなあ?

ああ、軽くネタ晴らししてやろう・・オンミョジの仕掛けた、誰かが取り込まれた時用のセーフティな?

お前らが幸せの部屋とか言うやつな、元々シェルター的なヤツなんだが、我がちょいと弄くってたのよ。

つまり、あやつ・・クロウサギの弱体化と心の闇の消失という効果の追加。

どうも妙な術を仕掛けられてたが、まあ式姫としての心を取り戻せればどうでも良い。

さて浄化された心とそれと反比例する罪過・・どうなる?」

 

「・・・壊れる、ああ壊れるよ・・・ズッタズタにな!アメリカに居た頃な、そういうのが居たんだ。

あっちの精霊の式姫でな、今頃ネイティブアメリカンの恨みつらみを持ち出して大暴れした挙句、

正気に戻って、それでも辞めれなくて・・・・アタシが討った。」

 

「んんーー!ご愁傷様!!まあ、大体そんな感じだ!

嫌になるだろうなあ、何もかも自分自身もが・・・苦しいだろうなあ、投げ出したいだろうなあ?

も う き え て し ま い た く な る だ ろ な。」

 

「それで、遺棄者域に誘うってか?ハバキリ先生言ってたぞ・・・あそこ、自我がなくなるんだってな?

ああ、確かにそう成り果てたヤツには都合が良い場所だな。」

 

「その通り!!我はあやつを救いたいだけなのだ・・・少し苦しむが、それもこちらに来ればじきわすれる。

・・・まあ、何が言いたいかと言うと、だ・・・おめでとう!式姫たちよ!君達の冒険は終った!

後は我に任せて、急ぎ外に戻るが良い!」

 

オーバーアクションでそう告げるアシモノヌシにコクリと頷く天邪鬼。

 

「分った、帰らん。」

 

そう言い切る天邪鬼に小首をかしげるアシモノヌシ。

 

「何故に?」

 

「理由はみっつ。

私は天邪鬼だぞ?やれと言われて素直に聞くか!バーカバーカ!!

それに、アイツが還るべき場所は、遺棄者域じゃない冥府だ。

あいつも式姫の端くれなら、やらかした罪過は意地でも償わせてやる!

最後に・・・」

 

そこで言葉を切り、アシモノヌシを睨み付けながら言い放つ。

「お前が心底気にいらねえ!!!」

「そうかそうか!それも式姫のサガ・・・か、ならば挑むが良い!その満身創痍の体たらくでなぁ!!」

 

しかし先ほど逃げ回っていた悲壮な表情ではなく、自信満々なむしろ笑みすら浮かべる天邪鬼。

流石に不審に思い、様子を伺う・・・が、それが判断ミスだった、その場で一撃を加えていれば天邪鬼は倒されていただろう。

 

『待たせた、支援物資を送る・・・はは!なんだなんだ、ある意味ジャストタイミングじゃないか!』

 

「ああ、待ったぜ!・・てかさ、マイク切ってなかったから声筒抜け!タイミング見計らってたろう?」

 

『う・・・おあ・・・・・う、うん・・・・』

 

微妙に締まらないとらいの声が、脳裏に響き・・・天邪鬼の手には一つの小樽があった。

『神酒の酒樽だ、今となっては博物館行きの貴重品だぞ!!

しかしアシモノヌシを止めれるなら安いもの!』

 

素早く封を開け、中身を一気に干す天邪鬼!みーちゃんにもぶっかける!

阻止しようと巨腕を繰り出す!・・・・が、加護を意味する凡字が浮かび、その一撃は阻まれる。

 

「おのれ、このやり口・・・とらいか、とらいなんだな!?またしてもかぁ!!!」

 

「何か因縁らしいな?・・・・さあ、クロウサギみたいにちょこまか避けるヤツは苦手だけど・・お前みたいにしぶとい鈍重な的なら、あたしら斧姫の出番だ」

 

その鈍器なのか斧なのか良く分らない奇妙な得物を振り上げ・・・一気に叩き下ろす!!

