「それで、なんでそんな話になるのですか。」
「ふむ、私では搦め手は難しいとな。」
メイズはシャランと相対している。シャランのお見合いを利用した犯人捜しは、そうと判らないようにすると言う事で決着した。しかし、なんだかんだと直情型のシャランにそんな真似ができるとは思えなかった。そこで誰かを助太刀に呼ぶと決まったのだ。
シャランには心当たりがある。その心当たりに協力を仰ぐ為、いま宿屋《魔王城》に来ているという訳だ。そしてその心当たりこと、メイズに協力を仰いでいるという訳である。
「いいんじゃない。ねぇ、女将さん。」
偶々、昼食を取りに来ていた筋肉の化け物。顔にはしっかりと化粧が施され、身を包む服装は女性物。クネクネした独特の動きをした男性。ゲイバーのママさんをやっているフタハ=サイゴーは、宿屋《魔王城》の女将、恰幅の良い正しくおばちゃんと呼べる、口癖が「昔は美人だったんだよ。今はこんなんだけど。あははははは」なメイズの雇い主に許可を取る。メイズの都合等一切関係なしに。
「いいんじゃないかい。人が困ってんなら助けてやりな。」
無情にも女将はカウンターの奥からそうメイズに言い放ったのだ。
「はぁ、それで何時なんですかそのお見合いってのは。」
「ふむ、助かる。三日後だ、ただ、ちょっと条件があってな。」
「…条件?」
メイズは溜息を吐きつつ、日取りを尋ねた。シャランは、メイズに感謝をしつつ綺麗な笑顔を見せつつ、不吉なことを言った。メイズは、その笑顔に引きながら、条件とやらを尋ねた。
「ちょっ、何でですか、それっ!」
「あはははははは、良いわね、それ。私、協力しちゃう。」
その条件を聞いたメイズは狼狽え、フタハは爆笑しながら協力を約束した。
「ふむ、男に二言はない、だろう。」
「僕のセリフです。それに、男でも二言は有ります。」
シャランが故事を出し、メイズを説得しようとするが、それは普通男性側が言うセリフであり、メイズにツッコまれる。それに、心底嫌なことは誰にでもある。メイズはそう言って、何とか逃れようとする。
「メイズ、……やってやんな。」
「ちょ、女将さんっ!」
裏切られたっ!そんな顔をしたメイズの肩がガックシと落ちた。
今回のお見合いはシャランが選んだ8件の男性と一度に行う事となった。これは別に異例という訳ではない。貴族の出会いと言うのは、パーティー内であるのが普通であり、またお見合いの形も家格が上の家が行うのが普通なのだ。
当然、貴族としての矜持を見せつける為にも利用される。盛大になりやすいのだ。ましてや、王家を除けば一番の権力者の家だ。盛大にならない訳がなく。また幾つかの格下の家の人間を呼びつけるのが普通となっていた。
今回のシャランのお見合いも、例にもれず公爵家のパーティー用の離れの大広間で行われていた。しかも、公爵家の力を見せつける為、今回公爵家側は、当主を除き全員女性という条件を付けたのだ。
戦えないという訳ではない。シャランを筆頭に、騎士隊長の一人に若くして選ばれた女性騎士や、元王宮護衛長など、そんじゃそこらの猛者よりも遥かに実力者ばかりだ。間違って手を出して、泣き別れしても自業自得等と言う事は事前に通達されていた。
「ふむ、ミーシャ。怪しい奴は居たか?」
「…はぁ、こんな遠目ではまだ判りませんよ。」
シャランは側に控えていたミーシャと呼ばれた若い女性に声を掛ける。招待されたお見合い相手達は、貴族の礼儀に乗っ取ってこの場に存在する家格の低い家柄の物から声を掛けて回っている。これはこの国の貴族の通例であった。その為、シャランの所までやって来るのに時間が掛かっていた。
「最初に動き出した、ショゼン侯爵は白と判っている。懇意にしている商人も白だ。序に最後の方に動き出したリャカン、ロレバ、ビーバ、ニッシュ準伯爵家の四組は元々数合わせ。財力も高価な操り人形を購入するには身を崩す必要がある。」
シャランは空いた時間を利用して、ミーシャへと各家の説明を小声でする。ミーシャはただ頷いていた。
「怪しいのは、レーゴン伯爵家、ニージン準侯爵家、ホウレン準侯爵家の三組。ここは資金も豊富にあるし、何より懇意にしている商人が隣国で魔導具を扱っている。」
ミーシャは、説明された三組へと目を向けた。レーゴン伯爵家の人間は細身と言うより痩せ過ぎと言えるかもしれない容姿、青白い肌、だがやり手と判る目の光を灯して笑顔で挨拶周りをしている。
ニージン準侯爵家の人間は親の方は少し歳を取り過ぎており初老と呼べるかもしれない。しかし、自然な笑みを浮かべ、好々爺という印象を抱かせた。お見合い相手の息子の方も、好青年と呼べる爽やかな笑みを浮かべたガッシリとした体躯の青年だ。
