女友達から命を狙われているようです 作:ちぃたら
昔の話をしよう。
とは言っても去年の話だが。
「ねえ、ちょっといい?」
ある夏の昼休み。
トイレから教室に戻る最中に、唐突に話しかけられた。
眼鏡をかけた、いかにも頭が良さそうな女子。
「話があるんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」
え、何? これが俗に言う逆ナンってやつか?
少しも。一ミリも。これっぽっちも期待してなんかいないが。
胸を躍らせながらついて行ってしまった。
悪いな、世の男子諸君。
俺は一足先に青春を謳歌することにするぜ。
「あんた、
学校の中庭に着いて、ベンチに座り。一言目がこれだった。
なんやて工藤。違う。なんでや工藤。
そうか、またこのパターンか。
まあ仕方ない。
でもごめんな。そういうのはもう受け付けてないんだ。
中学でいいだけ聞いてきたからな。それに、どれだけ俺がお膳立てしても、大親友はまだ恋愛に興味を持てないらしい。
「上手くいくように手伝ってくれってことか? あー、悪いんだけど、他を当たって――」
「手伝ってくれたら、あたしの友達を紹介するから」
馬鹿かこいつ。そんなもんで俺が折れるとでも?
折れるに決まってんだろ。やってやろうじゃねえか。全力で。
まあそんな感じで手伝ってやることにした。
後から聞いたのだが、こいつの名前は賢木というらしい。
下の名前は教えてくれなかった。なんでだよ。別にいいけどな。上手くいった暁には、お前の友達か大親友から聞き出してやる。
そんなこんなで。
時には大親友の好みを教えてやり。
時には毒物――じゃなかった。手作り弁当の毒見をしてやり。
時には三人で遊ぶ約束を取り付けて、敢えて俺だけ行かなかったり。
今まで手伝ってきた他の奴らより、賢木の積極さも手伝ってか、かなり上手く行ってたと思う。
ま、俺が全力で手伝ってやってるからな。むしろこれくらい上手くいくべきだ。
その代わり紹介してくれるって件、忘れるんじゃねえぞ。
正直、俺が居なくても十分上手くやれたんじゃないか?
と思って、賢木に聞いてみたこともある。
返ってきた答えは、
『あたし、人付き合い苦手だから。友達もそんなに居ないし』
とてもそうは見えないけどな。っておい。今なんつった。友達がいない?
忘れてないだろうな。えぇオイ。今更紹介する友達なんて居ませんでした、じゃ容赦しねえぞ。でも居ないなら居ないで仕方ない。諦めるか。
ダメもとで賢木に聞いてみた翌日の放課後。
約束通り、友達を紹介してくれた。
マジかよ。本当に居たのか。ありがとな賢木。愛してるぜ。
のだが。
この紹介された女子というのがなかなかの曲者だった。
名前は金城、というらしいのだが。
一言で言えばあれだ。
天然ちゃんだ。
いつもぽわぽわとしていて、話をしても聞いてるのか聞いていないのかわからない。
賢木から聞いたところ、いい所のお嬢様らしい。
なんでそんな子がこんな庶民の高校に通ってるんだ?
なんて疑問が浮かんできたが、俺は細かいことは気にしない質なんだ。
せっかくこうして知り合えたんだ。ゆっくり知っていけばいいさ。
なんて思った矢先である。
金城と一緒に下校していたら、いつの間にか金城の姿がなかった。
辺りを見回すと、すぐ後ろでいかにもな連中が、金城の口を塞ぎながら、ワゴン車に連れ込もうとしているのが見えた。
リアルにあんな連中っているのか。初めて見た。こんなにもあっさりと行われるものなのか。
じゃなかった。おい、俺の彼女(候補)に何してやがる。ただじゃおかねえ。全員ぶっ飛ばしてカッコいいとこ見せてやんよ。
全力で駆け寄って、まずは金城を無理やり連れ去ろうとしている男の顔面に向かって、拳を一発叩き込む。
男は倒れはしなかったものの、殴られた拍子で金城を離した。
勢いに任せてもう一発――と思いきや。
逆上した男が、俺の腹に向かって蹴りを入れてきた。
あっけなく倒れた俺は、ワゴン車から続々と降りてくる男の仲間によって殴る蹴るの嵐。
金城はもうその場にいなかった。無事に逃げたようだった。
意識が朦朧とする中、俺が殴った男が、笑いながら俺の殺害を提案しているのが聞こえた。
流石の俺でも死を覚悟した。
瞬間、良く見知った姿が、俺の前に立っていた。
と同時に、男たちを蹴散らしていく、これまたスーツ姿の屈強な男たち。
そこで俺の意識は途絶えた。
俺はその5日後、病院で目を覚ました。
もう覚えていないが色んな所の骨が折れていたらしく、全治6か月と診断を受けた。
半年も学校を休むのかよ、マジかよ。と思っていたが、どうやら3カ月くらい入院すれば学校に出てもいいらしい。
とはいえ、留年を回避するために補習を受ける必要があるらしいが。
入院中は、両親やら、大親友やら、陽菜やら、賢木やら。色んな人がお見舞いに来てくれた。
特に賢木は金城を紹介したことに罪悪感を感じていたらしく、泣きながら謝罪をしてきた。
もちろん金城も来た。口を開けばひたすら謝っていて、痛々しくて見ていられなかったのですぐやめさせた。
そして、賢木には悪いが金城のことは諦めることにした。
住む世界が違う、というのを身を以て痛感したというか。
ただせっかく知り合えたんだ。今後は友達として居られればそれでいいだろう。
もしかしたら金城から更に友達を紹介されるかもしれないしな。
痛感してねえじゃねえか。いい加減にしとけ。