あっという間に1周年を迎えてしまった……いや、私の更新が遅すぎる。
「あ、そうだ。これ渡しておくよ」
ふとした瞬間に、ケイオスが右のホルスターから自分の拳銃を取り出し、俺に渡してきた。
「あぁ?」
「僕の拳銃、名前は《月の剣》。全次元で5丁しかない貴重品だから丁重にね?」
「…何故俺に?いや、それより…どうしてそんなもんをお前は2丁持ってるんだ?」
「あ、これ?ふふ、こっちはレプリカだよ。ンーなんで君に渡すかは…まぁその方が面白そうだから?ある種の実験かな」
「俺を勝手に実験動物にするんじゃねぇ」
全次元で5丁と言われてもピンと来ないし、年頃の男児が考えそうな設定を囁かれ誰が信頼出来るだろうか。しかも、もう一つはレプリカと説明されて、コイツの胡散臭さが更に増した。性能はこの目で見て信頼はしているが、コイツから渡されると急に大したものと思えなくなる。
心境を読まれた様で腑に落ちないが、何はともあれ俺も戦う術を得た。……マリアン達になんて言われるか分かったものじゃないな。
「本当に俺に扱える品物なのか?ラプチャーの装甲を貫通させる威力が出る拳銃だろ。反動の方はどうなってる?」
「僕もそれなりに力がある方だけど…まあ人間にして言えば大口径拳銃をぶっ放すくらいじゃないかな」
「そりゃまた。随分破格な性能してるな…今の人類が量産を希望するんじゃないか?」
「ふふ、その銃は特別製だからね…量産は出来ないよ。でも仕掛けは銃じゃなくて弾にあるんだ。はいこれ弾薬」
「弾に?」
「あとその拳銃、偶に増殖するから気をつけてね」
「は?」
『前方から高エネルギー反応検知!ロード級ラプチャーです!』
「おっ、早速試し撃ちの時だね」
「チッ、総員発射用意!」
「エンカウンター!」
マリアンの号令を始まりに、全員が銃を構える。
前方からわらわらとラプチャーどもが湧き始めた。
今回の任務で常々思っていた人間にも使える対ラプチャー用の武器が手元にある…装填数は6発が最大。奴から貰った弾薬は24発と少ないが、手渡しなので今は文句を言ってられない。見たところリボルバー式の拳銃らしい。やけに銃身の面積が広く…無骨なデザインをしている。まあこの際戦えるか戦えないかで随分と変わるのでデザインについてとやかくいう事はない。
「僕が一人でいた時はそんなに襲ってこなかったのに、君たちといると5倍くらい量の差があるね」
「そりゃ、お前の運が良かっただけだ」
「僕の場合だとアンラッキーだったって言うべきだね」
「無駄口はいいからアンタは撃ってくんない!?その無駄にでかい拳銃で!」
「あ〜…この際言っとくけど僕ってあんまり射撃得意じゃないんだよね」
「アンタ本当にどうやって今まで生きてきたの!?」
「魔法使いって言ったでしょ。あれ?言ってなかったっけ?それじゃ紹介しよう」
自慢話をするかの様に声を弾ませると、奴は手の平からどろっとした緑黒としたボールをラプチャーに投げつけた。それも複数。
当たったラプチャにダメージを与えた様子には見えないが…緑黒の靄がラプチャーに現れた。
「
Bang!Bang!Bang!Bang!
