「こんにちはー!!」
「いらっしゃい、待ってたよみんな。」
街灯が道を照らしている時間帯。
僕はゲーム開発部4人をシャーレへと呼び出していた。
本当は昼間に迎えたかったのだが、僕の仕事がどうしても終わらず、すっかりと夜になってしまった。
こんな時間に生徒をシャーレに招くなんて非常識だけど、4人が夜でも良いというので、こうして招き入れた次第だ。
「ごめんね、こんなに遅くなっちゃって……なんならまた後日でも全然よかったのに……」
「ううん! 先生の用事なら、いつでも駆けつけるよ!」
「それに後日って言っても先生忙しいですから、結構先になっちゃうし……」
「そ、そうだね……だ、だから、みんなで話し合って、夜でも今日会いに行こうってきめたんです。」
「そっか……ありがとう。雨で足元も悪かったでしょ? 濡れてない?」
「はい! しっかりと傘を装備してきたのでアリスたちは大丈夫です!」
「よかった。さぁ上がって上がって。」
シャーレの仕事部屋へと案内する。
「そういえばシャーレの中に入るのも久しぶりだね。」
「それで先生? 私たちに用事っていったい……」
「あぁ、そうだね、早速本題に移ろうか。ほら、入っておいで。」
僕は部屋の扉の向こう側にいる生徒に向かって声をかける。
「こ、こんばんは……」
「「「「……!!」」」」
小さい声で入ってきたのはミカだ。
おずおずと出てくるミカを見て、ゲーム開発部の子たちは……
「で、でたぁ!! ティーパーティの怪力妖怪!」
「ひ、ど、どうしてここに……!」
「先生下がってください! アリスちゃん!」
「はい! 魔力充填100%!」
「ち、ちがうちがう! みんな落ち着いて!」
「「「「……」」」」
「あ、あはは……」
やっぱり相当警戒してるな……
パニックになった4人をなんとか落ち着かせ、ソファに座らせたはいいけど
ミカの対面に僕、そして僕の両脇にゲーム開発部が座っている。
ミカを見てからというものの、4人は僕の服を掴んで離れようとしない。
先日ミカに急に襲われたゲーム開発部のみんなからしてみたら、当然かもしれないけど
「……」
ミカは僕の顔を不安そうに見る。
僕は安心させるように頷いてみせた。
「……うん、ありがと、先生。」
ミカはゲーム開発部のみんなに頭を下げた。
「襲ってしまってごめんなさい。」
「「「「……!」」」」
「こわい思いをさせてしまって、怪我をさせてしまって、痛い思いをさせてしまって、ごめんなさい……もう二度と、このようなことはしません。」
ミカの謝罪を、目を開いて聞いたみんなは、おずおずと僕の服から手を離す。
「えっと、これは……」
ユズが僕の顔を見て尋ねた。
「ミカはずっと謝りたがっていたんだ。今日君たちをここに呼んだのは、ミカの謝罪を聞いてもらうためだったんだよ。」
「な、なるほど……」
「僕から、ミカが事件を起こしたことの理由も含めて、詳細を話すよ。」
僕はゲーム開発部4人に説明した。
ミカはアテムがいなくなった日から、一所懸命、寝る暇も、食べる暇も惜しんで、ずっとアテムを探し続けていたこと。
そして『シャーレの先生』という、アテムの居場所を守るために、僕を襲いに来たということ。
「「「「……」」」」
4人は黙って聞いていた。
ミカのやったことは、当事者からしてみたら許せないことなのかもしれない。
僕やゲーム開発部4人には、罪もなにもないのに、いきなり襲われたんだから。
でも4人にはこの頭を下げている少女が、自分たちよりも小さな、か弱い存在に感じた
「頭をあげてください。ミカ。」
僕の話が終わった後
彼女に声をかけたのはアリスだった。
ミカが顔を上げると、アリスは微笑んでいた。
「前にも言いましたが、アリスも先生がいなくなって、凄く寂しかったから、ミカの気持ちはよくわかります。」
アリスの言葉を、みんなは黙って聞いていた。
「今から3ヶ月前……先生がいなくなった日、ミカとアリスは、間違いなく同じ気持ちでした。先生がいなくなったことによる、不安、絶望、苦しみ、悲しみ……それら全てが入り混じった感情に押しつぶされそうでした。ミカも、きっとそうでしたよね?」
「……うん。」
「でも、ミカはすごいです。絶望しながらも、一所懸命先生を探していたんですよね。アリスは、探すことすら諦めていました。」
「……」
「自分でも、びっくりしました。この世に絶望して、なにもかもしたくなくなるくらい、アリスにとって先生の存在が大きかったことに。」
「……そう、だね……私もそうだったよ。」
「でも、ミカはその絶望に必死に抗っていたんですね。それが、アリスにはできなかったです。」
「アリス……ちゃん……」
「ミカはきっと、先生を探している間、アリス以上に苦しかったんじゃないかなって、アリスは考えました。」
「……」
「ミカはその苦しみに耐えきれなくて、今回の事件を起こしてしまいました。でも、アリスはこうしてミカが謝ってくれて、嬉しかったです。」
「……」
「アリスがもしミカと同じ立場になったとき、ちゃんと謝ることができるかどうか……それがどれだけ難しくて、勇気がいることか……だから、ミカは本当にすごい人だなって、アリスは思います。」
「……」
「だからアリスは、ミカを許します。」
「え……」
アリスが、ミカを許してくれた。
ミカは信じられないような表情でアリスを見る。
「これが、アリスの気持ちです。他のみんなは、どうですか?」
「……うん、じゃあ、私から一つ質問いいですか?」
「う、うん。」
ミドリがミカに質問する。
