大切な人を探す物語   作:お団子大家族

19 / 19
行方不明になった先生を探す生塩ノアと、それを助けようとする武藤遊戯の話⑦

「「「先生〜!!」」」

 

「みんな!」

 

「良かったです! 間に合って……!」

 

「の、ノア先輩は大丈夫ですか!?」

 

「先生のブラックマジシャン……! 久しぶりに見た!」

 

「最後の居場所を入れ替えた一撃は、計画のうちだったのか?」

 

 ノアを抱き止めた遊戯の周りをみんなが囲む中

 

 ネルはあぐらをかいてその場に座り込んだ。

 

「ったく……美味しいところもっていきやがって……」

 

 そんな軽口を叩きながらも、ネルの表情は晴れやかだった。

 

 満足感、高揚感、達成感。

 

 そんな表情だった。

 

「ね、ネル先輩……」

 

 そんなネルに、アリスが近づいた。

 

「あ? どうした?」

 

「その……」

 

 

 

 

「ごめんなさい。」

 

「……あ?」

 

 

 

 

 

「ネル先輩はずっと、アリスに呼びかけていたのに……それをずっと無視して……えっと……それで……」

 

「……」

 

 ネルは頭を掻く。

 

「謝んなよ。別にチビに対して怒ってねーよ。」

 

「え? でも、あの時あんなに怒って……」

 

「あ? だから別に怒ってねぇって……」

 

「購買の壁を壊すくらいパンチを……」

 

「い、いや、それは……」

 

「アリスの胸ぐらを掴んで……」

 

「……」

 

「すごい怒鳴り声を……」

 

「うるせぇ! ちげぇっつってんだろ!!!」

 

「うわぁあん! やっぱり怒ってます!」

 

「確かに頭にきてたけどよ、私が荒れてたのはチビのせいじゃねーよ。」

 

「じゃ、じゃあ、いったい誰に……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソが!!』

 

 ドガァッ!

 

 アリスとの喧嘩の後、購買を後にしたネルはミレニアム校舎裏まで来ていた。

 

 人気のない校舎裏で、ネルが壁を殴りつける。

 

『……』

 

 カリンとアスナは、事件をセミナーへと報告しにいっている。

 

 ネルを追いかけたアカネは、荒れた部長の背中を、ただ見つめるしかできなかった。

 

『なぁ……アカネ。』

 

『はい……』

 

『あたしはぜってぇ先生を見つけだす。』

 

『……! そうですね。一刻も早くご主人様を見つけて、無事を確認しなければ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうじゃねぇ。』

 

『え……?』

 

『1発ぶん殴ってやんだよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、ネルは拳を固めた。

 

『チビどもにあんな顔させやがって。』

 

 アリスも、モモイも、ミドリも、あの場にいなかったユズも。

 

 悲しんでいた。

 

『先生見つけて、1発ぶん殴って、チビどもの前に引きずり出して死ぬほど謝らせてやるんだよ。』

 

『そしたらきっと……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チビも笑顔になんだろ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネルは壁に背を向け、その場にうずくまった。

 

 その声は、少し掠れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……別に、誰でもいいだろ。そいつにも、もうそんなに怒ってねぇから。」

 

 ネルは立ち上がり、ノアを背負った遊戯へと近づいた。

 

「おい。」

 

「あ、部長!」

 

「……!」

 

(この子が、アリスが言ってた……)

 

「あんたが、新しい先生か……」

 

「うん、君がネルだね? 話はゲーム開発部から聞いているよ。はじめまして。」

 

「……あぁ。」

 

「……?」

 

 ……こいつだ。

 

 チビたちの笑顔を取り戻したのは。

 

「……ありがとな。」

 

「……ううん、今回僕の力は勝因のほんの一部にすぎないよ。君たちが諦めず、最後まで頑張ったから、勝利を勝ち取ることができたんだ。」

 

「そうじゃねぇ。」

 

「……?」

 

「……もっと、別のことに対してだ。」

 

「別のこと……?」

 

「あぁ……なんのことかわかんねぇと思うが、このあたしがお礼言ってんだ。素直に受け取っとけよ。」

 

「う、うん……。」

 

「……」

 

「……ん?」

 

「「「「「………」」」」」

 

 気がつくと、ネルと遊戯の周りの全員が、口をぽかんと開けていた。

 

「えー!? 部長がお礼言ってるー!?」

 

「な、なんだよ! そんなにおかしいか!?」

 

「だって私たちにだってそんなに言わないのに!」

 

「よかったね、先生。部長のお礼なんてそうそう聞けない。」

 

「あらあら、明日の天気は雪ですね。」

 

「お礼を言うなら、今回ネル先輩の無茶な動きに対応した私にもお礼を言ってほしいんですが。」

 

「て、テメェら……」

 

『ジャキッ!』

 

『ダダダダダダ!!』

 

「うわぁ! 部長が怒った!」

 

