魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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第四十話 抗議。

 この先にある玉座の間に向かって、赤い絨毯が引かれた廊下を突き進む。玉座の間の扉を守る騎士二人が此方に気付き、左右に避けながら扉を開いた。

 

 例え会議中だろうと、入ることが許されているこの国の姫君たるシャランなら、余程の事でない限り歩みは止められない。

 

 シャランの正面、玉座にドッシリと腰掛けた王シュカン=ブレイブ、シャランの父親である存在に向かってシャランは叫ぶように口を開いた。

 

 「何故、私は付いて行っては行けないのですっ!!」

 

 「その話か、当たり前だろうに。」

 

 

 シュカンはシャランの存在に気付き一度シャランの方へと顔を向けるが、側にいた大臣との話に戻る。シャランの訴えに、シュカンは顔すら向けずに一蹴した。

 

 「お前は、この国の姫なのだぞ。」

 

 「…判っております。」

 

 もう一度訴える様に口を開いたシャランの気勢を制するように、シュカンがシャランの方を向き、シャランに現実を突きつけた。シャランは、手を強く握りながら、耐える様に言葉を絞り出した。

 

 「…失礼します。」

 

 「うむ。」

 

 何かを耐える様に、いや事実耐えているのだろう。震えた声で、退室の言葉を紡ぎ、シャランは玉座の間を後にした。

 

 「これで諦めてくれましたらいいのですがね。」

 

 大臣の言葉にシュカンは無理であろうなと内心呟く。父親としてシャランの性格は知っていた。

 

 

 

 

 ズダーンと空気を震わせる音がした。シャランが、廊下の壁を叩いた音だ。知らず知らずのうちに噛み締めていたようだ。ギリッと歯が鳴った。

 

 「知ってるさ、そんな事っ!!」

 

 心中を言葉にして叫んでも、気は晴れない。シャランとて自身が、この国の重鎮、姫君だと言う事は理解していた。この戦士の真似事だって、あくまで真似事だから許されていたに過ぎない。まだ幼い自分の御飯事。本当に命に関わるような事は許されないとも。

 

 だが、それでも知っている親しい人達が、自身の知らない所で命を賭けるのを容認出来はしなかった。今回の事件の発端は、魔の森に住まう魔獣の繁殖期だった。繁殖期に入ると、魔獣は大小様々だが、爆発的に数を増やす。増えた魔獣は魔の森から溢れ出し、人の住まう領域まで出てくる事があった。

 

 当然魔獣なので、人を襲い、食らう。甚大な被害を出すのだ。そうなる前に、繁殖期にはこの国の攻撃の要、戦士隊を魔の森に派遣し、魔獣狩りを行うのが通例となっていた。新米の戦士ですら、こと戦いにおいてはそんじゃそこらの魔獣では相手にならない程である。誰かが傷付く事は考えられなかった。

 

 だが、もし万が一にもシャランが傷付けば、自国の姫を危険に晒し傷付けたと成れば話は変わってくる。その為、エイジス達にシャランは置いて行かれたのだ。

 

 「だが、私だって戦えるんだっ!!」

 

 シャランはついて行きたかった。少なくとも足手纏いになるつもりはなかった。だが現実にシャランは此処にいる。

 

 「姫様っ、なにをしているんですかっ!!」

 

 「むっ。」

 

 突然前方から声を掛けられた。甲高い少女の声だ。伏せていた顔を上げ、其方に目を向けると一人の少女が居た。

 

 シャランはその少女を知っている。レーテル公爵家の令嬢で、名前をラーシャン。剣ばかり振っているシャランを心配したシュカンが公爵に命じ、シャランの遊び友達になった少女であった。

 

 「っ!少しお待ちくださいっ!!」

 

 ラーシャンは慌てて、白い清潔なハンカチを取出し、破るとシャランの手を取りその破ったハンカチを巻き始めた。シャランも気付かぬうちに、強く握りしめていたらしい。食い込んだ爪が掌を傷付け、血が流れていた。

 

 「これでよしっ!姫様、応急処置は致しましたが、所詮素人のものです。医務室で治療をお受けください。」

 

 「あ、ああ。」

 

 ラーシャンのやり遂げた顔に気圧され、不格好な部分にはあえて触れなかった。ラーシャンは、一言忠言を言い、シャランが頷くのを確認すると、満足気に笑顔で頷いた。やや、失礼にあたるが、顔見知りの上、シャランは妹の様に扱っている。それにこの垣根の無い空気がシャランは好きだった。

 

 「…ラーシャン。」

 

 「はい、何ですか?」

 

 シャランはラーシャンに声を掛けた。この子なら大丈夫だろうと思ったからだ。高位貴族のそれも公爵家の令嬢だ。口も堅いだろう。

 

 「…エイジスについて行きたいが私は姫だ。私は如何したらいい。」

 

 「ついて行けばいいじゃないですか。」

 

 ラーシャンは即答であった。一切の淀み等なく即答してしまったのだ。ラーシャンは後にこの事を大いに後悔するようになる。

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