史上最恐の弟子 クソマゾ!   作:流々毎々

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おそらく出オチ


神の欲の果て

 

 2000年の現代からおよそ100年前の1900年は近代史において激動の時代だ。特に歴史として語り継がれている第1次世界大戦とそれに続く第2次世界大戦は未だに色濃く世界に様々な爪痕を残し続けている。中でも西洋を中心とした列強諸国による植民地政策は瞬く間に世界へと広がり、多くの民族や人種に不自由を強いた。

 

 アジア圏内もその影響から逃れられず、より苛烈な侵略を受ける事となる。世界は当時、最強の力を持ち合わせていた連合国軍に屈する未来しかないと思われた。

 

 しかしここに例外が存在する。インドネシアに隣接する大小様々な島々の集まりによる国。その名はティダード王国である。

 

 当時のティダード王国は列強の観点から測れば文字通り烏合の衆でしかない。抵抗できる軍事力など期待できず、せいぜいが島々の国のお陰で侵略には多少の遅延が出るかもしれない程度。ティダード王国の侵略は労せず終わる。そうなるはずであった。

 だがとある英雄が率いるシラットゲリラ部隊の存在が侵略者たちの予定をすべて狂わせた。

 

 彼らは銃などの近代兵器が主流であったこの戦争で、あえて剣やナイフなどの原始的な武器を用いたジャングルファイトで屈強な連合国軍の軍人たちと互角以上の戦闘を繰り広げていた。そしてついに列強の兵士たちを返り討ちにし、終戦を迎えるまで連合国軍に屈しなかった数少ない国の一つとなる。

 連合国軍の軍人を追い払い常に最前線で戦い続けたティダード最強のゲリラ部隊。その部隊を率いていたのは若く美しい青年だったと言う。

 

 2000年の現代。今では昔話として戦争の事を知らない人間が多くなった時代。

 しかし、神話は実在する―――

 

――――――――――

―――――

―――

 

 ここは大小100の島が連なり存在する国。ティダード王国。その島の1つ、豪華な宮殿の中で物思いに耽る1人の男がいた。

 

―近代の神話― 

―最新の英雄―

―ティダード王国の救世主―

                                 

etc

 

 数多の人間を死地の世界へ誘った大戦を生き残り、ついには自国を己が力で救った伝説の武人。現人神シルクァッド・ジュナザードその人である。

 

 つい先日まではシラットゲリラ部隊を率いて列強諸国の軍人と死闘を繰り広げていた彼であったが、それも第二次世界大戦の終戦に伴い一時の安息が訪れていた。戦いが終わった英雄たるジュナザードの心境は自国を救えたことによる安堵―――などでは決してない(・・・・・・・・・)

 

 シルクァッド・ジュナザードには大望がある。

 それは武の極みにまで上り詰めた達人さえ下段に置く超人の域に到達した、過去に類をほとんど見ない武人ジュナザードであっても成し遂げるのは困難と言えるもの。

 

「駄目だわいのう。何度逆算しようともまともにやっていれば時間が足らんわい」

 

 ジュナザードは思考を繰り広げていた問題についていったんの区切りを付ける。そして独り言と共に集中するために閉じていた瞼を持ち上げる。

 

 黄金比を思わせる程の整った顔立ち。雪原より輝く銀髪に宝石のルビィーより鮮やかな赫眼。されども褐色の肌を持ち合わせた人体は超常なる存在としての神性と生物としての魅力を見事に併せ持っていた。

 

 容姿・名声・才能・富、およそ人が望むであろうものを全て手中に収めているジュナザード。だがそんな彼の表情は決して晴れやかなものではなかった。

 

「カッカッカ、まさかわれが凡人の如く悩まされることがあるとはのう」

 

 われながら驚きもひとしおじゃわい、そのようにジュナザードは呟く。だかその表情には諦めの色は存在していない。

 

 ジュナザードの大望。それは人の身を捨て神に挑むことである(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 ともすれば狂人(ドン・キ・ホーテ)と判断されかねないその願い。ジュナザードは本気で叶えようとしていた。

