それは、ただ故郷を追い出されただけであった。余りに巨体になり、故郷の食物を食べ尽くしそうになった為、仲間に追い出されたのだ。彷徨いながらも、広い大地に出た。しかし、そこには小さなモノ達が住んでいた。
自分の力量に自身のあったそれは、小さなモノ達からその広い大地を奪おうと考えた。しかし、小さなモノ達に反撃にあう。その小さなモノは強かったのだ。下手な木々よりも背の高い自分よりもである。
驚いたそれは、逃げた。一目散に逃げた。逃げた先に、巨大な湖が現れ、そして落ちた。水の中に落ちたそれは、水が塩っぱい事に気付かず、対岸に向かって必死に泳ぐ。対岸に着いた時、それは咆哮した。楽園だった。故郷よりは背が低いとはいえ、立派な森があった。食べ物も豊富にあり、隠れる場所も多々ある。
そこは、それにとって楽園に違いなかった。
「しかし、出てこないわねぇ。」
ラーシャンは、少々飽きていた。つい先程、仕留めたオオカミの魔獣以降、他の魔獣に会ってはいないのだ。慣れない森歩きに足も疲れてきていた。
「ここら辺で休憩にしますか。」
見つけたのは小さな滝、川にならず地下に浸み込んでいるようだった。その側に手頃な大きさの岩があった。其処に座り、こっそりと持ってきたパンを口に放り込む。
この際マナーとかどうとかどうでもよかった。そう今の自分は、公爵令嬢ではなく、一介の冒険者なのだ。小さな滝から、水を掬い口に運ぶ。
「贅沢をいうなら、紅茶を持ってくればよかったわ。」
気持ちこそ冒険者のつもりであったが、お嬢様発言が抜けてはいなかった。
その時、側の茂みが揺れる。
「あらぁ?」
其処から出てきたのは、額に小さな角があるウサギであった。ただし、何かから逃げるように走り去っていく。瞬間、地面が跳ねた。
いや、そう錯覚させるほどの衝撃が、規則性を持って連続して起こったのだ。だんだんと、それは近づいてくる。ラーシャンは、しっかりと立ち上がり、武器を構えた。
音と衝撃がくる方向を然りと見据えて。そして木々を折り倒しながら、巨大なビックベアーが現れた。
「これは少し不味いわね。」
ラーシャンの目的は、目の前のビックベアーであったが、此処まで大きいとは聞いていなかった。何よりラーシャンは貴族令嬢、良くも悪くも箱入り娘であった。
冒険者なら、親や知り合いから教わるビックベアーの確立された対処法を知っているが、当然ラーシャンは知る由もなかった。ラーシャンはビックベアーを見上げる。
ビックベアーと目があった気がした。と思ったら、ビックベアーは後ろ脚だけで立ちだした。グングン高さが上がり、周りの木々が、ビックベアーの短い後ろ脚ぐらいまでしかなくなる。
「……少し、これは大き過ぎじゃないでしょうか。」
ラーシャンはそう現状を呟いたのだった。
ラーシャンの呟きに反応したわけではないが、ビックベアーが咆哮を上げた。のち、後ろ脚を屈める。前へと跳び出せる様に。当然、その巨体を支える足のバネは強靭であり、その巨体の為、空気抵抗は大きいだろうが、そんなもの無いかのように両手を広げて、ラーシャンの方へと急速に近づいてきた。
木々と岩を隠れ蓑にし、瞬時に後方横に跳びこむ。轟音が過ぎて行った。隣を見ると、岩は粉砕され木々は軒並み、その巨体の通った形に倒されていた。
もし、あの中に隠れていれば、今頃はあの木々のように潰されていただろう。今になってラーシャンは少し後悔していた。しかし、ラーシャンは染み付いた貴族根性をだす。
利き手たる右手に、武器を握る。
「さぁ、かかってきなさい。」
勇ましくそういうが、右手に持った金ダライが台無しにしていた。再び、木々の中からビックベアーが現れた。そして、またもや後ろ脚で立ち、屈み出す。
ラーシャンは出来る限りの速度で後方に回り、膝の後ろの部分を金ダライの縁でブッ叩いた。当然耐えられず、前へとこけるビックベアー。更に、今度は前側へと移動し、下からビックベアーの顎を目掛けて振り上げた。
「ガフッ、ぐるるるる…。」
「あら、怒らせてしまいましたか。」
ビックベアーが四足で襲いかかる。二本脚で立ってから屈み、跳びかかる程のパワーは出ないが、それでもスピードは上がっていた。ビックベアーの前足がラーシャンに襲いかかった。