「そろそろ、帰るとするか。」
持ってきた昼ご飯も食べ終わり、火口以外に小さな観光スポットがあるぐらいの為、頂上で出来ることは限られていた。
途中メイズとエンジが、この付近に隠れていた竜種を捕えてきたが、メイズ達を何とか説得し逃がしてきた。というアクシデントがあったが、それも終わった後はいい思い出だ。
ルートワンの言葉に、帰り支度を始めた護衛達とメイズだが、メイズが小の方を催した。
「ああ、いい。わしが連れて行く。」
「い、いえ自分が。」
「君は帰り支度をしていたまえ。わしは父親なのだ。」
この観測所にも、トイレは存在するが、少々入り組んだ先にある。その案内をルートワンは自らかってでた。騎士の一人が魔王様にさせることではないと代わる事を告げるが、今ここに居るのは一人の父親であることを告げて、魔王自身が連れて行く。
序にエンジも、ションベンと言いだしてエンジも一緒に連れていくことになったが。
「ううぅ…。」
「おい、大丈夫か!」
ルートワン達が、トイレから戻ると護衛の騎士達がボロボロの状態で倒れていた。
「何があった。」
「うう、何者が突然、……。」
助け起こした騎士が何とか言葉を絞りだし、火口の方を指さして、腕は地に着いた。死んだわけではない、気絶したようだ。そのことに、小さく息を吐き、指さされた方向を見る。
「お前たちは、物見塔の中に居なさい。」
ルートワンは、メイズとエンジにそういい、火口の側に置かれた見慣れない箱の方へと慎重に近づいて行った。
「むっ、ただの空の箱ではないか。」
ルートワンが箱を開け中を確かめた。中身はなく、空。そのことを不審に思い、立ち上がった瞬間、魔力の砲撃がルートワンを襲った。
「むっ。」
ルートワンにとってはダメージ等ない攻撃だったが、それでも強制的に後退させられる攻撃ではあった。
「ぬおっ!!」
火口付近まで近づき、更に後退させられ、火口から足を踏み外した。火口に指を掛け、何とか落ちるのは防げたがそれでも辛うじてと言う状態だ。
「くっくっくっ、なんでもできた兄貴が。間抜けになったもんだな。」
倒れていた騎士が起き上がり、兜を外しながら火口に近づく。中腹辺りでメイズ達の面倒を見た騎士であった。
「ぐっわぁあ…。」
ルートワンが悲鳴を上げる。ルートフォーが、火口の端に掛けた指を踏んでいるのだ。痛みで離しそうになるが、この火口は蟻地獄の様な円錐形ではなく円柱形、崖のようになっているのだ。
そして、メイズを連れてきた事で判るようにこの場所は吸性の場、魔力を吸収する場所なのだ。
魔王といえど、身を守る魔力を食われ、焼かれればさすがに死ぬ。飽く迄、観光スポットのみを回る予定だった為、装備もない。
「……兄貴は手に入れすぎなんだよ。」
「なっ、何?」
唐突に始まった語り。この語りの最中は、踏みつけが緩み痛みから解放された。だがルートワンには弟が何を言い出したのかが判らなかった。
王の地位と言うのであれば、生まれた時には決まっていたし、遺産等の貴金属は、自分は一切受け取らなかったのだ。強者主義の魔族とはいえ、親戚筋から恨みは買うつもりがなかった。
顔だって、双子なのだ。一卵性ではないから細部は違うが、それでも似た顔付だ。魔力だって、ほんの僅かに上回る程度。
「いったい、何の話だ。」
「気付いてすらいなかったのかよ。」
再度問いかけるも、今度は嘲笑される。再度指に、踏みつけの圧力をかけてきた。今度はご丁寧にも、掌を此方に向けて。巨大な魔力の玉が目の前に、出来上がる。
「それじゃ、死ね。」
小さく呟いた、ルートフォーは、魔力砲を放とうとして、それ以上の魔力の本流に、吹き飛ばされた。
