命をォォォォオ燃やせェェェェェエ!!!(ガチ) 作:ツーカーさん
『円周率で猫好き』様、誤字報告ありがとうございます!
「新しくこのベロブルグ学院に赴任される事になりました。蚩尤先生です。皆さん拍手でお出迎え下さい」
拍手とともに舞台袖から身体を見せると、少しばかし黄色い声が響く。
その声を聞いた後は必ず恐い笑顔の薬師がいるので若干トラウマだ。思わず後ろを振りかぶってしまうがそんな恐ろしい神はいない。
監禁される恐怖から安堵しつつ、中央のマイクスタンドへと近づいて、未だ何を言えばいいかと悩ませている頭に鞭を打った。
「紹介に上がった蚩尤だ。これより臨時講師として働かせて貰う。講師をやるのは久しい上、何かと不自由もあると思うが、よろしく頼む」
初会の意を込めて頭を下げると、もう一度大きな拍手が響いた。
ベロブルグ学院という場所は、ベロブルグにとっての小中高大の一貫校であり唯一校だ。人類が相続するにはいささか狭いと言わざる終えない範囲の領土面積で生み出した最大規模の学び舎。
総勢生徒数2500名を誇っており、毎年数多くの生徒が卒業して入学している。校舎はクリフォト城近辺に存在し、生徒の安全はシルバーメインによって守られている為警備面でも定評のある場所だ。指定緊急避難場所にも登録されており、万が一の場合はシェルター代わりにもなる…とはパンフレットに書いてあった事だ。
高学部に入ると己の進路の為、細かく学ぶ分野が別れる。科としては、機械工学にまつわる機工科、芸能や音楽を担当する芸能科、政治に関連する法律学科、医者になる為の医学科、歴史にまつわる史学科、小説家を志す者達が在籍する文学科。と、他にも様々な学科が混在しており、大学部まで続く。
因みに、俺の担当としては臨時講師という特殊な立場なので全学科が生徒対象となる。
ただ外の世界の話をするというだけなので当然と言えば当然だ。
まあ、五万年も過ごしてきた分無駄な記憶は数多くある。話のネタに困ることはないだろう。
なにより薬師によって記憶は永遠に続く脳に弄られてしまっている。片時も薬師の事を忘れてはならないように。傍迷惑な事だがこういう時に役に立つので、本当に切っても切れない関係になったものだ。
かと言って、合計監禁期間5000年分の話はしなくていいだろう。誰が聞きたいのかも分からん。
「蚩尤先生って、大守護者様からの話では空から来たって…聞いたんですけど、本当ですか?」
若い女教師がそんな質問をしてきた。
「本当の事でなければ、俺はここで臨時講師をやっていない」
「アハハ!そうですよね〜」
「何か証拠でも出した方が早いだろう…そうだな。コレはどうだろうか」
「蚩尤先生、コレは?」
「仙舟『曜青』という場所から拝借してきた簪だ。この様に髪を纏めて…飾る」
「お〜!確かにコレはベロブルグには無いものですね…初めて見ました!というか、結構似合ってますね!」
彼女の声につられてか、物珍しいものを見る様に私と簪を見る先生方が少し増えた。まあ一瞬目をこちらにやるだけですぐ外したが。
「まあ、これ程美しい品だ。どの様な者にでも似合うだろう」
「えへへ、そんなぁ〜私にも似合うだなんて〜♪」
「誰もそんなことは言っとらん」
「あっ…はい」
ショボンとした彼女に、感情の起伏が面白い人だと評価をつける。恐らく彼女の学生時代はムードメーカー的な役割を担っていたのだろう。人当たりの良さが伺える。
しかし、こうも暗くされると少し罪悪感に苛まれるな。
「まあ、これも何かの縁だ。この簪を貴方に譲ろう」
「え!?いやいや!いいですよそんな高そうなもの!」
「別に高くはない。朱明にとっては日用品であり、女性ならば付ける者も多い。きっと貴方にも似合うだろう」
「えっ、本当にくれるんですか?」
「ああ、勿論だとも」
「ありがとうございます!ところで、私ってこういうのどうやったら似合うと思いますかね?あんまり髪型とかって弄ったことなくて…」
「…ふむ、そうだな、貴女の場合……こういう髪のまとめ方だろうか」
失礼と言いつつ彼女の長髪をまとめ、仕上げる。あまり慣れ親しんだものでもないだろうから劇的に髪型を変えずに後ろ髪のアクセントとして…この際だからいくつか他のアクセサリーもあげようか…数が多すぎて少し困っていたしな。
