魔王は最初の町の宿屋にいる。   作:yosshy3304

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外伝1 勇者の物語

 時刻は昼間の筈なのに、暗黒に包まれた草原を行く。目の前にはこの世の混沌のみを凝縮したような城が存在していた。

 

 突如、空に光が走る。轟音と共に近くの木に雷が落ちた。だが勇者一行は怯まず歩みを止めなかった。

 

 やがて巨人でも住んでいるのではないかと思える程の巨大な門に到着する。魔王城の外門だ。だが町等があるわけではなく、敵対者に対する備えだろう。内門が外門のすぐ側にあるのが隙間から見える。足元には紫色の大地に申し訳程度に飛び石が置かれていた。

 

 「ついに、ここまで来たか。」

 

 「そうね。次から次に難題が押し寄せてきたからね。2年もかかっちゃった。」

 

 「それでも、それらを解決してきたじゃないか。俺ら強くなってるぞ。」

 

 「魔王に通用すればいいのですが。一応言っておきますね、逃げたい人がいればどうぞ。」

 

 「居るわけないだろう。」

 

 感慨深く呟く勇者ウオイスに、過去を振り返る聖僧(女)リナルール。筋肉隆々だが細身の格闘家バックルが励ませば、メガネを掛けた魔法研究者マナサキがパーティの決意を確かめる。

 

 決意等旅立った日に決めていた全員が当たり前だというようにその場に残った。

 

 「それじゃ、開けるぞ。このボタンで開くはずだ。」

 

 最後に寄った人が住む町で聞いた魔王城の門の開き方を実行に移す。門柱に設置された小さなボタンを押すだけだ。勇者がボタンに掛けた指に力を込め、今押した。

 

 

 

 

 

                  ピン、ポーーーーン

 

 

 

 

 

 「なんでだよっ!なんでチャイムなんだっ!!」

 

 思わず突っ込んでしまった勇者であった。

 

 

 

 「気を取り直してテイク2。行ってみよう。」

 

 「レポートかなんかか!?」

 

 リナルールの言葉にまた突っ込んでしまう勇者であった。

 

 「それじゃ、開けるぞ。このボタンで開くはずだ。」

 

 最後に寄った人が住む町で聞いた魔王城の門の開き方を実行に移す。今度こそ真面であってくれとウオイスは願いながら、内門の門柱に設置された小さなボタンを押す。ウオイスがボタンに掛けた指に力を込め、今押した。

 

 

 

 

 

                 パ、オォーーーーーーン

 

 

 

 

 

 思わず脱力し、ズッコケる勇者一行。

 

 「ここはこんなんばっかかっ!!」

 

 内門も無事開いたため、ウオイスが突っ込みつつも、中に侵入する勇者。中で待ち構えていたのは、スケルトンの上位、ナイトスケルトンを筆頭とする、巨大な熊の魔物や、魔に落ちた精霊その他ゴーレム等も見える。

 

 

 

 皆ズッコケていたが……。

 

 

 

 「ズッコケてんなっ!!」

 

 「いやいや、突っ込む前にチャンスだから!?」

 

 そういって全体浄化魔法を魔物にぶち込むリナルール。効果は抜群の攻撃に慌てて魔物側が反撃に移ろうとすると……。

 

 

 

 

 

                 ニャ、オーーーーーーーン

 

 

 

 

 

 再び鳴る玄関のチャイム。勇者と魔物達は思わずズッコケていた。犯人はマナサキ。扉を開けたままチャイムに指を掛けていた。

 

 「ふむ、押すごとに音が変わるのですね。如何な構造なのでしょう。」

 

 「そんな事はどうでもいいだろっ!?戦えよ!」

 

 「いえいえ、ほら。もう終わりますよ。」

 

 マナサキが指差した方向では、リナルールが全体浄化魔法で魔物軍団を倒すところであった。

 

 「……こんなんでいいのかなぁ…。」

 

 その、勇者一行と胸を張って言えないような遠慮のなさに、思わず呟いた言葉が広い空間に吸い込まれて消えた。

 

 旅の途中では多数の魔物を降してきた。それこそ困難ともいえる難敵ばかりを。この魔王城に存在する魔物はそんな難敵すら凌駕していた。楽だったのは思わぬ奇襲が成功した玄関だけであった。

 

 二階に上がる階段を登れば、魔物のメイドに強盗が来たと叫ばれ、大騒動に発展。ここは魔王城で、自身はその魔王城の主を殺しに来た勇者。見方を変えれば確かに強盗である。しかし、それは違うだろうと言いたい。

 

 曲がりなりにもと言うか、歴とした勇者である。それが魔王を打倒しにきたら強盗呼ばわり。やる気を奪われた勇者ウオイスであった。

 

