魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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最終章 争いの果てに。
第三十五話 窓の外。


 窓があった。そこの窓枠に掴まり、外を見る。正面には、高い無機質な壁が存在し、其処から町の様子は見えなかった。

 

 少女にとって世界とは、城の中と窓から見えるこの景色の世界だけだった。それでも城は巨大で、まだ幼い少女にとっては十分な広さを持ってはいたが。

 

 毎日代わり映えしない景色。灰色の城壁等見ても面白くない。なので、必然的に下を見る。いつもの薄緑の芝生の中庭が見える筈だった。その日、その時、その場所は一つの異物を迎えていた。

 

 「……だれだろう?」

 

 少女はその異物に興味を持った。異物とは一心不乱に木刀を振るう金の短髪の少年であった。思い立ったら、即断即決という性格をしていた少女は、捕まっていた窓枠から手を離し、赤い絨毯の上に着地すると、前後に誰もいないことを確認して走り出した。

 

 

 

 「…これじゃ、だめなんだっ!!」

 

 少年の脳裏には大きな背中が映っている。何者にも負けないと思えるほどの巨大な背中が。そんな背中に少しでも近付こうと毎日素振りをしていた少年は、少しも近づけていないと焦っていた。その焦りが悪態となって思わず口をついて出た。

 

 「なにが?」

 

 「うわっ!?」

 

 まだまだ未熟者の自身ですら気付く事が出来るのだから、余程の駄目さ加減なのだろう。そう思い込んだ少年は答えが返ってくることが無いと判っていたが悪態をつかない事はできなかったのだ。

 

 しかし、突然その口をついて出た悪態に疑問と言う形で返ってきた事に驚愕し、それまで木刀を振るい汗を掻いていたこともあって、手から木刀がすっぽ抜け、茂みの中に飛んで行ってしまった。

 

 「…ごめんなさい。」

 

 「君の所為じゃないよ。」

 

 声のした方を見れば、自身よりも幼いクリクリの大きな目をキョトンとさせた金髪の少女が居た。少女は、自身が声を掛けたせいで少年の手から木刀が飛んで行ったのだと理解して謝るが、少年はそれを笑顔で否定して、飛んで行った木刀を拾いに行く。

 

 少年が木刀を拾った瞬間、今居る場所、城の中庭に続く渡り廊下から、少年の父親によって少年は呼ばれた。

 

 「僕、もう行かなくちゃ。」

 

 「…また、あしたもここにいるの?」

 

 「うん、いるよ。」

 

 「じゃあ、またあした。」

 

 少年が少女にもう行くことを告げると、少女は悲しそうな顔をし、あしたも中庭に居るのかを尋ねてくる。少年が、明日も居る事を告げると、パァーっと少女が笑顔になった。

 

 少年が、その綺麗な笑顔に見惚れていると、少女は一言挨拶をして手を振り、走って行ってしまった。

 

 「かわいい子だったな。」

 

 思わず呟いた少年の言葉は、再度少年の事を呼ぶ父親の声で書き消されてしまった。それから、次の日、少年はまた、中庭で木刀を振るっていた。少女は声を掛けようとして昨日の事を思い出し、声を掛けずに近くで見ている事にした。

 

 「……来てたなら声を掛けてくれればいいのに。」

 

 「でもけんがとんじゃうよ。」

 

 「…飛ばないから。」

 

 少年は少女が来ている事に気付いており、振るっていた木刀を止め、少女に声を掛けた。しかし昨日の痴態の事を言われ、思わず赤面しつつ、ツッコミを入れる少年。そうなの?と一瞬目を見開いた少女は何が面白いのか、次の瞬間にはカラカラと笑い出した。少年も笑われたことに腹を立てたが、次第に笑いが込み上げてきて一緒に笑っていた。

 

 「いつもここでけんのれんしゅうしてるの?」

 

 「うん、僕の練習場所はまだ此処だよ。」

 

 少年はまだ自身が幼いと言う事を理解しており、騎士や候補生達が使う運動場では邪魔になると思い、この中庭で剣の練習をしていた。

 

 「へ~、そうなんだ。じゃあ、いっしょにあそべるね。」

 

 「なんでそうなるのっ!無理だよ、僕は練習しなくちゃ。」

 

 「あそんでくれないの?」

 

 「うっ…。」

 

 少年が、毎日中庭に来ている事が判ると、少女は無邪気に一緒に遊べると喜んだ。しかし、少年は剣の練習があり、それを否定する。すると、先程まで満開の笑顔だったのが途端に悲しみの色に変わる。その翠色の大きな瞳に涙一杯浮かべて、少年に尋ねた。思わず、呻いてしまった少年は、何とかしようと必死に頭を働かせた。

 

 「そうだ!一緒には遊べないけど、一緒に剣の練習してみる?」

 

 「いいの?」

 

 「うん、基本的な事だけ、だけどね。僕が教えてあげるよ。」

 

 「やったぁ。」

 

 少年は何とか思いついた事を少女に提案すると、少女はその潤ませた瞳を一杯に広げて、尋ねてきた。少年が、基本だけと言うよりは自身の教えられることだけだが、教えるというと、ピョンピョンと可愛らしく跳ね、全身を使って喜んだ。

 

 「でも、明日からだね。もう日が沈むよ。」

 

 「うん、またあしたね。やくそくだよ。」

 

 話しているうちに、時間がたっていたのだろう。太陽が、朱く染まっていた。少年は、それを指摘し少女は慌てて駆けていく。少年もまた父親に呼ばれて、中庭を後にした。可愛らしい後輩で弟子に会える、明日を楽しみにしながら。少年は少女に幼い恋をしていた。

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