魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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第十四話 魔王のペット。

 湖竜(レイクサーペント)と言うのは、竜とは名ばかりの海竜(シーサーペント)の湖版である。知能は余り高く無く、巨体な為に天敵と呼ばれる存在も居なかった。本能までもがあんまり発達しておらず、もし発達していたのなら逃げ出していただろう。竜と呼ばれる存在なら知能が竜種の割に低いと言われるワイバーンですらメイズが近づくと全力でもって逃げる。なのにこうしてメイズ達を捕食しようと近づいているのが証拠であった。

 

 湖竜はただ寝ていた。しかし、湖の畔で、巨大な魔力が渦巻いたのを感じる。食欲と言う本能は湖竜にもあった。どんな巨大な存在だとしてもそれ以上に大きい自分には敵わない。そんな事を思っていたのかも知れない。今まではそうであったのだから。

 

 湖竜は泳ぐ速度を上げて、湖の外に顔を上げた。瞬間、顔に炎の攻撃を受ける。普段あんまり攻撃を受けない湖竜は、思わぬダメージと衝撃に後ろにひっくり返ってしまった。

 

 

 

 「……(汗)、ああ、大丈夫ですか!?」

 

 「メイズ、行き成り湖に魔法を投げてはいけないでしょう。飛び出した湖竜は突然には止まれないのですから。」

 

 たまたま、飛び出してきた湖竜の顔に炎の魔法をぶつけてしまったメイズは、ひっくり返った湖竜の心配をし、母ナイーシャは他者とはずれた叱り方をする。天然であるのがナイーシャの弱点であると同時に強みでもある。

 

 一連の出来事を見ていた護衛達は、『おいおい』と皆内心で思っていた。

 

 魔力の属性変換にはある利点が存在する。それは相性である。水属性の生き物は火に強いと思われがちだが、実は逆なのだ。心底弱いのである。

 

 ただ、水属性の生き物は水中にて生活している為、火が届かないだけなのだ。ただ今回のように、湖から顔を出した瞬間、撃ち込まれれば、まだ幼く魔法技術にすら疎いメイズの炎魔法ですら致命傷になる。ましてや魔力の巨大さは随一のメイズ。一撃で昏倒してしまっても仕方がない。

 

 ただ、流石に竜の名前を冠しているだけの事は有り、起き上がってメイズに向かって湖の水を掛けてきたのだ。

 

 それはブレス。本当なら岩すら真っ二つにするほどの威力を誇るウォーターカッター状の細いブレスである。威力もさることながら、そのブレスに含まれる水量もまた比べものになるものが無いほどで普通なら、それで終わりの筈だった。

 

 メイズという湖竜と比べれば遥かに小さい存在は今までなら流されて終わっていた。しかしメイズは、現最強と呼ばれたメイズ自身の父ですら遠く及ばない巨大な魔力を有している。

 

 漏れ出した魔力が余りに巨大すぎて、一種の魔力障壁の代わりをなしたのだ。メイズが濡れたのは髪の端少し冷たく感じる程度であった。

 

 「…水かけ遊びですか?僕もやるぅー!!」

 

 湖竜にとっては不本意であろう。本気の一撃をあっさり防がれ、そうではないのだが、メイズが勘違いしてしまうのも無理はない程に威力が減衰してしまった。

 

 そして、勘違いしたメイズは覚えたばかりの一切の手加減ができない魔法でもって、水を浮かせたのだ。湖の全水を。

 

 まるで、地面から空中に湖が移動したのではないかと錯覚、いや事実であるが、とりあえず球状に浮かせた水を湖竜に向かってぶつけたのだ。

 

 結果は解りきっている。水というのは重たいのだ。そんなものを高圧縮され、ぶつけられれば一溜りもなかった。

 

 

 

 「レイガぁ、ごはんだよぉ。」

 

 後に、魔王城の池にメイズによってレイガと名付けられた湖竜(レイクサーペント)が一匹増えたという。

 

 

 

 「ほぅ、我が軍の精鋭がたった一人に叩き潰されたと申すか。」

 

 「……は、我が隊は一切反撃も出来ず、申し訳ございません。」

 

 威厳にあふれる眼光が鋭い美丈夫の前に俯く、ボロボロの騎士がいた。

 

 威厳ある美丈夫はメイズの父親であり、現最強を冠する魔王であった。その証拠に耳の上あたりから捩じれた太い角が生えていた。

 

 俯く騎士は魔王軍の精鋭指揮官であり、魔王に言われ炎の精霊の村にまでたった一人の幼子を捕縛しに行ったのだ。

 

 しかし、逆に壊滅させられ命辛々逃げてきたのだ。こうして報告している今もドンドン顔色が悪くなっていく。

 

 例え殺されようとも、情けない報告しかできなくとも、騎士として主君に嘘を吐く事ができなかったのだ。

 

 「くくく、よいよい。確りと傷を癒せよ。」

 

 「…はっ。」

 

 騎士は魔王のその言葉を聞くと肩を落としながら退出したのだった。

 

 「……メイズの遊び相手になってもらえればと思ったのだがな。」

 

 「メイズ様の魔力は巨大ですからな。」

 

 「クオイスか。」

 

 誰も居なくなった空間に魔王は独り言をつぶやく。返事を期待したものではなかったが、返事が返ってきた。

 

 声の正体は、魔王城の宰相を務める邪気魔人のクオイスであった。一見仮面をかぶったヨボヨボの爺さんに見えるが、総合魔力は現魔王に次点。また現魔王の遊び友達、所謂幼馴染と言うやつであった。

 

 今現在、魔王の悩みの種が一つあった。自身の息子メイズの事であった。極端に魔力が大きかったのだ。それこそ生まれた時から、自身よりも遥かに。魔力が大きい事は別にどうでもいい。魔族は強者主義で、メイズは曲がりなりにも自分の息子、次期魔王である。

 

 問題は魔力が高すぎて、それこそ祖と呼ばれる初期のサキュバスたるランや、最強の名を冠する自身。母親として慣れているナイーシャぐらいしかメイズに近づけなかったのだ。

 

 漏れ出した魔力が他者の肉体を蝕んでいるのである。外出する時もこの魔王城や、吸性の湖といった外部魔力を吸収する場所にしか連れてはいけない。馬車も内部からの魔力を完全シャットダウンする特注の馬車でしか駄目であったのだ。

 

 ランがメイズに魔力操作を教えているが、これから成長期に入って総合魔力が爆発的に増える事だろう。到底間に合わないと断言できる。

 

 魔王は父親として遊び友達一人も作らないメイズを心配しているのだ。

 

 魔王城の池に、湖竜(レイクサーペント)を飼う事を許可したのも、少なくとも友達代わりになるかと思ったからだ。

 

 そして今回、普段はこんな強硬策には出たりしないのだが、メイズに次ぐ実力の持ち主。しかも、メイズと似たような歳のものが現れたと聞き、居てもたってもいられなかったのだ。

 

 魔王軍、その精鋭は決して弱くはない。強者主義の魔族、その王を守護する騎士達の中の選りすぐりなのだ。

 

 ただ今回は相手が悪い。まだ噂の段階であったが、魔王が自身を超える息子の遊び友達にと目を付けた相手。生半可な実力では息子の相手等務まらない。騎士達を退けたことで、その実力は確かにあるのだろう。

 

 「…やはり、メイズを直接連れて行くしか、方法はないか?」

 

 「…友達を作らせたいのであれば、それが良いと思います。」

 

 魔王の悩みはまだまだ続く。

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