瞼の裏までも貫通するような強烈な閃光も終わり、いつも入ってくる光の量に変化した。しかし、未だ明度の変化に目が慣れていないのか多少チカチカする。そんな中でも目を開け、よりつぶさな情報を手に入れようと周囲の様子を確認すると、明らかに教室の中ではなくなっており、なにやら自分たちは人に囲われているということが分かった。
どうやら自分たちは無傷らしい。自分の背で庇った4人は怪我一つもしていないし、自身にも怪我をしたという感覚も痛みもない。自分のクラスメイト達も何ともないようで、ただただ先程までとは変わった景色に困惑している様子だった。
自分たちを囲っている…というか跪いている白い法衣を着た者たちの1人が前に出る。匂い的に70を超えた老人だろうか。その他の特徴として外装が他と比べ煌びやかであり、位が上という事がありありと見て取れるということだ。どうも、こういう相手には嫌悪を示してしまうのは前世の愚王達を思い出してしまうからであろうか……。
「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は聖教協会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、よろしくお願いいたしますぞ」
ああ、いや…自分が感じていたものは正しかった。
本当にいつ振りだろうか…ここまで嫌悪する
一度イシュタルと名乗った老人の一声から周囲への気を配る事に余裕が出来たクラスメイト達。
サツキちゃんもあれこれと周囲を見渡し、煌びやかな額縁に飾られた壁画を眺めては、『成る程…分からん』と、呟く程度には余裕が出来たらしい。私もこういった芸術の感性というのはさっぱりだ。正直専門家しかわからないような芸術よりも、一般の人が美しいとか、かわいいとかカッコいいなど思う作品の方が個人的にも好ましいと思う。つまりpixivは良い物という事だ。
ハジメの方へと目を向けると香織と手を繋いでいるハジメがいた。おそらく無意識のうちなのだろう。極々自然体のように寄り添っていて、なんとなくだが…結婚したての若夫婦の様にも熟年夫婦の様にも見える。雫がその様子を見て何処となく忙しないのは、やはりハジメの事を好いているからだろうか…まあ、私がそう意識するよう仕向けていた訳だが……今では逆効果だろうな。
いつもの日常の風景が急激に変わり、不安にならない人は居ない。雫も例外ではないだろう。
誰でもその様な状況誰か信頼のある人、または己の思い人に頼りたくなるだろう。だが、そうは思ってもその相手には既に自分の親友がいて、縋るに縋れない状況を作ってしまった。
普段から頼られている彼女は今まで以上に頼られるだろう…皆支えが欲しいから。幾ら慣れ親しんだ歳上の教師がいたとしても…頼るのは身近にいる方なのだ。…彼女の心がこの様なことで簡単に折れる程柔じゃないと心得ているが、苦しむ様に仕向けてしまったのは私だ。責任を取らねばならないだろう。心の中でだが惜しまない助力をしようと決意した。
何か彼女の支えになる様な案を考えていると、イシュタルにこんな所で落ち着かないだろうと長テーブルと椅子がいくつも置かれた広間に案内された。
移動している最中に早速サツキちゃんが、『ここ探検しようぜ!』と言い出して足早に走っていったが、敢え無く教会のシスターらしき人物に捕まっていた。仮にも陸上部で他の追随を許さぬほどに健脚な彼女の脚を捕まえるとは…その動きにくそうな修道女の服でよく…ん?…いや、単なるシスターではない?……なんだ此奴は?なぜこの様な奴がここに混じっている?
完全に力を取り戻せていない今では正体までは分からないが……人ではないな?
一度最大限まで警戒を寄せるが、相手は特に何をしてくる様子も無く、ただ傍観に務めているようだった。私も変にこちらに意識を向けぬ様に警戒の気配を解くことにした。
他のシスターや神官、私たちにそれぞれ付けられた侍女や執事達を見ても先程まで見ていたシスター程の強者は居ない。さらに言って仕舞えば、学生の身である私たちよりも弱いというのが分かった。…流石に5人がかりだとキツイだろうが。
それ以外で特徴をあげるとすれば顔だろうか…どれも顔の造形が一般的に好ましく思われる形であり、顔の左右対称率が高い。もっと簡単に言ってしまえば美男美女ばかりという事だ。
あとは…立っている姿勢からブレがないのが少ない。付け焼き刃程度の身のこなしでここに居るのが、付け焼き刃程度の知識から分かる……ソースは小林さんさんちのメイドラゴンと黒執事。
本物のメイドや執事を生業としている者も中には居るが…ごく少数だ。これもまた、美男美女ばかり……ハニートラップか何かでもするつもりだろうか?
