ドゥン!ドゥルル!!ドゥンドゥルル!!
もはや重機か?と思いたくなるような重低音が、夜の山道に木霊する。
日本じゃ中々お目にかかれない排気量5000ccはありそうな超大型バイク、それを駆る者は今、見晴らしの良い場所に停車し貴常月町を睥睨していた。
ガシリと片手でフルフェイスのヘルメットを掴み脱ぐ、赤い短髪しかし前髪は長く顔半分は髪で隠れている、やや橙かかった金色の眼に後ろに向いて伸びた二本の角・・天邪鬼だ。
「アタシが外つ国に行ってる間に・・・よくも、よくもまあ、ふざけた真似をしてくれたもんだな」
三日ほど前、彼女は旧友の末路を知った。
そも、彼女が転校した理由・・それは友人である白蛇のみーちゃんの掛かった霊的奇病が原因であり、それの治療がネイティブアメリカンに伝わる呪術医療が有効である事を知り、渡米したのだった。
そこで妖関連で色々あった後、英雄視された天邪鬼はみーちゃんに長期療養の必要性もあって、そのまま特別居留地で暮らしていたのだが・・くろうさぎの案件を知りおっとり刀で帰国したのだ。
「仇、討たせてもらうからな・・・!」
ヘルメットを被りなおし、フルバースト!
ヴォヴォヴォヴォヴォヴォ!!!!ヴヴヴヴヴヴ!!!!
天邪鬼の憤怒を体現するかのような、エグゾーストイノイズを響かせ彼女を山道を一気に走らせる。
早朝5時、黒兎は町を駆けていた・・兎の式姫としての本気を出せば野兎と同等、つまり80kmで巡行出来るのだが、人とぶつかればほぼ死者が出る危険な行為なので禁止されている行為だ。
なので大体30kmくらいで走る黒兎・・・生神神社は彼女の家からかなり遠くしかも結構な山頂にある、車でスムーズに行けば30分くらいの距離か。
概ね、6時くらいには到着する見積もりで彼女は駆けていた、途中DQN速度で爆走する超大型バイクとぶつかりそうになった以外は、すんなりと神社に辿り着く黒兎。
年季の入った木製の神明鳥居が、ここが相当に古い神社である事を示している。
町の一神社としては広めで、鎮守森に囲まれ社務所、手水舎、拝殿という基本セットの他に各種小殿に稲荷社、神楽殿、宝物殿、12台ほどの小規模な駐車スペースがある、参拝受付開始は意外と遅めの8時から。
主祭神は保食神という豊穣の女神だ、相殿神として伊邪那美命、恵比寿、閻魔大王、夜摩天・・豊穣神の相殿神としては割と珍しいラインナップだ。
狛犬は式姫としての狛犬がカッコいいポーズを取ったものが鎮座しており、これ目当てに来る参拝客も居るほどだ。
拝殿の奥は玉垣によって囲われ、本来本殿がある敷地内に本殿は存在せず、あるのは厳重に閉じられた山頂への道のみだ。
閑話休題
社務所に向かい声を掛ける黒兎。
「ご・・んごっ・・・おふゃ・・ん”ん”・・・お、おはよう・・・ご、ざいますっ!」
ブッヤンッ!
その声にまず反応したのは、飼われているメタボキツネ・・アシモノヌシだ。
狐は黒兎の周囲を回るように擦り寄ると、足をひと舐め。
「あ、こ、こら・・・くすぐったい・・よ?」
構わず舐める、もはやブッポグッポと変な音が出る勢いだ、どうもここまで走ってきて汗だくの黒兎から塩分摂取してるようだ。たちまち唾液塗れになる黒兎の足。
太ももまで舐めだしてきたので、慌てて阻止してる所に社務所から出てきた巫女が声を掛けてくる。
「あら、黒兎ちゃんいらっしゃい久しぶりねぇ・・・こーら、アシちゃんもおいたしないのよぉ」
年のころ30代後半くらいか、ふくよかとおっとりを体現したような巫女である、禰宜こそいるが実質この神社を取り仕切っており、この神社のすぐとなりに彼女の住む家がある。
まだ参拝時間には時間があるからか他の神職やアルバイトの姿は見えない。
社務所内に招かれ、まずは暖かいお茶とお茶うけ・・寒空の中延々走って来た身には染みる。
人心地ついた所で、黒兎はさっそく本題を切り出す。
「あ、あの・・・昔、ここ、で出してた本で、貴常月村風土記って本・・・その、知りたくて・・・」
「あら、変わらず本が好きなのねぇ・・そうねえ、うちの禰宜が当時この辺りの式姫に関する事柄を、書き記したものねぇ。
