黒い兎   作:森の狐

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第十七話

膝から崩れ落ちるクロウサギ。

刀身に彼女の全体重が掛かり、くろうさぎは思わずたたらを踏む・・しかし刃は頑として引き抜かない。

自らの自重で刀身がクロウサギを引き裂いていく。

 

『もう、大丈夫よ・・まがつ神の邪悪な力は感じない、おそらく退去したわね・・』

 

ハバキリに諭されようやく刀を引き抜く。

もはや精根尽きたのかそのまま尻餅を付き、放心した顔で微動だにしないクロウサギを見つめる。

固く握り締めたハバキリは離さない、いや離せない・・緊張で指がそのまま硬直しているのだ。

肩で息をしながら黒兎も近寄ってくる。

至近まで近づき片膝を付き、両膝を付き項垂れるクロウサギの顔を覗き込む。

 

「もう、殺意も感じない・・・それで、なくても多分、もう戦えない、動けないはずだ・・そうでしょ?ハバキリ先生」

 

『ええ、式符は貫いたわ。それに崩れ落ちた時に完全に切り裂かれた。

・・・式符が破損して、うつしよに居られる式姫は居ない』

 

ふと、クロウサギが何事か呟く声が聞こえる。

それは鋭敏な聴覚を持つ、黒兎とくろうさぎにしか聞こえない小さなもので。

 

「ああ・・ああ・・・そうだ、ボクはとんでもない事を・・・あの時、友達が出来なくて、どうして良いか分からなくなって、そしてら水見先生が相談に乗ってくれて。

先生の言う友達を作る方法は、明らかに異常で・・・でも、それしかもう方法はないって思って、いや、違う・・こんなの言い訳だ。

ボクは、ひどい事をたくさんした、追い出されて当然だ、でも逆恨みして、たくさん、殺して。」

 

ゆっくりと、クロウサギの顔が上がる。

驚いたのは黒兎とハバキリだ、式符が完全に破断された式姫は最早そこに映る幻像程度に過ぎない。

指一本動かすどころか喋るなどとんでもない。

 

「ごめん、なさい・・・ボク、ボクは・・君達に許されない、事、を・・・・」

 

それが限界だった、グラリ・・その身が崩れる。

跪き頭を床に擦り付ける様なその姿は、まるで詫びを入れているように見え。

 

「ごしゅじん、さま・・ごめんな、さい・・・」

 

・・と、急速にクロウサギから色が失われ灰色に成り、一瞬ノイズのような物が走ったかと思うと・・

その姿は、いやに呆気なく消え去った。

あとに残るのは、8割方裂かれた式符のみ。

 

「・・・・。」「・・・・・。」『・・・・。』

 

三者三様に思う所は色々ある、しかしどうにも言葉にならない。

 

ガラリ!!

乱暴に扉が開かれる。

「おい!無事か!?・・・ん?アイツは、クロウサギは、どうした?」

 

天邪鬼は、周囲を警戒しながら近づく。

「あいつは、かくりよに戻ったよ・・・どうも裏にアシモノヌシ以外の奴が居るみたいだけど、

これだけの、事をしたんだ、冥府の裁きは免れないよ」

 

「そうか・・・ああ、そうか・・じゃあきっちりしでかした事の罪は償ってもらろうぜ」

 

「・・・う・・・うん・・・でも、まあ、ぼくはもう、良いかな・・・うん、もう、良い。」

 

「僕自身は、普通に撃退してきたからね、悔悟したんなら、別に・・・」

 

「そうか、まあ細かい裁定は閻魔かヤマ天が下すだろうさ。

・・あ、そうそうコレ呑んでおきなよ、凄いぞ!なんか!」

 

『てぇ!!?それ、神酒の酒樽じゃないのぉ!!??・・いや待って、支援物資てそれ!?