少しの間に靄のかかったラプチャーが4体撃ち抜かれる。
先ほども見ていた見事な貫通力。コアを的確に撃ち抜き、ラプチャーは既に動いていない。靄も既に消えていた。本当に奴が持っている方がレプリカなのか疑う。
「うっわ。本当にエッグいわねその銃。ラプチャーの装甲を完全貫通って…ニケ用のスナイパーライフルだって2発は撃ち込まないといけないのに」
「ふふっ。どーも」
「この際、援護してくれるなら有難いわ…それにその魔法の効果は確かよ」
「はい。まるで吸い付くかの様に弾が当たって行きました…お陰で機関銃の弾薬ロスが少ないです」
「……それならケイオス。そのカースってヤツを出来る限りラプチャーに当てる様支援に回ってくれ。他はカースが当たり次第迅速に該当個体を撃破、なるべく損害を少なくする」
「「ラジャー!」」
「OK♪」
宣言通り、ケイオスはカースを至る所にばら撒き始めた。一つ投げた物がバウンドする毎に増えていく。
ケイオス本人に捕捉されたが、カースを生み出すこと自体は簡単だがバウンドする毎に増殖するのは高度な技術らしい。魔法の扱えない俺には皆目見当もつかないが…出来るのならやれと命令した。
何発かケイオスから貰った《月の剣》を試射してみたが…確かに反動はニケが扱うものよりもだいぶ少ない。身体の弱い者が扱えば肩が外れてしまうだろうが、しっかりとした銃への造詣と体づくりが出来ていれば容易に扱えるといった程度。人間に扱える範疇で、しっかりと狙えばラプチャーを1発で仕留められるとなると相当な経費削減となる。
奴が言うには仕掛けは弾薬にあると言っていたが…触った感じ普通の弾薬と変わりはなかった。ただ硬いというだけ。色も匂いもおかしくは無い。
一体何が特別だと言うのか…いや、考え事をしてる暇は無い。とにかく今はラプチャーを殲滅する方が先だ。
銃を取り出し、撃った時のマリアン達の表情は驚愕に満ちていた事を記しておく。
ケイオスはカースをばら撒きながらも、片手のみでレプリカ銃を撃ってるところを見るに人間離れした力があるのを感じさせる。リコイル制御はまともに出来ていない筈なのに弾がしっかりとラプチャーのコアを撃ち抜いているのは魔法のお陰か…。
撃鉄の音や駆動する機械生物の躍動が段々と小さくなってきた。
周囲を見回し生き残りのラプチャーがいない事を確認する。
「状況終了」
各自損害報告、と言おうとした時。
「Photogenic…♪」
気味の悪いことを奴は呟いた。
写り映えが良い…とはまたも理解しがたい。
いや、いつもの…と称すには時間はそれほどかかっていないが狂言の類いだろう。気にしている場合でもない。
「各自損害状況は?」
気を取り直して、マリアン達に損害状況を聞く。
マリアン、ラピ、アニス…と順番に聞いていくが、先程と変わらない損害報告。どうやら今回は無傷で戦闘を終えられたらしい。減ったのは弾薬だけだ。
任務の初陣にしては華々しい快挙であるが、その中でも要となる存在が、身元不明の胡散臭い
ちなみに奴は、西部劇にでも憧れていたのか拳銃をカッコつけて回し、ホルスターに収めようとしたが失敗している。
見られていることに気づいたが、ホラね?銃の扱い下手でしょ?と言わんばかりの挙動でおどけてみせた。
因みに、ケイオスから預かった拳銃について問い詰められ、得体の知れない物を勝手にもらった事と、指揮官が前線に出る事を咎められた。ケイオスも厳重注意を受けたが軽い謝罪をしただけでどこ吹く風の様子だ。
ケイオスとカウンターズが同行を開始し既に1時間が経過。
今のところ、ケイオスが疲れを見せた様子はないが、エイダンには若干の疲労が見える。
起死回生からの長時間歩行と短いスパンによる戦闘が重なっているので、十分すぎるほどの体力だが。
因みに、ケイオスが乗用していた車は確かに大幅に時間を短縮して目的地へとたどり着けるだろうが、調子に乗ってマフラーを鳴らしたのが悪印象を抱かせた。わざわざ敵に見つけてくださいと大声出すよりも、ひっそりと着実に歩を進めた方がいいだろうという判断だった。これにはカウンターズは全員賛同した。
