勇者は魔王(雑魚)の死に際の言葉が気になっていた。『本当の魔王は最初の町の宿屋に居る。』最後にそう言い残して光となっていった。魔王との決着がついた、玉座の間。怪我を負い、体力の限界にきていた勇者は体を休めていた。何もすることなく、思考だけが鮮明だった。
「げふっ。」「ぐはっ。」「ぐげっ。」「がはっ。」「ぎぃっ。」「ごはっ。」
後ろで魔王が苦悶の表情で何度も光となっていく光景を無理やり追い出す。
「これからどうするの?」
「どうしようか?」
リナルールの言葉にこれからどうするか頭を抱える勇者。
「倒しに行くんだろ。本当の魔王を、よ。」
「当然だろ。」
それは当然とバックルの言葉に力を込めて返す。
「まずは体を休めることですね。」
「ああ、勿論だ。」
マナサキの言葉に、しっかりと頷いた。
「夜が明けたら、移動魔法で飛ぶぞ。」
三人は勇者の言葉にしっかりと頷いた。
「行くぞ。」
一言だけ声を掛け、移動魔法を唱える勇者。移動魔法は勇者という職業の者だけが使える特別な魔法だ。光を纏い、浮かび上がるも光が弾け目の前の景色が変わらない。
「なっ、なんだと!!」
「くっくっくっ、知らなかったのか?この城では移動魔法は使えない。ぐはっ。」
魔法が発動しなかった事に驚愕する勇者。魔王が理由を説明する。
「普通に城から出て、移動魔法使えばいいだけじゃない?」
「言うな。それを言うんじゃない。様式美というものを考えろっ!!がふっ。」
リナルールが一つの案を出せば、魔王が突っ込みつつ却下をする。
「せめて、力をあわせて、力と知能で乗り越えるんだなぁ。げはははははっ、ぎゃっ。」
ついでにそんな注文も付けてきた。
「ああ、もう、めんどくさい。こうすればいいのよ。」
リナルールはそう叫び、マナサキとバックルと共に壁に向かって歩き出した。そして、魔法を唱える。格闘家は腕に魔力を通し、構えを取った。
「ぶっ壊れろぉぉぉおおお…。」
「って、おおおおい。なんてことしてくれやがりますか、お前はっ!!」
魔王城の最上階、玉座の間に二つ目の外への通路が出来上がった。
「さぁ、飛び降りるわよ。勇者さん、移動魔法よろしくぅ!」
「いいのかなぁ?」
リナルールのお気楽な様子に、疑問に思う勇者。
「あら、いいのよ。だって………。」
「魔法は知能補正だもの。」
「そう言う意味じゃなぁーーーい。ぐげっ。」
魔王の突っ込みが炸裂した。
空は青く澄み渡り、白い雲が流れていく。木々は風に揺れ、堀代わりの人工の川の中を魚の稚魚が泳いでいく。季節は春。花々が咲き乱れ、動物達も活発に活動し始めた。余りに平和な光景に、先ほどまでとのギャップに戸惑う勇者達。
「ほんとに、居るのかな。」
「取り合えず、行ってみるしかないな。」
南門を潜ろうとする勇者。
「ちょっ、どちらさんだい?通行書は持っているんだろうな?」
二年ぶりの故郷。新顔の門番に止められてしまった勇者一行であった。
「ここか、宿屋《魔王城》。まんまな名前だなぁ。」
ここに本当の魔王が居る。そう思うと、禍々しい空気を纏っているようにも思える。瞬間、悲鳴が聞こえた。
「やっ、やめて。いやぁ――――――――。」
中で何か騒動が起きている。慌てて扉を開けようとすると、扉の方から開き、中から色白で深紅の瞳をした細身の美人が跳び出してきた。
メイズは追い詰められていた。目の前には聖装を持った筋肉隆々の化け物。周りには聖具を持った妖艶な美女達。魔王城の広間を逃げ回り、そしてついに隅に追い詰められた。仲間はいない。随一の実力者たるシャランが中心となっているようだ。奥には元勇者、ジャナサンも居る。顔には凶悪な笑みを見せながら。
「ほらほら、メイズ怖くないぞ。ちょっとくすぐったいだけだ。」
「いやいや、シャランさん。僕にだって男としての矜持がありますから。」
メイズの言葉は誰が見てもただの強がりだった。それでもメイズは諦めず、身体強化の魔法を最大まで上げて、美女達の隙間を走り抜ける。
「わっぷっ…。」
しかし、筋肉に阻まれてしまった。そして、遂に捕まってしまう。
「ほらほら、メイズが言いだしっぺの上、女装コンテスト前年度の優勝者が出ないと盛り上がらないぞ。」
シャランはそう口ではいい、メイズを聖装に着替えさせてしまった。真っ白な清潔感溢れるワンピースに。
「次は私ねぇ~ん。動いちゃだめよぉ~ん。」
筋骨隆々の男だが、顔には薄く化粧が施され、口紅すら塗っている。服装は女性物の裾のながいスケスケの布きれ。商店街奥の花見街に存在するオカマバー店長フタハ=サイゴーが聖具、化粧品を持ってクネクネと気持ち悪く腰をくねらせながら迫ってきた。その間にランを筆頭とした花見街のお姉さん達にカツラを被せられ、櫛で梳かされている。
「ぶっ、くくくく、もうだめだ。わははははははははははははっ!!」
笑うのを我慢し、それでも笑みが漏れていたジャナサンが遂に爆笑しだした。腹を押さえて、体を二つに折り曲げ、文字道理笑い転げている。
「ジャナサンさん、そこまで笑う事ないでしょう。」
「うっ、うお。まっ、待て。悪かった。俺が悪かったから、上目使いはやめろ。」
小柄なメイズが、体格のいいジャナサンの目を見て話すと、自然と見上げてしまう。ジャナサンからすれば、上目使いになるのだ。しかも、女装コンテスト前年度優勝という美少女っぷり。引かれたルージュで唇は艶を持つしプ二プ二だし、余程女装が嫌だったのか涙目である。
メイズが男だと分かってても、それでも内心欲情してしまった事にジャナサンは死にたくなった。
「やっぱり、完璧にするべきよ。メイズちゃん、ここまでかわいいんだから。」
フタハが取り出したのは、女性用の下着。それを持ってフタハと美女軍団は迫ってくる。
「やっ、やめて。いやぁ――――――――。」
流石にそれは嫌だと、更にはその腐腐腐な空気に思わず外に逃げ出したメイズ。そのまま外に逃げるはずだったのだが、何か固い物にぶつかってしまった。尻餅をついたまま見上げれば、金髪青眼の細身の青年が驚いた顔でこちらを見ていた。