大切な人を探す物語   作:お団子大家族

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行方不明になった先生を探す生塩ノアと、それを助けようとする武藤遊戯の話③

「……遅えな。」

 

 ミレニアム近郊の廃墟。

 

 少し苛立ちを含んだネルの声が、青空へと吸い込まれ消えた。

 

 時刻は午前7時を少しすぎたあたり。

 

 もう作戦開始時刻は過ぎている。

 

 C&C、エンジニア部、エイミ、トキで構成された突入部隊は、作戦開始の合図を今か今かと待っていた。

 

 トキももうすでに『アビ・エシェフ』を身に纏っている。

 

 しかし、今回の作戦の総指揮官であるヒマリからの連絡が来ない。

 

「そうだな……ウタハ、君たちは何か知らないか? 今朝ヒマリから連絡があったんだろう?」

 

 カリンの問いに、ウタハは首を振る。

 

「私たちにもわからない。今朝ヒマリから突入部隊に属してほしいとの連絡があっただけで……」

 

 ウタハ達エンジニア部は、本来なら飛行船に乗り、爆弾投下の指示を出す役割だった。

 

 それが作戦開始直前になって、いきなり突入部隊に編成されたのだ。

 

「昨日の最終ミーティングではそんな話出てなかったのに……エイミは何か知らないのかい?」

 

「ううん。私も部長から話は何も聞いてない。でも、飛行船が今の時点で飛んでいないのも、なにかわけがあるのかも……」

 

「……アクシデントかな?」

 

 ウタハとエイミは2人で首を傾げた。

 

 彼女たちは今機械兵の大軍からは少し離れた高台の場所に待機している。

 

 お互いに攻撃の手が届かず、かつこちらが大軍を視認できる場所。

 

 前回の広範囲高威力の爆撃によって、工場付近の廃ビルや建物のほとんどは跡形もなく吹き飛んだ。

 

 なので今、工場の周りは景色がひらけた更地になっている。

 

 だからこそ、その更地を埋め尽くす機械兵の多さが際立っていた。

 

 ケテルを中心に半径数キロを埋め尽くすほどの機械兵。

 

 急に変更された細かな点、そしていつまで経っても姿を現さない飛行船や戦闘機たちに、彼女たちは不安を募らせた。

 

「どちらにせよ、色々と訳を聞かなければなりませんね……あら?」

 

 アカネのため息混じりの言葉と同時に、通信機が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お待たせしました。』

 

 

 

 

 

 今回の工場内のハッキングと、現場への総指揮を担当する、ヒマリからの連絡だ。

 

「よぉ。遅かったな。」

 

『申し訳ありません、様々な変更に少し手間取っていたもので。』

 

「……なにか不具合でもあったか?」

 

『いいえ、大丈夫です。お待たせいたしました皆さん。ただいまよりケテル、ケセド討伐作戦を開始します。』

 

「あ?」

 

「でも部長、飛行船どこにも飛んでないけど。」

 

 作戦は前回と同じく、飛行船を用いたクラスター爆弾で周りの機械兵を片付けた後、ケテルを足止めする組とケセド討伐のため、工場内に侵入する組に別れる作戦だった。

 

 しかし、飛行船や戦闘機が飛んでない以上、作戦は開始できないはずだ。

 

『そうですね……皆さんにも色々とご質問したいことがあるでしょうし、何から話せば良いのやら……』

 

 ヒマリは少し考える素振りを見せた。

 

『まず初めに、私は今回の作戦で、ハッキングに全神経を集中させます。なので現場の総指揮は別の方に変わってもらうことになりました。そちらの方に、説明していただきましょう。』

 

「別の方?」

 

『はい、こちらの方です。』

 

 ヒマリが映っていたモニターが切り替わり、別の人物の映像が映し出される。

 

『……』

 

「……ノアさん?」

 

 

 

 

 

『皆さん、お久しぶりです♪ セミナー所属、書記の生塩ノアです。この度作戦に復帰いたしました。ヒマリ部長の推薦により、今作戦の指揮を取らせていただきます。』

 

 

 

 

 

 いきなりの決定に、全員は顔を見合わせる。

 

「えっと……部長がそう決めたのなら、私たちはそれに従うけど……」

 

「でも、色々と聞きたいことはある。私たちエンジニア部が突入部隊に編成された理由とか……」

 

「それに飛行船も戦闘機も飛んでいないことも気になる。作戦では空からの爆撃で機械兵とケテルにダメージを与えた後、ケテルを足止めする隊と工場に突入する隊で別れるはずだが……」

 

「これでどうやって、この機械兵の大軍とケテルを突破するのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず初めに、私から言えることは一つだけです。』

 

 

 

 

 

 

 

『目に、焼き付けてください。』

 

「「「「「……ッ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノアの声に全員が空を見上げた。

 

 遥か遠く、前方の空からやってくるそれを見て、目を見開いた。

 

 その生物がこの世界にはあまりに異質だったから

 

 

 

 

 

 

 

 

『グァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!!!!』

 

 黒金の竜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その風貌からしても、荒々しい気性を容易に想像できる。

 

 遥か遠くの空にいる竜の咆哮は大地を揺らし、生きとし生けるもの全てを破壊するオーラを放っていた。

 

 竜は機械兵の大軍の頭上に到達すると、その大きな翼を羽ばたかせ、一気に大軍へと急降下していく。

 

「……! あれは……!」

 

 竜の背に乗る、小さな影。

 

 その人物を目にした時、彼女たちは、呼吸を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

「『ガンドラ』よッ! 全ての敵を消し去れッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背に乗った彼の言葉に呼応するように

 

 竜の身体の赤きオーブが輝き出す。

 

 

 

 

 

 

 

「『デストロイ・ギガ・レイズッ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜の身体から迸る、無数の赤き閃光が

 

 地上へと降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ドガガガガガガガガガッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!』

 

『ドガァンッ! ドガガァンッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地が震え、目の前は一気に破壊の海と化した。

 

 破壊と爆発で、全てが無へと還る。

 

 あのケセドの機械兵の大軍を

 

 竜は一体残らず、全て破壊したのだ。

 

 そんな中、黒煙を掻き消すように竜がこちらに向かって接近し、

 

 ネルたちの目の前に着地した。

 

 竜の背から飛び降りたノアとゲーム開発部の面々、そして、トリニティの制服を見に纏った少女。

 

 そして、『彼』とそっくりな、でも雰囲気がまるで違う、大人の男性。

 

「先生ッ! まだケテルが……!」

 

 ノアの声に、全員がケテルへと視線を向ける。

 

 爆破の煙が徐々に薄まり、その中で一体だけ、蠢く影。

 

 ガンドラのギガ・レイズをまともに受けながらも、ケテルだけはまだ動いている。

 

 ボロボロになりながらも、立ちあがろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

「ガンドラは破壊した敵の数だけ攻撃力をあげる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 僅かに開かれた竜の口から、赤いエネルギーの塊が迸る。

 

 

 

 

 

 

 ビリビリと、大気がうねるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「ガンドラの攻撃ッ!」

 

 

 

 

 

 

 一撃

 

 

 

 

 

 放たれた竜の一撃は、瞬く間にケテルの体を包み

 

 

 

 

 

 

 形も残らないほど、破壊した。

 

 

 

 

 

『ドガァアアアアアアアアアアンッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 その衝撃は、ケテルから遠く離れたこの場所にも容易に届いた。

 

 竜の傍に立つ彼の服は爆風で靡き、瞳は爆破されたケテルを見つめた。

 

 

「……せん、せい……」

 

 

 この場にいる誰かが、そう呟いた。

 

 

 心の中では、誰しもがそう思った。

 

 

 この目の前にいる大人が

 

 

 私たちを、ずっと、見守ってくれていた彼の姿と

 

 

 重なった。

 

 

 

「先生まだです! ケテルは突破しても、また新たなケテルが出現します!」

 

「……!」

 

 ケテルの残骸にどこからともなく現れたワイヤーが絡みつき、その機体を回収していく。

 

「……なるほど、話に聞いた通りだね。」

 

 遊戯が別のカードを手にしようとした時

 

(ぐら……)

 

「……!」

 

 遊戯の体をとてつもない疲労感が襲った。

 

 膝をつきそうになるが、なんとか耐える。

 

(……これ以上は負担になるか……ガンドラの力が強大すぎたんだ……想定はしてたけど……やっぱりこの『M&Wを具現化する能力』……無償で使えるほど便利なものじゃないな。)

 

 遠くからまた再び別のタイプのケテルが飛来してくるのが見えた。

 

(これ以上ガンドラで攻撃することは危険か……なら……)

 

「ミレニアムのみんな! ガンドラに乗って! ガンドラが君たちを工場の入り口まで連れて行ってくれる!」

 

「……!!」

 

「ケテルは僕が引き受ける。」

 

 先生は自らのデッキから別のカードを手に取る。

 

「行くよ。ミカ。」

 

「うん。」

 

 そう言って、新しくきた先生と、トリニティの少女はケテルに向かって駆け出した。

 

 その背を見つめるネルに、背後からアリスが近づいた。

 

「ね、ネル先輩……」

 

「おいチビ。」

 

 ネルは、アリスの方を振り向かずに、そう呼んだ。

 

 背後から近づいたので、アリスにはネルの表情がわからない。

 

「は、はい……」

 

「……」

 

 振り向いたネル先輩の顔は、とても、優しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

「やれんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! はいッ!」

 

「……へッ! おいオメーらッ!」

 

「「「「……!!」」」」

 

「ボサッとしてんな! 行くぞッ!」

 

「「「「……!! はいッ!」」」」

 

 ネルはガンドラに近づき、そのそばに立つノアの肩をポンと叩いた。

 

「指揮は任せた。」

 

「……はいッ♪ それでは、みなさん行きましょう。ケセドの元へ!」

 

 

 

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