メイドの一人がパーティーの用意ができたと呼びに来た。今回は唯の貴族の見栄の為のパーティーではなく、シャランのお見合いなのだ。この会場が主という訳ではなく、この大広間は貴族同士の挨拶回りに利用できるようにと解放された場所なのだ。
公爵側が用意した女性陣も複数人貴族位を持つ人間が混じる。それも、伯爵や準侯爵といったお見合い相手と同格の家の者達だ。当然、招待されているお見合い相手達は知り合いになる為動き出す。その予想は簡単に出来た為、この大広間で待っていてもらったのだ。
招待側の人間が一人もいないのは、色々と問題がある為、主賓たるシャランが控えていたという訳である。公爵家のメイドが、そのシャランを呼びに来たという訳だ。当然、お見合いが始まるという合図でもあった。
シャランがメイドに連れられて大広間を出ていく。そのシャランに付いていく存在が居た。ミーシャだ。ミーシャは曲がりなりにも大国の姫だ。その姫に例え不可抗力だろうと何かあっては大変だ。その為、今回の主賓たるシャランの護衛と称してシャランが護衛しているという建前があった。
ミーシャの正体はメイズだ。例え魔王が複数攻めてきても、油断しきっていようが無傷で圧勝するメイズだ。万が一等ありはしない。当然、シャランに付いていくのはその建前を利用し、シャランに犯人を教えるためだ。
「それで、判ったのか。」
「はい、少なくとも一組まで絞り込めました。」
「一組?」
「まだ、個人でなのか、家ぐるみなのかは判りません。」
お見合い会場に行くまでの廊下で、吹き抜けになっている為盗聴等の心配が要らない場所である。そんな場所でシャランはミーシャに犯人について聞く。ミーシャはこの短い間では、まだ家名しか特定できていなかった。
だがこのままではいけない。そこでシャランに、一つの策を実行してもらう。
「わ、私がかっ!?」
「お願いしますね。」
その策にシャランが狼狽えるも、ミーシャは良い笑顔でお願いする。
「意趣返しにしては厭らし過ぎるぞ。」
「頑張ってくださいね。」
その笑顔に女装させられたメイズの意趣返しも含んでいる事に気付いて、シャランは慌てながら、ミーシャを非難するも、ミーシャはニッコリ笑って語尾にハートマークが付くような応援をシャランに送った。
その言葉にダァーと滂沱の涙を両目から流すシャランが居た。
「き、器用な事をしますね。」
シャランのその人の構造を超えたような涙の流し方に思わず引くミーシャ。
「うむ、練習したらできるようになったぞ。」
「練習してできるものなんですかっ!?」
今だ、滂沱の涙を流しながら、胸を張るという器用な、一種異様な光景を作り出しながらシャランは胸を張る。そして、言い放った言葉に思わずミーシャがツッコンだ。
瞬間、目の前の扉がバッ…ーンと扉が千切れ飛ぶんじゃないかと心配になるような勢いで吹き飛んだ。…いや開いた。ワラワラと中からメイド達が出てきて、シャランとミーシャを取り囲む。
「ふむ、お前達を忘れていたな。」
「へっ、このメイドさん達がどうかしたのですか。」
シャランがそのメイド達が見た顔である事を確認し、ポツリと零した言葉を、ミーシャが不振に思い尋ねる。もしや、犯人達のスパイでも潜んでいたのかと慌てて、シャランを見つめるが。
「強く生きろ。」
「はい?」
シャランがミーシャにとっては意味不明な言葉をミーシャに送った。瞬間、爆発的な歓声がミーシャを襲った。シャランは、判っていたのか確りと耳を塞いでいた。直撃してしまったミーシャはグワングワン頭が揺れている。
「お嬢様、ずるいじゃないですか、メイズ様がいらっしゃるなら我らメイズ女装メイド隊に連絡してくださいよ。」
「なんですかっ、それっ!!」
複数のメイド達に担ぎあげられながら、メイドの一人がシャランに言った文句を聞き取ったメイズは思わずツッコム。
「ふむ、我が屋敷のメイド達は女装したお前のファンでな。勝手に会を立ち上げた。」
「ちょっ、なんなんですか!!」
「因みに、私は会員ナンバー一番だぞっ!!」
「聞いてませんっ!!」
シャランの説明にミーシャは慌ててメイドから逃れようと、暴れながらツッコム。しかし、何気に拘束はきつく、逃れることはできない。暴走した女性は恐ろしいとメイズは震えた。
胸を張ったシャランの何処かオカシイ自慢とカミングアウトに思わずツッコンでしまい、身を固くした瞬間に、部屋に連れ込まれてしまった。
「ちょ、待って、あっ、やめっ、ひん。」
バタンと閉まった扉の中から、ミーシャの色っぽい声と、メイド達のキャアキャアと言う声が響いてくる。スルスルという衣擦れの音まで聞こえてくる。
「ちょっ、そこはダメェ…。」
更にドタバタと中で暴れていると思われるミーシャの声が聞こえてきた後、シーンと静かになったと思ったら、また歓声が轟く。
「かわいい。」
「こんな身形でもしっかり男の子なんだ。」
「小っちゃいピー…。」
「私も、まぜろぉっ!?」
その後聞こえた、メイド達の声に聞こえてはいけない言葉が出てきた為、慌ててシャランは部屋の扉をバーンッ…と開く。自身も混ざる為と言う時点でメイズに味方は居なかった。
「…もう、お婿にイケない…。」
シクシクと部屋の隅でしゃがみ泣くメイズに、シャランを筆頭とした女性陣は、メイズの身形、今はミーシャの容姿とも相まって、小さな子を泣かせた罪悪感に苛まれていた。
「ふむ、私が貰ってやるから安心しろ。」
「何処を、如何安心しろとっ!?」
なんとかシャランがミーシャのセリフに答えを返すもメイズが涙目で見上げながら抗議してきた。
「うっ!!」
「シャランさん?」
天然で、思わず唸ってしまうような上目使いを使ってくるミーシャに、文字通り唸って顔を背けてしまった。それを不思議に思ったミーシャは詰め寄った体勢のまま、首を傾げた。それが、シャランの劣情を誘っている事も知らずに。
「すまなかったな。少々、浮かれていたようだ。私もお見合いで緊張していたのかな。」
シャランは裏で葛藤を抑えながらメイズに謝罪する。
「こいつらも、やり過ぎとはいえ、緊張を解してくれただけだろう。許してやってくれ。」
「あっ、はい。許しますよ。」
シャランの真摯な態度の謝罪に、思わず毒気を抜かれて許してしまったミーシャ。
「ありがとう。」
シャランはお礼を言いつつ、ミーシャを腕の中に抱き込む。ちょうどミーシャの顔がシャランの豊満な胸に収まるようにだ。
「うっぷ、シャランさん?」
「まだ、泣いてるだろう。肩が震えてるぞ。少しそこで落ち着くと良い。」
「…はい。」
困惑したミーシャに、そう言ってジッとさせる。ミーシャは、そっとシャランの背中に手を廻していた。シャランは顔を見られなかったことに安堵する。
何故なら、ドバドバと鼻から愛が溢れていたからだ。ミーシャが背中に手を廻してきた時なんか、思わずガッツポーズをしてしまう所であった。
そこでシャランはメイドの一人目が合う。そのメイドは笑顔で拳を見せてグッドジョブと無言で言っていた。