女友達から命を狙われているようです   作:ちぃたら

5 / 5
過去編
お遊び


他人を、特に異性を好きになるという感情が理解できなかった。

 

どうせ社会人になれば、嫌でも結婚して、子供が出来て、そのまま惰性で生きていくものなのだと思っていた。

 

ただ、一度だけ。

学生のうちに、恋愛というものを経験してみたくなった。

自分が後悔しない範囲で。

 

遊んでそうな奴。悪い噂しか立たない奴。そんな奴らは論外だ。

ほんのちょっとの出来心で、今後の人生を壊してしまうような付き合いだけはしてはいけない。

 

そこで目に付いたのが、工藤道久だった。

女子の噂では耳にしていた。

かっこいいだのフラれただの、でもそんなところも好きだだの。

あたしほどではないが、頭もそれなりに良いはずだ。

そんなに悪い噂も聞いたことがない。

紆余曲折を経て失敗に終わったとしても、傷はそこまで深くならないだろう。

 

目標を決めたところで、あたしは行動に移すことにした。

のだが。

 

休み時間に教室で見かけたと思えば、3人グループで仲良くしてる事が殆どで、声を掛ける場面が見当たらない。

放課後は運動部の助っ人に駆り出され、終わる時には大勢の女子に囲まれ、あたしの入る余地はない。

朝の下駄箱に手紙を入れて待ち合わせをしようと思ったが、先客が山ほど居て断念した。

 

だが、好機は見つけた。

あの仲の良い男子。

女子の方はきっと、工藤の事が好きなのだろう。声を掛けるだけ無駄だ。

あの男子が一人になるところを狙い、工藤と仲良くなれるよう切っ掛けを作ってもらう。

 

 

 

そして、ある日の昼休み。

工藤と一緒に話していた男子が、一人教室を出て行く。

あたしは少し離れてついていき、待機しておく。

 

しばらくすると、男子トイレから手をハンカチで拭きながら出てきた。

今だ。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

唐突に声を掛けたあたしを、男子がきょとんとした表情で見つめている。

からの沈黙。そして行き交う生徒たち。あまり注目されたくない。

 

「話があるんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」

 

固まってしまった男子を引きずるようにして、あたしは中庭の、あまり人気のない場所に連れ出した。

 

 

 

ベンチに座り、男子の顔を見ると、さっきまでの表情とは打って変わってにこやかになっている。

 

「あんた、工藤と仲良いんだよね?」

 

その言葉を聞いた途端、にこやかだった表情は一変、悲しげな表情になる。かと思えば、真面目な表情になる。が口元は悲しげなままだ。

この男子、面白い。

 

「上手くいくように手伝ってくれってことか?」

 

あ、これは断られる流れの気がする。

何か交換条件を出さなければ。

手伝ってくれたら、代わりに――勉強を手伝ってあげる? そもそも、この男子の学力は? 悪ければ交換条件にはなり得るだろうが、人によっては余計なお世話かもしれない。

金品? しばらくお昼ご飯を奢ってあげる? それとも――

 

「あー、悪いんだけど、他を当たって――」

 

「手伝ってくれたら、あたしの友達を紹介するから」

 

この男子が求めているもの。

それは恐らく、『仲の良い異性』ではないだろうか。

工藤には大勢の女子からのアプローチがある。対して、自分は?

いつも仲良くしているあの女子だって、工藤ではなくこの男子に明確な好意があるのなら、既に行動を起こしているはずだ。

 

「マジで!?」

 

真面目だった表情が、一瞬にして崩れる。

あたしが頷くと、空に拳を掲げながら踊り始めた。

面白い男子だ。

 

このごっこ遊びの恋愛に、少し付き合ってくれるだけで良かった。

進学さえすれば、恐らくもうこの男子との接点はなくなる。もちろん、工藤とも。

そうやって約束なんて有耶無耶にしてしまえばいい。

だって、あたしには友達と呼んでいい人間なんて、一人も居ないんだから。

 

 

 

そうして、あたしとそいつの日々は始まった。

 

「一度しか言わないから、ちゃんとメモしろよ。いいか、道久の好きな食べ物は唐揚げ。いやでも購買のハンバーガーも良く食べてるな。焼きそばパンも、たまごサラダパンとかも食べてるな。あ、これは間違いないぞ! 焼肉とか寿司とか」

 

「メモしたけどさ、ちゃんとお弁当に入れられるものだけにしてよ」

 

「え、今の全部メモしたの? 凄いな賢木」

 

「要点だけメモしとけばばいいし」

 

こいつ曰く、『心を掴むにはまず胃から』と、お昼に手作り弁当を渡す作戦が始まった。

料理なんてしたことないけど、実験と同じでしょ。

あたしとしてはぶっつけ本番でも良かったのだが、まずは自分が味見をするとあいつが言い張って聞かないので、次の日試作品を食べさせてみた。

 

「ごぇっ!」

 

あいつがあたしの卵焼きを口に入れた瞬間、蛙が鳴いたような声を出した。

 

白米に芯が残ってるだの、卵焼きがすっぱいだの、唐揚げは中身が凍ってるだの、ちゃんと味見をしろだの、散々な言われようだった。

が、全部平らげているあたり、実はそこまで不味い弁当ではなかったのでは、と思い、帰ってきてから、同じ過程で卵焼きを作って食べて、吐いた。

あいつとRINEをして、もう少し料理の練習が必要だという結論に至った。ちゃんと渡せるお弁当になるまで、あいつが代わりに全部食べてくれるらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。