メイズは一方的にルートフォーを甚振っていた。
「グガッ!」
何せ全力で身体強化したうえで、防御魔法を行使してもその上から全て破壊してくるのだ。まるで無垢な子供が要らなくなった玩具をバラバラにするかのような、残虐な笑みを張り付けて。
「おっおい、おいメイズ、メイズどうしちまったんだよっ!!」
メイズの様子に、メイズに押され座り込んだままだったエンジが吠える。メイズは、手に持ったボロボロのルートフォーをその辺りに捨ててエンジの方を向いた。
「くすくす、すっごく面白いんだ。エンジも一緒にやる?」
純粋な残虐さをぶつけてきた。今までのメイズではなかった。馬鹿みたいに純粋で、優しくて、何処かズレテいたメイズではなかった。今の様子はまるで『魔王』、それもルートワンの様な統治者としてではなく、物語に出てくるような残虐な魔王そのものであった。
「魔王化かっ!!」
ルートワンには今のメイズの変化に、一つだけ心当たりがあった。『魔王化』と呼ばれるそれは、一種の魔力の暴走である。
魔王が他者より巨大な魔力を扱えるのは、肉体がその魔力に耐えられる強靭さを合わせ持っているからだ。メイズもまた、幼子でありながら肉体の強靭さは尋常ではなかった。
エンジという炎の精霊と掴み合い、炎の精霊の奥義を受けて無事だったのはなにも魔力が大きかったからじゃない。あの時のエンジの魔力量は跳ね上がっており、メイズと対等であった。
しかし、メイズの肉体はその巨大な魔力を受ける受け皿があり、エンジにはなかったことが勝敗を分けていた。
『魔王化』というのは、魔力制御が一時的に跳ね上がることを言う。生み出された魔力が、普段は外に放出されている分の魔力が制御され外に放出されなくなり、その受け皿を超えるのだ。炎の精霊の奥義と同じものだが、魔王という元から他者を寄せ付けない程に巨大な魔力を有する種がそれを起こすと一種の興奮状態になり、残虐さが顔を出す。
生命の危機等に陥ったものが起こしやすいと言われているが、今回メイズは初めて傷を負った。そのことが引き金になったと思われる。普段から巨大な魔力によって守られているメイズが、いやメイズの肉体が生命の危機と考えたとしてもおかしくはない。
「どうすりゃいいだっ!」
「ある程度魔力を消費すれば元に戻ると思うが。」
メイズの肉体からは、普段凶悪に立ち上がっている魔力が一切合切感じられなかった。高度な魔力制御能力が働いていると思われる。この状態で魔力を消費させるのは難しいと思われた。
「やめろっ、おいっメイズ!!」
エンジがメイズに声を掛けながら近づいていく。ルートフォーを甚振っていたメイズはその声を聴いて、エンジの方に振り向いた。
「うーん、なんで?」
「がはっ!」
心底不思議そうに首を掲げながら、ルートフォーを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたルートフォーは、吐血しながら、地面を転がった。火口付近まで転がされ、勢いついて落ちかけた。何とか指だけで、火口の崖にしがみつく。だが、それを維持する体力もなく、片手は折れていた。
「ぐっ、ぐぞ!」
指が崖から離れる。体が下に引っ張られ、軽い浮遊感に襲われた。瞬間、腕と肩に痛みが走る。誰かが腕を掴んでいた。
「兄貴!?」
「…腕に力を入れろ。」
ルートワンがルートフォーの腕を掴んで、引き上げていた。
「おい、なんでだよ。俺はあんたを殺しかけたんだぞ。」
「俺は死んでない。そしてな、お前は俺の弟だ。息子を叔父殺しにしたくないしな。」
「なんでだよ、ちくしょ。」
ルートワンの答えを聞き、ルートフォーは腕に力を込めた。悔しそうに叫びながらルートワンの腕を掴んだ。例え怪我をしていようともルートワンとて魔王だ。メイズという今暴れまくっている魔王が側にいるが、それでも魔族の一人引き上げるのにたいして苦労はしなかった。
「なんで、邪魔するの?」
それも、メイズの関心が二人の方に向くまでであったが。メイズは腕を二人の方に突出し、魔力を溜め、解き放った。
「それは、だめだっ!!」
瞬間、エンジがメイズの腕に飛びつき、体勢が崩れたことにより魔力は二人の側を通って火山に撃ち込まれた。
「なんで、邪魔するのかなぁ。ねぇ、エンジ。」
「…ダチだからだろう。」
メイズの笑みがだんだん凶悪になっていくのが判る。だが、エンジは何回でも邪魔をする気であった。親友に家族殺しをさせたくない。その一心であった。
だが次の瞬間、火口からマグマが吹き出す。
「何っ!!」
火山がメイズの魔力を受けて鳴動しだしていた。山全体が揺れ、火口からマグマが吹き出した。この火山は観光地としてもそこそこ有名だった。元々、この火山は周囲の魔力を吸収し、一定値まで吸収した後、噴火で全ての魔力を世界に向けて散らすというサイクルを持っている。その一定値が大きく、近年の噴火はあり得ないとされていた。
しかし、現最強と言われる魔王ルートワンにその弟ルートフォー、巨大な魔力を持つメイズにエンジという大きな魔力を持つ三人が訪れ、魔力が飽和状態になった所で戦闘が始まった。
そこへさらに、メイズと言う圧倒的な魔力の持ち主が魔力を放り込んでしまったのだ。幾ら一定値、所謂器が大きいとはいえ、それ以上の魔力は受け切れなかったのだ。
「っ!いかん。」
「おいおい、まずいぞ。完全に噴火の兆候じゃねえか。」
彼らのいう噴火とは素直にマグマが溢れ出す事を指してはいない。この世界での噴火というのは高密度魔力があふれ出ることを指す。魔法となって吹き荒れるのだ。
二人が、完全に噴火の予兆がある事に気づいた瞬間、マグマではなくマグマを伴った高密度の魔力が吹き出した。
「うおっ!」
「兄貴、観測所の方へ。お前らもだ!!」
まだ、まともに動けないルートフォーとルートワンは互いに肩を貸しあいながら、観測所の方へ避難する。観測所の方が少しだが、高い場所にあった。それに、観測所は一種のシェルターにもなっている。
「あぶねぇっ!メイズっ。」
「うわっ!」
少し離れていたメイズとエンジも、突然の噴火に呆然としていたが、ルートフォーの言葉に我を取戻し観測所まで走り抜けようとしたところで、噴火により打ち上げられた大量のマグマが二人に降り注いだのだ。直撃こそエンジがメイズを庇ったお蔭でなんとかなったが、意味がなかったかもしれない。
このマグマの特徴として、冷えても固まらないというのがある。打ち上げられた、マグマがその場所に滝のように流れ落ちた。完全に二人を覆い隠すように。
「二人ともっ!」
「あぶねえよ、早く観測所へ!」
ルートワンは叫び、暴れる。何とかルートフォーは力付くでルートワンを観測所の中に入れる事に成功した。観測所の中は、外と比べてヒンヤリと冷たく、床にはルートフォーが叩き潰した騎士達がいつの間にか全員寝かされていた。