黒い兎   作:森の狐

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第七話

ジュッ・・ジュッ・・

 

タッタッタッタ!

 

ジュッ・・・

 

タッタッ!タンタンタンタン!

 

暗い校舎に逃げる者と追う者の足音だけが響く、心なしか追う速度が遅い気がする・・今まではどれだけ早く走っても、距離を広める事が出来なかった。

それに索敵能力も。

 

急旋回で階段を駆け上がれば一瞬見失う、物陰に隠れれば気づかず素通りしていく。

ただし、少しすれば気が付けば背後に迫る、突如目の前から現れる。

校舎から出れないのも相変らず、一度窓から外に飛び出て見たがやはり気が付けば校内だ。

 

光源は意外にすんなり付ける事ができるが、余計にアイツを呼び寄せる・・そして決まって破壊していった。

 

 

タッタッタッタ・・・!ガラッ!

 

音楽室・・そこに飛び込み物陰に潜む。

くろうさぎの黒を基調とした髪や耳、真面目が服を着て歩いているような校則に則った深い紺色のセーラー、暗い物陰に潜むのにはうってつけだ。

 

ガラガラッ!・・ジュッ・・・ジュッ・・・

 

くろうさぎを探し回る足音。

 

ジュッジュッジュッ・・・

 

少し早足になる。

 

ジュッジュッ・・・ジュッ・・・ジュッ・・・・ガラガラッ

 

一旦諦めたのか、部屋から出て行く物音。

 

「確実に何かが変わってきてる・・・アイツを撒く事も出来るようになったし、追跡が何か・・・執拗じゃない・・・」

 

音を立てないように深呼吸し息を整える、スタミナ管理もばっちりだ。

 

「とにかく、明かり・・・明かりを絶やすなって・・でも、明かりを付けたら捕捉してくるし・・・」

 

どうしたものか、いっそアルコールランプとかで学校を燃やそうか?

何やら、思考が物騒な方向に進みそうになり慌てて首を振り、その考えを打ち消すくろうさぎ。

 

いい加減暗闇に慣れてきた・・というか、彼女も妖獣族の式姫なので平均的よりは多少は夜目が利く。

破壊されそうに無い頑丈な光源はないものか?と音楽室を軽く見回す。

 

と、目に留まったのは一つの額縁。

そこに収められていたのは、おそらく吹奏楽部の生徒と顧問だろう。

各々の楽器を持ち会心の笑みを浮かべてる集合写真だ、写真には「コンクール優勝を記念して」とサインされている。

 

「ああ、そういえばクラスメートに居たなあ、吹奏楽部の子・・フルート役で、かるらさんに頼み込んで凄い特訓してたっけ」

 

自分には完全に縁も縁もない、眩いまでに輝く青春リア充ワールドの光景。

普段なら何となくモヤッ・・とした感情がまろび出てくるのだが、状況でそういった事を思い出すと平和で平凡な幸せに心が安らぐ気がする。

 

「ふふっ、まあこういうのも悪くないのかもね・・ま、まあ!僕はこういう集団で何か達成するとかは今一興味ないけどっ」

 

かやのひめもかくやなツンデレムーブ、多分これを誰かに目撃されていたら、くろうさぎはメンタル死してた事だろう。

 

地獄の渦中で一時の清涼剤。

 

「さて、移動しないと・・・多分、そろそろ見つけてくる」

 

足音を消し静かに速やかに音楽室を出るくろうさぎ、周囲を確認しそのまま廊下を進み・・階段を下りていく。

 

 

・・・・・。

無人と化した音楽室、突如教室に明かりが灯る。

それは、今までのとは違いぼんやりとした蛍光灯のものだけでなく・まるで昼間の教室のような明るさ。

微かだが、誰かが談笑する声、ピアノの音、合唱する歌声、そのようなものが漏れ出し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぬは、ぬははは!!』

校舎のどこかの暗闇で、まるで汚泥の如き声で哄笑が響く。

 

『ぬはは!!おうおう、とうとう一つ見つけられてしまったなあ、あのおんみょじが仕掛けたセーフティ!』

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

微かな舌打ち。

 

『さあ、どうする?そろそろ見逃してあげるかい?元の場所に返してやるかい?』

 

 

いやだ。

彼女はぼくだ、彼女もきっと寂しいはずだ、友達が居なくて、それでも意地を張って。

 

『そうかー?案外あーいう根暗なのが好みってのも居るし、そもそもおめぇ天邪・・』

 

そいつの名前を口にするな!あいつは陰陽師の側に付いたんだ!裏切った刃を向けた!!

それにぼくがともだちを増やそうとしたら、反対したんだ!そんなやり方で友達ができるわけないだろバーカバーカって!