そも、車の見た目から好き好んで乗る奴はいない。
閑話休題。
目的地にそろそろ着いても良い頃合いだ。
辺りは閑散としていて落ち着かない。嫌な雰囲気も立ち込めていて、油断が出来ない場所だった。
1人鼻唄を歌っている輩がいるが。
何処にでもあるような広い街路、過去の人類の繁栄は消え失せ、今は自然が主導権を握りなおそうと所々で苔や木が生えている。
その中央でマリアンは言った。
「ここです」
「……だーれも居ないわね。先発の分隊がいても良いはずなのに」
「います」
そうは言うが人っ子一人も見当たらない。
「いや、マジで誰もいないんだけど」
「探してみましょう」
雰囲気がふた回りほど変化したマリアンに気づかないはずがなく、エイダンとカウンターズは違和感を覚え始めた。勿論、ケイオスも気づいているが、相変わらず独特なテンポの鼻唄は止まっていない。寧ろ、マリアンの変化を感じ取って気分が高揚した様な…そんな気がする。
『ラピ。たった今、輸送機のブラックボックスのデータ解析が終わりました。テキストデータでラピへ直接送信します』
「…ラジャー」
「へぇ、流石
ラピにデータ送信される様子を見ながら感心した様に呟くケイオス。相変わらずプライバシーもクソも無いように、平然と盗聴を続けているらしい。エイダンとラピの視線は厳しいままだ。
「まあ、そんなの繰り返したら折角の異世界人達との会話の楽しみがなくなっちゃうか。やっぱりゴメンだね。ん?そんなに睨まないでよ。また盗聴したのは悪かったけどさ、こういう時って情報の共有が必要だろう?僕にだけないってそれは民間人を守る責務を持つ軍人としてどうなのさ」
「面白くもない冗談を言ってないで、お前はマリアンを見習って救助人の捜索をしたらどうだ?俺たちを助けるんだろう?」
ケイオスの戯言は何故こうも神経を逆撫でするのか分からないが、疲労による苛立ちのせいかやや語気が強くなる。
はいはいっと言った気味にケイオスもマリアンの後へ続いていった。
その瞬間、ラピが突然ケイオスに向けてアサルトライフルの銃口を向けた。…いや、正確にはそのさらに奥にいるマリアンだ。僅かな角度の違いからそれを理解したエイダンは即座にラピに月の剣を向ける。
「ちょっ、ちょっと!?」
「お前も悪趣味持ちか?盗聴に続いて
「おいおい、面白い展開になってきたな♪」
「ケイオス…そこをどいて」
ラピから冷ややかな声が行き渡る。
ケイオスが横へ移動するとストレートに銃弾が届く軌道が開かれた。あとは引き金を引くだけでマリアンの生命は絶たれるだろう。
「マリアン、止まって」
ラピの声に反応し、マリアンがピタリと止まる。
エイダンはラピの凶行?を止めるべく、アサルトライフルに向けて発砲しようとした次の瞬間。
「貴方が輸送機を撃墜したの?」
「なにっ?」
ラピの言っている事が分からず硬直する。
「いいえ」
「へぇ〜。否定するんだ」
ケイオスも続けてマリアンに銃口を向ける。
「二度も輸送機の貨物室で爆発が起きた。今回の作戦で使用予定だった爆薬が外部からの起爆信号なしには絶対に爆発しない。起爆信号の識別コードはマリアン、貴女自身よ」
「僕の推測がこうして裏付けされて嬉しいよ。マリアン君、やっぱりキミが輸送機を爆破したんだね。他にも生き残りが居たのに見捨てて、エイダン君だけを生かした理由は分からないけど大凡予想はついてたよ」
心の内で「彼が主人公だからかな?」と独り言を添える。
実はケイオスは一度輸送機に訪れ、絶命寸前ではあるが人とのコンタクトに成功していた。
まあ、まともに会話もできずに終わり、またケイオスも助けを請われた訳でもなかったためそのまま助けずにすぐに次の目標へと移動したが、3人生き残っていたことは確かだ。輸送機を操縦していたパイロット1人に、この任務に従事していたであろうバイザーを付けた量産型のニケ2人。
