吸性の特性を持つマグマは、メイズの強力な魔力に誘導されて打ち上げられた後、メイズに向かって落ちてきていた。
メイズは強固な物理防御魔法で自身の周りに半円状の空間を作り出していた。しかし、吸性の特性が物理防御魔法の魔力を食い散らかす。その為に物理防御魔法の維持でメイズは休むことができず、常に魔力を放出していた。
「うぐっ、ここは?」
「よかったぁ、エンジ気が付いた?」
「メイズ?」
エンジは起き抜けに、いつものメイズに笑顔で声を掛けられた。
「……メイズだよな?」
「?、うんそうだよ。」
「元に戻ったのかよ。」
何が?と言いたそうなメイズに今までの心配は何だったのかと立ち上がり、ゴイーンと頭を打った。
「をををを…。」
「ちょっ、大丈夫?」
「なっ、何なんだこりゃ。」
思わず打った場所を両手で押さえ蹲る。メイズが心配して声を掛けてくるが、大丈夫と答えようとして、周りの景色に気が付いた。見渡す限り轟々と燃えて、赤に染まっていた。
「ちょっとじっとしててね。」
「あっ、ああ。」
メイズに説明され、自分が吸性特性のマグマの中に居る事を理解するエンジ。それと同時に、あることも思い出していた。
魔王化の解除の仕方である大量に魔力を消費すること。この物理防御魔法の維持に魔力を消費したから元に戻ったのだろう。だが、それはメイズの魔力が減り続けている事になる。
「やべぇな。」
エンジは何とかしないと、危険だと言う事に気付く。自分も何か力になれないだろうかと周りを見渡した。
そこでおかしなことに気付く。メイズの物理防御魔法に触れたマグマが、ほんの少しだが固まっていたのだ。
「ああ、そうか。って使えるんじゃないか!?」
それはメイズの魔力量が、吸性のマグマの吸収できる量を超えたからなのだろう。そのことに思い立ったエンジは、一つの脱出方法を思いついた。
「おいメイズ、良い事考えたぞ。」
思わず立ち上がって、二度目の頭突きを物理防御魔法にするのだった。
「いいか、メイズ。」
「うん、僕はいつでもいいよ。」
「よっしゃ、やれ!」
エンジの合図がでた瞬間、メイズから巨大な魔力が吹き出した。物理防御魔法がなくとも、吸性特性を持つマグマを押し始めたのだ。吸性特性の限界までメイズが魔力を注ぎ込んでいるのだ。吸性特性が打ち消され唯の炎の塊に変化する。唯の炎ならば、炎の精霊たるエンジに操れないわけがなかった。
「今だ、走れぇ!」
メイズの魔力で吸性特性を打消し、エンジが炎を操ってトンネルにする。単純な作戦であった。だが、吸性特性が魔力の大元であるメイズを追って向かってきた。
「うお、まずいまずいまずい。」
「ちょっ、エンジ来てるよ。」
エンジが操った炎の魔力も吸収し、再び吸性特性を取り戻しながら。
「っ!」
もう少しという所で一つ問題が起きた。メイズの魔力が切れかかっていたのだ。メイズは魔王化の前に起きた戦闘から、魔力を限界を超えて放出しっぱなし。当然、何時切れてもおかしくない状態であった。
「っ!おい、メイズ!?」
メイズは後少しで観測所と言うところで、蹲ってしまった。何とか物理防御魔法が間に合ったが、それでも息が荒い。魔力の放出も斑だ。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん。」
エンジが心配し声を掛けるも、いつもの元気さが無かった。
「マジィな。なんとかしないと。」
「…ごめん。」
「いいってさ。」
エンジの呟きに謝るメイズ。だが元々エンジを守ったりと、魔力を使いすぎている事は知っていたし、エンジはメイズを責める気など一切なかった。
「でも、マジどうしよう。」
「…僕がもっと魔力を持ってたらよかったのにね。」
「…意味無ぇんじゃないか、それ。」
「えっ?」
メイズは少々落ち込み気味にそう言い、エンジに否定されていた。魔力が有っても意味がない。この場合、吸性特性が厄介なのだ。魔力量に反応しマグマの量が増えるから、当然魔力を吸収していくスピードが上がる。比例してそれ以上の魔力を放出し続けなければいけないからだ。
「…ああ~くそ、もう少し魔力制御をしっかりやっとくんだった。」
「!!」