「うわっ!凄くかわいい!ありがとうございます蚩尤先生!いやー私ってまだまだ現役でいけそうですねぇ〜」
途中楽しくなって本気のメイクをしてしまった…あの八方美人狐の影響だろうか…。というか教職がこんなことしていいのだろうか?まあメイクの最中に聞いた話によるとそこら辺は割とゆるいそうだが。
「何を言うまだまだ君は十分若いだろう」
「えへへ、そう言って貰えると嬉しいです。これでも割と歳食っちゃてるんですよね…。そういえば蚩尤先生ってなんで臨時講師を引き受けたんですか?これならもっと他の職でも十分やっていけそうですけど」
「ま、老人の嗜みの範疇だからね。本職には敵わないさ」
「いや私を別人レベルまで仕立て上げた貴方が行ったら本職さん泣いちゃいますよ!?ていうか明らかに老人に見えませんけどね!」
「そう言って貰えると光栄だね。あと私はこんななりだが種族の特性上君たちよりも万倍生きているんだ」
「ヘェ〜因みにどれくらいなんですか?」
「大凡5万年だ」
「…………うっそぉ…」
「本当だとも」
絶句しているリーチェ先生を横目に時間を確認するとそろそろ初演説をする時間が迫ってきた。
「そろそろ時間だリーチェ先生。少しだけ案内を頼むよ」
「…うっそぉ……あっ、はい!よろしくお願いします!」
その様子にくつくつと笑い、何笑ってるんですかと背中を軽く叩かれる。
本当に、面白い先生だ。
でも、どうしてだろうか私の精神の奥底に見えぬ神の気配を感じる。それが最も恐ろしい。
仕事モードと言えばいいか、リーチェ先生は教室の扉を開けるなり凛とした態度で生徒達と向き合っていた。
先程の会話ではお茶目な一面が多かった様に思うが、人は一側面ではないという事を痛感させられる。
因みに大学部の担任らしく、相手をする生徒たちは皆、廊下ですれ違う生徒たちよりは一皮大人びていた。
「朝の集会でも紹介した蚩尤先生です。今回の授業で講師をしていただきます。ベロブルグの空から来たという事で、ベロブルグより外のお話をしてくれます」
ざわざわと囃し立て、生徒たちが疑心の満ちた目でこちらを見てくる。
突然言われた事で納得も理解もあまり出来ていないのだろう。ヒソヒソと会話が飛び交い何かしらよくない雰囲気が立ち込める。侵略者だのと言い始めたあたりにリーチェ先生が流石に待ったをかけた。
「ちょっと、皆さん!」
「リーチェ先生、この寒波の中生きる人間の方が珍しい。それに、ベロブルグの民と違う部分と言えば精々がこの服装くらいで信じる者も居ないだろう。怪しい講談師が来たという認識じゃなかろうか」
「ですが…」
「まあ、論より証拠。先程渡した簪とメイク道具よりも証拠らしい証拠を見せるとしよう。先に言っておくが驚かないでくれよ?」
豊穣の運命に触れる。少しばかし放っておいてしまったが、拗ねては居ないようだ。
ほんのちょっとのみ己の運命と向き合えば運命に属する命の力が身体に宿る。
身体の様相も薬師と大分近くなっただろうか。流石に無数の瞳は出さないが、神秘的な角が生えれば、皆一様にこちらに向いた。
「これがベロブルグより外から来たという証拠になっただろうか生徒の諸君」
「うわぁ」
「何あれ!?」
「角が生えてる…それも結構大きい」
「…うっそぉ…マジだぁ…」
リーチェ先生戻ってるよ素に。
「言ってしまえばこれが俺の真の姿だ。普段は人の世に溶け込めるよう皆と同じような姿だが、本来はこの様に角が生えている。それが俺の種族なのだ。そして、俺のような種族は皆長生きでな。特に俺はとびきり長く生きてきた。そんな俺が空の星々を転々と巡った話…聞きたくなっただろう?」
「うん。これはちょっと聞いてみたいかも…」
「どんな話か気になるよね」
「ね!」
「あ〜…あのイケメンフェイスに鹿角とか私今日死ぬんじゃないかしら…ドタイプなんですけど」
「私より年下だと思ってたのに…でもそれはそれでギャップがっ!」
「あの先生の角触ってみたくない?」
「そうね。ちょっと手触りが気になるし、講談が終わった後に聞いてみましょ」
「俺、ぜってぇーあの先生と仲良くできる気がしない。初恋キラー過ぎんだろ…」
「まあ、一応誠意を見せて正体明かしてくれたんだし、いい人だと思うよ?」