そんな惨状を一度見ていたケイオスはマリアンに対して懐疑心を一つ抱いていた。「敵に懐柔されていたのかな?」と。
彼女がケイオスよりも明るい善性を持っているのは火を見るよりも明らかである。その彼女が何故、意識がありエイダン君より助ける見込みがありそうな他の者達を見捨てたのか分からなかった。助けるのならばエイダンを起こした後でも、蘇生なり応急処置なりすれば良い。だが彼女は一切そんな事はしなかった。彼が指揮官だから特別なんだろうか?それはケイオスには分からないが、
「いいえ」
変わらずに、不調な様子で否定の言葉を続ける彼女にアニスもいよいよ展開に追いついてきた。エイダンはまだ現実を受け入れていない様子だ。
「マリアンが輸送機を爆破した犯人だと…っ」
「目的は何?答えなければ、ここで貴方を処分する」
「処分なんて言葉を使わずにさ。殺すって言い直した方がいいんじゃない?シンプルな言葉は時に相手に響くよ。それとも下品な言葉はキライかな?」
「……ここです」
ラピの問いかけをこちらに振り向きながら応えるマリアンだがそれは的外れな回答であり答えにはなっていない。
「ここです」
「ここです」
「ここです」
いつから変わっていたのか、純粋だった黒曜の瞳は既に黒く淀んだ赤色へと変貌していた。
全員が異常事態だと判断し、エイダンもアニスもマリアンに向けてそれぞれの得物を向ける。
だが彼女は4人から銃を向けられようが変わった様子を見せなかった。
『侵食反応を確認!ラプチャーに中枢神経を奪われました!いつから!?……っ!コーリングシグナルを探知!!』
「侵食?」
「撃ちます!命令を!」
━━へぇ。これが。
ケイオスがその思考に陥った瞬間地面が揺れる。
『この振動パターンは…ブラックスミスが来ます!!』
エイダンはブラックスミスが何か分からなかったが、顔色の変わったラピとアニス、シフティーの焦り具合、何より濃密な殺気…並ではない。
何か来る。直感的に崩壊しかけた建物に銃口を向けるエイダンと、まるで最初から知っていたようにエイダンと同じ方向に銃口を向けるケイオス。発砲した瞬間は同じだった。
崩壊しかけた建物から現れたのは触手。だが、事前に撃っておいた弾が当たり、二つの風穴が開いた事で一時はその侵攻を食い止めた。侵攻方向的に触手の狙いはマリアンである事は確定であり、エイダンはとにかくマリアンを死守しようとキッと触手が現れた方向を睨みつける。
『コードネーム ブラックスミス!タイラントモデルのひとつで地上に上がったニケ達を捕獲し、ラプチャーの部品にする特殊モデルです!』
「成る程ねぇ。だから
ケイオスの言葉は続かなかった。背後から迫る黒い触手に腹部を貫かれたからだ。
彼の口から血が垂れる。だが不思議なことに彼は顔を少しも歪めなければ、悲鳴もあげなかった。代わりに不気味なほどニッコリと嗤っていた。
「ははっ、先ずは妨害役から潰すのが定石だよね。それじゃあ、また」
そう呟くとケイオスは触手の出所であろう箇所に引きずりこまれていった。
「ケイオス!」
触手は凄まじい速度で伸縮していき、次はマリアンへと絡みついた。即座に月の剣を連射するが先程と違って止まる様子は見せない。
マリアンを絡めた触手は直ぐに建物の陰へと隠れていき姿を見せなくなった。
ほんの一瞬の出来事である。
「嘘っ!?人間も吸収した!」
「行方不明になった先発隊は多分、あれにやられたのでしょう。……まだ間に合うかもしれません。マリアンもケイオスも」
「ラピっ!何を…!」
「ブラックスミスは捕獲したニケをしばらくの間保管します。時間的には生存している可能性が…」
ラピはそこで口をつぐむ。指揮官であるエイダンから口を閉じるようジェスチャーされたからだ。
「御託はいらねぇ。あのいけ好かない堕天使も、マリアンも両方揃って初任務完遂だ。自殺の予定が無いなら付いて来い」
「分かりました」
「分かりましたって…あんた正気なの!?死んじゃうよ!」
「アニス…やってみよう。やってみたいの」
「…見つけた?」
