次の日も雲一つない見事な晴天。このところ晴れ間が続いているが、この国の特徴であるので、なにも心配してはいない。
「おはよう。」
「おはよう。今日ははやいな。」
「うん、たのしみで、はやおきしたの。」
少年が中庭で何時も通りに木刀を振っていると、何時もは昼過ぎにやって来る少女がやってきた。少女にそのことを尋ねると、少女は今日の訓練が楽しみで目が覚めてしまったのなのだと言う。
思わずそのことに微笑ましい気分になりながら、少年は持ってきた小さめの木刀を少女に渡す。この木刀は少年が少女ぐらいの年代の時に使っていたものだ。調度良いと思い、昨日家に帰ってから探し出したのだ。
「あげるよ。」
「いいの?」
「うん。」
「ありがとう!」
渡された木刀を見て、キョトンとした顔をする少女に、少年は木刀を譲ることを告げる。流石に少女に木刀と言う無骨な物をプレゼントするのはどうかと思ったが訓練には必要だ。
少女は少年を見上げ、本当にいいのかと尋ねる。少女の様子に照れながら少年が頷くと、少女は満面の笑みでお礼を言ってきた。
「今度から、僕は君の師匠だな。」
「お~、ししょうだ。」
少年が照れ隠しにそう言うと、少女はオウム返しで喜ぶ。それを見てまた照れる少年、思わず手で顔を覆ってしまった。
「…あたまいたいの?」
「…いや、違うから。」
少女が顔を覆ってしまった少年の心配をし、顔を覗き込んでくる。少年は思わず少女の肩を掴み、腕の幅一杯まで引き離した。
「ほら、練習するぞ。」
「うん、練習、練習。」
照れ隠しに突き放した言い方になってしまったが、少女は嬉しそうに少年の真似をした。
「すごいな。」
「…わたし、すごいの?」
「…ああ。」
少年は、少女に素振りを教えた。少女は少年に教えられた事を完璧に吸収して見せ、少年を驚かせていた。それだけではない。自身でも下手だと判っている少年、自身の力量を正しく把握できると言う事は其れなりの実力はあると言う事だ。が見た所、少女はまだ始めたばかりなので当然だが、稚拙な部分があるがそれでも、上手いと言える才能を見せていた。
思わず、嫉妬してしまい少々、素っ気ない返事になってしまったが、少女はまたも喜んでいた。
「おーい、もう帰るぞ。」
「はーい、今行きまーす。」
今日は帰るのが早いなと思いつつ、呼びに来た父に返事を返す。何時もは、太陽が朱くなってからだが、今日はまだ日が傾き始めたぐらいだ。
「もういっちゃうの?」
「ああ、また明日な。」
「うん…。」
少女が寂しそうに顔を伏せる。少年は、慌てて何とかしようと考え、あることに気付いた。
「そう言や、名前知らなかったな。」
「…そうだね。」
「僕はエイジス=ニージンだ。」
「うん、わたしはシャランだよ。」
宜しくなと少年が手を差し出すと、嬉しそうに少女シャランはエイジスの手を握った。その手の柔らかさと温かさに、何故か感動を覚える。
「じゃぁ、また明日な。」
「うん、バイバイ。」
可愛く手を振るシャランに、手を振りかえしてエイジスは父親の後を追いかけた。
「可愛い子じゃないか。名前は何と言うんだ?」
「シャランって名前だよ。」
帰り道、父親の横に並んだエイジスに父親はからかいを含め、エイジスと共に居た少女について尋ねる。エイジスは父親のからかいに気付いているのか判らない、真直ぐな態度で答えた。
だが、エイジスの父親は、少女シャランの名前を聞くと、目を見開いて驚きを露わにし石の様に止まった。
「父さん?」
「いや、なんでもない。まさかな…。」
エイジスはそんな父親の様子に、首を傾げながら、子供らしく無邪気に明日を楽しみにしていたのだった。