「うるせぇ!! 全員ぶっ飛ばしてやるからそこを動くなッ!!」

 

 逃げ回る部員たちと、それを見て笑っているミレニアムの仲間たち。

 

 アリスも笑っていた。

 

「……」

 

(……どうやら、仲直りができたみたいだ。)

 

「……良かったね。アリス。」

 

 ネルが暴れ回っている喧騒の中。

 

 僕はケセドに近づいた。

 

「……これが、ケセド。」

 

 目の前に転がっている、動かなくなった球体を見つめる。

 

 なんだろう……ケテルの時もそうだったけど、この機械から感じる力、何処かで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ゴゴゴゴ……』

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工場全体での揺れと、地響き。

 

「こ、これは……」

 

『皆さん! その工場ももう崩れます!』

 

「えぇ!? な、なんでいきなり!?」

 

「工場の主人であるケセドが破壊されたことによって、さまざまな機能が停止した影響でしょうか……?」

 

『出口への道のりは私が指示しますので、今すぐ脱出を!』

 

ヒマリの指示に従い、全員が出口へと向かい始める。

 

 

「……」

 

 

 

「……! 先生! 急ぎましょう!」

 

「……うん、わかった! アリス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3ヶ月

 

 戦いに身を投じていた者たちからしたら永遠にも思えたこの長き戦いは

 

 ここに終止符を打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我々は、ケセドを討伐した。

 

 

 危機として迫っていた、ミレニアムの破滅という未来を、阻止したのだ。

 

 

 この3ヶ月間

 

 

 先生が消えた悲しみ、己の不甲斐なさに対する絶望

 

 

 あらゆるものが、我々の前に立ち塞がった。

 

 

 

 私たちは、それを乗り越えることができたんだ。

 

 

 

 でも、これからだ。

 

 

 

 私たちの最終目的は、アテム先生を見つけ出すこと。

 

 

 

 ユウカちゃんの心の傷も、先生を見つけ出さなければ、きっと戻らない。

 

 

 

 だから、私が……

 

 

 

 

「ーーー!」

 

 

 

 ……ユウカちゃん?

 

 

 

 あぁ

 

 

 

 昔から長い間、聞いてたはずなのに

 

 

 

 ずっと聞きたかった、親友の……

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コユキーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

『ガバッ!』

 

 

 

 怒鳴り声で、私は目を覚ました。

 

 

 

 

 こ、ここは……

 

「文句言わないの! ノアの慈悲のおかげでセミナーに復帰したんでしょ!? しっかり働きなさい!」

 

 見知らぬベッドの上で、寝ていた自分。

 

 視線を隣に移すと、そこにはもう一台のベッドに座りながら携帯で通話をしている親友の姿。

 

 今回はシャーレの休憩室ではない。

 

 ユウカちゃんの隣のベッドにいると言うことは

 

 ここは、病院だ。

 

 ユウカちゃんの通話相手は、どうやらコユキちゃんのようで、仕事の電話をしているみたい。

 

「ケテルとケセドを倒してもう終わったはず? そんなわけないじゃない! 私たちの目的は先生を探すことなのよ! これからがスタートなの!」

 

「ゆ、ユウカちゃん……?」

 

「部費を返せって一部の部活が暴れてる? そ、それは申し訳ないとは思ってるけど……でもミレニアムの危機でもあったのよ! 研究どころじゃないでしょ! 協力してもらわな……あ。」

 

 そこで、ユウカちゃんは私に気付いたようだ。

 

『バタンッ!!』

 

「ユウカさん! 病院内ではお静かにお願いしますッ!! これで何回目ですか!?」

 

「は、はい、すいません……! ま、また後でかけ直すわ。」

 

「まったく……ミレニアムのセミナーだって言うから病室内での通話を許可したけど……ぶつぶつ……」

 

そう言ってロボット看護師は部屋から出ていった。

 

 とても怒っていたので、目が覚めた私には気が付かなかったようだ。

 

 ユウカちゃんは通話を切り、私に向かって微笑んだ。

 

「久しぶり。元気にしてた?」

 

「ユウカちゃん……ここは……私は、どうして……」

 

「過労よ、私と同じ。」

 

「……そう、ですか……」

 

 ユウカちゃんの話によると、ケセド戦で倒れた後病院に運び込まれ、3日ほど意識を失っていたそうだ。

 

「私が倒れたせいで、ノアに全部の仕事がいってたんだものね。それは過労にもなるわよね……ごめんなさい。私の方も、ちょっとオーバーワークだったわ。でも、私はもうそろそろ退院できそうなの。」

 

「そう……なんですね。」

 

「だから、ノアはしっかり休んで! これからは私が、ノアの分まで働くわ!」

 

「……」

 

 ユウカちゃんが話している姿を見て、私は驚いた。

 

 すっごく元気だ。

 

 ユウカちゃんが倒れた原因は、過労と、先生がいなくなったことによる精神的負荷。

 