炎の精霊たるエンジなら、魔力制御さえ確りと出来ていたのなら、普通のマグマを操って吸収特性をもつ部分を防ぐことが出来ていたはずだ。だがエンジの後悔の言葉を聞き、何か閃いたメイズ。エンジを近くに呼んだ。
「…んで、これで上手く行くと思うか?」
「…何とかなるでしょ。」
今メイズはエンジに横抱きにされていた。いや、抱き上げるよう言ったのはメイズだが、まさかお姫様抱っこされるとは思ってもみなかった。未来でシャランが知るとすぐ女装させようとしてくるだろう。
しかし、まだ幼いメイズは、抱き方よりも親友に軽々と抱き上げられる方がショックだった。
「うっし、行くぞ!」
「うん、頼んだ。」
観測所まではあと少し、エンジの足なら数秒もかからない。しかし、今メイズを抱き上げており、時間はもう少しかかりそうだった。
エンジはメイズが物理防御魔法を解くと同時に走り出した。当然、マグマは二人を覆い尽くそうとする。瞬間、メイズの最後の魔力が吹き荒れマグマの吸性特性を無効化する。
さっきまでのメイズであれば、もう魔力を使い果たし、気絶してもおかしくはなかった。しかし、メイズはまだ魔力を放出している。これは魔力制御の賜物だった。
メイズはエンジの魔力制御という言葉で、何時か見たランの魔力制御を思い出していた。ランの魔力制御は凄く綺麗で、本来漏れ出し体の周りを覆う魔力が、魔法行使の間だけ一切なくなったのだ。
それを真似して魔力を放出してみた所、魔力の減少が抑えられたのだ。しかし普段の身体強化程、強化できなかった。魔力量が減少している事を踏まえても、メイズにとってはその恩恵は限りなく低かったのだ。
当然、エンジの足に付いてはいけない。そこで、エンジがメイズを抱き上げ、観測所まで走ることとなった。
「ドッワァァァアアアアアア…。」
「…叫ぶより急いで!」
エンジはメイズを信頼しているが、吸性特性のマグマに飛び込むのには勇気がいった。エンジが飛び込んでも、吸性特性のマグマはその猛威を振るわなかった。メイズがエンジが触れる瞬間のみ、方向を指定して魔力を放出し、魔力吸収の特性を打ち消していたからだ。
魔王化に続き、命の危機に瀕して今ここにメイズの才能が花開いていた。会う人会う人、メイズの才能はその魔力量にあると思われがちだが、実はメイズは知識の吸収力にこそ才能があった。
魔力量の御蔭で一回で出来たと勘違いされた炎の魔法だが、実はランの魔法を見たおかげだったのだ。今の魔力制御も、ランの魔力制御を見た御蔭だったし、ルートフォーの指先に魔力を集めて放つ魔法砲撃ですらもである。
あと一歩、そして観測所の扉に触れるという所で、遂にメイズの意識が切れた。マグマはすぐ後ろにまで来ており、扉を開けるのが間に合うかどうかであった。
「ぬぅぉおおおおおおおおお!!」
エンジは少しでも早く扉に取り付ける様に足を動かそうとして気付いた。
「やべぇ、両手がメイズで塞がっているっ!」
馬鹿である。それに気付いて声を上げた瞬間、マグマが二人に襲いかかった。もう駄目だ!と思った時、突如扉が開いた。中から出てきた手に、二人は引っ張り込まれたのだった。閉まった扉にマグマがぶつかった。
メイズ達を、観測所の中に引っ張り入れたのはルートフォーであった。ルートワンは、騎士達と共に奥に寝かされており、寝息は規則正しい。メイズ達の心配で倒れたとの事だった。外が騒がしいので、扉横の窓から外を見ると、エンジがこっちに向かってくるから引っ張り入れたとの事だった。メイズ達が起きるまでに、外の処理をしておくとエンジに伝言を残し、観測所の地下へと降りて行ったのだった。
「うっ、うむ、わしは…。」
「気付いたかおっさん。」
「エンジ君?…っメイズはっ!」
ルートワンは目を覚まし、エンジの姿を認めた後メイズの安否を聞いてくる。
「此処に、寝てる。魔力切れでな。」
エンジの言葉の通り、メイズはエンジの横で寝こけていた。気楽な寝顔で。ホッとするルートワンは、本来居るはずの人物の行方を聞いてみた。
「ああ、なんか外の処理をするって、地下に。」
「まずいっ!」
ルートフォーの行方を聞いたルートワンは、慌てて地下に向かった。
「うん?」
