輝いていた。
あの頃の私の世界はどこまでも。
エデン条約で、取り返しのつかないことをしてしまって、宝物も友達も帰る場所も、何もかも失ったって思った時もあった。
それでも、その後の私の世界はキラキラと輝きを放っていた。
いや、それは生活は前よりも面倒になったことはいっぱいあったよ?
ティーパーティーの権限は剥奪されて
寮生活になったし
全部自分1人でやらなきゃいけなくなったし
いまだに受ける他生徒からの嫌がらせには、結構心折れることあるし
私がやったことに対する罰だから、受けて当然だと思ってるけど。
でも
それらを全部ひっくるめても
あの時の私は、幸せだった。
死んだと思っていたセイアちゃんが生きてて
酷いことをした私を許してもらって
ナギちゃんも含めて一緒にお喋りして
そして、なによりも
私なんかを守ってくれる、大好きな先生がいて。
『先生』
先生は王子様だった。
ずっと憧れていた、童話の中のお姫様を、カッコよく助けてくれる王子様。
そんなストーリーは童話の中だけに存在すると思ってた。
ましてや私になんて起こるわけないと思っていた。
けれど
あのアリウス分校の旧校舎で
王子様って、本当にいるんだって実感した。
先生はボロボロになった私を守るように
いつも大切そうに持っていた『カード』を掲げて
化け物相手に、たった1人で立ち塞がって
『貴様……これ以上……』
怒りで声を震わせ、言い放った。
『俺の大切な生徒を傷つけることは許さないぜ!!!』
あの光景を、私は生涯忘れることはないだろう。
先生は忙しくて、たまにしか会えないけど。
それでも、先生と出会ってなかった頃と比べたら、世界が違って見えた。
そんな先生のいる生活が、ずっと続くんだと、勝手に思ってたんだ。
あの日もそうだった。
今日も先生に会えないかな? 忙しいかな?って、モモトークを送ろうとしていた時だった。
いきなり呼び出されたトリニティのテラス。
いつも私とナギちゃんとセイアちゃんがお茶しながらお話ししていた場所。
そこでナギちゃんが暗い表情で言った言葉に
輝きに満ちていた私の世界は
「先生が……消えた……?」
闇に包まれていったんだ
「なに言ってるのナギちゃん……そんなことあるわけないじゃん。」
「ミカ……」
「セイアちゃんも何か言ってよ。もーナギちゃんがまた変な事言い出してさー。困っちゃうよね!」
「……」
「ほんと……面白くないよそれ。」
「……! ミカさん!」
「待つんだミカ! どこへ行くんだ!」
私は走った。
あの人に会いに。
いなくなるなんて、そんなことあるもんか。
先生は私と、ずっと……
急ごう
シャーレへ。
訪ねると、いつもあの人は仕事をしてた。
今日もきっとそうに決まってる。
きっといつもみたいに、笑顔で迎えてくれる。
「ハァ……ハァ……」
ビルの入り口に着いた時、私は目にした。
外には何台もの車。
関係者以外立ち入り禁止と書かれた、黄色いテープ。
シャーレの建物全てが、連邦生徒会が調査をしている最中だった。
足が震える。
呼吸が、うまくできない。
胸が痛い。
頭がまるで、自分のものではないみたい。
こんな時に、病気にでもなっちゃったのかな?