「まだ分からない」
「…いいよ。じゃあやってみよう」
その会話の真意は知れない。ただ、ラピは何かを求めている事だけは分かる。そして、アニスは彼女と簡単では無い関係なのも分かる。ただのチームメンバーでは無い。良いチームを持った事に、口角が上がるのを感じた。
「シフティー。交戦する。サポートをお願い」
『え!?あっ!はい!まずシミュレーションの結果は…』
「必要ねぇ。マリアンの信号を頼りにあの野郎が何処にいるのか教えてくれ」
『分かりました!只今よりタイラントモデル003 ブラックスミスとの交戦へ突入します。どうかご無事で。エンカウンター!』
端末に位置情報が送られたのを確認するや否や、エイダンは走り出した。
「えっ!?指揮官様!?って速っ!!」
「早く追いかけないと!…お待ちください指揮官!」
この3人の中で一番キレていたのはエイダンであったのだ。月の剣を入手した事で完全にそのリミッタは外れていた。
腹に大穴を開けられたままジェットコースターとは初体験だ。
左半身を吹き飛ばされてカーレースに参加したこともあるので似たようなものだろう。あの時は直ぐに再生したが。
相手は運んでいる僕とマリアン君の安否なんて気にしていないようで、やたらめったら乱暴な運転で自分の元へ案内してくる。
頭をぶつけたり脚をぶつけたり、体でぶつけていない箇所はもう無いだろう。これがもしアトラクションだとしたらチップに1000W払っていたかもしれない。
僕と同時進行形で連れて行かれるマリアン君の左脚はその衝撃に耐えきれずに既に無くなっている。右目のフレームも破損したようで、紅い侵食反応の光が彼女の剥がされた頭部から漏れ出ていた。
あー、やられっ放しっていうのは
本来なら主人公である彼が倒したであろうチュートリアルのボス、マリアン君の侵食にも関係していそうだ。
強い助っ人が来て、さあこれからっていうのにコレはカッコ悪いな。うん、カッコ悪い。これからこの世界の人類と『はじめまして』をする訳だし、カッコ悪い報告でもされたら大変だ。
僕は期間限定で操作できるストーリーキャラクターなんかじゃない、初回ダウンロード特典の配布キャラクターだ。敵の不意打ちで良いようにされている様じゃ、ユーザーに使われなくなるだろう。
「ちょっと、マリアン君。僕の声って聞こえてたりする?」
「ここです…ここです…こ…こで……す」
「あーOK。ダメみたい」
少しは役に立つ事をしてみようか。例えばそうだな…マリアン君のバグを誰が引き起こしたのか?とかね。
仮説を立てよう。
まず、彼女があんな状態になった原因はブラックスミスじゃない。侵食に関係がありそうとは言ったけど、直接関係している訳じゃない。僕の体を突き刺している奴は言わば侵食状態になったニケの回収係だ。勿論、目的はラプチャー側の戦力強化。侵食状態というバグを起こしたのはまた別の存在だ。
じゃあ、誰が起こしたのか?この問題は簡単だ。人類の拠点に居る管理権限の強い誰かだろう。
今回の任務に着任する以前に侵食を受けたのは確実だ。僕が見ていた範囲でも侵食反応なんて特別なバグを起こす様なラプチャーは居なかったし、彼女はエイダン君に包帯を巻いてもらって以降特に大きな負傷も負っていない。空気感染だとしても同じ任務且つほぼ同期間で任務に就いているラピ君やアニス君にはそういう反応は無い。
侵食反応なんて人類最大の武器に特攻を持つウィルスには対処法がある程度考案されている事だろう。治療法が確立されているか知らないが、反応を検知する事は遠隔でも可能な事は知った。作戦行動前に事前検査をしたとして、それにも引っかからず作戦に参加できたという事は…『情報が改竄された』って事だ。仮にも軍事的部門に関わる
ここで問題だ。じゃあ何でそんな事したのか?
ここが鬼門だ。何より証拠も何も無いしね。
だから、ありのまま感じたままのことを話そう。
この世界には
僕がこの世界に来たのはその所為かもしれない。だから『救え』なんて言ったのかな?ねぇ、僕?
