先生
どうしていなくなっちゃったの?
私が悪い子だからかな?
もっと私が良い子だったら、先生はいなくならなかったのかな?
もっと、お話ししたいよ。
でも、それって我儘かな。
私みたいな不良生徒が、あんまり先生の時間をとっちゃいけないよね。
それはわかってる。
でもね。
もう、私の世界には光がないんだ。
先生がいなくなってから
何もかもが暗闇で
先生に恋して、輝いていたのが嘘みたい。
胸に穴が空いているみたいで。
苦しくて
悲しくて
怖くて
……
……
……先生
好きになって欲しいとか
一緒にお話ししようとか
そんな我儘は言わない
ただ
たった一言だけ
もう一度だけ言って欲しいよ
『大切な生徒』って……
「……せん、せい……」
「……! ミカさん!」
「ミカ!」
「あ、気がついたみたいだね。」
目が覚めると、そこには大好きな友達の泣いている姿と、さっきまで戦っていた、大好きな彼にそっくりな人。
心配そうな顔でこちらを見ている。
辺りを見渡すと、見知らぬ病室だった。
「ナギちゃん……セイアちゃん……こ、ここは……?」
「シャーレの医務室です。ミカさんが倒れた後、すぐに遊戯先生が運んでくださいました。」
「安静にしているんだ。君は戦いの外傷もそうだが、体の栄養が明らかに足りていない。睡眠も食事も碌にしてこなかったからだろう。」
起きあがろうとする私をセイアちゃんが止める。
横を見ると、私の腕には治療用の点滴が付いていた。
「どうして、ナギちゃんとセイアちゃんが……?」
「君を心配して駆けつけてくれたんだよ。君が倒れた後、ナギサとセイアが部隊を引き連れて現れてさ。事の顛末を僕から説明したんだ。初対面だったけど君がした事をどうか許してほしいって、頭を下げられたよ。」
ナギちゃん……セイアちゃんが……
なんで、私っていつも……
「……ごめん、ナギちゃん、セイアちゃん。わたし、また2人に迷惑かけて……」
「いいえ、謝るのは私たちの方です。私たちが、もっとミカさんに寄り添えば良かったんです……」
「私たちも、先生がいなくなって、精神的に不安定になってしまっていたんだ。君に寄り添う余裕もないほどに……いや、これは言い訳だ。すまない、ミカ……」
「ナギちゃん……セイアちゃん……」
私が、悪いのに……
私のことを、大切に思ってくれる優しい人たち。
私なんかにはもったいない友人。
「で、でも……どうして私がシャーレに……? 」
私はD.U.地区でシャーレの先生を襲った。
なら私は問答無用でヴァルキューレに引き渡されるはずだ。
「それは遊戯先生がシャーレで身元を預からせて欲しいと、ヴァルキューレに頭を下げて頼まれたからですよ。ミカさん。」
「え……?」
「ミカ、君が罪に問われないように、遊戯先生が守ってくれたんだ。」
「いや、でもほとんど職権濫用みたいな感じになっちゃったけどね。カンナって人が話がわかる人でよかったよ。」
「ど、どうして……!?」
私は驚きのあまり勢いよく体を起こした。
「どうして私を守ったの!?」
訳がわからなかった。
襲われたのに
生徒を傷つけられたのに
どうして私を
「もちろん、守ってあげた代わりにやって欲しいことはあるよ。ちゃんと、アリスたちに謝ること。できるよね?」
「で、できるけど……り、理由になってないよ! 私があの子たちに謝っても、貴方が私を守る理由にはならない! 私は、貴方にあんなにひどいことをしたのに……」
「まず一つ目の理由は、君が僕に対して、直接銃を向けなかったから。」
「……!」
「最初にバスを撃ってきた時も、バスが爆発する前に僕たちが逃げられるように、撃つ場所をわざと調節してたんだよね。バスがすぐに爆発しない場所を狙って撃ったでしょ。」
「そ、それは……」
「クレーターを作ったパンチもそう。本気で僕を殴ろうとするなら、直接僕に向かって走って殴りにくればいい。ミカのスピードに僕は絶対勝てないんだから。わざわざ空中にジャンプして、避ける時間を与えるなんて真似をする必要はなかった。」
「……」
「君は脅すだけで、僕に直接的な危害を加えるつもりは、最初からなかったんだよね?」