 とは言え、その望みは尋常なものではない。半ば人の枠組みから外れている超人のジュナザードとは言え無視できない問題があった。

 

 その一つが寿命だ。

 

「神に挑むにはまず人の身を脱却せねばならんわい。そのためには我が武術、シラットをより至高の域に導かねばならんのう・・・」

 

 そう、ジュナザードの望みを実現させるのは特別な方法などではない。シンプルイズベスト。いま手中に収めているものを順当に昇華させればいいだけだ。それこそが神の世界に踏み込む最短にして最速に道であった。

 しかし―

 

「足らん足らん、時間が足らんわいのう」

 

 ジュナザードはスーパーコンピューターより優秀なその頭脳で何度シュミレートしても先に己の寿命が訪れてしまう結論を出していた。

 同時に延年益寿法などの秘術も交えて検討してみたが根本的な解決には至らない。

 

 或いはジュナザードの足下程度の才能か、実力を持った達人が彼の近くにいれば話は変わっていたかもしれない。

 

 どだい、一人で出来る研鑽には限界がある。

 

 だが今のティダード王国にはそんな逸材はおらず、ジュナザードからすれば子供か赤子としか言いようのない達人や妙手クラスの武人ばかり。

 

 普通であれば己には過ぎた夢だったのだと諦めるだろう。もしくは次世代に望みを託す方向に舵を切る。しかし生憎ジュナザードは常人の思考を持ち合わせておらず、また後世の踏み台に甘んじるほど愁傷な性格もしていなかった。

 

「まともな方法で足りぬなら、まともじゃなくせば良いだけだわいのう」

 

 正気にて大道はならず。

 

 カッカッカ、と声を出すジュナザードのその顔は邪悪に嗤う。或いはこれこそが救国の英雄が邪神へと変貌した訳だったのかもしれない。

 

「元よりわれが力を示さねば容易く食われていた弱小国家。それをわれのためだけに使う。助けた借りは返して貰わんとのう」

 

 今ここに、ティダード王国は邪神による狂乱の運命に投げ出されることが決定された。それを知る者は今の所ジュナザードを除き誰も知らない。

 

 今はただいずれ消えてしまう平和と言う名の陽炎に皆が安堵するだけであった・・・

 

――――――――――

―――――

―――

 

 救国の英雄が邪神へと変貌した日から幾数年。ティダード王国は静かに狂い始めていた。ジュナザードがティダードを己の贄にすると決めてから取った方法はシンプルだ。

 自らの手で鍛え上げ成熟した達人を食らう。この方法によってある種の経験値を貯めて己の身をさらなる段階へと昇華させようとしたのだ。

 

 表向きは富国強兵により、いずれまた起こるかもしれない列強による侵略を防ぐためだと銘打って。

 

 ジュナザードは文字通りティダード王国の生命を全て食らうつもりであった。そしてティダードの国民はそんなジュナザードの思惑に気付かない。いやジュナザードの事を疑うことさえしなかった。

 これが一人の人間の力によって救われ依存してしまった国家の末路である。

 

 己の大望のためなら救った国でさえ贄とし、そのことに何の躊躇も罪悪感も抱かない。これこそ邪道。これこそ魔の者の思考。拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードである。

 

 なれども、ジュナザードのやりようは間違いなく国をより正確に言うならば武人を強くした。おそらくアジア圏内に限るならもっとも達人と妙手クラスの武人が揃った国であろう。

 

 まあ極まった達人はジュナザードが食らってしまう為、ティダード王国一強の時代は絶対に訪れないのだが・・・

 

 そんなジュナザードが特に力を入れているのが弟子の育成である。国中の才ある若者を集めては日夜、人体実験に等しい育成を施していた。そうしていくつもの秘術や奥義が生まれては消えていく。

 ティダード王国内はジュナザードが主催とする強大な実験場となっていた。

 