私が赤ちゃんの頃には廃刊しちゃった見たいだけど、たしか何冊か残してあったはずよ・・読んでみる?」
うんうんと頷く黒兎、「じゃあ少し待っててね」そういうと席を立つ巫女。
そういえば、社務所の中に入ったのは初めてだ・・少し好奇心に駆られ社務所内を見回す。
あの嵐の晩に辿り着いた廃神社と比べるべくもない、手入れが行き届いており居心地が良い。
暫くすると、一冊の本を手に巫女が戻ってくる・・普通の装丁の本だ、自分が持っていた江戸時代ぽい糸で綴られた装丁ものとは違う。
「おや?」と思いがなら、一礼し本を受け取りパラパラと読み始める・・基本的な内容は、あの封土記と変わらない、しかし一部分だけあった殴り書きのような部分は見当たらない。
「あ、の・・・この本って、江戸時代みたいな装丁じゃ・・?あと・・・なんか、殴り書き、みたいな・・ページなのが・・・」
その言葉に首を傾げる巫女、しばらくそういうのだったか?と思い出そうと考えていたが。
「うーん、私の知る限りじゃこういう装丁の本よぉ?それに活字印刷なんだから、殴り書きみたいなページは無いと思うわぁ・・それともいたずらされた感じ?」
「ううん・・・1ページ丸々そういうの、だったと・・思う・・うろ覚えだけど・・・
そう、あの・・・じゃあ・・・・禰宜さんに、直接はなし・・・・」
「ええとね、その・・・・言い難いのだけども・・・禰宜は少し、警察のご厄介になっていて」
「!?」
「その、ね・・秘密にしておいてね?
しっとマスク準備集合罪というので捕まって・・・何か警察の人が取り計らってくれて、新聞とかには乗らなかったのだけども。
でもねぇ・・性格も容姿もあんなことする程、モテない訳じゃないとおもうんだけども。
・・・もしかして、何か事情があるのぉ?」
(しっとマスク準備集合罪てなんなんだよ、てか実在するのかよしっとマスク、てかそんな事するなら十分モテない性格なんじゃ?)
・・・・心の中で盛大にツッコミを入れつつ黒兎は頷く。
「そ・・の、ハバキリ先生って識媛中学にいるでしょ・・?その先生が・・・未帰還で・・・その、本が、関係あるの、濃厚で・・・」
ハバキリ未帰還と聞いて、口に手を当て驚く巫女。
「それは大変だわ!・・す、少しまってねぇ?ええと、確かね緊急時に連絡取れる手段を残してたハズなのよ、一度しか使えないらしいけどそんな事情なら仕方ないわねぇ。」
そう言い、社務所をガサガサと漁りだす・・・程なくして一枚のメモ帳を持って戻ってくる。
「えっとね、山頂の本殿に分霊を残しているから、火急の用事際はそこに行き「緊急連絡、急ぎ顕現されたし」と三度唱えろと書いてあるわぁ」
「そう、ですか・・・その禰宜さんは・・・式姫なんですか?」
「うん、凄い長いこと生きてるみたいだし式姫だと思うわぁ。
とらいって名前でね、狐の耳と尾をもってるの。片足が不自由なようだけどもケンケンパでオリンピック選手みたいな動きするわぁ」
(なにその全力で「おとら狐です」て主張してる感じはっ!おとら狐なら人間にすごい恨みあるよね、式姫じゃなくて妖怪なんじゃ?妖怪に乗っ取られてる神社かぁ・・・。)
時と場合によっては、討伐案件なのかもしれない・・・しかし今は話を聞かなくては。
「あ、ありがとう・・・ござい、ます・・・じゃ、じゃあ・・・山頂へ行っても、良い?」
「ええ、じゃあ山道封鎖してる鍵持ってくるわねぇ」
山道の前で手を振る巫女に一礼し、今度は本気の速度で一気に山道を駆け上がる!
そんな黒兎を見送り、心配そうにふぅと息を吐く。
「ハバキリ先生・・無事で居るとよいわねぇ・・・あと黒兎ちゃん、くれぐれも無理しないでね・・」
「や、やあ。少し話しいいかい?」
突如背後から声をかけられビクリッと跳ね上がる巫女。
「ひゃい!・・あの、こ、ここは一般の方は立ち入り禁止で・・・」
「ごめん、でも大事な話があるんだ・・・貴常月村封土記について、聞かせてもらうよ」
~山頂の本殿~
ぜひゅーー・・・ゼヒューーー・・・・ふひいいい・・・・ごほっごほっ・・!