「……気づいてたんだ。」
確かにそうだった。
私は最初からこの人を傷つけるつもりはなかった。
でも……
「でもそれは貴方を思ったからなわけじゃなくて、私が人殺しになりたくなかったからだよ。」
人殺しのレッテルを貼られるなんて、2度とごめんだ。
そしてなにより
先生に似たこの人を攻撃するなんて、私には絶対できない。
「私はあの時、自分のことしか考えていなかった。それに、貴方を襲ったのは事実だし、直接的な危害を加えなかったからといって、貴方に許してもらう理由にはならないよ。」
「でも、結果的に僕は無傷だった。それなら、君に実際に傷つけられたアリスたちが君を許せば、僕は何も言うことはないよ。」
「……」
あぁ……
これは、もう……
「ミカさん……」
「うん……わかってるよ、ナギちゃん。」
私の負けだ。
この人に、完膚なきまでにボロボロに負けた。
私は頭を下げた。
「……襲ってしまってごめんなさい。」
「……うん。大丈夫だよ。」
「……ダメだよ……こんな私を簡単な許しちゃ……」
ダメだ。
声の震えが、抑えられない……
「先生がいなくなって……それで新しい先生まで来たら、もう本当にアテム先生が戻ってこない気がして……」
私はどうして
いつもこうなってしまうのだろう?
自分の愚かさが嫌で嫌で
涙が出そうだった。
「それで何にも悪く無い貴方と、ミレニアムの子達まで傷つけて……何がしたいんだろう? 私って……」
先生の席が空いたからといって、アテム先生が戻ってくるわけじゃないのに。
こんな私を、彼は何と思うだろうか。
「やっぱり……わ、わたしは魔女だったんだ……私は、アテム先生の生徒には相応しくない……」
「そんなことないよ。」
その一言に、私は顔を上げる。
その顔は、安心させるように微笑んでいた。
「ミカが思っている以上に、アテムは君を大切に思っている。君は、魔女なんかじゃないよ。」
私は涙を拭いて、問いかける。
「……何も知らないあなたに、何でそんなことがわかるの?」
私とアテム先生のことを何も知らないのに
わかるはずないのに
「これ、見てよ。」
「なにこれ……?」
「僕が君を許す、二つ目の理由がこれだよ。」
私は渡されたものを手に取る。1冊のノートだった。
「生徒要録と呼ばれるものだよ。アテムが僕のために作っていたんだ。」
それは先生と関わりがあった生徒たちの記録だった。
「本当は生徒には絶対に見せちゃいけないものだし、多分アテムも君に見られると思って書いていたわけではないと思うけど……でも、今回は特別に見せてあげる。」
「……」
私はパラパラとノートを開く。
100人を超える生徒の名前。
その中に、私のページがあった。
『聖園ミカ』
そこには私の出来事が細かく記載されていた。
エデン条約で、私がしてしまったこと。
その後憎しみを抑えきれずに、アリウススクワッドに復讐しようとしたことまで。
正直言って、褒められるようなことはあまり書かれていない。
「……」
私がノートを閉じようとする手を、彼に止められる。
「待って。見て欲しいのは、一番最後のところだよ。」
私は指を刺された箇所に目を通す。
『ここまでが、聖園ミカという生徒のやってきた行いだ。』
『ミカは、良くも悪くも純粋な奴だ。』
『エデン条約では、その純粋さを利用され、取り返しのつかないことをしてしまった。』
『一度は自分のしたことや、失ったものに耐えきれなくて、アリウスに復讐しようとした。』
「……」
『でも』
『俺は見たんだ。アリウス分校の旧校舎で、憎んでいたアリウススクワッドを守るために、たった1人で強大な敵に立ち向かうミカの姿を。』
「……!」
あの時だ。
私が心に刻んだ光景。
王子様が、助けに来てくれたあの時。
『俺は、その光景に眼を奪われた。』
『悪魔の群勢にたった1人で立ち向かう天使のように、ミカはボロボロになりながらも戦っていた。』
『ミカは、自分の全てを奪ったはずの存在を許し、憎しみの闇から自分の力で抜け出したんだ。』
『ミカは強く、気高く、そしてなにより』