お、各国の陰陽庁にシリアルナンバー付きで保管されてて、世界に12個しか現存してない奴よ!?」

 

「いや、そんなナンバー無かったぞ?とらいの個人所有なんじゃない?」

 

『あ、後で、とらいに届け出るように頼もうかしら・・・』

 

「た、ぶん・・・・聞かないんじゃない、かな

・・・あの人、多分だけど、うん・・いや確実に、まつろわぬ者でしょ・・・」

 

『いや、うん・・それは、知ってる・・天高原界隈じゃ、ちょっと有名だから・・

もしかして、黄金式盤とか指定召喚符とかも所持してるのかしら・・・・』

 

「ま、良いじゃないか、まつろわぬ者由来ならアタシもだし・・大した悪さはしないんだろ?

とりあえず、こんな所でダベってても仕方ないし・・・」

 

「うん、そうだね・・・・還ろう!とらいさん、もう、良いよ!」

 

裂けたクロウサギの式符を拾い上げ、黒兎が呼びかける。

瞬間、視界が真っ白になり・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「よお、まがつ神アシモノヌシの撃退と闇式姫の討伐・・ご苦労様。」

図書室の陣の中に全員居た。

指を絡めあったまま横たわっていた黒兎と天邪鬼が全力で赤面しながら慌てて離れる。

窓から差し込む光に皆がその方向を見る、夜明けだ。

まるで、戦中から続いていた悪夢を消し去るように、真冬にしては鮮烈な朝日が昇っていく。

 

「さて、私は帰るアシモノヌシを阻止できた、私はこれ以上関与する気はない。

・・・お前らは・・・まあ、追うなら好きにしろ」

 

「し、知ってる・・・んだ?」

 

「なんとなくな?ここで儀式を始めたその時から、ず~~~~っと気配を感じてたよ。

観察してたみたいだな、お前らを帰還させる瞬間気配は消え去ったがな。

アシモノヌシ独特の洗ってない犬みたいなくっさい気配じゃなかったから、アイツじゃない。

それに大体ああいうのは、黒幕だって相場が決まってるんだ。」

 

「そう・・・・・。」

 

『どうするの?・・私は、まあこの状態だし、うつし身を再構築するまでどうにも出来ないわ。

正直、これ以上貴女達に危険な目にあって欲しく居ない、全部報告して後は陰陽師に任せない?』

 

「ま、妥当な線だな。」

 

「ぼ、ぼくも・・少し、休みたい、かな・・

それに、何十年も時代に、置いてかれたから、その辺も考えないと・・」

 

「ん~・・・そうか、皆がそう言うなら・・・」

 

『黒兎ちゃん?本当に、これでお終い・・君達の冒険は終った!だからね?」

 

「うん、分ってる・・・よ?」

 

『ふ・・・・不安ね・・・・』

 

微妙にぐだついてきた会話を切るように咳払いをするとらい。

「まあ、これ以上此処にいると私は当然ながらお前らも色々メンドクサイ事になるぞ?さあ!解散!帰る帰る!」

儀式道具一式を片付け終えたとらいは、そう言い放つと真っ先に何処かへ消えていく。

 

『とらいの言うとおりね・・・って!陰陽遺物の譲渡の相談忘れてたぁ!・・ま、まあ・・それは追々・・』

そして、刀身から咳払いの様な音が聞こえ。

 

『じゃあ、皆帰りましょう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の真夜中。

「そいつ」は鼻歌交じりに書をめくる。

此度は実に、文字通り実りのある収穫だった・・よもやこれほど時を経て、三度目があるとは。

当時、アシモノヌシが関わってきた時はどうなるかと思ったが、アレはアレで実に良いスパイスになってくれた。

しかし今回で面倒なのに認識されてしまった、それにこうも痕跡を残してしまっては陰陽師も動くだろう。

そこだけが悔やまれるが、ほとぼりが冷めるまで静かにしているしかあるまい。

 

「さて。」

大好物を明日に取って置くかのように、名残惜しそうに書をパタリと閉じ「ソイツ」は立ち上がり・・振り返る。

 

「君も物好きだね、私はこれ以上何かをするつもりは無い。

少なくとも、君の召喚期間が終る程度の時間はね、そのまま「めでたしめでたし」という訳には行かないかな?」

その視線の先には黒兎。

黒いレザージャケットに同じく皮製のビスチェ、ジーンズのタイトミニに軍用ブーツと随分現代風の装いだ。

彼女は、ギイイィとあの独特な黒兎スマイルを浮かべヒョイと肩をすくめ。

 

