黒い兎   作:森の狐

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第四話

くろうさぎは目を覚ます、机につっぷして寝ていたようだ。

 

「・・・・・あれ・・・・・・?」

 

周囲を見渡すと何時もの見慣れた教室と自分の席。

さっき妖に追い掛け回された挙句、嬲殺しにあったのは夢だったのだろうか?

体には怪我一つもない、やはり夢か・・なんというか嫌にリアルで、かつおぞましい夢だった。

教室は完全に真っ暗で、校舎側の窓からは廊下のいい加減老朽化した常夜灯が不安定な光を灯している。

 

「寝落ちてたか・・誰も起こしてくれないなんて、今も昔も僕らはぼっちか・・・ま、良いけどね。一人の方が色々動きやすいし」

 

何時ものシニカル気取りの一匹狼ならぬ一匹兎ムーブ。

窓から投げかけられる常夜灯の光を頼りに、教室から出ようと立ち上がり・・・机から「バサリ」と何かが落ちる。

 

江戸時代くらい紐で括りつけて書物の形にした古い装丁の本だ、タイトルは「貴常月村封土記」。

図書室から借りてきたもので、この地域の特に式姫の妖退治の顛末が記されたものだ。

返却は確か今日・・買える前についでに返しておこう。

あと2週間ほどで卒業というのに返却忘れなど格好が付かないし、どうせ何時もの通り鍵は開けっ放しだ。

 

「借りるときも、委員の奴「そんな本知らん見たことない」とか言ってたしね・・・やる気ないよね・・・」

 

常夜灯を頼りに上階の図書室に向かうくろうさぎ。

歴史の棚に本を直し踵を返し、ギョッ!と足を止める・・・図書室の入り口に、誰かが立っている。

上半身はいやに暗がりになっていて分からないが、下半身のシルエットからして女子生徒のようだ。

 

正直、くろうさぎはコミュ障だ・・誰とも知れない他人と深夜に遭遇しただけで下の根が乾き、鼓動が早くなる。

したかどうかも分からないくらいの小さな会釈だけして、素早く通り抜けようとするも扉の前に立ちふさがり動かない。

 

「・・・・あ・・・あ、の・・・ど・・・」

 

「どいて」そう言おうとする言葉に被せる様に、その女子生徒は口を開く。

 

「これた」

 

「・・・・え?・・・・・」

 

「これた、これた、これた、これた、これたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれたこれた」

 

足の付け根だけ動かして歩くような、ぎこちない動きでくろうさぎに近づき始める!

 

「ひ・・・う・・・あ・・・・・うわあああ!?」

 

くろうさぎに近づくことで扉から離れた、その隙を逃がさず脇を掻い潜り文字通り脱兎!!

悲鳴を上げながら、廊下の奥に消えていくくろうさぎを、まるで観察するように黒紫色のまなこで眺め・・おもむろに追跡を始める。

「ジュッ・・ジュッ・・」と水の入り込んだ長靴のような足音を響かせながら。

「ソイツ」が移動するたびに、その周囲の暗闇が深くなっていく。

 

「パリンッ!」その背後で、何かが割れる音がした。

 

 

 

 

 

「バンッ!!」

勢いよく、女子更衣室から飛び出し矢を番え周囲を警戒する黒兎、先ほどまで聞こえた音はもはや聞こえず、静寂が逆にいやに耳に響く。

 

「・・逃げた・・・?いや・・・」

 

さっきまでの、気弱なコミュ障顔がどこへやら。

まるでヴァーパルバニーですと言わんばかりの鋭い眼光で、視線を右に左に。

 

「そこだね」

 

トンッとステップ、身を翻しながら自らの背後だった場所に一射!

 

「ギュァ!!!」

 

濁った悲鳴が聞こえ、鉄錆びたような臭いが漂う・・さらに二射、三射!

その度に短い悲鳴を上げる暗闇に潜むナニカ。

そして手早く鞄からフラッシュライトを取り出し、暗闇を照らす。

 

「ぎゃアアアアアアアアアアああああああああああああ!!!!!」

 

先ほどより凄まじい悲鳴が廊下中に響き渡る!

ブワッ!!突如凄まじい突風が黒兎むかって巻き上がる、思わず両腕をクロスし身を守る・・少し圧し戻されるほどの猛風・・・それが収まると・・・。

 

 

「今度は・・・本気で逃げたか・・・・」

 

しばらく周囲を警戒・・何の気配も消えたのを確認すると、ふんっと鼻を鳴らし武装を解除する黒兎。

 

「しかし、幽霊が出るって噂はあったけど・・・・もしかしてアレなのかな?・・・DQN達が連れてきたって可能性は、低い、かな?」

 

正直な所、知性の類はあまり感じられなかった・・・人間の与太者が交渉しようとしても、次の瞬間腹の中だろう、術師なら術で使役する事も考えられたがあの連中がそういう者とは、とても思えなかった。

 

「うーーーん・・・・・帰ろ。」

 

何かもう、色々めんどくさくなってきた黒兎。

細かい顛末は明日報告すればよい、そう結論付けた黒兎は正面玄関を開け帰路に付く。

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃアアアアアアアアアアああああああああああああ!!!!!」

耳朶を打つ絶叫に、くろうさぎは目を覚ます、机につっぷして寝ていたようだ。

 

「・・・・・あれ・・・・・・?」

 

周囲を見渡すと何時もの見慣れた教室と自分の席。

さっき妖に追い掛け回された挙句、嬲殺しにあったのは夢だったのだろうか?

体には怪我一つもない、やはり夢か・・なんというか嫌にリアルで、かつおぞましい夢だった。

教室は完全に真っ暗で、校舎側の窓からは廊下のいい加減老朽化した常夜灯が不安定な光を灯している。

 

・・・・・・・・・・。

 

・・。

 

「いやちがう」

正気と狂気の半ばの様な表情でヨロヨロと立ち上がる、くろうさぎ。

 

「ぼくは・・・ぼ、ぼくは・・・・何回・・・いや何百回・・・これ、繰り返してた・・・?」

 

暗闇の教室の中で呆然を佇むくろうさぎ。

 

「バサリ」机から何かが滑り落ちた。

江戸時代くらい紐で括りつけて書物の形にした古い装丁の本だ、タイトルは「貴常月村封土記」

 

「・・・そういえば、これ・・・図書委員も知らないやつって・・もしかしたら・・?」

 

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