「では皆様方さぞ混乱していることでしょう。事情を一から説明する故、まずは私の話を最後まで聞いてくだされ」
全員が席に着いたのを確認したのかイシュタルがそう言ってくる。因みに私の隣はサツキちゃんと弟であるハジメだ。そのハジメの隣には香織が居る。……なんだ光輝、その意外そうな顔は。
イシュタルが話をしているうちに、ふと思う。
俗世間に染まった私が言うのもなんだが、どうせだったら
少し脱線していたが、耳から通っていた音は全て覚えているので後は文にするだけだ。要約するとイシュタルの言っていることはこうなる。
人間族と魔人族とで長年に渡り戦争を行っており、個が優秀な魔人族に数の有利を取り拮抗してきた人間族だが、それも最近魔物を扱い始めた魔人族に数の有利を取られ、互いの均衡が無くなり人間族は滅びの道が確定された。なので、自分らの信仰している神…もとい、この世界をも作ったと言うエヒトなる者がそれを嘆いて、人間族を滅ぼさなぬよう救いを送るといい、私たちが召喚されたと言う事だ。
……誰かに頼り、生存を図ると言う手段自体には否定はしない。共依存しあい、全く別の種族でありながらお互い相手が居なければ存続できない様な生物もいるし、竜大戦時代の我等龍も人間側の被害を抑えつつ勝利をする為に生き方の違う龍達とも徒党を組んだ。
しかしまあ、イシュタルたちがしようとしている方法は共通の敵、共通の目的があるから成り立つのであって、そもそも世界が違う私たちに任せるのは全くのお門違いなのである。それに加え、少なくとも其れ相応の対価が必要であるのにも関わらず、こちらの命に釣り合うほどの対価は提示されてないときた。全く話にならない。
「あなた方の世界はこの世界よりも上位の世界にあり、例外なく強力な力をお持ちなのです。是非その力を発揮し、エヒト様のご意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救っていただきたい」
何処か恍惚とした表情でそれを言うイシュタル。神託を貰った時のことでも思い出しているのであろうか…私の言葉を聞いて狂喜乱舞する輩も中には居たが、余韻に浸る姿はこんな感じなのだな…っと昔の事を思い出す。世界滅ぼしてくれ!とか急に言ってきた時には私は道具か…と怒りを通り越して呆れていたが…懐かしいものだ。
「ふざけないでください!結局はこの子達を戦争の道具にするってことでしょう!そんなの許しません!ええ先生は絶対許しませ──「あぁん!?オメェらさっきから好き勝手にいいやがって!アタシらを戦争に使うたぁ!良い度胸じゃねぇか!」え、ちょ、サツキさん!!?」
「せっかく異世界転移させたんなら戦争じゃなく観光させろい!」
そこ?と誰もが思ったであろうサツキちゃんの意見。その証拠にクラスの皆が目を丸くさせてサツキちゃんの方を見ている。かくいう私もそこかぁ!と思いクスクス笑っていたりするのだが。そのせいか皆の緊張の糸が少しほつれた。
「勿論、勇者様とそのご同胞の皆様には戦いに明け暮れるだけでなく最上級の持て成しをさせて頂き、休暇も設けさせて頂きます。その際にこの世界の事に慣れていただくよう街を出歩いていただいても構いませんが、それでも駄目でしょうか?」
「おっちゃん。ジュピターだっけか?バカ言っちゃいけねぇ。アタシらは戦争なんぞ一回もしたことないド素人だぞ?そんなもんこっちの世界の戦争屋にでも任せておけばいいものを、なんで多少の武道の心得のある奴らがちらほらと居る程度のアタシらを頼ったんだよ。そいつらもう一回呼んでアタシら帰らせた方がこの世界のためだぞ?つーわけで拉致った謝罪として異世界観光させろ」
最後は結構…いやかなり無理矢理な要求だが言っていること自体は正しい。
学生の身分である私たちよりも日々訓練し戦術なども心得ている軍人の方が戦争には最適だろう。他の生徒もそれに助長して、「そうだ!専門家に任せれば良い!」「それなのに何で私たちが!」と抗議を上げてくる。
「私に申されましても、ここにあなた方を喚んだのはエヒト様のご意思。貴方達はエヒト様に選ばれたのです」
「あぁ!?んじゃ何か?アタシらを帰せるのは実際そのエヒト様っていう奴しかいねぇって事か?」
「その通りです」
イシュタルの肯定の意を表す言葉に、波紋の波が終わったように静かになってしまった。笑いで少し誤魔化されていたが、私たちが帰還不可な可能性に気づいたらしい。
「時に聞くが、イシュタルとやら」
「はい。なんでしょう?」
