魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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第二十二話 ラーシャンクエスト1。

 「今日こそお姉様の悪行を暴きます。」

 

 一人、部屋で堂々と宣言したラーシャンは前々から用意していた一般庶民向けの服に袖を通した。悪行とは言ったが、正確には、どれだけシャランの行動が公爵家の人間に相応しくないのかと言う事を知って貰うため、まずは相手の行動を知ろうとしたのだ。

 

 鏡を見る。そこには、切れ目で童顔な美女が一人。年は16、7か。見事な金髪を結い上げて庶民の服を着て立っていた。

 

 「…この様な安物の服ですら私の魅力を引き出してしまうなんて。」

 

 思わずウットリとしてしまう。鏡に映った自分に見とれていた。それから、髪をを一度ボサボサの状態にし、手櫛で軽く整えた。メイクを落として軽くだけ施す。そして、服の上から練兵場からくすねてきた女物のレザーメイルを身に纏う。

 

 「こんなものですか。おっとと、こんなものね。」

 

 口調を直し、意気揚々窓から脱走した。手には庭にあった武器だと思った物を持って。

 

 

 

 まずラーシャンは、義姉シャランが登録している冒険者ギルドに行くつもりだった。しかし、基本的に外に出たことのないラーシャンは、中央広場まで来たところで何処に冒険者ギルドがあるのか知らない事に気付いた。

 

 「…やばいわね。」

 

 一歩目から躓いた。そこで西側の大通りから歩いてきた、少年と青年の間に属するニコニコ笑顔の優しそうな人物に道を聞くことにした。

 

 「すみません。」

 

 「はい?」

 

 「私は、此処に来たばっかりなのですが、冒険者ギルドが何処にあるのか知りませんか。」

 

 「ああ、この道を真直ぐ行って、門の側の大きな建物ですよ。」

 

 躓いたと思ったらすぐに解決してしまった。幸先いいわねと思いつつ、ラーシャンはその男にお礼を言い、男の来た西側の大通りを歩き出す。

 

 そこで思い出す。先ほど道を尋ねた男性は、義姉に見せられた少女の写真の人物に似ていなかったか。義姉の話では大国の現王だという話だったが。粗相とかなかっただろうか。人違いであればいいが、少なくとも義姉の言葉によると、今現在大国の現王がこの町に居るのは確定であり、そんな心配ごとが頭の中を駆け巡る。

 

 しかし、そんなことも、目の前に現れたレンガ作りの建物を見れば吹き飛んでしまった。そう、ここから自分の野望がスタートするのだ。義姉の悪行を暴いて、家に帰ってきてもらうという野望が。

 

 少しだけ、わくわくした気持ちを抑え、ラーシャンは扉を開いた。

 

 「冒険者ギルドは隣だよ。」

 

 すぐに言葉が投げかけられる。冒険者ギルドは隣だった。間違えて隣の建物の扉を開いていた。結構な頻度で間違えられるのか、扉を開いた瞬間に間違いを指摘された。

 

 改めて冒険者ギルドの扉を開いたラーシャンに、無数の視線が降り注いだ。公爵令嬢たるラーシャンは人々の前にも出ることがある。その為、この程度の視線で怯むことなく受付と思われる場所まで歩いていく。

 

 冒険者ギルドの扉を開いた者はまず、この視線で怯える。そして怯えた者は先輩達の洗礼を受けるのだった。度胸の無い者が魔物との戦闘等行えるわけがない。後輩の死亡率を下げる為の措置として機能しているのだ。

 

 ある意味ラーシャンはこれに合格したと言ってもいい。しかし人の視線が離れることはなかった。ラーシャンがその手に持つ武器のせいで。そんなことに気付かずラーシャンは受付まで、歩いていく。

 

 受付嬢はラーシャンの醸し出す一種異様な雰囲気に、ゴクリと喉をならす。

 

 「すみません。」

 

 「はっ、はい、なんでしょうか。」

 

 見た目通りの綺麗な、しかし力の籠った声で話しかけられ緊張しつつ業務を全うする。周りも、実力者に見えるラーシャンという存在の一挙手一投足に注目していた。

 

 ラーシャンは不思議な顔をしながら、事前に書いてきた紙を受付に渡す。

 

 「冒険者登録したいんだけど。」

 

 後ろで椅子の倒れる大きな音がした。冒険者達が机ごと巻き込んでひっくり返る音だった。

 

 「初心者かよっ!」

 

 「まぁ、あんなもん武器にしてんだからな。」

 

 「ああ、何か損した気分だぜ。」

 

 椅子や机ごと引っくり返っていたものが、ドンドン直されていく。何事か判らないラーシャンは、首を傾げていた。

 

 「あははは、はいこれで登録は終わりましたよ。」

 

 思わず、受付嬢もずれた眼鏡を元に戻しながら、手だけはいつも通りに動いていたので、登録だけに対して時間は取られなかった。

 

 「おいおい、初心者さんよぉ。俺が良いクエストを教えてやるぜ。」

 

 「結構よ。」

 

 「そんなこと言うなよな。ちょろっと付き合えって。」

 

 何処にもこんな男が居るのだろうか、ラーシャンが初心者と知るや、大柄な男がラーシャンに絡んできた。ラーシャンはそれを断るもしつこく、ラーシャンの腕を取ろうとしてきた。

 

 「あんた、モテないからって絡むの如何かと思うわよ。」

 

 「あんだと、こら。優しくしてりゃ付け上がりやがって。」

 

 「そんな、がめついた目してりゃ断るわよ。」

 

 「てめぇっ!」

 

 ラーシャンはその手を振り払い、後は売り言葉に買い言葉。喧嘩に発展してしまった。ついには男が腰に差していた剣を抜く。本来は武器の使用はご法度であったが、怒りに我を忘れている男は躊躇等しない。

 

 男が武器を振り上げ、ラーシャンに向かって振り下ろすよりも早く、ラーシャンが動いた。ラーシャンが持っていた武器を男に向かってブン投げたのだ。ゴイーンッという甲高い音を立てて男の顔に命中する。

 

 金タライが。

 

 そう、ラーシャンの武器は何の変哲もない金タライであった。男は底が男の顔の形に凹んだ金タライを顔に乗せたまま、後ろに倒れこんだのだった。

 

 「おっほほほ、私に勝とうなんて、百年早いわよ。」

 

 男は勝ち誇るラーシャンの、そんな言葉を聞きながら気絶したのだった。

 

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