そこには、さらに汗だくになり酸欠状態で息をする黒兎が一人、大の字でぶっ倒れていた。
神社までの道のりも相当なものだったが、本殿への道は文字通り峻厳であった・・正直山道があったのは最初の50mくらいだ、それ以降は完全なる大自然・・多分巫女じゃ無理だ。
式姫をもってしても、中々のグローキーになるLVの道程・・彼の役小角なら、目を輝かせ生唾を飲み込み踏破に勤しんだ事だろう。
神社と比べると、簡素な社だ・・・しかし相当に古風な造り。
こんな場所だというのに、手入れはキチンとされており、無人の山頂という立地も相まって清涼な雰囲気が漂う。
しかし今はそれを堪能している余裕は黒兎にはない。
少しでも放熱するため、愛用の赤いチョッキは脱ぎ捨て・・もういっそ小袴も脱ぎ捨ててしまおうか?誰も見てないし!
とまで、考えだした頃合・・呼吸も徐々に整い流石にそれははしたないが過ぎると思いなおす。
実際の所大汗で胸当ても透けてしまい、はしたないも何もないのだが、気づかぬは本人ばかりなり。
十分休憩した所で、念のため傍らに武装を召喚しておき・・・キーワードを三度唱える黒兎。
グニャン・・・そんな擬音が聞こえてきそうな感じで、周囲の空気が不穏なモノに変わる!
ゲームなどなら、ここでボス戦前のイントロでも入る・・そういう一触即発の雰囲気。
慌てて矢筒を担ぎ弓を何時でも撃てる体勢になる黒兎!
やがて本殿より音が聞こえ始める。
トンッ・・トンッ・・・巫女の言うとおり片足で跳ねてるのだろう、そんな足音。
トンッ・・・タンッ!!一気に跳躍、本殿から躍り出る人影。
その女は高下駄と雰囲気の所為で2mはあるかに見えた、実際の所は180cmくらいだろう。
衣装も大部分は麻布、白布部分のみ綿生地の古風・・・いや、縄文か弥生かそんな古代の装いだ。
肩甲骨くらいまでのざんばら髪で、もみ上げを縄で縛っただけという簡素な栗色の髪をたなびかせ、黒兎を見下ろす。
「神社の者じゃ、まずここには来れまいとタカ括ってたんだが・・・
あー・・そうなー・・・式姫に頼むって手があったわ、ウカツウカツ・・・で、何の用だ?式姫。」
ヤ○ザの女親分もかくやというような、ドスの聞いた声色で一頻り愚痴った後に黒兎に問いかける女。
正直、黒兎は気圧されていた・・おとら狐とかそういう程度のものじゃない、もっとこうヤバイやつだ。
それ以前にこういうDQN上位種みたいなのは黒兎の一番苦手とする部類の人種だ。
しかし、ここまで来て挙句対峙しているのだから、後には引けない。
「あ・・うお・・・き、聞きたい事がある・・・き、貴常月村封土記の事件、お、お前が、犯人・・か?」
あ”?そういう風に肩眉を吊り上げ首を振る女。
「知らん、人違いだ・・用件はそれだけか?なら帰r」
「み、巫女さん・・に、聞いた・・・あの本書いたの、あ、あなただろ?・・と、とらいだっけ・・・その、あの本で、妖怪が、暴れて・・ハバキリ先生が、かえって来なくて」
黒兎にしては会心の、相手が言い終わる前の言葉重ね。
その女、とらいは全力で面倒臭そうにため息を付きこう言い放つ。
「何言ってるかさっぱり分からん、それに私が編纂した書が原因だとぉ?・・・ちょっと一から詳しく話せ。
・・・・後な?武器下ろせ、そんな何時でも射れますよみたいな雰囲気だされちゃ、こっちもバトルモードにならざるを得ない。」
その言葉にハッとなり慌てて弓を下ろし非礼を詫びる黒兎、途端不穏な空気は一瞬で消え去り元の清涼な雰囲気に戻る。
「良し、非を認め改められるのは良い事だ、私なんぞ若い頃そういうの出来んかったから、色々酷い目にあった・・・まあ、それはどうでも良いか、じゃあ詳しく聞かせてくれ」
口調や圧も、女親分から土建屋の姐ちゃんくらいにまでマイルドになるとらい。
それに胸を撫で下ろしつつ、今回の顛末を洗いざらい喋る黒兎。
「ああ、概ねどういう事か分かった。多分な私の著書を触媒に転遊の術、それの反転バージョンを仕掛けたやつが居る。
転遊の術てのは、陰陽道の秘術の一つでな書物の中に入り込み物語を実体験する・・要約するとそういう術だ、陰陽てより仙術に近いかもな、その効果を逆転させ妖か何かを書に封印したんだろさ。