まあとにかく、上位権限保持者はそれを認知し、交渉に持ち込んだ。
知恵のない鋼のオバケに人類が負けるはずないからね。必ず知恵のあるラプチャーが居るはずだ。
そしてその交渉内容は『
『人類への不干渉』…それが一体どの範囲をいうかなぁ。
ラプチャーにとってニケはどの程度需要のある部品なのかにもよるよなぁ…交渉の手段になる程だからそれなりに高い筈だし…。身体では無いし、精神だと曖昧すぎる……。正当防衛なら許可…は違う。普通のラプチャーにそんな約束を守る知性はないように思う。
あっ。
「あぁ〜、人類の生活領域への不干渉か」
この間僅か2秒。
確証もない考察を重ねた仮説であったが、ケイオスはこの仮説を確信していた。
まだ世界の全て見たわけではない。だが、『救え』と沢山の自分に言われ、
そんな世界で人類が超高度な戦闘用完全自立型
「酷い妄想だ…最高だね♪」
マリアン君は人類を裏切ったんじゃない、人類に裏切られた訳だ。
そこまで思考が行き渡った所で終点に着いたみたい。
ブラックスミスと呼ばれる個体が眼前まで迫っていた。
「やあ」
Bang!Bang!Bang!
挨拶がわりに三発弾を打ち込んでみたが、貫通するには至らない。そもそも弾き返された。通常タイプとは出来が違うようだ。
「ははっ、初期武器でボスの蹂躙は無理か」
触手から放り投げられ地面と激突する。痛みはないし、怪我もないが。
マリアン君はそうはいかない、右腕を無くし、右脚があらぬ方向に折れたようだ。
「ユーザーにこれ以上失望されないよう、そろそろ頑張った方がイイよね」
ケイオスの腹の大穴へ小さな粒子が集合し新しい体の組織が再生を果たす。
ブラックスミスの肩と思われる部分から砲身が生えた。
「面白いなぁ、君たちはレーザーにミサイル、バリアにライフル…人の武器を模しているみたいだ。真似っこ合戦でも繰り広げてるのかな?」
砲身から丸いミサイルが放たれる。その標的は僕に違いない。
カースをばら撒いてからサングラスを外す、真剣に射撃ゲームを楽しむ合図だ。
Bang!Bang!Bang!Bang!Bang!Bang!
早撃ちは得意ではない。しかし、魔法を使った以上技術は必要なくただ早くトリガーを引けばいい。
全弾ミサイルに命中し、それぞれが誘爆し合い、瞬く間にミサイルは消滅した。
「射撃上手くなりたいなぁ」
そうすればこんなかっこいい事もインチキに頼らず出来るのに。凄腕のガンマンになるつもりは毛頭ないけど。
「っと、マリアン君を忘れちゃイケナイか」
ブラックスミスのコアの赤い光が増す。次の攻撃へ移行するのだろう、ミサイルはダメだと判断したのか次はライフルの銃身がケイオスへ向かった。内部の照準がケイオスへ向かった直後、突如としてケイオスの姿が消える。突然消えた事で目標を失ったブラックスミスは困惑したが直ぐに熱源探知を使用し位置を特定する。そこまで遠い場所ではなかった。
どうやら
「脳が無事なら本当に生きられるんだね君たちは。もう既に出血死か、痛みによるショック死をしてもおかしくない」
ライフルが打ち出される。
だがまたもやケイオスの姿はかき消えライフルの弾は外れた。ただ虚しく建造物が崩れるだけだ。
「うわっ、君の上ってヌメヌメしてるんだね。気持ち悪い」
上から声がした瞬間、人間が自分に乗っていることを知覚した。いつの間に?さっきから何かおかしい。
「ってか、マリアン君おもっ。何キロあるの君」
「こ…こです…ここで…セクハラです」
「君、意識ない?」
上にいるケイオス達を排除しようと触手が出される。自分の頭上、外しはしない。
触手を交差させ突き刺そうとするが、またも空振る。何故?