 そんな魔物も頭を抱えつつ降して勇者は最後の扉の前に立つ。強者としての余裕だろうか。階段手前から真直ぐ、この扉の中まで赤いカーペットが引かれていた。

 

 「行くぞ!!準備はいいか?」

 

 勇者の問いかけに、リナルールは待ったを掛ける。

 

 「……どうした?」

 

 「呼び鈴がないよ!?」

 

 「無くていいだろっ!?」

 

 最後なのに締まらなかった。

 

 

 

 無駄に広い空間、いや、この空間が人の心理に威圧感を与えているのだろう。なにせ生活感というものが何もないのだから。そんな広い空間にポツリと豪華な椅子があった。玉座だ。その玉座にどっしりと座り、視線を勇者一行の方へ向けている存在がいた。

 

 「フハハハハハ、よく来た勇者と名乗る愚か者よ。」

 

 「魔王、今世界を覆っている闇を掃わせてもらうぞ。」

 

 「くくくっ、人とはつくづく愚かなり。やって見せよ。」

 

 あんな仕掛けをする魔王でも魔王なのだろう。魔王が威圧感たっぷりに口上を述べれば、勇者が魔王を倒す宣言をする。そんな空気の中、バックルがあることに気付いた。バックルはマナサキとリナルールと共にしゃがみこんで気付いた事を耳打ちする。

 

 「……えっ、あれって鼻毛なの!!髭だと思ってた。」

 

 「剃り残しかと思ってました。」

 

 「…おもっいきり、鼻から出てるぞ。あれ。」

 

 無駄に広い空間の為、リナルールの思わず叫んだ言葉が反響する。

 

 魔王の口の上、チョロンと左右にでた毛がある。が、どうも口の上の部分からではなく、鼻の穴から出ているようだ。左右いっぺんに……。

 

 「………………。」

 

 「ぬぉおおおおおおお、そんな目で我を見るんじゃない!!」

 

 勇者の生暖かい目で見詰められ魔王は、そう叫びつつ、ダッシュで玉座裏の衝立の裏に走りこむ。

何とも締まらない魔王との対面であった。

 

 剣劇の音が玉座の間に響く。鼻毛については無かった事にした勇者と魔王が玉座の間で切り結んでいるのだ。魔王の魔法で強化された腕に勇者の持つ聖剣が食い込む。

 

 「くっくっくっ、なかなかやりおるわ。暇つぶしには調度良い。」

 

 「暇つぶしだと、貴様は暇つぶしで、世界中の人々を苦しめているのか。」

 

 「当り前であろう。我は魔王ぞ。」

 

 勢いよく二人は同時に後ろへ跳んだ。距離が離れる。魔王の呟きに勇者が問えば、当然とばかりに答える魔王。それを聞いて怒りを燃やす勇者。だが…。

 

 「だが、少々千日手になってきたな。さて、こんな趣向はどうだ。」

 

 魔王が呪文を唱えると、魔法陣が浮かび上がり、魔法陣の中心地から銀で出来たゴーレムが出てきた。

 

 「むっ、シルバーゴーレムか。だが、一匹程度で俺たちが苦戦するとでも。」

 

 「なに、慌てる出ないわ。こんなものも用意してある。」

 

 勇者が息巻くと、魔王は懐から手鏡を取り出した。それを、召喚されたゴーレムに向ける。するとゴーレムが二匹に増えた。

 

 「なんだとっ!!」

 

 「無機物しか増やせないがな。映せば映した物が倍になる魔法の鏡だ。」

 

 「ぐっ、くそ!」

 

 先ほどまで、魔王一人に押されていた。シルバーゴーレム一匹でも増えれば不利になる。だが、まだ何とかなった。しかし、それが二体ともなれば大変なこととなる。

 

 魔王は手鏡が割れては大変だと玉座に置き、勇者と相対した。

 

 

 

 「がふっ!」

 

 勇者は数合打ち合った末に力負けし、壁際まで吹き飛ばされていた。

 

 「くっくっくっ、脆いなぁ。つくづく人と言う生き物は愚かで脆過ぎる。」

 

 魔王が嘲る。

 

 「ぐっ、鼻毛魔王にここまでやられるなんて。」

 

 「……それを言うな。」

 

 勇者の言葉に思わず、目を反らす魔王。

 

 「ねぇねぇ、勇者さん。」

 

 「…なんだ。」

 

 「聖剣貸して。」

 

 「うぉい。この場面で言う言葉か!?」

 

 満身創痍、聖剣を杖替わりに立ち上がった勇者のマントの裾をチョイチョイと引っ張り、上目使いで、聖剣を強請るリナルール。死人に鞭打つ行為に思わずツッコム勇者。

 

 「魔王に勝つ方法があるのよ。」

 

 「なっ、なに!?」

 