んで、封印が弱まって恐らくその書を読んだお前と中に封じられてるモノと縁が出来た、それをロープ代わりにお前を引きずり込もうとしてるのか、もしくは外に出ようとしているのか・・此処までは理解できたか?何か質問は?」
「あ、の・・・僕・・・書には引きずりこまれてないと、思う・・・でも・・現実の・・学校で妖が出てきて・・それと・・その・・・本、装丁が違って・・・僕が読んだの江戸時代みたいな感じで・・あと・・なんで重版やめたの・・?」
「あーー・・・!それ、一番最初に試しに綴った奴だ!事の他めんどうな装丁方法で量産は向かないと思ってな、普通のにしたんだ。重版止めたのは単に予算の都合・・元々、金儲けは関係なくてな興味の有る奴だけ手にとって貰えれば良いと始めた奴で、今で言う・・なんだっけ?そう、同人誌てのが近い。
試し造りのは、誰かにあげたんだが・・・それはすまん、思い出せない・・そうか、そいつが転遊使えたならそいつが妖を封じた者って事になるのかな?他のに売り払ったりしてなければだが。
現実の世界に出てきた・・多分、その妖怪の欠片みたいなモノがにじみ出て具現化したんだと思う・・そういうの出来るのって結構一部の妖、大妖とか昔呼ばれてたくらいの奴だろうなあ。
そういえば、殴り書きにされてた箇所あるって言ってたよな?・・・そこ、ちゃんと覚えてないのか?」
意外に饒舌なとらいに、少々面食らいながらも、その箇所を思い出そうとする黒兎。
「え・・と・・・・1ページだけであんな書き方だから・・・悪戯とおもってちゃんと読んでない・・・あ、あ、!でも、読んだら縁が出来るって書かれてた・・・きが・・する。
それと、そう・・そうだ・・・これ妖じゃない、闇式姫だ。
これは、関係ないかもだけど・・こういうの・・見覚え、ある?・・・あと・・自分から・・本に入る方法、とか・・・・」
そういいながら、スマホを取り出し廃神社で撮影したものを見せる黒兎。
「闇式姫か厄介な・・・人間ならまだ対処があったものを。
この、闇式姫に襲われてる学生の服装を見るに戦時中だろこれ、そういう事があったってネットに書いてあったんだろ?多分その時のだな。
書かれてる文字を読む限り、概ね私の推測は当たってるようだ・・闇式姫を説得しようとして無理で、泣く泣く封印か、陰陽師にありがちな。
で、禁足地は分かる、うん、ここに居る奴と闇式姫が契約したんなら、こいつもう何処にも居場所がないくらい周りから不要とされたんだろうさ。
禁足地に居るのはな、アシモノヌシって言う古い古い日本の国土が出来る以前に発生した、まがつ神だ。
棄てられたものを庇護し棄てたものを祟る、いわゆる大勢の側の敵(パブリックエネミー)という奴だ。」
「・・・・・まがつ神・・・じゃ、じゃあ・・この案件・・・神クラスのが関わってるの?
・・・あ・・・・神社の・・狐もアシモノヌシ・・何か・・関係、が?」
「ああ、あれはちょっとした厭魅術の触媒だ、アレは複数姿を持ち一番手加減してる姿で肥え太った狐でな、丸々太った狐に同じ名前を付け同調呪術でアレが他形態に移行するのを防いでいる・・どれだけ利くかは分からんがな。
まあ被害の規模を見るに、本気で力を貸してる訳じゃなさそうだが・・・こいつが関わってるのなら、ちょっとお前だけじゃ無理だな、まがつ神と闇式姫のコンビだ・・ハバキリともあろう者が消息を絶つのも分かる、やるなら戦力整えろ。
後、自分から本に入る方法か・・・まあ、転遊しかないがあの術は本来は魂のみを書に送る術だ・・人間ならな。
しかし式姫なら本体ごといけると思う、なんせ元はかくりよの存在だ、何なら現世より転遊の世界の方が馴染む可能性すらある・・・儀式は私がしてやる、何なら脱獄してやんよ。
そしてその為には、触媒になった件の書物が要る、まずはそれを手に入れるか・・・もしくは・・・・」
「も・・・・もしく・・・・は・・?」
「ワザと捕まれ、相手がお前の引きずりこみ狙いならそれで向こう側へ行ける・・ただし、最悪のスタートラインになるがね」
意地悪そうな笑みを浮かべるとらい、何処にあるか分からない書を探して出すかワザと捕まるか。
そんな究極の二択に黒兎は思わず「ふえぇ・・・」顔になるのだった。