女友達から命を狙われているようです 作:ちぃたら
お遊び
他人を、特に異性を好きになるという感情が理解できなかった。
どうせ社会人になれば、嫌でも結婚して、子供が出来て、そのまま惰性で生きていくものなのだと思っていた。
ただ、一度だけ。
学生のうちに、恋愛というものを経験してみたくなった。
自分が後悔しない範囲で。
遊んでそうな奴。悪い噂しか立たない奴。そんな奴らは論外だ。
ほんのちょっとの出来心で、今後の人生を壊してしまうような付き合いだけはしてはいけない。
そこで目に付いたのが、工藤道久だった。
女子の噂では耳にしていた。
かっこいいだのフラれただの、でもそんなところも好きだだの。
あたしほどではないが、頭もそれなりに良いはずだ。
そんなに悪い噂も聞いたことがない。
紆余曲折を経て失敗に終わったとしても、傷はそこまで深くならないだろう。
目標を決めたところで、あたしは行動に移すことにした。
のだが。
休み時間に教室で見かけたと思えば、3人グループで仲良くしてる事が殆どで、声を掛ける場面が見当たらない。
放課後は運動部の助っ人に駆り出され、終わる時には大勢の女子に囲まれ、あたしの入る余地はない。
朝の下駄箱に手紙を入れて待ち合わせをしようと思ったが、先客が山ほど居て断念した。
だが、好機は見つけた。
あの仲の良い男子。
女子の方はきっと、工藤の事が好きなのだろう。声を掛けるだけ無駄だ。
あの男子が一人になるところを狙い、工藤と仲良くなれるよう切っ掛けを作ってもらう。
そして、ある日の昼休み。
工藤と一緒に話していた男子が、一人教室を出て行く。
あたしは少し離れてついていき、待機しておく。
しばらくすると、男子トイレから手をハンカチで拭きながら出てきた。
今だ。
「ねえ、ちょっといい?」
唐突に声を掛けたあたしを、男子がきょとんとした表情で見つめている。
からの沈黙。そして行き交う生徒たち。あまり注目されたくない。
「話があるんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」
固まってしまった男子を引きずるようにして、あたしは中庭の、あまり人気のない場所に連れ出した。
ベンチに座り、男子の顔を見ると、さっきまでの表情とは打って変わってにこやかになっている。
「あんた、工藤と仲良いんだよね?」
その言葉を聞いた途端、にこやかだった表情は一変、悲しげな表情になる。かと思えば、真面目な表情になる。が口元は悲しげなままだ。
この男子、面白い。
「上手くいくように手伝ってくれってことか?」
あ、これは断られる流れの気がする。
何か交換条件を出さなければ。
手伝ってくれたら、代わりに――勉強を手伝ってあげる? そもそも、この男子の学力は? 悪ければ交換条件にはなり得るだろうが、人によっては余計なお世話かもしれない。
金品? しばらくお昼ご飯を奢ってあげる? それとも――
「あー、悪いんだけど、他を当たって――」
「手伝ってくれたら、あたしの友達を紹介するから」
この男子が求めているもの。
それは恐らく、『仲の良い異性』ではないだろうか。
工藤には大勢の女子からのアプローチがある。対して、自分は?
いつも仲良くしているあの女子だって、工藤ではなくこの男子に明確な好意があるのなら、既に行動を起こしているはずだ。
「マジで!?」
真面目だった表情が、一瞬にして崩れる。
あたしが頷くと、空に拳を掲げながら踊り始めた。
面白い男子だ。
このごっこ遊びの恋愛に、少し付き合ってくれるだけで良かった。
進学さえすれば、恐らくもうこの男子との接点はなくなる。もちろん、工藤とも。
そうやって約束なんて有耶無耶にしてしまえばいい。
だって、あたしには友達と呼んでいい人間なんて、一人も居ないんだから。
そうして、あたしとそいつの日々は始まった。
「一度しか言わないから、ちゃんとメモしろよ。いいか、道久の好きな食べ物は唐揚げ。いやでも購買のハンバーガーも良く食べてるな。焼きそばパンも、たまごサラダパンとかも食べてるな。あ、これは間違いないぞ! 焼肉とか寿司とか」
「メモしたけどさ、ちゃんとお弁当に入れられるものだけにしてよ」
「え、今の全部メモしたの? 凄いな賢木」
「要点だけメモしとけばばいいし」
こいつ曰く、『心を掴むにはまず胃から』と、お昼に手作り弁当を渡す作戦が始まった。
料理なんてしたことないけど、実験と同じでしょ。
あたしとしてはぶっつけ本番でも良かったのだが、まずは自分が味見をするとあいつが言い張って聞かないので、次の日試作品を食べさせてみた。
「ごぇっ!」
あいつがあたしの卵焼きを口に入れた瞬間、蛙が鳴いたような声を出した。
白米に芯が残ってるだの、卵焼きがすっぱいだの、唐揚げは中身が凍ってるだの、ちゃんと味見をしろだの、散々な言われようだった。
が、全部平らげているあたり、実はそこまで不味い弁当ではなかったのでは、と思い、帰ってきてから、同じ過程で卵焼きを作って食べて、吐いた。
あいつとRINEをして、もう少し料理の練習が必要だという結論に至った。ちゃんと渡せるお弁当になるまで、あいつが代わりに全部食べてくれるらしい。