 さまざまな実験を行っていく中、ジュナザードは次第に一つの結論に辿り着く。すなわち、武人として大成し成熟するには死を克服することこそが最も重要であると。精神性にこそ重きを置くようになったのである。よってジュナザードは今、死の恐怖を乗り越える事が出来る強固な内面を効率よく作ることに力を注いでいた。

 

 1つの試みに集中せず様々な人材にストレスやプレッシャーを与えその果てに心がどのように変化してしまうのか。そのパターン化を確立しようとしていたのだ。

 

「実験の"でーた''はおおいに集まったわいのう。後はこれを精査して本命の弟子に施すだけじゃわい」

 

 数百、数千のモルモットにより集めた実験データ。邪神の恐ろしい所はこれらをたった一人の達人を作り上げるための使い捨てにしてしまう所だ。

 用と価値が無くなったら捨てる。ジュナザードがこれまで何度も行ってきたルーティーンの1つである。

 

「残りの廃人同然の弟子は廃棄。まだ使えそうな者は他の弟子の洗礼のために取っておくかのう?」

 

 価値が無くなれば捨て、少しでも残っていれば使い潰す。邪神の悍ましき思考からこぼれた独り言を周りに控えていた部下たちは努めて理解しないように努力した。

 凡百を遥かに凌駕する達人の域に到達した彼らであってさえも邪神の前では頭を垂れるしかないのだ。

 

 しかし、どんな達人であったとしても予想外の事態に直面することはある。それは邪神であるジュナザードであったとして例外ではなかった。

 

「うおおおォォォッ、もっと!もっとおおおおお!!!!!」

「・・・・・」

 

 ジュナザードが実験の段階を次のステージに移行させようと考えているとき、眼下で行われてる実験場の一つから嬌声が聞こえて来た。

 

「抉るように壊すように情け容赦なく責め立ててくれ!」

「・・・なんじゃあれは?」

 

 そこに目を向けたジュナザードの瞳に映った光景は、達人にムチを打ち付けられリビドーを感じている変態(モルモット)であった。心なしかムチを振るう達人の腰が引けているようにも見える。

 

「あの者はジュナザード様が施した実験の1つ。過度な物理的痛みによる心の限度を測る実験体の1つです。実験番号は03。100人いた実験体の中で唯一生き残った個体であります」

「ほう。で、なぜあのような有様になっておる?」

「おそらくではありますが、過度な責め苦に耐えれるように痛みを快楽と誤認しているのではないかと・・・」

「なるほどのう」

 

 正直、これまで数多の実験を行って来た中で己が思い描く結果とは違うものとなってしまった例はいくつもあった。

 それがマイナスの方面に行ってしまった時は失望と怒りで速やかにモルモットの処分をしてきたジュナザードであるが・・・

 

「面白いわいのう」

「え?」

 

 カッカッカ、と小さく笑いを溢す邪神に部下の達人は思わず生返事をしてしまった。と言うのもあれ(変態)を認識した邪神があれの生存を許すとは到底思えなかったからだ。

 

 だが現実は真逆の事が起こってしまっている。

 

「武人は死を克服してこそ大成する。あの童は痛みと言う死を快楽と言う形で克服しおったわ。思っていた結果とは少々ズレておるが間違いなく貴重な"さんぷる"の一つだわいのう」

「な、なるほど」

「あの童は残せ。後にわれがさらなる改良を施す」

「畏まりました!!」

 

 これだから弟子育成は辞められんわい。

 そう呟くジュナザードはもう一度ある意味己の想像を超えた実験体を見る。この者が邪神にとってさらなる益をもたらす存在になるかはまだ分からない。

 しかしこれだけは確かに言えることがある。

 

「ぁぁああああああアアァァァ!!!達する!達する!達してしまう!!もっと、熱くなれよおおおおおオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・きっしょいのう」

 

 救国の英雄にして国を平らげようとする邪神を以てしても特殊性癖に開花した人間は異様に映るらしい。




ただ邪神にきっしょいのうと言わせたかった。
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