「今回、先生の計らいで謝罪の場を設けていただいているわけですが……シャーレの先生を襲った貴方は本来なら、ヴァルキューレに引き渡されるはずです。それを避けるために、貴方は先生の優しさを利用して許されようとしているんじゃないですよね?」
「……ううん、それは絶対にないよ。」
ミカは自分の胸に手を当て、ミドリの眼を見据えた。
「私は今、遊戯先生の優しさでかろうじてこの場にいる。でも、もし先生の気が変わって、今すぐヴァルキューレに連行されても、私は抵抗しないよ。潔く、自分の罪を償うつもり。」
「……」
「まぁ、罪を償うというのは、ここでもそのつもりだけど……」
「……わかりました。そうですか……」
ミドリは僕の顔をじっと見つめる。
「先生を利用していないのなら、別にいいです。私も、貴方を許します。」
「……!」
「そうだね! まだ先生とのミレニアム案内を邪魔されたのは納得いかないけど……まぁ許してあげる!」
「う、うん……私も、許し、ます。」
ミドリの言葉に、モモイも、ユズも肯定する。
ゲーム開発部の4人は、快くミカの謝罪を受け入れてくれた。
「ゆ、許してくれるの? あんな目に合わせたのに……? 怖がらせたのに……?」
ミカの瞳が揺れる
不安そうに、怒られている子供のように、目を俯かせながら、口を開く。
「わ、私のこと、魔女とか……思ったりしないの……?」
「……!」
魔女
それは、エデン条約でミカが起こした事件が原因で、周りの生徒がミカに対して言った言葉。
ミカに対しての、呪いの言葉。
「……? ミカは魔女になりたいんですか?」
「え? う、ううん……そんなことないけど……」
「じゃあミカは魔女じゃありません!」
「え……?」
「なりたくない存在に、無理になる必要はありません。自分がなりたい、別の存在になっていいんです!」
「で、でも、そういうのって他人が決めるものじゃ……」
「違います! 他人なんてどうだっていいんです!」
ミカの言葉を胸を張って否定し、アリスは言葉を紡ぐ。
「ミカがなりたい存在は、ミカ自身が決めていいんです!」
「……!」
「アリスは、アテム先生からそう教わりました!」
「……そ、っか……本当に、先生らしいね。」
「ミカは、何になりたいんですか?」
「なりたい……もの……」
ミカは少しだけ考え、でもすぐに困った顔をしながら答えた。
「……お、お姫様とか、かな……あはは、笑っちゃうかもしれないけど。」
「……! いいえ! 笑いません! じゃあ、そうしましょう! ミカのジョブは、今日からお姫様です!」
「そ、そんな簡単に決めちゃっていいの?」
「いいんです! アリスじゃなく、ミカがそう願うなら! そうですよね? モモイ! ミドリ! ユズ!」
「いいね! お姫様は基本操作できないけど……そういうのがあっても目新しいじゃん!」
「そうだね、そんな物語があってもいいね。」
「う、うん! ミカさん綺麗だし……ピッタリだと思う!」
「じゃあ、それできまりです!」
「パンパカパーン! ミカは、魔女からお姫様にジョブチェンジしました!」
「……!」
「これでもう、ミカは魔女なんかじゃありません! 新しい自分に、胸を張ってください!」
「あ、アリス……ちゃん……」
「……」
これが、アリスの一番の強さなのかもしれない。
どれだけ敵と戦っても
結局、最後は仲間にしてしまう。
他人の心のうちに入り、闇を祓う。
「……ふふッ」
光属性とはよく言ったものだ。
「……ありがとう……アリスちゃん……みんな……!」
ミカは指で涙を拭い、僕に視線を向けた。
「そして……ありがと、先生……」
「うん! 良かったね! ミカ!」
僕もここ数日シャーレで過ごしていたミカの様子を思い出して、心の底から安堵する。
「ここ最近ずっと悩んでたもんね。なんて言ったら許してもらえるか、許してもらえなかったらどうしようって朝起きてから夜寝るまでずっとさ。」
「「「「……?」」」」
「ちょ、先生恥ずかしいから言わないでよ!」
「あはは、ごめんごめん、でもほんとによか……」
「え、っと、先生?」
ガシッ
「ん?」
隣に座っているミドリから肩を掴まれた。
「ど、どうしたの? ミドリ?」
「あの、朝起きてから夜寝るまでって、聞こえたような気がするんですけど……それって……?」
あぁ、なるほど、そういえばこの子達には言ってなかったか。
「うん、色々な事情があって、ミカはトリニティからしばらくの間離れなきゃいけなくなったんだ。だから、その間シャーレに住むことになったんだよ。」
ビシッ
「でも本当に助かってるよ。仕事のお手伝いもしてくれるし、料理も掃除も家事を一所懸命してくれるし。」
ビシビシッ
「ちょ、先生?」
「ほんと、トリニティに戻れるようになっても、こうして毎日来てほしいくらいだよ。」
プッチン
「……ん?」
「あーあ……」
凄まじい気配を漂わせているゲーム開発部と、呆れた顔をしてるミカ。
な、なんか雰囲気が……
「じゃあお姉ちゃん、みんな、今日はもう遅いし私たちもシャーレに泊まろっか。」
「そうだねー。」
「え!? なんでそうなるの!?」
「今日の宿屋はシャーレです! アリスたちは冒険の書を記録します!」
「いやいやダメだよ! 夕飯くらいなら出せるけど流石に泊まるのは……」
「なんでミカさんは良くて私たちはダメなんですか!」
「そうだよ! ミカばっかりずるじゃん!」
「ミカは事情があるから……ほ、ほら、ユズも部長としてなんとか言って……」
「さ、先にお風呂借りますね。6人もいるから早く入らないと……」
「ユズ!?」
人見知りだけど一番常識人だと思ってたのに!