「だめぇえええええ。そんなの絶対にダメ!!」
メイズであった。ただ、親しい人たちが傷つけられ、少々癇癪を起しているようだったが。メイズが本気で怒ったのだった。
メイズの巨大な魔力に反応して、マグマが吹き上がった。この火山は周囲の魔力を吸収する特性がある。一定値の魔力が内部にたまると噴火という手段で、堪った魔力を外に放り出していたのだ。
噴火の影響で、下から突き上げる暴風によって体が浮き上がりルートワンは、空に飛ばされた後、火口の傍、火山灰と花崗岩で形成された地面に落ちてきたのだった。
「おいおい、なんて魔力だよ。」
ルートフォーはメイズから吹き上がる魔力を見て、額に汗を滲ませていた。しかし、余裕ではあった。メイズの馬鹿みたいな魔力を捌く自信もあったし、何よりルートフォーは、兄ルートワンにはないスキルがあった。戦闘経験のない、幼いメイズに力押し程度で負ける事は無いと思っていた。
「まっ、お父ちゃん殺されたくなかったら、俺に勝つんだな。」
ルートフォーは、メイズに向かって指を突き出した。
「っ!」
メイズは横にずれる。ルートフォーの指から魔力の閃光が走ったからだが、メイズの無意識化で放出されている魔力を突き抜けてきたのだ。メイズが初めて、相手の攻撃を避けさせられたのだ。それどころか、メイズの頬に赤い線ができる。メイズの意識下での防御までも抜けてきたことになる。
「おいおい、そんな程度なのか?じゃあ、すぐ死んじまうな。」
ルートフォーは、一歩一歩余裕を持ってメイズに近づいてきた。
「メイズっ!!」
瞬間、エンジの炎がルートフォーを襲う。ルートフォーは後ろに跳んで、その炎を躱す。その位置は意図したものではないが、最初の場所に戻っていた。
「メイズ、無事かよ。」
「……あの人、強いよ。」
「あん、っ!!」
エンジは初めて傷を負ったメイズがビビッて動けなくなっているのではないかと、背後に匿いながら話しかける。しかし、俯いていたメイズがそういいながら、顔を上げた。
相変わらず何処かズレタ発言のメイズに振り向き、息を呑んだ。メイズの眼が爛々と流れ出す血の様に真赤になっていたのだ。
「おっ、おいメイズ…。」
「どいて、エンジ。」
簡潔に言い、退く前にエンジを押して強制的に退かせ、メイズは一歩一歩ルートフォーに近づく。奇しくもそれは、先ほどのルートフォーの様だった。
「おいおい、何があったんだ?」
ルートフォーもメイズの様子に混乱しているようで、メイズに肩をすくめながら、聞いてくる。ただ、メイズは何も答えず、腕をルートフォーに向けて突き出した。
今までのメイズでは考えられない、いや、今までのと比べても極太の魔力光が突き進んだ。
「なっ!!」
ルートフォーは慌てて、今立っている場所から右側へと回避行動に移る。メイズの腕も、ルートフォーを追いかけた。
「おいおい、減衰してねえじゃねえか。」
冷や汗を流しながら、今閃光が通った場所を見る。さっきまであった小さな花崗岩の欠片や小石など、完全に消滅していたのだ。吸性、魔力を吸収する物質がである。
魔力というのは、外に放出すると自然と解れて消えていく。威力が落ちるのだ。しかし、今メイズが放った砲撃はほとんど残っていた。いや、その様に見えたのだ。
この魔法の法則は、例えメイズと言えども無視はできなかった。なら、話は簡単だ。必要な威力を残せるだけの魔力を最初に込めればいい。
初めてメイズが傷つけられたルートフォーの魔法砲撃の応用で、メイズの巨大すぎる魔力を一点に集めて打ったのだった。
「くすくすくす、ちゃんと避けたね。もうちょっと遊ぼうよ。」
しかしメイズの様子はおかしいままだった。