魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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第四十二話 思いを背負って。

 シャランは、西に向かって大通りを走る。背中に背負った無骨なバスターソードの重さを感じさせない文字通りの風の様な速度で駆け抜けた。

 

 

 

 薄暗い店内に鎚の打ち下ろされる音が響く。シャランは鍛冶屋のオヤジの後ろから、オヤジの仕事を真剣な様子で見ていた。

 

 「いいか、お前さんが持ってきたこの鉄塊石はな。『地圧鉄』と呼ばれる特殊な奴だ。」

 

 鎚を振り下ろしながら、一人呟くように鍛冶屋のオヤジは喋り始める。シャランは、ただ鍛冶屋のオヤジの言葉に耳を傾けた。

 

 「普通の鉄塊石は、鉄の塊に土等の不純物が混じったものだ。」

 

 当然そのままでは脆く使えない。一度その不純物を取り除き、形を整えてやらなければならなかった。

 

 「しかし、何の偶然か、時たまこんな薄っぺらい鉄塊石が見つかる。」

 

 それは、偶々大地の圧力が横向きにかかり、圧縮されるからだ。大地というとんでもない圧力と、摩擦から生み出される熱で成形され、薄い板状までなる。すると本来脆い筈の不純物混じりの鉄は、ちょっとやそっとでは折る事の出来ない自然の合金へと変わる。

 

 これが『地圧鉄』と呼ばれ、武具を扱うものにとっては重宝するものとなる。シャランが持ち込んだものはまさにこの『地圧鉄』であった。

 

 「…お前さんは、外に出る手段を持ってるのか?」

 

 「むっ…。」

 

 「…無いんじゃな。」

 

 『地圧鉄』に『地圧鉄』で作られた鎚を打ち続ける。その傍ら、シャランの目的が判った鍛冶屋のオヤジはシャランに尋ねた。

 

 この繁殖期に、戦士隊が森に入り狩をしていると言っても、森から魔物が出てこないという保証は何処にもない。その為、四方の内三つの入口には騎士団が配備されていた。

 

 当然、この国の姫たるシャランの顔を知れ渡っており、ましてや城から走り去るのを目撃されている。各門には、シャランの事が通達されているだろう。

 

 唯でさえ人の出入りは無い状態で、とてもじゃないが突破するのは難しい。

 

 「一つ方法があるがの。」

 

 「なにっ!」

 

 難しい顔をしていたシャランを見兼ねた鍛冶屋のオヤジが、ポツリと漏らした言葉に、シャランは驚きを露わにする。オヤジは、鎚を振り下ろすのを止め、シャランに向き直った。

 

 「ほれ、持ってみろ。」

 

 薄い板状の物から、シャランの身長を超えるようなバスターソードの形に整えられた地圧鉄をシャランに手渡した。

 

 「うおっ!」

 

 シャランはまずその重さに驚く。見た目以上に軽いのだ。自分のロングソードと同じぐらいの重さだろうか。重心が変わった分、慣れるまでは大変だろうが、それでも十分の出来であった。

 

 「これは…。」

 

 「仕あるまい、これを使え。」

 

 次にその切れ味だ。今まで使っていたロングソードの鞘と同じ材質で出来た鞘に、納めたと同時に真っ二つに切り裂いてしまった。

 

 それを見た鍛冶屋のオヤジが、溜息を吐きながら、奥から茶色い無骨な鞘を取り出してくる。

 

 「どのみち、背負うようにするんだからな。」

 

 リュックサックの様に紐で背中に背負えるようになっている。その紐をオヤジがシャランに合う様に調整してくれた。

 

 「入れて見ろ。」

 

 「あ、ああ。」

 

 滑らかに滑るようにバスターソードは収まった。バスターソードの切れ味で真っ二つになるようなこともない。

 

 「完全に一致したな。」

 

 切れ味が鋭いとはいえ、本来なら鞘を切り裂く事等ないのだ。ただ、問題は鞘よりも剣の方が大きかっただけ。この鞘の様に、鞘の方が大きく、刃に触れなければ大丈夫なのだ。

 

 「はぁ、今さらこれを見ることになるとはな。」

 

 「むっ、この鞘が如何したのだ。少々古びてるようだが。」

 

 この鞘はオヤジがまだ若い頃、伝説の剣を打つと強がって作ろうとして、鞘だけが出来上がったという黒歴史物だったのだ。地圧鉄の形を整える時、もっとも近い形が未完成のこの黒歴史の剣だったというわけだ。

 

 「では、このバスターソードは伝説の剣と言う事だな。」

 

 「…たく、姫さんは。」

 

 シャランの綺麗な笑みに年甲斐にも無く赤くなった。テレ隠しに、シャランを追い出しにかかるオヤジ。

 

 「ほれ、急ぐんじゃろ。さっさと行け。」

 

 シャランは背を押され、店から追い出される。慌てて、振り返るとオヤジの背中が見えた。

 

 「冒険者になれば外に出られるぞ。冒険者ギルドは西地区の大きな古い建物だ。」

 

 それだけ言うとオヤジは店の中に入っていった。シャランは感謝を込めて無言で店に向かって頭を下げると、走り出した。

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