「エヒトとやらに話しかけ、帰還を願う事は可能か?」
「エヒト
「そうか…つまり、本当に帰れないわけだ」
何処からかそんな…という言葉が聞こえてきた。それを皮切りに皆が不満を言う。
「うそだろ?帰れないってなんだよ!!ふっざけんな!!」
「いやよ!なんでもいいから帰してよ!こんな所に居られるわけがないじゃない!!!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!野垂れ死ぬなんて…そんな…そんな…!」
「なんで、なんで、なんで……帰し…かえしてよぉおおお!!」
クラスの列になぞって悲鳴がこだまする。やはり、帰れないというのは誰にとっても怖いことのようだ。というか、この世界自体が恐怖なのだろう。自分たちの当たり前が変化して、何があるかも、何がいるかも分からないのだから。未知は人間において最も強く最も歪な恐怖だ。モンスター物のパニック映画なんかでも、未知の恐怖というのはよく使われる。物語の序盤や中盤はモンスターの正体が分からずに進む要領だ。
私が発端として起こったパニックを利用し、事態の整理や今後の展開予想など、身近な者と共有する為に私はサツキちゃんとハジメの肩を揺する。サツキちゃんはもとよりそのつもりだったらしく耳を傾けた。それとハジメが反応したからか、香織も小会議に参加した。
「ハジメ、香織、サツキちゃん。今回のこの場面…どう見ている?」
「まだマシかなぁ…って。帰れないのはテンプレだし。一番酷いのは奴隷化だから、それされてない分だけ…ね」
「まあ、今んところ優遇されてっしな。つっても流石にこれはサツキ様でもお手上げだぜ…何かの拍子に立場逆転とかあり得るからなこういうの…迂闊に手が出せねぇ…さっきのも結構な博打だったんだぜ?」
「私は…出来るなら戦争には参加したくないな……ハジメくんが傷つく所見るの嫌だもん」
「私もそれは同意見だ。戦争なぞ…あまり見たくもないし関わりたくもない。当事者同士で周りに被害を出さなければ勝手にやってれば良いものを…何故私たちを巻き込んだんだか……エヒトとやらは何を考えている?」
「あ、それ、僕なりの考察建てたんだけどいい?」
「もう建てたのか…流石だなハジメ」
「一体どんな事?」
「なあ、何話してんだ?」
ハジメの考察を言い出すところで清水が割り込んできた。意外な来訪者なので少し眼を見張る。皆が慌ててる時だというのに…案外彼の肝は座っているのかもしれない。
「お、
「
「え!?清水くんもラノベ読んでるの!?」
「……意外か?」
「いや、なんか雰囲気からオタククセェなぁ…とは思ってたぞ。ていうか定期的に漫画ネタとかラノベネタ言うじゃねぇか」
「お前には言ってねぇよ!」
「僕は個人的に仲間が増えて嬉しいなぁって」
「そうか…。んで、話戻るが何話してたんだ?」
「あ、うん。この世界のエヒトっていう神様の事なんだけどさ。この世界を作った創造神な訳でしょ?それなら人間族とか魔人族とかも作ったのエヒトって事じゃない?で、今この状況を言ってしまえば、自分の子供たちが長年殺し合いしているのに、それを止めようともしないで逆に僕たち召喚して更に戦い激化させようとしてるのおかしいなっ…て思ったんだよ。本当の意図は分からないけど、考えられるなら…ただその殺し合ってる様子を見て面白がっているのか、神様が何者かに操られてそうなってしまっているだけなのか…単に人間族を贔屓しているのか…」
「ふむ…」
「んー、アタシからは…それって完全に愉快犯じゃね?って事だけ言っとくぞ。異世界まで焚き付けて戦争の巻き添えにするとか、んなもん愉悦するためだろ。つかあのイシュタルっておっさん自体胡散クセェ」
「癪だがサツキに同意だ…ていうかハジメ、お前よくそんな発想に行き着いたな。俺も結構胸糞物の読んでるがそういう発想はすぐに浮かばなかったぞ」
「あぁん!?癪とはどういう事だこの野郎!」
「それじゃあ、もしハジメくんが最初に言った神様の意図が正しかったら……」
「私たちは異世界というサーカスに招かれた哀れな娯楽動物と言えるな。観客者は神1人というなんとも喜ばせ甲斐のない特大ステージだが……娯楽動物というより、古代ローマの剣奴と言った方が正しいか?」
でも一応考察だからね!サツキさんの言っている通りかもしれないけど、他の可能性だってあるし…例えば、単に魔人族には魔人族だけの神様がいて、そこでもこっちの神様と同じようなこと言ってて、ただの宗教戦争なのかもしれないし…とハジメが補足を加えた直後。
バンッ!
