大切な人を探す物語   作:お団子大家族

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行方不明になった先生を探すミレニアム生と、心が折れた生塩ノアの話③

 それから、数ヶ月ほどの月日が流れた。

 

 力を増したケセドとケテルによって、廃墟はまさに鉄壁の守りとなった。

 

 C&Cの力をもってしても

 

 ヒマリ部長やヴェリタスの頭脳をもってしても

 

 まるで全てをねじ伏せるかのような、圧倒的な兵力。

 

 もう一度、作戦を実行するには、また一から兵器を集めなければならない。

 

 私とユウカちゃんは相変わらず兵器調達とセミナーの業務に追われている。

 

 リオ会長の残してくれた兵器も、もうあと少ししか残っていない。ミレニアムの毎月の様々な費用を切り詰めて、ようやく集めることができている。

 

 こうしている間にもどんどん機械兵は増え続ける。

 

 それでも、私たちは立ち止まるわけにはいかない。

 

 彼を探すために

 

 ミレニアムを救うために

 

 ヒマリ部長やヴェリタスは毎日のように作戦を立て

 

 C&Cは毎日少しでも多くの機械兵を減らし

 

 エンジニア部や私たちセミナーは、兵器を集める。

 

「ようやく……あの日と同じくらいの爆弾を集めることができましたね。」

 

「えぇ……そうね。」

 

 私たちはセミナーの部室を出て、ヒマリ部長の元へ報告に行く途中だった。

 

 廊下を歩き、私は資料に目を通す。

 

「ただ、C&Cが日々機械兵を倒しているとはいえ、まだ増えるスピードの方が早いです。そしてケセドへの攻撃を考えると……」

 

「……1回目の時の、倍以上は、必要ね……」

 

「はい、ですからまだまだ調達しなければ……さまざまな部活に協力してもらう他ないかもしれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 隣を歩いていたユウカちゃんが消えた。

 

「ユウカ、ちゃん……?」

 

 後ろを振り返ると、そこには地面に倒れ伏している親友の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニアム自治区にある総合病院。

 

 ユウカちゃんは、そこに入院することになった。

 

 原因は過労と、先生がいなくなったことによる、精神的なダメージ。

 

 特に後者の方が酷く、ここ何日も寝れていなかったそうだ。

 

 当たり前だ。

 

 もう先生がいなくなって3ヶ月が経つ。

 

 もし、たとえ先生が発見されたとしても

 

 無事な可能性は奇跡に等しいくらいだ。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前の私ならユウカちゃんの些細な変化にも気づき、強引にでも休ませていただろう。

 

 ずっと、隣にいたはずなのに

 

「ノアさん、ユウカさんが倒れたのは貴方のせいではありません。ユウカさんの心身のダメージを軽んじていたのは私たちも同じです。」

 

「はい……」

 

 ヒマリ部長はそう言ってくれた。

 

 ユウカちゃんが倒れたことにより、現状で動くことができるセミナーの役員は私1人しかいなくなった。

 

 そのため、私は戦線から外された。

 

 膨大なセミナーの業務に専念させるために。

 

 私の周りは、静寂へと変わり

 

 私は、1人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『常に冷静に大局を見ることができ、状況を分析して周りをサポートする。ノアは……』

 

 違う。

 

 私は、何一つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザァーーー……ザァーーー……』

 

「……」

 

 夜

 

 外は雨が降っていた。

 

 私は今日もセミナーの仕事をする。

 

 書類を捌き、必要とあれば各所を周る。

 

 ユウカちゃんがやっていた会計の仕事も、リオ会長の仕事も

 

 もちろん、セミナーの役員ではないけど手伝ってくれる生徒はいる。

 

 でも基本は、役員である私がやらなければならない仕事だ。

 

「ノアさん……少し顔色が悪いですよ? 休んだ方が……」

 

「……ありがとうございます、そうですね、この書類だけやりましたら、今日はもう帰ろうと思います。先に上がってください。」

 

「はい……ゆっくり休んでくださいね。」

 

 手伝ってくれていた生徒が帰ると、私は椅子の背もたれに体を預け、顔に手をやる。

 

