魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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第三話 書き入れ時、最強は誰だ。

 「こっち三つ追加ぁ。」

 

 「コロステまだっすかぁ。」

 

 「ランちゃん好きだ!!結婚してくれ!!」

 

 宿屋《魔王城》の夜は騒がしい。注文の声が飛び交い、ランを軟派するバカも増える。

 

 なぜなら宿屋《魔王城》の飲食スペースは夜には酒場と変わる。酒場と冒険者、と聞いて一般的には荒くれ者の喧嘩の絶えない騒がしい場所というイメージが湧くだろう。しかし、ここ宿屋《魔王城》の酒場は違う。騒がしさこそ有るものの、普段の御ふざけの域がでない。

 

 「エンジ、3番テーブル三つ追加っ!」

 

 「おつまみコロステーキお待たせいたしました。」

 

 「また奥様に怒られますよ。」

 

 そんな書き入れ時にメイズもランもエンジも、大忙し。息をつく暇もなく、普段はヌッタリと歩く炎小僧ですらあっちにこっちに走り回る。だが何よりも誰よりも忙しいのは、厨房の奥の扉から出た場所に設置された酒蔵の中の二人だろう。

 

 酒魔憎と酒仙人の酒の精霊二人だ。酒仙人は、この世に存在する酒なら何でも魔力を代償に作る事が出来る。酒魔僧は、酒で有れば例え一滴からでも量を増やす事ができる。

 

 時間こそかかるが、無限に酒を造れる。そんな二人が悲鳴をあげるのだ。

 

 どれだけ飲むんだこの国の人達は。そう問えば、ある意味勇者の国だから。こう返されるだろう、それほど飲むのだ。

 

 酒が入れば理性も緩む。それは仕方ないだろう。ある程度は大目に見てもらえるだろうが、それでも喧嘩は尽きない。

 

 「てめっ、家のカミさんが馬鹿だってのか!!」

 

 「そりゃ、そうだろ。テメェとなんざ引っ付いたんだからな。」

 

 「ふざけんな、そういやお前家のカミさんにホノ字だったな。ハッハァ~ンさては妬いてんのか。」

 

 「何だと、こらっ、もっぺん言ってみろ。」

 

 「そういう事なら仕方ないよな。うん、うん。」

 

 そんな下らない言い争いから殴り合いに発展してしまった。じゃぁ、何故先の様なことが言えるのか?それは…。

 

 喧嘩していた二人の頭からゴイーンという音と共に、ジュワッという何か焼ける音がした。

 

 「「ッアッツ、イッテっ、熱痛っ」」

 

 「お馬鹿どもっ!!喧嘩するなら外でやりなっ!!」

 

 右手にフライパン、左手にお玉を握り、我が宿屋《魔王城》最強の女将さんが降臨なさるからだ。体格の良い、冒険者二人を俵抱きにし、外に捨てに行く。謝ろうが喚こうがお構いなし。これがこの宿屋のルールであった。

 

 最強の魔王すら思わず顔を引き攣らせてしまう女傑。それが宿屋《魔王城》の女将なのだ。いったい何者なんだという声も、少なからず上がるが、なんてことはないただの宿屋の女将である。

 

 ただ、幾ら全大陸中で一番弱い魔物が出てくる最初の町とはいえ、この最初の町の商売人は商魂逞しく、冒険者や兵隊以外で魔物に対抗できる人間が多いのは確かであった。

 

夜が来れば、朝が来るのも当たり前だ。宿屋《魔王城》のベットはウォーターベットである。適度の反発力が肩と腰の負担を和らげ、しかし体が沈み包み込まれると錯覚させる柔らかさは、快適な安眠を約束させる。

 

 「ふぁ~、よく寝た。」

 

 それは従業員のベットも例外ではなく、一応宿屋《魔王城》の企業秘密が詰まった大量生産品だった。

 

 ただ、客と違うのがベットメイクは自分で行う物であること。当たり前であるが、メイズはベットのシーツを剥がす。シーツの下から現れたのは水色の軟体魔物であった。

 

 「メイズ様、4号室のスライムが足りません。」

 

 「判った、後で足しておくよ。」

 

 宿屋《魔王城》のベットはスライムで出来ている。スライムと言えば水色の軟体生物で打撃に強く、繁殖力旺盛で、複数で行動する魔物として有名だ。この近郊にも出現する。種類が豊富で様々な能力を有する。その中で、ウォータースライムがベットに採用された。

 

 このウォータースライム、地熱を餌兼体温代わりにする為、夏は涼しく、冬は暖かい如何にも環境にやさしい魔物だ。弾力も丁度によく、宿屋《魔王城》の人気を支えている。

 

 「あら~、スライムがペチャンコだな。飼い替え時だったか?」

 

 メイズはシーツの下のスライム入れを確認すると、ウォータースライムの一匹が亡くなっており平らになっていた。ベットにウォータースライムは七匹程入っており、一匹や二匹亡くなっても問題はないのだが、それでも少しでもお客様の安眠を守る為、メイズはスライムを召喚するのだった。

 

 「……ふむ、メイズか。おはよう。」

 

 「あっ、シャランさん。おはようございます。よく眠れました?」

 

 メイズがベットメイクを終えて、廊下に出ると奥の部屋に泊まっていたまだ寝ぼけ眼でシャランが挨拶を掛けてきた。手の甲でゴシゴシと目を擦っているシャランにメイズも挨拶を返す。

 

 「スライムとは言え、魔物の上で寝ていると思うと寝付けないかと思っていたが、なかなかどうして…。いいものだな、あれは。」

 

 「あはは。ありがとうございます。ここはお客様に安らぎと安眠を提供する宿屋《魔王城》ですからね。」

 

 「…不思議だ。別の意味に聞こえる。」

 

 「酷いですよ。あっ、朝食がもうすぐですね。それではこれで。」

 

 「うむ。」

 

 メイズはシャランとの世間話を終わらせ、残りのベットメイクを急ぐのだった。ガラスのはまった窓から外を見れば、空は青く澄み渡り、白い雲が流れる。今日も平和だ。

 

 朝日の降り注ぐ中、起き始めた町の喧騒にそんなことを思う魔王であった。

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