『心優しい奴だ。』
『ミカは自分の行いを責め、自らを魔女と言うことがあるかもしれないが』
『俺は何度でも否定する。ミカは魔女なんかじゃない。』
「……!」
私は……
『相棒。ミカのそばにいてくれ。』
『お前がそばにいれば、良識ある大人がそばにいれば、きっとミカは大丈夫だ。』
『多少問題はあるかもしれないが、それでもミカは……』
『俺の大切な生徒だ。』
「……ぁ」
その言葉で、私の項目は締め括られていた。
自分の目が信じられなくて
何度も何度も読み返した。
視界がだんだんと滲み。
大粒の涙がノートを濡らした。
それでも、私はノートから目を離せなかった。
「そこに書いてある通りだよ。君は自分のやったことを悔い、そして罰を受けてきた。これからもきっとそうだと思う。」
ずっと……欲しかった、一言……
「確かに、君は問題児かもしれない。やってしまったことも、人によっては許されない事なのかもしれない。でも……」
「……ぁ……ぁあ……ぁ……」
「君は、アテムに愛されていた。」
「っうぁああぁ、、ああああぁああ……!!!」
私は泣いた。
子供みたいに泣いた。
涙なんてもう、先生がいなくなって飽きるほど出たはずなのに
ナギちゃんとセイアちゃんが、泣いている私を抱き締めてくれて
私も2人に縋りついた。
本当にずるいよ。
貴方はたった一言で、私の世界をこんなにも変えるんだから。
世界が
先生がいなくなってから
暗闇だった私の世界に
光は、戻っていた。
私が泣き止むまで、3人はずっとそばにいてくれた。
「私、いけない子なのに……こんなに幸せで、いいのかな……」
「別にいいんだよ。幸福になる権利は、誰にだってあるものだから。」
「……そうだね。ありがとう、ノートを見せてくれて……」
私はノートを閉じて返す。
「遊戯先生、あの話を……」
「うん、そうだね。」
「……?」
ナギちゃんが私の手を握る。
「ミカさん、ティーパーティー現ホストとして、そして貴方の友人として一つ、貴方に進言します。」
「……う、うん。」
「ミカさん、貴方はしばらくはシャーレにいてください。」
「……! え、ど、どうして?」
「今トリニティでは、今回の事件を耳にした生徒たちの一部が過激な運動を起こしていてね。トリニティからミカを追放しろと声を上げているんだ。」
「……! そっか……」
「そこで遊戯先生に相談をしたら、ミカさんの身柄をシャーレが預かってくださるそうです。」
「表向きの理由は、『ミカは先生を襲ったので、シャーレで罰を受けている。』ということにするんだ。この噂が広まれば、暴動も少しは落ち着くはずだ。」
「トリニティで暴れている者たちについては、私たちが説得します。時間はかかると思いますが、それまでは遊戯先生がミカさんを守ってくださるそうです。」
「……うん、わかった。ごめんね、2人とも……」
私は彼に向き直る。
「……でも、その、いいの? 私、ノートに書いてあったと思うけど、結構問題児だよ?」
「アテムから頼まれた身だからね。アテムの大切な人は、僕にとっても同じだ。だから、君を守るよ。」
「……うん。ありがとう。」
私は彼の顔をじっと見つめる。
少しだけ、私の顔から笑みが溢れた。
「でも……やっぱり貴方って、王子様って感じじゃないね。」
「まぁ、彼に比べたらね。なんなら彼は本物の王様だったし……」
私たちは笑い合った。
さっきの戦いが嘘のように。
「一緒に探し出そう。アテムを。」
「うん……先生ばっかり、伝えたいこと伝えてズルいもん。」
先生
やっぱり、私は少しだけ、我儘になるよ。
お姫様って、我儘が多いもんね。
貴方の言葉だけじゃ、満足できない。
満足しない。
私の言葉も聞いて欲しい。
「……これからよろしくね! “遊戯先生”。」
「……! うん! よろしくね、ミカ。」
絶対に見つけ出してみせるから
この人と一緒に。
これでひとまずミカの話は終わりです。
続きは来週あたりにでも
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