黒い兎   作:森の狐

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第六話

その式姫が召喚されたのは、昭和12年の事だった。

当時は召喚した陰陽師と式姫は共に暮らすのが通例であり、その式姫も陰陽師の元それなりに上手くやっていた。

暫くして大きな戦が起こった、ご他聞に漏れず陰陽師も兵として戦地へ行った。

本来なら、強力な戦力である式姫も同行させられたのだろうが、人の戦に式姫を巻き込みたくなかった陰陽師は、方々伝手を巡りコネを駆使し策を練り・・彼女を置いていく事に成功した。

しかし元々、重度のコミュ障で任務以外では陰陽師の背中に隠れていたほどだ、それがいきなり世間の前面に引きずり出され、式姫は困った。

しかし式姫は一念発起した、『陰陽師が帰ってきたら成長した自分を見せてやろう』

それから、その式姫は積極的に他者を関わりだした・・・少々、いやかなり過剰といえる程に。

 

元々、他者との関わり方や距離感に関するノウハウなど欠片もなかった彼女だ、正直奇行が目立った。

さらにそれを面白がり、コミュニケーションのノウハウと称し有る事無いことを吹き込む者も現れた、そしてそれを真に受けた。

 

彼女は式姫である、その力を恐れ苛められことはしなかったものの周囲から徐々に距離を置かれ始めた。

焦った彼女は、さらに関わりを持とうとし奇行が他者へ迷惑をかけるLVにまで発展した。

もちろん、彼女を諌める者も居た・・・が、一念転じて妄執と成す。もはや彼女の耳には入ってこなかった。

 

その時の彼女は彼のアスモデウスでさえ軽く引く程で、彼女でさえも距離を置くほどの者に一般の人間は耐えれる訳も無く、さらには戦でそんな者を受け入れる余裕もあるわけでなく。

彼女は町を放逐された。

 

式姫が闇に染まる理由のワースト上位に、誰からも必要とされなくなる事というのがある。

本来ならば、式姫は其れを悟れば自らかくりよに戻っていくのだが、中にはうつしよに固執する者も居る。

彼女のように。

平安時代などは、陰陽師の急逝や式姫の放棄によりそういった式姫が闇に染まり、妖と徒党を組む事もあった、所謂野良式姫と当時呼ばれていたものである。

 

今の彼女は、今まさにそうなろうとしていた。

 

・・・・なんでどうしてなにもわるいことしていないのにともだちほしかっただけなのにおいだされたすてられたひつようとされなくなった・・・・・なんでなんでにくいなんでにくいしかえししてやるこうかいさせてやるじごくをみせてやる・・・・

 

 

『おいで・・・オイデ・・・』

 

どこからか誘う声が、彼女の歩を進ませる。

 

『オイデ・・・おいで・・・すてられたもの・・・』

 

たどり着いたのは、山中の広場・・・いや所々に朽ちた社の残骸がある。

はるか昔に朽ち果てて、大半が土に返った場所なのだろう。

 

『来たな・・・キタナ・・・棄てられた者・・』

 

目の前に闇が膨れ上がる、それは雄牛サイズのイヌ科の獣のようだった。

全体的にはどことなく狐しかしブクブク肥え太り、狐にしてはマズルと四肢が太短い、特に顎など肉食恐竜のように発達している・・・そして尾だけは一応狐のそれ、それが三本。

そいつは彼女を目を凝視しながらこう告げる。

 

『わ れ は あ し も の ぬ し な る ぞ』

 

コイツと関わっては行けない。

式姫の本能がそう告げる・・・が、その獣の発した言葉は・・・

 

『我は、棄てられたモノを庇護し、棄てたモノを祟るまがつ神なり』

 

庇護・・ボクを助けてくれる?・・・祟り・・・あいつらに仕返ししてくれる・・?

 

『おいで遺棄者、お前に与えよう。誰もが当然の様に得て、お前だけが得られなかったものを。

即ち平穏な日常を、誰かから必要とされる居場所を・・そして祟ろう、お前をそういう有様にした者を』

 

しばらくジッとその獣を見つめ返していた彼女は、文字通り呪詛が如き声でその獣に言った。

 

ね・・え、そ、の祟り・・・ボク自身がした・・いんだけど・・・力・・・か、かしてくれる・・・?

 

『・・・・・・・・・・・。』

獣は「またか」と言う風に彼女・・・かつてクロウサギだったモノを眉を顰め見据え、こう告げる。

 

『神が人を祟るは権能、お前は式姫ではあるがその権能はない故に罪過となる、式姫ならその意味分かるな?・・・それでも?」

 

ギイイィ・・・そんな音がしそうな勢いで唇をかみ締める、そして・・・・

 

 

それ、でも。

たどたどしく、しかしはっきりと告げた。

 

 

 

 

「んっっぶっ!!!!」

妙な奇声を上げて黒兎は目を覚ます、あんな事があった所為かなんだか酷い夢を見た。

 

「・・・・・いや・・・いやいやいや・・・何だあの夢・・・妙に生々しいというか、僕が色々拗らせて挙句追い出されるとか、しかもなんだあれ、アシモノヌシィ?それ生神神社(いきがみじんじゃ)の巫女さんが飼ってる狐だよね?」

 

件の神社での神事の後、余興として猿回しならぬ狐回しを披露する、よく訓練された狐だ。

巫女が甘やかしすぎなのかよく肥え、しかも意外と俊敏なのでついたあだ名がサモハン・キン狐ー

頭の中で夢に出てきた禍々しい大型肉食獣と、境内でいつもお腹見せて寝てるメタボ狐がどうにも噛み合わず首をかしげる。

 

・・・と、ふと本棚の一つの本に目が留まる。

「貴常月村封土記」

 

そういや、図書室で借りていた本だ・・・返却期限は一週間ほど過ぎている。

 

「し・・しまった・・・・!僕とした事が・・・!」

 

慌てて、本を鞄に仕舞い込み・・少しでも早く返却しようと、いつもより30分早めに彼女は学校へ駆け出していく。

待ち構えていたのは、昨晩の当直・・・・式姫であり教師でもあるハバキリだ。

本来は、幼稚園もしくは小学校勤務を熱く激しく希望だったが、諸般の事情で中学赴任だ・・その所為か多少スレている。

開口一番。

 

「黒兎ちゃん、昨日なにがあったか・・・教えてくれるわよね?」

 

「ぁ・・あ・・うお・・・は・・・い・・・・」

 

かなり怒っている、さもありなん。

全力で萎縮した黒兎は、そのまま生活指導室まで連行されていった。

 

全ての顛末を黒兎から聴取したハバキリは、深いため息を付き頭を抱えていた。

「・・・・・昨日ね、第一棟で複数の人影が走り回ってるって通報があってね、それで向こうを用務員さんと見に行ってたのよ黒兎ちゃんがまだ帰ってないのは知ってたけど、まあ何時もの事だしと思ってたんだけど・・・まさか、その間にそんな事が」

 

「あ・・・えう・・・・あの・・・DQN、も・・・妖も・・・追い払った・・・から・・・」

 

そんな黒兎の肩に手を置き、首を振るハバキリ。

 

「いいえ、それでも子供を危険な目に合わせたのは私の所為よ、御免なさいねそして無事でよかった」

ソッと抱き締めるハバキリ、何となくほだされた顔になる黒兎。

 

 

クンカクンカクンカクンカ!スーハー!スンスンスン!!

 

嗅いでいる、全力で黒兎の香りを堪能している!この子供好き(意味深)女教師は!

 

「う・・・お・・・・先生っ!!」

 

軽めのアッパーがハバキリに炸裂した。

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