魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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第三十一話 開演。

 「これで大丈夫です。」

 

 「あっ、ありがとうございました。」

 

 「いえいえ、元々私達が脱がしてしまったんですから、構いませんわ。」

 

 乱れた服装や泣いてしまいグチャグチャになってしまった化粧等をメイドに直してもらっていた。ミーシャはメイズだ。メイズは男であり、当然、可愛いからという理由で、着せられたドレスの複雑な構造等知らず、自身で直せなかった。化粧は言うに及ばず。それをメイズの正面で直していたメイドは、役得とばかりに張り切っていた。

 

 メイズはそれに気付かず、お礼を言い、メイドは内心を完全に隠しながら言葉を返していた。結局あの後、中々来ないシャランに業を煮やしたラーシャンが呼びに来た。その時、まだシャランはミーシャを抱きしめたままであり、しかもミーシャことメイズの服装はあられもない姿になっており、更にミーシャはシャランの抱きつきながら泣いているのだ。

 

 シャランの方は鼻から明らかに怪我とは違う血を流しながら、床を真っ赤に染めていた。周りに居るメイド達は、良いモノ見たゼと良い笑顔だ。

 

 「うおっ、何をする!?」

 

 「…責任を取れるのですか!?」

 

 「何の話だっ!!」

 

 混乱したラーシャンが勘違いしても仕方が無い状況が生まれていた。室内の様子を見て、固まっていたラーシャンは、動き出す。側に置かれていた金ダライを手に持つと、シャランの後頭部に向かって振り下ろした。

 

 シャランもシャランで、完全に不意を突いたラーシャンの攻撃に反応して見せ、ミーシャを抱きしめたまま、前に跳んで回避して見せた。当然、勘違いしてパニックを起こしていたラーシャンの問いかけに、シャランがツッコミ、メイズが泣き止むまでこの騒動は続いていた。

 

 「それで、お姉様、何故このような小部屋に居られたのですか?」

 

 「お嬢様、それは私達に責がございます。」

 

 ラーシャンの疑問に、メイドの一人が前に出て真相を話していた。

 

 「…何をやっているんですか、あなた達は……。」

 

 「すみませんでした。」

 

 呆れて頭に手をやったラーシャンにメイド達が頭を下げる。

 

 「もう、この話はここまで。時間がもうないですわ。」

 

 「むっ、もうそんなに時間がたったのか。」

 

 「ええ、皆様お待ちですわ。」

 

 それはお見合いが始まるまでもう時間がない事を示していた。

 

 「ふむ、なら急ぐぞ。」

 

 シャランの言葉に、メイド達は公爵家のメイドとしての無駄に高い能力を見せつけ、テキパキと動き出したのだった。

 

 

 

 今シャランは主役としての演出の為、会場と赤い幕で仕切られた裏側に、豪華な黄色いドレスに身を包んで衛士に呼ばれるのを待っていた。

 

 「しかし、このヒラヒラしたのは如何にかならなかったのか?」

 

 「諦めなさい。曲がりなりにもお姉様のお見合いなのですから。」

 

 シャランが着替えたドレスの動きずらさに文句を付けラーシャンに窘められていた。ミーシャは、今回特別ゲストとして公爵達と共に、この演出にて会場にその姿を現す事となっていた。

 

 「心の準備は良いですか?」

 

 「ほ、本当にやるのか?」

 

 「僕がセリフを教えますから。」

 

 「ふむ、わかった。」

 

 ミーシャが、最後の確認の為シャランに声を掛ける。シャランはこのような事を経験したことがない為か、少々緊張気味に尋ねた。ミーシャが補佐することを口にし、やっとシャランは覚悟を決めたようだ。

 

 

 

 「公爵様一行とミーシャ姫様のおなぁありぃい…。」

 

 衛士の声に合わせて、会場の一部に作られた高台、まるで演劇等の舞台のような。舞台の上には赤い絨毯が引かれた段差、階段があった。その階段は舞台の下にまで続いている。

 

 舞台のようなものには確りと幕まであり、その幕が開くと同時に、お色直しをしたシャランと公爵が同時に、その次をラーシャンとミーシャが続いて降りてくる。そして、舞台から降り切った所で公爵が宣言した。

 

 「高位から一時的にしろ、君達と同じ目線に立った。遠慮は要らぬ。お見合いの始まりだ。」

 

 貴族としての見栄や他者に対しての威圧目的で派手な宣言が行われる。拍手が爆発したような歓声と共に会場に響いた。

 

 「少し待ってください。」

 

 その拍手と歓声に負けない、凛とした声が会場に響いた。シャランが待ったを掛けたのだ。

 

 「おやおや、今日の主賓が何かを言いたいようだ。」

 

 公爵が茶化し、シャランに続きを話すように促す。シャランは、ミーシャのすぐ前の段差、公爵とシャランが降りきった所で止まった為、打ち合わせ通りに舞台の上で待っていた。で止まり、会場の方に顔を向けた。

 

 「不躾で悪いが、このお見合いをスッキリした気分で始めたい為、犯罪者を炙り出したいと思う。」

 

 シャランの言った犯罪者と言う言葉に会場中がざわめきに包まれた。

 

 「おいおい、犯罪者と言うのは穏やかじゃないな。」

 

 「はい、下手をすれば国家転覆をも狙っているかもしれません。」

 

 「…それは。」

 

 余りに大きなスケールに一瞬言葉に詰まる公爵。

 

 「なので、此処で犯人を追いつめたいと思います。」

 

 「大丈夫なのかね?」

 

 「はいっ!!」

 

 公爵の問いに、力強く答えたシャランに、公爵は許可を出した。シャランの内心は、ミーシャことメイズに頼り切りではあったが。

 

 「まず、私の言う犯罪とは、この前私が遭遇した魔獣に関係があります。」

 

 ビックベアーの体内に操り人形が仕込まれていたと話すシャラン。

 

 「その操り人形は、隣国産でした。」

 

 「おいおい、じゃあ何か、隣国のスパイでも此処に居るとでも言うのかね。」

 

 シャランが続けた言葉に、レーゴン伯が茶化す。

 

 「スパイなら、まだマシでしょう。そいつは戦争を画策しているようですから。」

 

 「な、なんだってっ!!」

 

 その魔獣、ビックベアーでしたが、後ろ脚で立ちあがったら20メートルありましたから。シャランが投下した爆弾に、会場が沈黙に包まれる。すぐにざわめきを取り戻したがそれは不安故のもの。

 

 その余りに巨体で、しかもその巨体を支える強靭な肉体を持つことは想像に難くない。その巨体が自由自在に街中を走り抜ければ、一体どうなっていたかを、貴族の性なのか、瞬時に損得勘定で描いてしまった。そしてさらに、そのついでの扱いでその情景を描いてしまったのだ。

 

 隣国の所為にすれば、賠償金が取れるから当然、貴族連中は戦争賛成に動く。いや、それどころか煽りに煽るだろう。ここ数十年戦争など無く、新たな土地を求めている者も少なくはない。そういう人間が巨万といたのだ。

 

 「そして、その者はここに居ました。ここ数日、私は操り人形の術者と、その黒幕を探していたのです。」

 

 カリスマを振りまくシャランの演説に、会場中は魅了されていた。シャラン自身は内心緊張でバクバクだったのだが。

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