 入院している間も、先生を発見できていない影響で、ずっと弱っているものだと思っていた。

 

「あ、それに聞いたわよ! ケセド・ケテルの討伐に成功したのよね!? しかもノアの指揮で! 凄いじゃない!」

 

「え、えぇ……」

 

「これで先生を探すのにも、大きく進展するはずだわ。崩壊した工場内を隈なく調査して、手がかりを見つけましょ!」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 あぁ

 

 

 

 彼女は、本当に強いなぁ

 

 

 

 

 

「……? どうしたの? さっきから黙っちゃって。」

 

「……いえ♪ ユウカちゃんは強いなって、思っただけです。」

 

 

 

 全て、私の取り越し苦労だった。

 

 

 

 ユウカちゃんは、先生がいなくなったからといって、いつまでも落ち込んでいるような人ではない。

 

 

 

 しっかりと心を休ませ、逆に先生を絶対に見つけ出そうと奮起していた。

 

 

 

 彼女は弱くなかった。

 

 

 

 

 私が支えようとしなくても

 

 

 

 

 助けようとしなくても

 

 

 

 

 ユウカちゃんは自らの力で、立ち直る力をもっていた。

 

 

 

 

 ……良かった。本当に……

 

 

 

 

「……何言ってるの? ノアがいたからよ。」

 

 

「……え?」

 

 

 彼女の声に、私は俯いていた顔を上げた。

 

 

「先生がいなくなって、それは辛かったわ。毎日泣いて、心配で、眠れない日が続いてた。」

 

ユウカちゃんは席を立ち

 

「でも、ノアが私のためにいろんなことを頑張ってくれて、支えてくれて……だから、私も頑張らなきゃって思えたの。」

 

私に歩み寄った。

 

「ノアがいなかったら、私はきっと折れていた。」    

 

私と目線を合わせ、ユウカちゃんは微笑んだ。

 

安心させる、笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がここまで頑張って来れたのは、あなたがいたおかげなのよ、ノア。」

 

「……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私のやってきたことは

 

 

 親友を、大切な人を

 

 

 助けることができていたんだ

 

 

 

「……ノアの泣いているところなんて、久しぶりに見たわ。」

 

 泣いている私を、ユウカちゃんはそっと抱きしめてくれた。

 

「だから、もう大丈夫。今度は、私がノアを支える番。それが、親友ってものでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは、支え合って生きている。

 

 

 私は今まで、そんな大切なことを忘れていた。

 

 

 辛いとき、悲しいとき

 

 

 一方の苦しみを

 

 

 もう片方が分かち合い、ともに背負ってくれる。

 

 

 

 時には力を借り

 

 

 

 時にはしがみつき

 

 

 

 時には手を取り合う

 

 

 

 そうやって、私たちは今日まで生きてきた。

 

 

 

 そして

 

 

 

 明日からも、こうして生きていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニアム生たちとの戦いの末

 

 崩壊した、ケセドの軍用工場

 

 その地下の、崩壊に巻き込まれなかった階層に、破壊されたケセドが転がっていた。

 

 

 

「素晴らしい……」

 

 

 

「『慈悲深き苦痛をもって断罪する裁定者』……力を増幅したデカグラマトンの預言者が、あの者が介入したことによりこうも容易く……」

 

 

 

 

 ケセドに近づく、2つの影が、そう呟いた。

 

 体や顔の所々に亀裂の入った、影のように無機質な、黒いスーツの男

 

 二つの頭部がヒビ割れた木製の人形

 

「彼の者と似て非なる性質をもった器になど、さしての興味も湧かなかったが……器の方もこれほどの経験と知恵を有していたとは……今回の事象が見られたことは誠に幸甚であった。」

 

「ええ……本当に彼らは、我々に心躍る事象を見せてくれます。」

 

 器が、この世界にどんな影響をもたらすのか。

 

 観察者であり、探究者であり、研究者である彼らの心のうちに、その想いが湧き上がりつつあった。

 

 

 

 

 

 カツーン

 

 

 

 

 

「おや……」

 

「……!」

 

 なにかが、ケセドの残骸から転がり落ちた。

 

「クックッ……どうやら、戦利品を忘れて行ったようですね。」

 

「……これは……どうする?」

 

「いずれ、私が直々にお届けに上がりましょう。」

 

 黒服は足元へと転がってきた『それ』を手に取る。

 

「こちらの世界の『神秘』とも『恐怖』とも違う力……クックック……研究のしがいがありますね」

 

 ケセドの力を増幅させていた、その元凶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミレニアム・アイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またの名を『千年眼』と呼ばれていた代物を手にし

 

 黒服たちは闇へと消えていった。




ミレニアム編はここまでです。

楽しんでくださった方、感想書いてくださった方、ありがとうございました。

他の小説も趣味で描いてるので、次回はまたお待たせしてしまうかもしれません。気長に待っててください〜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。