最後にホウレン準侯爵家の人間は一般的な貴族体形。ふっくらとしており、しかし顔のパーツは悪くはない。親子共々、その政治的手腕は王城内で認められていた。
「これはこれは、シャラン姫様。本日は御日柄もよく。」
「ふむレーゴンか、今この者とお前達の話をしていた所だ。」
「この姫君はいったい?」
「ふむ、隣国の魔導大国家《マナトレア》の現王の妹君だ。名はミーシャ。兄君はこの町のイベント等で有名だろう。私が偶々知り合いでな。心細かったから来てもらったのだ。」
最初に、挨拶回りを終わらせたレーゴン伯爵とその息子が、シャランに挨拶に来た。レーゴン伯爵は、シャランと話している若い女性に興味の目を向ける。シャランは、薄い青色の上等なシルクで作られた肩の部分が出ているドレスを着込み、顔には薄らと化粧が施された血の様な赤い瞳の女性を紹介する。
ミーシャと紹介された女性は、人好きする笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「これは、これは。失礼しました。私はレーゴン家当主ジョン=レーゴンと申します。お見知りおきを。」
ミーシャを紹介されたレーゴン伯爵は、シャランにするように仰々しく頭を垂れたのだった。お気付きだろうが、このミーシャは女装したメイズだ。線の細い小柄な体形に、女顔。声変わりもまだであり、普通にしゃべっても高い声が出るメイズは、誰にも実は男性だと気付かれていない。この事に本人は殊更落ち込んだという。
「おいおい、レーゴン伯、二人も姫君を独占するのはどうかと思うぞ。」
「ふむジャクト、親父さんはいいのか?」
レーコン伯に気軽に話しかけてきたのは、醜いとは言わない。それどころか愛嬌があると言えるだろう少々太り気味の青年であった。ホウレン準侯爵の息子であり、自身も王城で内政官として働く、ジャクト=ホウレンであった。
「これは、姫様、ご挨拶が遅れましたこと真に申し訳なく」
「よい、お前もそんなに畏まるな。」
「へいへい、んで、あんでだよ。」
「数合わせ、知り合いがいないと心細いではないか。」
「あっ、そ。」
実は、小さい頃からその才能を開花させていたジャクトは、まだ王城暮らしだったシャランと幼馴染であり、シャランに挨拶が遅れたことを仰々しく謝るのをシャランが止め、普段通りにするよう命令する。
それに、素直に応じ、疑問を聞いてきた。その疑問とは何故自分をお見合い相手の一人に選んだのか。シャランも、何を聞いてきたのかすぐに悟り、決めていた表向きの理由を話す。
元々、世間話として振ったのか、予想していたのか、返事は素っ気ない者だった。
「…姫様、挨拶遅れたこと申し訳ございません。」
「よい、義父上が張り切ってしまったしな。」
「はっ。」
最後にニージン準侯爵家が挨拶に来た。ニージン準侯爵家は騎士として成り上がって来た家だ。好人爺とした笑顔を引込めると、他の貴族以上に礼儀が固かった。シャランがふざけて、そう言っても、一つ頷くだけに留まる。
まだお見合いは始まっておらず、挨拶回りの場としてこの時間を設けていたが、上手く容疑者ばかりが、この場所に集まっていた。
「ふむ、まだ時間もあるし、この間に姫様の武勇伝でも聞きたいですなぁ。」
「ほう、構わんぞ。」
ニージン準侯爵の空気を読まない固さに、困っていたシャランを助ける為、レーゴン伯爵がそう提案する。この話は、元々切り出すつもりだった。
ただ、流れが可笑しくならない様に、どの様に切り出そうかと思っていたシャランには助けとなっていた。
「なら、姫様は術者を探したのですな。」
「ああ、だが何処にもいなくてな。」
「それは、仕方ないでしょう。」
「だろうな。操り人形なんて代物を体内に埋め込むなんてな。」
「隣国には厳重に抗議しなくてはなりませんな。」
シャランの話を聞いていたレーゴン伯の質問に、シャランが答えるとホウレン準侯爵が仕方ないと言う。ジャクトもそれに続き、ニージン準侯爵の息子エイザス=ニージンが隣国に抗議する旨の確認を取る。
ミーシャはこの間、ニコニコ笑いながら静かに話を聞いていた。犯人がポロリと漏らした証拠に内心では驚いていたが。ミーシャが気付いたのは、この話をするよう言ったのはミーシャことメイズだからだ。
まさか、こんなに早く犯人が判るとは思ってもみなかった。直情型のシャランには、嘘がつけないだろうと、意図的に二つの事柄を伏せて話すよう言ってあった。犯人しか知りえない事を、こうも簡単に口に出すとは思ってもみなかったし、もう少し滑稽な人物と予想していたが、まさかこんなにもあっさりと、自分から白状してくれるとは思ってもみなかった。
しかし、その父親は動揺していない。と言う事は、息子の独断なのだろうか。メイズはもう少し観察を続けた。