女友達から命を狙われているようです   作:ちぃたら

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僕の彼女を紹介します

「なっちゃーん!」

 

アホみたいに手をぶんぶんと振り、叫びながら凪に走り寄る。

途端、猫が怯えた顔で走り去るのが見えた。

 

「あっ、急に叫ばないでよ! 猫ちゃん逃げちゃったじゃん!」

 

「えっ、あっ……」

 

「もー!」

 

エノコログサを持ちながら、ぷんぷんと怒る素振りを見せる凪。

何だこの生き物。かわいい。

じゃなかった。

 

「ご、ごめん」

 

「冗談だよ、お掃除お疲れ様! 頑張ったね〜」

 

そう言いながら頭をわしゃわしゃ撫でてくる。

何だこの天使。いや大天使か。ナギエルか。

最高すぎるだろ。これがバブみってやつか。多分違う。

 

柊木凪。

俺の彼女である。

そして、もう一人の幼なじみでもある。

とは言っても、陽菜は凪の事を知らなかった。

まあ、それもそうなのだが。

 

凪と俺は、幼稚園の頃の幼なじみ。

対して陽菜とは、小学生からの幼なじみである。

凪は卒園すると同時に、親の事情で海外に行ってしまった。

そして今年の春、両親と一緒に帰ってきて、うちの高校、しかも俺と同じクラスに編入した。

 

最初見たときは、『こらまたえれぇ可愛い子が編入してきたなぁ』なんて、よくある漫画のモブの一人みたいなことを思っていた。

名前を見てもあまりピンと来ていなかった。

話して初めて気付いたのである。

もっと早く気付けよ俺。でも幼稚園の頃の記憶なんておぼろげだしな。10年くらい前の記憶なんて当てにならねえもんよ。

 

でもその中で、たしかに覚えていた記憶がある。

俺と凪は、よく二人で夫婦ごっこをしていた。

そして二人揃ってしきりに言っていたのだ。

『将来結婚しよう』と。

 

凪が日本に帰ってくるまで、それはもう二度と叶わないのだと諦めていた。

そんなこともあったなぁ、と思い出してはすぐに頭からすっぽ抜ける、そんなレベルだった。

それが今現実になろうというのだから、万歳。狂喜。今すぐにここで踊り出したい。いやもう踊ってる。心が。やかましいわ。

 

というわけで、凪は彼女でありながら、将来の嫁なのである。

凪の方も約束を覚えており、了承済みだ。

でもお義父さまとお義母さまはまだ知らない。いつ言おうかな。結婚するときは挨拶に行かなきゃいけないんだよな。断られたらどうしよう。(こえ)ーよ。

 

「私ら、お邪魔かな?」

 

陽菜の言葉で我に返る。

忘れてた。

そうだ。今は下校途中で、三人の刺客(女友達)と一緒なんだった。

 

「そ、そんなことないよ! みんなで一緒に帰ろう?」

 

慌てた凪が、俺の頭から手を離してしまう。

 

「あっ……」

 

「何残念そうな声出してんのさ」

 

だって残念なんだもん。仕方ないだろ。

じゃあ賢木、お前が代わりに撫でてくれよ。でも俺の頭は凪専用なんだ。お前には撫でさせてあげられない。ごめんな。

 

「そういえば賢木さん、今日やった物理なんだけど――」

 

「あーそこね、あたしもそこは――」

 

呪文の詠唱が始まった。すまねえ、アメリカ語はさっぱりなんだ。

なんて冗談はさておき。

凪は頭もいい。

賢木ほどではないようだが、俺から見たら賢木よりずっと頭いいと思う。なんでって? 俺が思ったらそうなんだよ。

それよりもだ。

さっきより殺気が増した気がする。なんで?

刺客たちを一瞥してみる。が――

 

三人とも、凪と笑顔で話している。

やっぱり俺の気のせいなんだな。うん。

そりゃそうだ。

俺は感謝されこそすれど、命を狙われるようなことをした覚えは全くと言っていいほどない。

 

せいぜい、この間の日曜日に親から庭の草むしりを任され、それを炎天下の中手伝ってもらったくらいだ。

でもあの場には大親友も凪もいたしな。まあ大親友はいつの間にかいなくなってたし、凪はあんな暑い中外に出させるわけにはいかなかったから、家の中で給水係をしてもらったが。

そんなことで恨むような奴らじゃないはずだ。

でも俺ならブチ切れてるかもしれない。いやブチ切れる。何でそんなクソ暑い中お前なんかの為にやらなきゃいけないんだよ。ブチ殺すぞ。

 

 

 

「じゃあね、みんな! また明日ね!」

 

「な、なっちゃん、行かないでくれぇ」

 

「何で泣いてるの……」

 

そうこうしている間に、凪の住んでいるマンションに着いてしまった。

ちなみに『なっちゃん』というのは幼稚園の頃の名残だ。最近は凪呼びとなっちゃん呼びとを気分で変えている。

今年建ったばかりの、出来立てホヤホヤ新築マンション。何十階建てだよこれ。とにかく高そう。

そう、何を隠そう凪の両親は金持ちなのだ。外資系の会社に勤めてるとかなんとか。よくわからん。

金城には遠く及ばないとは凪談。そんなことない。金城なんてだだっ広い敷地の中にだだっ広い庭があって、だだっ広い豪邸で生活してるだけだぞ。いややべえじゃねえか。

 

「なに見せられてんの、私たち」

 

ウソ泣きした俺を、よしよしと慰める凪。それを呆れたように眺める刺客たち。

ますます増していく殺気の中、10分ほどウソ泣きを続け、凪成分を十分に補給した後に別れた。明日の朝まで会えないとか死んじまうもんな。まあ帰ったらRINEとか電話とかするからそれでも凪成分は十分補給出来るけどな。

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