「一個一個の動きに予備動作が必要なんだね。速いだけで分かりやすいよ君」
今度は目の前だ。
ライフルを向ける。
「ま、チュートリアルボスはこんなもんか…ニケをラプチャーの素材に変える工程を見たかったけど、そんな状況でもないしね」
今度はライフルを撃つ前に消えた。何処だ。熱源探知するも近場には居ない。
もう一度スキャンを掛ける。もっと遠くに、広範囲に。
捉えたが…一体いつ、どうやって其処へ?
遠過ぎる、速く近づかなければ……。
「それじゃ、また遊ぼうね」
パチッ
ケイオスが指を鳴らした瞬間、ブラックスミスの真上に幾何学的な模様がいくつも重なり現れる。
起こったのは大爆発。その威力は絶大であり、巨大な爆発の柱が現れ、轟音が鳴り響く。
ブラックスミスは何が起こったか分からずに消滅した。呆気なく、唐突に。
「これぐらいの爆発で完全消滅か。残骸は多少残ると思ったんだけど。大体の強度も知れたし。満足かな」
「ケイオス!」
「あっ。やぁ、エイダン君、予想よりちょっと早かったね」
突然ケイオスに話しかけたのはエイダンだった。
肩で息をしているので全速力で駆けてきたことがわかる。ケイオスの予想では、ここに辿り着くまでにもう少しかかると思っていたが…これもシフティー君のお陰かな?マリアン君に発信機でもつけられていたんだろうか。
「一体、何を起こしやがった?」
「僕が魔法使いなのは知ってるだろう?」
「それがあの大爆発って訳か…まぁいい、よくやった。お前の魔法については後で聞く。ブラックスミスはどうなった?」
「あぁ、それならあの爆発で完全に消滅したよ」
「!…そうか。分かった」
「マジで魔法使いだった訳ね…」
「疑ってたの?酷いなぁ」
「あそこまで大魔法使いとは思ってなかっただけよ」
アニスに悪態づかれながらも飄々と言葉を紡ぐ姿は先ほどと変わらない。別れ際に腹に大穴が開いていたとは思えないし、そもそもその傷は完全に治癒されている事に気付いた。アニスは内心どっちが化け物だか分からないとラプチャーとケイオスを比較した。
「それより、マリアンはどうなった?」
「僕の肩に背負われてる通りだよ」
「ここで…す…こ…こ…です」
「…っ、駄目ね。侵食が脳にまで転移してる」
「そう…か」
『脳が侵されたニケは処分するのが規則です。…軍法によりニケの処分は指揮官が行わなければなりません』
シフティーからの言葉を反芻する。処分…処分か。
覚悟はしていた。だが、それでは足りなかった。さっきまでは仲間を連れ去られた怒りで誤魔化していたんだ。
見る影もなく、ボロボロになったマリアンを見て手が震える。
「ねぇ、それって本当に処分しなきゃいけないの?」
「ええ、そうよ。脳が破損したニケは人類を攻撃しちゃいけないっていう命令プロトコルが壊れてるから危険なの。何をするか分からない爆弾になるのよ。実際、侵食状態になったニケが一般市民に向けて発砲した事件があるわ。一度侵食状態になったニケはもう元に戻らない……そういう運命なの」
「ふーん」
ケイオスとしては、侵食状態を解明するためにサンプルが欲しいところだが、人類はそういう事をしていないらしい。それに、何よりアニスのとある一言に引っかかりを覚えた。
「ケイオス、お前の銃でマリアンを介錯するが構わないか?」
「別に構わないよ」
「指揮官…至近距離から頭を撃って下さい」
「…私がやろうか?」
「いや、いい。救えなかった俺のケジメだ」
照準を合わせると息が荒くなる。これからこの光景は悪夢になるだろう。……指先から力が抜けていく。
「指揮官、速くしなければイレギュラーになる可能性が…」
「あ、ちょっとごめん」
「こんな大事な時に何?」
引き金を引くのを躊躇していると、ケイオスが躍り出る。声色が低くなったアニスが尋ねるとケイオスは嗤った。