ルートフォーは上の階からドタバタと降りてくる音がする。ああ、兄貴にばれたのかと、予測はたてられた。
「ルートフォーっ!」
「よう兄貴。」
問題はなかった。準備は全て終わったのだから。
「冷凍魔法意弾を使うつもりかっ!!」
「それ以外に何があるよ。」
外のマグマはメイズの凶悪と評していい程の魔力量で完全に暴走状態になっている。それを鎮めるのは、この冷凍魔法弾しかなかった。この冷凍魔法弾は込められた魔力に反応した吸性特性のマグマに向かって打ち出され、マグマの熱を奪ってしまう。同じ魔力で作られたものなので、魔力で作られたマグマにも効果を及ばすのだ。
その上、魔力なので吸性特性で内部まで冷やす効果が発揮され、効率がいい。ただし、この冷凍魔法弾の魔力の込め方に問題があるのだ。冷凍魔法弾大きさは2メートル越えの巨大なものだが、魔力タンクが殆どで、尖頭にのみ術式が書き込まれていた。
魔力を吸収しようとすると、尖頭の術式が反応し、魔力タンクの魔力を使って魔法を行使する。そう言う仕組みなのだが、その魔力タンクが所謂人身御供なのだ。魔力タンクに入る魔族はその魔力が極端に大きい者が多い。吸性の暴走を止める為なのだ。当然である。
そして今回の暴走はメイズの魔力が原因。当然それに見合った者を選ぶ必要があった。
「だが、お前では魔力が足りないぞ。」
「死体ではな。」
「まさかっ!」
普通なら亡くなった状態で入れられる魔力タンク。だが、今回の場合は生きたままルートフォーが入るとのことだった。確かにそれなら、魔力操作で限界まで魔力を放出、圧縮できる。ルートフォーが唯一、ルートワンに勝るスキル。魔力の圧縮と放出に相性が良すぎるのだ。メイズの巨大な魔力にも対抗できるのは先の戦闘で証明済みであった。
「やめろっ!身を引き裂かれる痛みだと、発狂しても仕方がないとっ!」
「それは机上の空論、創造だろ。」
確かにそんな事は初めてだが、それでも真面な事ではなかった。
「兄貴には勝てなかったからな。負け犬はこれでいいだろ。」
「…ナイーシャの事か。」
「…知ってたのか。」
ルートフォーは、近くの町で見た人間の少女に恋をした。すでに、ルートワンの妃の一人であったのを知らずに。まぁ、よくある話と言えば、その通りだったのだが、ルートフォーはこの事で復讐を考えて今に至る。今回の家族旅行は好機だと思った。なにせ都合の良いようにナイーシャは風邪でついてこなかったのだ。
「ふぅ、兄貴の為じゃねぇさ。」
「なんだと。」
「このままだと、マグマは地上まで行っちまう。」
今はまだいい。何せ魔力が大きい者が全てこの場所に居るのだから。非常食もあるから数月は余裕だ。しかし、その非常食が切れて、体力が無くなり、魔力も減少すれば当然マグマは魔力を求めて地上の方へ向かう。
人間の小さな魔力とはいえ、最後には襲われるだろう。対処が行える者がいないまま。そんな彼女の為だという。
今、彼が人身御供としてマグマを抑え込めば、まだ小さなというか被害なしで抑えられる。その後の復興まで行える人間まで残せることになる。
それが一番良いのだ。そう言って、魔力タンクに乗ってしまった。
「まっ、まてっ!」
「悪い、自動発射なんだ。じゃあな兄貴。」
ルートフォーは最後に綺麗な笑顔をしていたという。
後、ルートワンはこの火山に小さな祠を立てる。復興支援すら出して。そのまえに、そもそも被害はなかったが。後ナイーシャが喜ぶように、ナイーシャの村に診療所を開いたり、服飾系の店に援助をしたりしたそうだ。
民からは不満がでなかった。魔族は強者主義なのである。魔王が自分の金をどんな事に使ってもいいのだ。
ただ、ルートワンの誤算があった。嬉しい誤算と悪い誤算。
嬉しい誤算はメイズがその魔力に比例するような魔力制御を身に着けたのだった。その御蔭で再び魔王化することは無くなったのだった。
そして、悪い誤算。他の部下にメイズが魔王化を起こしたことがばれたのだった。本来ならもう少し後。メイズに自由な時間を作ってあげたいという親心であったが、それが無に帰した。魔王城は代替わりの騒動に巻き込まれていくことになるのである。だが、それはまたのお話に。