 

『んー。その辺に関しちゃノーコメントだ、神はそういうの分からん』

 

ふん、まあどうでも良いよ・・・ともかく、彼女は返さない・・・僕が友達になってあげなきゃ・・・僕の友達にしてあげなきゃ・・・

時々、おいたが過ぎるから・・その時は分からせてあげないとだけどね、友達が間違ってたら殺してでも止めるのが友達なんでしょ?僕に友達の作り方教えてくれた人が言ってた。

そうだ、あいつも・・・あいつもだ!同じ黒兎のくせに!僕を射って来た!あいつにもお仕置きしないと、あいつも「よんだ」みたいだし、もう逃がさない・・・・ああ、そうか、そうだ・・きっと暴力的なのはとてもとても酷い目にあって誰も信じられなくなってるんだだからそうか・・・あいつも友達に・・

 

『ぬは!そうかそうか、ならば頑張ることだ、われはお前と誓約を結んだ、お前はわれの代わりに祟ると言うた、お前を棄てた者を祟り続ける限り、われはお前の力だ、友達作りとか何かその辺は好きにすれば良い』

 

負けてこんな本に封印される羽目になってよく言うよ・・・まあ、いいさ・・・彼女達を友達にしたらこんな急拵えの封なんかすぐやぶってやる。

そして、もう学校だけじゃ済まさない・・・この地域丸ごと・・じごくをみせてやる。

 

『・・・・。』

まるで針金で引っ張られたかのような、歪んだ引きつり笑いを見せるクロウサギを見やりながら・・ミミズがのたくった様な糸目をさらに細め、そのまがつ神はニチャリとした笑みを浮かべた。

 

 

 

軽く顎をさするハバキリと黒兎が生活指導室から出てきたのは、1限目も半ばという時間だった。

自らの教室に向かおうとして、ふと足を止める黒兎。

 

「あ・・・・・えと・・・先生・・・その・・・・本、返し忘れてて・・・戻る前に・・返してきて良い?」

 

おずおずと、件の本を差し出す黒兎。

 

「え?・・・ええ、別に良いけど・・・・・・んん!!!??」

 

その本「貴常月村封土記」を見るや否や、もはや怨敵にでも遭遇したかのような形相でその本を睨み付け。

 

「黒兎ちゃん・・・・!それ、どこで見つけたの!?まさか、まさかと思うけど・・読んでない、わよね?」

 

「・・・?」

そののっぴきならない様子にきょとんと小首をかしげ・・・

 

「ええ、いや・・・読んだけど・・・じっくり読みたいから・・・借りたんだ・・・し・・・」

 

ハバキリが、膝から崩れ落ちた。

慌てたのは黒兎だ、ハバキリの肩を揺さぶりたどたどしく声をかける。

「大丈夫」そう言う様に、軽く片手を上げ立ち上がり・・半ばひったくる様に黒兎の手から本を奪い取る。

らしくないその行動に少し驚き、うろたえ始める黒兎の頭を軽く撫で・・・

 

「あ、ご、ごめんなさい・・・つい・・・あのね、黒兎ちゃん。これは先生が預かっておきます、図書委員の顧問にも伝えて置きます。」

 

 

だから。

強調するように最後に付け加える。

 

「昨日の事は全部忘れて。後卒業するまで居残る事を禁止します、下校時刻になったら真っ先に帰る事。いいわね!?」

 

「へ?・・・ええ・・・・・いや、その・・・えええええええ!?」

 

想定より重い沙汰に、思わず悲鳴を上げる黒兎。

そんな黒兎をガン無視して、去っていくハバキリ・・その顔に滲むは悔恨と決意。

 

(ええ、ええ。二度も、私の教え子を奪われたりするものですか・・・私が、決着をつけてやる)

 

その日から、黒兎速攻で帰宅させようぜ後夜間の外出絶対禁止キャンペーンが始まった。

下校のチャイムが鳴れば担任が名指しで黒兎は即座に帰宅するようにと、指示が出る。

夜間の買出しすらままならない。

近所のコンビニにはなぜかいつも教師が居て、黒兎を見るや否や襟首を掴む勢いで、家まで付き添い帰宅させる。

クラスメイト達も不思議に思い、興味半分からかい半分でどういう事かと黒兎に詰め掛けるが正直彼女にも分からない、多分校舎での妖騒ぎと件の本が関係ある気は薄々感じていたが余計な事は喋らない、喋れない。

・・なぜなら彼女はコミュ障だから、同じクラスなだけの生徒達に話しかけられてもキョどるだけだ。

 

そんな事が一週間ほど続き、その日ある噂が耳に入る。

 

「なあ、ハバキリ先生退職したってマジ!?」

「お、おお・・なんか唐突にって事らしい・・・」

「えーーー・・・・マジかよ・・・俺告白する準備してたのにーーーー」

 

思わず、黒兎にしては破格の行動力でその噂話の輪に飛び込む!

 

「そ・・・!!!その、はな、し!詳しくきかせて!」

 

黒兎のレアすぎる行動に生徒達はお互い顔を見合わせ・・・

 

「お、おう・・・実はな、先生一週間前から学校来てないんだってよ、んでさ他の先生に聞いてみたんだよ・・したら・・・急な事情があって急遽退職となった・・ってな」

 

 

・・・・・。

しばし考え込む黒兎・・・そして、全力ダッシュ!目指すは、図書室だ。

 

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