「正義の味方は仲間を助けるものだからね。裏切り者ならともかく、彼女はそうじゃなかった。…彼女は被害者だったんだ。君たちニケは今まで献身的に人類に貢献してきた。その末路が人類に裏切られての処分…良く出来た悲劇のドラマじゃないか。みんなから『救え』って言われてる僕としては少しだけこの結末を変えたくなったんだよ……それに───運命って言葉は好きじゃない」
ケイオスがマリアンの頭に触れると突然キューブ状の物体が回転しながら浮かび上がってきた。
ケイオスはそれを手に取ると更に笑みを深める。
「成功したみたい」
「お前…マリアンに何をした?」
「彼女の記憶を複製した。このキューブには彼女の生前の記憶が全て詰まってる」
「なんだと…?そんな巫山戯た事が…何の装置もなしに」
「どう?凄いでしょ。君たちが言っていたニケの不死性…NIMPHによる記憶の保存を魔法でやったってだけだよ」
「本当に…マリアンの記憶はそのキューブにあるの?」
『お待ちください!仮にそのキューブがケイオスさんの言う通り記憶を保存していたとして!侵食状態になっていない保証はありません!』
「僕が複製したのは記憶のみ。NIMPHはそもそも僕もどんな物か知らないからね…バグは移らないよ。断言する」
ケイオスが垂らしたのは蜘蛛の糸だ。共に戦った仲間…そして命の恩人を自分の手で殺す前に現れたか細い
「じゃあ、今この目の前にいるマリアンはどうなる…」
「さあ?それは君が決める事だ。僕は指揮官じゃない。これまでの記憶は全てこのキューブには内包されているから。好きにするといいよ」
「……し、き、かん…こ…こで……す…」
彼女が手を重ね、己の眉間へと銃口を導く。
「苦しい思いはあまりさせるべきじゃないと僕は思うけど」
「……ッ」
「ま……た……包…た…い…まい…てく…だ…さい」
「何度だって巻いてやる。だから、今は静かに眠れ…」
──Bang!
この回ではケイオス解釈違いが起きそうですね。自分でもマリアン助けたい欲とこれから展開している景色を見たい欲が強くてケイオスを無理に動かしました。申し訳ありません。
イノが時空間移動して世界の破滅を防いだり、記憶消去(ドラマCDで少年時代のカイに使用)したりしてるので、ケイオスなら記憶保存も可能だよねってことでマリアン救済?ルートです。
ケイオスは
ところでハイピルモルド5連で1人もSSR来なかったのはバグですか……?ぴえん。
《おまけ》
もしもハッピーケイオスがプレイアブル化したら。
HAPPY CHAOS 火力型 製造元:アブノーマル バーストスキルⅡ
Lv.200/200
戦力20308(コアレベルMAX)
HP:604582
攻撃力:25554
防御力:3805
武器種:二丁拳銃
最大装填数12発
対象に40.05%のダメージ
リロード時間:1.590秒
操作タイプ:通常型
スキル1 集中 Lv.10
HP70%以上なら自分に
貫通特化。持続。
5発撃つ度に攻撃力18.6%増加。(5秒間維持)
10スタック可能。
スキル2 カース Lv.10
15秒間に一回ランダムに敵全体にカースを付与。
カース状態の敵がいる際、味方全員に命中率108.3%アップ。(10秒間維持)
一度でも攻撃を受けると強制解除され、スキルクールタイムもリセットされる。(発動持続間のみ)
バーストスキル Ⅱ デウス・エクス・マキナ Lv.10 クールタイム20秒
防御力の一番低い敵1機に
攻撃力312.8%のダメージを与える。
フルスタック状態なら追加で
味方全員に弾丸チャージ100.0%
攻撃力308.9%の追加ダメージを与える。
ゲーム性能的には対ボス用にして、紅蓮、アリス、ルピー、ギルティ、ディーゼルを参考にしました。
スキル1がスケープゴートだったら4秒間の無敵に敵全体挑発10秒間がありました。そして防御型のステータスになっていたことでしょう。
これだけ見た場合のケイオスの評価ってどうなりますかね…。
ハフバイベント、OVERZONE視聴後の作者(もうすでに半年前とは…なんというかすみません)
次回『君がエニックか。慈悲なき啓示とは仲良くなれそうだね』