さて、語り継ぐとしようか、この世界とは全く違う世界の話を。あらゆる可能性を。
「───その時の坊がな、ついうっかり師匠が大事にしていた餅を食べてしまい…誤魔化すのだがその誤魔化し方が後に将軍と呼ばれる程の知略を活かしたのか巧妙でな……っと」
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを知らせるベルが鳴る。
「終わってしまったか。昔話をすると時があっという間に終わってしまうな」
え〜!と生徒たちから気分を落としたような声がチラホラと聞こえる。
そんなに面白かったのか。と少し嬉しくなる半分、確かに講談中に眠っているものも少なかったのを思い出す。
一番反応が良かったのは坊と新しい星へ降り立つ時だったか。やはりベロブルグの民は外の世界を楽しみにしているらしい。灼熱の世界とは想像もつかないのだろ。
「うっそ…いつもと本当に同じ時間?先生達がベルの時間ズラしたんじゃないの?」
「それはないわよ。ちゃんと時計を見れば90分経っていることが分かるわ…本当に短く感じちゃったけどね」
「俺たちはなんて狭い世界に居たんだこんちくしょう!」
「最初はまだ作り話かと思ってたけど…流石にそんなのじゃ説明つかないくらい内容が濃かった…長生きってするもんなんだね」
触りは上々、特に面白くしてやろうと誇張気味に言ったわけでもないのに、それでも生徒たちは楽しんでくれた様だ。人を楽しませるにはリアリティが大事とはどこの小説家の言葉だったか。
「授業は終わってしまったので、話の続きは答えてやれないが…何か質問には応えよう。何かあるか?」
「はい!」
「それじゃあ、そこの君」
「蚩尤先生って、彼女とかいるんですか?」
実に、女学生らしい質問だった。
やはり、こういう年頃は色恋沙汰に興味を示すものなんだろうか。薬師はとっくに学生という歳ではないからな…少し分からないが。
しかしまあ、彼女か…アイツはもう彼女というよりは伴侶だからなぁ。
「彼女は居ない。だが、妻なら居る」
「ウッソマジ!?」
「どんな人どんな人!?それって今も生きてる人!?」
心なしか隣にいるリーチェ先生の空気が落ち込んだ気がしたが…すぐに素に戻っているな。
「今も勿論生きている。それに俺よりも数百倍長生きしている」
「五万年以上の年の差婚って何!?どうやったら出会えるの!?宇宙凄すぎ!」
「因みに俺の妻は俺よりも強い…」
「あ、解釈一致。なんか蚩尤先生って結婚してたら奥さんの尻に敷かれてそうだと思った」
俺ってそんな風に見えるのか?
だが、そもそも存在としての次元が違いすぎて尻に敷かれるどころの話じゃない気もする。
「それじゃあ、次はアタシ!」
「じゃあ、金髪の君」
「先生ってロックに興味ある?」
「ロック?」
「そう!最ッ高で最強の音楽!」
「少し知っている程度で興味があるとは…」
「ホント!?それじゃあ、先生は人生の半分は損してるよ!」
えっ。二万五千年も?
「良かったら聴きに来てよアタシらのバンド『機械ブーム』をさ!」
「分かった。時間が合えば是非聴きに行こう」
「やったね!カカリア!顧客が増えたよ!」
「上手いこと先生を丸め込んだわねセーバル…」
音楽の趣味はそれ程無かったが、これもまた何かの縁だし触れるのも良いだろう。何より彼女の音楽の情熱は是非見てみたい気持ちがある。
「蚩尤先生…そろそろ次の授業の時間が…」
「そうだな。すまないリーチェ先生。それではな、皆また逢おう」
「絶対聴きに来てねー!!」
セーバルと呼ばれていた女学生に手を振りながら別れを告げると、そのままリーチェ先生に連れられ休憩し、また講師として世界を語り継ぐという行為を繰り替えてし言ったのだ。
印象として残ったのは、私にロックを教えるといったセーバルと、セーバルと仲の良さそうだったカカリア、高学部で出会った戍衛官候補生のジェパードと子供ながら医療に深い造詣を持ったナターシャだった。
他にも濃い面々は粒揃えに居たが…特に気になったのは何故かこの4人だった。
強い運命の祝福が彼らにはあるのかもしれない。果たして…。
ベロブルグ学院からの設定話はほぼ捏造。
主人公の過去話は省く。
蚩尤先生のCVって誰になるんだろうなぁ。