リナルールが口にした言葉に目を見開く勇者。

 

 「本当なのかっ!!」

 

 「うん。だから、貸して。」

 

 「判った。頼んだ。」

 

 真偽は兎も角、今まで一緒に困難を乗り越えてきた仲間を信じた勇者が聖剣を渡す。

 

 「ふんっ、今さら小細工を弄しても無駄だ。如何しようというのだ。」

 

 「こうするのよっ!!」

 

 魔王の言葉にリナルールは聖剣に、その手に持った魔法の手鏡を向ける。

 

 「あああああああぁあああぁぁ、ちょっ、おまっ、いつの間に。勇者のパーティーメンバーが盗みなんかしていいと思ってるのかっ。」

 

 「不用心に置いとくのがイケないのよ。」

 

 魔王が思わず叫び、視線を玉座に向けるが、そこには手鏡がない。魔王が勇者に気を取られている内に手鏡を掠め取ったリナルールが開き直る。

 

 その間にも、聖剣は二本に増え、更に四本、八本と増えていく。

 

 「やっちゃって。魔法研究者。」

 

 「いい加減、職業名で呼ぶの止めません?」

 

 リナルールがマナサキに合図を送ると、マナサキは力場操作の魔法と風の魔法を組み合わせ、聖剣を浮かすと、魔王に向かって打ち出した。

 

 「なっ、にいいいいいいいいぃいいっ…!!!」

 

 その数は数えきれないほど。隙間なくびっしりと、文字道理逃げ場等無い。

 

 「いいのかな?こんな勝ち方で。」

 

 ポツリと呟いた勇者の言葉が玉座の間に虚しく響いた。

 

 

 

 「ぐっ、ぐふ。」

 

 体中に聖剣を突き刺した、虫の息の魔王が、様式美とばかりに無理やり口を開く。

 

 「ぐっ、ははははははは、我を倒しても無意味よ。直ぐに、第二第三の我が生まれるだけだ。ぐはっ。」

 

 そういって完全に事切れる魔王。やがて光になって消えて行った。

 

 「やれやれ終わったか。」

 

 勇者がそう呟いた瞬間。

 

 

 

 

 

 「まだまだ、終わらんよっ!!」

 

 

 

 

 

 玉座からそう声を掛けてくる魔王。

 

 「なっ、なぜ、今確かに倒したはず!?」

 

 勇者が驚き、叫ぶ。

 

 「決まっているではないか。我がここに居る理由はただ一つ。それは…。」

 

 

 

 

 

 「リポップ(雑魚等が、倒されても同じ場所から湧いてくる現象)したからだっ!!」

 

 「お前は雑魚かっ!!」

 

 

 

 

 

 間髪入れずにツッコんだ勇者の言葉が、響いていた。

 

 「まぁ、復活しても関係ないんだけどね。」

 

 そういって、また聖剣を打ち出すリナルール。復活してすぐ死ぬ魔王。

 

 「ぐっ、ぐふっ。ぐっ、ははははははは、我を倒しても無意味よ。直ぐに、第三第四の我が生まre」

 

 そしてまた復活する魔王。

 

 聖剣打ち出す。

 

 「第四第五」

 

 復活魔王。

 

 聖剣バビューン。

 

 魔王アボン。

 

 ………………。

 

 

 

 「第千一第千二の我がre…。」

 

 「ああ、もうメンドクサイ。こうすればいいでしょ。」

 

 「ちょっ、おまっ、がふっ。」

 

 そういって、玉座に聖剣を複数突き刺すリナルール。魔王のリポップ場所は玉座なので、魔王は聖剣を体内に突き刺した状態で復活する。当然すぐ死ぬ。苦しみながら……。

 

 「おおいっ!!(汗」

 

 その鬼畜の所業に思わず勇者がツッコム。

 

 「これっ、外して、ぐふっ。」

 

 「せめて、喋らせろ。がふっ。」

 

 「おまっ、鬼畜っ、げほっ。」

 

 「俺が、魔王だと、ぎぃやぁっ。」

 

 「いつ、言った、げはははらぁっ。」

 

 「本当の魔王様は、ぎぇえええっ。」

 

 魔王は何か言いたいのか、死にながら喋り出す。そして、何とか絞り出した言葉が……。

 

 

 

 

 

 「最初の町の宿屋に居る。」

 

 

 

 

 

 「なっ、なんだとっ!!」

 

 「すごい根性だよね。あの鼻毛雑魚魔王。」

 

 魔王の言葉に驚いた勇者に、ズレタ事を考えるリナルール。

 

 「それは、やめろぉぉぉぉぉぉぉっ、げはらぁっ。」

 

 自分の責任ではあるが不名誉な呼び名にツッコミつつ死ぬ魔王だった。

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