「ラスボスを倒した後にはね、EXボス討伐があるんだ、よ。

・・それに、本好きとしては、事の真相、気になるしね」

 

「そうかね?ゲーム脳も程ほどにしないと行けないよ。

真相、真相ねえ・・・そうだね、種明かしと行くのも悪くないかな?じゃあ質問に答えようじゃないか。」

 

「じゃ、じゃあ・・お前の目的は何なの?」

 

「一言で言うなら・・そうだなあ・・・「自炊」かな?

私は、古来より・・そう、この世界に文字というモノが生まれて以来、それを食べて存在していた。

文字はやがて物語を紡ぐようになった、それは私のような存在にとって素晴らしく美味なものだった。

色々な物語を喰らったよ、数多の文豪の紡ぐ物語、数多の学者が綴る理論。

それだけじゃない、数多の人間が紡ぐ文、日記、そして稚拙ながらも彼らなりに紡ぎだす物語。

ああ、ああ、素晴らしい物だ!・・・やがて、私もそれを生み出したくなった。

自らが産み出した物語を、自らで食う!それは、他が紡いだ物を食うのとはまた違う、至福なんだよ」

 

「そう・・・文字を・・・僕達の物語は美味しかったかい?

後さ、クロウサギの心を歪めたの?・・・それとも元から「ああいうの」だったの?

 

「ああ!もちろんだとも!クロウサギは歪みと復讐と破滅の顛末を、くろうさぎは終わりの無い逃亡劇を。

・・・そして君は、それらを収束へと導く終わりの物語を!ブラボー!君達は最高の役者だよ!

クロウサギ?いやいや!元は君達の中でも有数の引っ込み思案なだけで、実に良い子だったよ?」

 

クルリ!と背を向け踵をカチンを打ち鳴らす、芝居がかった仕草で両手を肩まで掲げ、顔だけ黒兎の方を向く。

 

「でもね?物語に悪役は欠かせないだろう?妙な気を起こして、少し周囲に引かれて。

斜め上に走り出した彼女は「うってつけ」だったのさ・・だから、「彼女の中の物語を少し弄くった」」

 

「・・・・・・・そう・・・・・・・じゃあ、最後に。

お前は、何者だ?」

 

「私が何者か、か・・・そうだね・・・まあ良いだろう、教えてあげよう」

 

そいつの体が、バラバラと崩れ無数の影となり周囲に散らばり・・・遊泳を始める。

黒い黒い無数の小魚、それらは集まり巨大な魚のような魚群となる。

そして一匹だけ目のような部分に真っ赤な小魚。

 

「わたしは、ただの、紙魚だ・・・・文字と共に産まれ、文字と共に数多の月日を経た千年紙魚(せんねんしぎょ)、それが私だ。」

 

「ああ・・・水見・・みずみ・・・すいみ・・・スイミー・・・その姿も物語からだね?」

 

「まあね?以外に便利な上に、結構気にいってるのだよ・・・さあ、質問タイムはこれで終わりかな?

此方からも質問だ・・・本当にやる、のかね?

事の真相は分ったろう?命を無駄にするのは感心しないよ?」

 

「そう、だね・・・・でもやる。

何故かって?・・・お前は、数多の時代を泳いで同じ事を続けるんだろう?何十年も、何百年も・・・僕は本が、物語が好きだ。

だから、こんな、こんな他者を弄ぶ、チラシの落書き以下の駄作を生み出し続けるお前を許さない。」

 

「はは、なるほど!解釈違いという奴か!それなら・・仕方ないなあ?

宜しい、ならば経た歳月の違いと・・文字に携わってきた者としての格の違いを思い知らせてよう!」

 

大鮫の姿を模した魚群・・・図書室をぐるりと一周し、一気に黒兎に向かい突撃してくる!!

 

「来いよ、クソ作家。

昔ならいざ知らず、お前みたいなクソ野朗は、即座に炎上して焼き魚だ!」

 

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