「そ、それに泊まるって言ったってみんな泊まる道具なんかもってないでしょ? 着替えとか……」
「あ、私のでよければ貸すよ☆」
「ミカ!?」
「やった! ありがとうミカさん!」
思わぬ助け舟がゲーム開発部へと出されて、僕はミカを見る。
「いいんじゃない? この子達も泊まった方が楽しいよきっと!」
「そ、それは……」
いつのまにかゲーム開発部4人が僕の隣からミカの隣へ移動している。
仲良くなるの早い。
「……うーん。」
でももう遅い時間だし……帰らせるのも危険かな……こんな時間になったのは僕のせいだし……
「まぁ……もう遅い時間だし、いいよ。」
「「「「やったー!」」」」
ミカと4人は嬉しそうにハイタッチをする。
「……ふふッ」
今日は、騒がしい夜になりそうだ。
それからはみんなで晩御飯を作って食べ、順番に風呂に入って、今は自由に過ごしている。
モモイとミドリとユズは3人でソファに座ってテレビを見たりゲームをしたりして
アリスはミカに髪の毛の手入れをしてもらっている。
ヘアオイルを塗ってもらったり
ドライヤーで乾かしてもらったり
さっきまでの警戒はどこへやら
今はすっかりと懐いている。
というかミカもアリスに対してめっちゃデレデレしてる。
でも、仲良くなれたのは良いことだ。
僕は微笑みながらワーキングチェアに座る。
「あれ? 先生はまだお仕事するの?」
「うん。でもお仕事って言っても、メールの返信だけだけどね。」
モモイとミドリとユズがゲームを終わらせて僕に近づいてきた。
「へぇー……どんな内容のメールなの?」
モモイが体を寄せて僕のPCディスプレイを覗き込む。
相変わらず距離が近い……
「いろんな学校から一度学園に来てほしいってメールが届いていて……その日程について送ろうと思っていたところだよ。」
「そうなんだ! 先生モテモテだね!」
「いやそういうことじゃないでしょお姉ちゃん……新しく来たシャーレの先生がどんな人なのか、みんな気になってるんだよ。」
「そ、それに、あのアテム先生の後の人だから、さらにどんな人なのか気になるよね……せ、先生はどこの学校から尋ねようとしてるんですか?」
「そうだね……どうしようかな……?」
「……ねぇ、先生……?」
「……?」
モモイが僕の袖を掴む。
モモイにしては珍しく、少ししおらしくなっている。
「今、どこの学園もそうだと思うんだけど、ミレニアムも結構大変みたいでさ……だから、もし先生さえ良ければミレニアムに……」
ピンポーン
「?? 誰か来たみたい。」
突如シャーレのインターホンが鳴った。
ミカが立ちあがろうとするけど、もうパジャマに着替えてるし、僕が出ることにした。
僕は部屋から出てオフィスの扉を開ける。
「はい、どちらさまで……!」
「……!」
扉を開けて、僕は固まった。
扉の外に立っていたのは1人の女の子。
白を基調としたミレニアムの制服を身に纏い、上着を少し着崩している。
身長は僕よりも高く、銀髪の綺麗な髪の毛。藤紫色の瞳。
雨により全身ずぶ濡れで、濡れた制服から滴り落ちている雨粒が、地面を濡らしていた。
濁っていた藤紫色の瞳が、僕を見つめることで、徐々に光を帯びていった。
「君は……」
彼女は僕を見て顔を歪め、涙を流した。
「せん……せ……」
「うわっと!」
そこで力尽きたのか、倒れかけたところを僕が支える。
「……この子は……いったい……」
「せんせー、大丈夫……って!?」
「の、ノア先輩!?」
覗きに来たモモイとミドリが駆けつける。
外にはまだ、雨が降り続いていた。
とりあえずここまでです。続きは制作途中です。
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