早く
早く
先生に会いたい。
シャーレの入り口へと震える足を進めると、ビルの前で話をしていた連邦生徒会がこっちに気づいた。
「あなたは?」
「わ、私はトリニティのティーパーティーです……あの、私、先生に会いに……」
「……トリニティにはまだ連絡が入っていないのですか? 先生は残念ながら行方不明に……」
「そんなはずない!!!」
『ドガァン!!!』
「ヒッ……!」
私は思いっきり地面に足を踏みつける。
コンクリートの地面が砕けた。
「せ、先生がいなくなるはずない! 私を置いて……そこをどいて!」
「落ち着きなさい! ちょっと誰か来てくれ! 応援を…………」
その場で暴れた私は、結局何人かの連邦生徒会に取り押さえられた。
先生の失踪によりショックを受けていたということで、問題を起こしたことはその場で厳重注意で終わった。
結局、なんの手掛かりもなかった。最後にシャーレの部室にいたのを見たって情報だけ。
連邦生徒会も必死になって探しているらしいけど、発見する兆しが見えない。
それはそうだ。連邦生徒会長だって、まだ見つけていないんだから。
その日のうちに、先生失踪のニュースがテレビで流れて、キヴォトスは大騒ぎ。
『先生が消えた』
『先生が失踪』
『先生が行方不明』
どこにいっても、その話でもちきり。
耳を塞ぎたかった。
でも、耳を塞いだところで、事実は何も変わらない。
『先生がいなくなった』という事実が、私の心には重くのしかかった。
それから、いろんなところを探したよ。
毎日
毎日
毎日
授業も何もかもほっぽり出して。
いや、だって私からしてみたら、先生の存在って何よりも大事だから。
でもキヴォトスって広いからさ。
私1人で探すなんて不可能なんだよ。
他の自治区でもまだ未開拓の場所なんて山ほどあるのに。
トリニティ地下のカタコンベですら、全部探し回る頃にはお婆ちゃんになってるよ。
それでも私は探した。
本当にいろんな場所を。
死んだなんて想像はしてない。あの人は私よりも強いから。
でも一番恐いのは。
私が見捨てられたんじゃないかってこと。
わかってる。あの先生が私を見捨てるはずない。
きっと、誰か悪い人に攫われたんだ。
探さなきゃ
探さなきゃ
探さなきゃ
でも、こんなに探しても見つからないと
悪い想像ばっかりが頭の中で広がっていくんだ。
先生は、問題児な私を『大切な生徒』って認めてくれた。
でも
【そんなわけないじゃん。あれだけ問題を起こしておいて】
……
【社交辞令ってヤツだよ。それか……なんだっけ?リップサービス?】
……やだ
【あんな言葉を信じるなんて、バカだよねぇ。本当に】
やだ
【貴方みたいな『魔女』を大切な生徒なんて思うはずないでしょ】
やだやだ!
もう一度言ってよ
先生
『大切な生徒』だって
それから、3ヶ月の時が過ぎた。
私は寮の屋根裏部屋の自室のベッドで倒れるように眠っていた。
朝起きて、先生を探して、夜に帰って、寝て、起きて、探して……その繰り返し。
学園にも、最近全然顔を出してない。
そんな私に、トリニティの一部の生徒たちがまた文句を言っているみたい。
でもどうやら、ナギちゃんとセイアちゃんが庇ってくれているらしい。
2人とも、本当に優しい。
こんな私を庇ってくれて。
「……」
先生がいなくなってから、眠れない日々が続いた。
ご飯も、何日食べてないんだろ。
でも、お腹は別に空いていない。
何か食べようとしても、胃が受けつけなくて
すぐに吐いちゃう。
私はベッドからむくりと起き上がった。
その時
ふとベッドの横にある化粧台の鏡に写る自分が目に入った。
「……あは。酷い顔……」
自慢の髪も、もうボサボサで。
顔なんてもっと酷い。
大きいクマができて、痩せこけて。
こんなの、お姫様には到底見えない。
でも、それでもいい。
もう私は、お姫様じゃなくてもいい。
貴方がいなかったら、お姫様でいる意味なんて無い。
「悪いところ直すよ……全部全部全部全部……だ、だから……」
『ポタ……ポタ……』
涙はいつまで経っても枯れない。
貴方のいない世界に何の意味があるんだろう。
「……探しに……行かなきゃ」
私は寝ている間ずっとつけてた、テレビのリモコンを探す。
テレビだけは、部屋にいる時はずっとつけてる。
消灯の時間でもバレないように
音量を下げ、明かりを暗くして
先生が戻ってきたってニュースが流れてくるかもしれないから。
私がテレビの電源を消そうとリモコンを持った時
連邦生徒会から臨時ニュースが流れた。
『新たな先生が着任されました。』
バキッ!
「……は?」
手に取っていたリモコンを握り潰しちゃった。
流れた文章に目を疑い、聞いた言葉に耳が腐ったのかと思った。
新しい先生
なにそれ?
私にとっての先生は、1人だけなのに。
なんでその役割を別のヤツが取って代わろうとしてるの?
もう、アテム先生は用済みってこと?
ふざけるな。
連邦生徒会にとって、先生の存在ってその程度だったんだ。
武藤……遊戯……
……違う。
似ているけど、こいつは違う。
テレビ映像の写真越しでもわかる。
何もかも偽物。
認めない。
こんな奴が、先生の座を奪うなんて。
絶対に許せない。
「……席は取っておかないと。先生がいつか戻ってきた時のために。」
私は銃を手に持って立ち上がった。
王子様の居場所を守るために。