アシモノヌシは、避けない・・・いや通路一杯の巨体では避けようがない、脳天に直撃をくらい顎を強かに廊下に打ちつける!

 

「ぬはは!そんな一撃、すぐに・・・・・・おや?おやおやおや・・?」

 

「生斬(いくすだち)・・・いくすだまの動きを阻害して再生を封じる技だ、お前みたいにリジェネ頼りのヤツには、効果絶大さ!」

 

ぐぬう!と悔しげに牙を軋ませるアシモノヌシ、お返しとばかりに吹き散らかす正気ブレス!

しかしそれは、横スイングで振り回された得物の風圧で圧し帰され自分が喰らう羽目になる!

 

「ぬあああ!!地の利が悪いわ!!・・・ここは、一旦引き下がって・・・」

 

後退しようとするアシモノヌシ・・・が、その動きは異様な圧に包まれた天邪鬼に気圧され、止まる。

「クロウサギの時にも使いたかったんだけどさ、あいつ早過ぎて集中してる間が無かったんだよな・・・でも、お前の動きなら!」

 

静かにアシモノヌシを見据え、呼気を整え・・厳かに言い放つ。

「わ れ は さ か し ま が み な る ぞ」

 

場の空気が変わった。

 

「おい、おいおいおいおいおい!!!権能だとぉ!!!

なんでじゃ!!真躯ならともかく式姫たる分霊ごときがぁ!?」

 

その問いに天邪鬼は答えない、否、答えることが出来ない・・何故ならば。

「天に逆する我が言霊は、万物をさかしまに流転させる」

 

天邪鬼が一歩踏み出す。

「我が一撃に破邪の力は無く、眼前のまがつ神を討てぬ」

振り下ろされた一撃は、そよ風のようにか弱く・・アシモノヌシを軽く小突く程度にとどまる。

・・・が、その一撃で体の三分の一が崩壊するアシモノヌシ!そして再生は始まらない。

 

「がああああああああああああああ!!!おのれ、おのれおのれ!!

こうなればなりふり構わぬ!もろともやる!もはや此度の式姫は諦めるしか!」

憎悪に燃える目で天邪鬼を睨み付け、アシモノヌシも権能を発動させる!

遺棄神ではない、自分発生由来の権能。

 

「此れにあるは、神話の再現、国産神の大やらかし、生まれ出るは骨無き蛭子、掛ける言葉は其は悪しき。悪しよ、あしものよ、はたてに流れ逝け、とわに、とわに・・・『遺棄されし不具の神』!!」

 

そして、アシモノヌシ諸共周囲がグニャリと歪み・・一点に収束し消え去ろうとして・・・唐突に元に戻る。

 

「我は神の権能に抗するすべ持たず、我もこの書の世界も、目前のまがつ神も無に消え去る。」

かつて恵比寿以外の七福神を宇宙にまで廃棄したアシモノヌシの言霊。

しかし同時に放たれたさかしまの言霊、それは権能すらも打ち消してしまう。

 

「うそ・・・だろ・・・・」

ミミズがのたくったような目を最大まで広げる、その瞳孔に映るのは振り下ろされる破邪の一撃。

 

そして、今度こそアシモノヌシの全身は完全に叩き潰された。

「おお・・・おお・・・・無念・・・むねん・・・もう少しで、久々に式姫を招けたものを・・・

しかし、まさか、そうか・・・お前!!京か!!!なんで衣装変えねえんだよ馬鹿野朗・・・」

 

それがアシモノヌシの最後の言葉だった。

もはや血肉も残さず綺麗に消滅していくアシモノヌシを渾身のざまぁ顔で見送る天邪鬼。

「衣装なんて、アタシの勝手だろ!バーカバーカ!!・・・さて、合流しないとな・・・くろうさぎ達にも飲ませてやらないと。」

 

そういい、今度は全力で駆け出していく!

アシモノヌシが消えたことで、周囲は再度明るい雰囲気に戻っていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。