 時折、ヒマリ部長が作戦の進歩を教えてくれる。

 

 明日の早朝にもう一度、飛行船を使った作戦を実行するらしい。

 

 とはいっても、もう私には、できることは何もない。

 

 成功を祈ることしか、できない。

 

 私は頭痛がする重たい頭をどうにか起こし、帰る準備をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドサッ』

 

「……ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 机の上を整理していると、書類の下に埋もれた物が出てきた。

 

 日誌。

 

 先生がキヴォトスに来た時から、ユウカちゃんの事と彼のことを記録していった日誌。

 

「……」

 

 パラ……パラ……

 

 私はゆっくりとページを捲っていった。

 

 懐かしい。

 

 ここに書かれた全てのことが、遠い昔の話のよう。

 

 パラ

 

 この日は先生とユウカちゃんと、一緒にお昼ご飯を食べに行った。

 

 ユウカちゃんが先生と同じものを注文して、私は違うものを注文し、違うもの同士食べさせ合いっこしましょうと、先生とユウカちゃんを同時に揶揄った。

 

 パラ

 

 この日は先生がセミナーに書類を出しに来た。

 

 いきなり来たのでユウカちゃんが化粧室で必死に身だしなみをチェックしていた。

 

 この日は1人でシャーレに行って先生のお手伝いをして

 

 パラ

 

 この日はユウカちゃんと……

 

 何もかも大切な思い出たち。

 

 そして

 

 ……パラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生が消えた日から、日誌は書かれていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポタ……

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日誌に水滴が落ちた。

 

 それが、私の涙だと気がつくのに時間がかかった。

 

 涙……なんで……

 

 止まらない……

 

 拭っても拭っても

 

 止まってくれない……

 

「う……うぅ……」

 

 悲しみ

 

 苦しみ

 

 不安

 

 それら全てが、私の心を包んでいく。

 

 もし明日の作戦が失敗したら、どうなるのだろうか。

 

 いや、もし成功し、ケセドとケテルを倒せたとしても

 

 もし、このまま先生が戻って来なかったら……?

 

 ユウカちゃんの心は、元に戻るのだろうか?

 

 

 

 

 

 先生

 

 

 

 

 

 ユウカちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 私にとっての、『大切な人たち』

 

 

 

 

 

 

 

 彼らの笑顔が浮かんでは消えていく。

 

 

 

 

 

 

 これは、現実なのだろうか

 

 悪夢のようで

 

 はやく目覚めたいのに

 

 いつまでも、続いていく

 

「……ッ!」

 

 私は逃げるように、セミナーの部室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザァーーー……ザァーーー……』

 

「……」

 

 ふらついた足取りで、校舎の廊下を歩く。

 

 ふと、窓の方に視線を移すと

 

 湿気のせいで、窓が結露していた。

 

「……」

 

 こんな時でも、思い出すのは彼の顔。

 

 あの時も、こんなふうに雨が降っていた。

 

 指で結露した硝子に文字を書き

 

 雨が止み、日が昇ると消えてしまう儚い記録。

 

 彼が教えてくれた遊び。

 

 先生と、自身の心を硝子に書きながら談笑していた。

 

 幸せな、時だった

 

 

 

 

 今の、私の、心……は……

 

 

 

 

 

 私の指は、勝手に窓へと伸びていた。

 

 ダメ

 

 書くな

 

 それを書いたら

 

 もう、耐えられなくなる

 

 ダメ

 

 ダメ

 

 ……だ、め……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         『たすけて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           あぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     私って、こんなに弱かったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたら、私は『ここ』に来ていた。

 

 私と、ユウカちゃんと、先生の3人で過ごした場所。

 

 彼の仕事を、2人で手伝っていたシャーレのビル。

 

 どうやってここまで来たのか覚えていない。

 

 記憶がないなんて、初めての経験だった。

 

 土砂降りの中、傘も刺さずに。

 

 雨に当てられた、ずぶ濡れの身体が重たい。

 

 でも、もうそんなことはどうでもよかった。

 

 新しく来た『先生』が

 

 あの人と同じように

 

 私たちを救ってくれるなら

 

 私は……

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