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ」
突然机を叩き立ち上がったのもあり、注目が集まった。こういう時に皆を纏めようとする精神だけは感心する。そして、なまじカリスマもあるので皆も静まり返って光輝の方を見ていた。
「……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない!それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主様の願いを無碍にはしますまい」
「俺たちに大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「えぇ、そうですな。この世界のものと比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょう」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように俺が世界も皆も救って見せる!!」
先程まで世界恐慌でも起きたかのような騒ぎだったのに、一瞬で喜色の表情が見えるようになる。やはり、こういう時に頼れる人物がいると言うのは大切なんだろう。先程も言ったが急な異世界転移と言うのはただ拉致された時の心情とそう変わらない。突然自分たちが救世主と言われ、それ相応の力を持ってたとしても、精神自体に何ら変化はなく依然高校生のままだ。持て囃され、力を持ってると言われてもただ不信感やら懐疑心やらと不安が募るだけだ。その点、それを和らぐようにした先ほどのサツキちゃんの手腕は素晴らしい。自身がどういった立場で認識をされているのかよく分かって実行できている事だ。本人はかなりの博打を踏んだらしいが…それでも私にとっては思いつかないような…いや思いついたとしても出来ないことだ。
光輝も光輝で相手に好印象を与えながら自分たちの精神を安定させ、前向きに異世界への転移に取り組むよう纏め上げる手腕は、彼のこれまでの日常生活により培われた外面的評価となまじあるカリスマのお陰だ。
しかし、今回の場合それが正解だとは限らない。いや、『今』示されているこの状況だけにおいては一番堅実なんだろうがな……光輝の様子から彼は微塵もそう思って居ないのだろう。
「アイツ人を殺すってマジで思ってねぇのか?」
私たちは今から大量虐殺へと駆り出される事が決定してしまったという事に。
「だろうな。イシュタルの印象操作によるものだが、多分彼は魔人族をモンスターか何かだと思っているのではないか?」
「うーん……これちょっとヤバくない?」
「ヤベェだろうな…というか今ので光輝のイメージがガタ落ちしたの俺だけ?」
「私は常日頃から落ちてると思うが」
「アタシもああいう手合いは苦手だったな」
「え、お前が?」
「おいおい、アタシだって人の苦手はあるぜ?」
「マジd…?」
「待ってサツキちゃん!人殺しってどういう事!?」
「え?いや、魔
「そもそも、数が不利にも関わらず長期間に渡って人類と戦争をしていた奴らだ。恐らく人と同じく知恵を持ち、文明を持ち、感情を持っている」
「なあ香織、戦争の終わり方って知ってっか?相手が白旗あげた時か、お互いやめね?って言った時か、どっちかが滅びた時の三択だぞ?……魔人族と人間族がそんな長くやってんのに降伏も和平も結んでないじゃ、お互い滅びるまでやるつもりなんだろ。それに加担するって言ったのアイツだ。……現実的な話すっと、私達が人殺ししなきゃ、私達が死ぬ状況にアイツのお陰でなっちまった」
「そんな……」
非常に面倒な事になりそうだ…この世界の事などそもそも、サツキちゃんとハジメを拉致った事で特に何とも思っていないが……クラスメイトには死んでほしくないというのが本音だ。
ここは一つ皆の士気を下げる事になってしまうが、現実を叩きつける必要があるだろう。
私たちや雫、他にも聡明で先の事を見据えた極少数の者以外の顔は、今から自分たちは英雄になるという淡い妄想に浸っていた。
しかし、私たちは英雄ではない。
私は龍である魂を受け継ぎ人間の暮らしを享受している1つの生命に過ぎないし、他の皆は齢20も未だ迎えていない青二才だ。人1人殺したこともなければ、他人を傷つける事にも正義感という捻くれた後ろ盾が無ければ出来ない輩が大勢いる。
貪欲なまでの知識で竜騎兵を作り上げたあの人間の英雄でもなければ、戦争で名誉ある死を遂げた人間でもない。
皆が切望しているのはより多くの屍を築いた方の英雄だ。その屍が何であるか彼らは理解していない…故にその様な姿に憧れる。
決して…あの完全に人の発展と大自然の恵みを調和させたハンターであったり、種族が違えているのにも関わらず大型の獣から弱き種族守りきった少女の様な小英雄ではないのだ。
私は椅子から立ち上がり、光輝に向けて言葉を放った。
「光輝よ。戦争に参加すると言ったその度胸は褒めてやる……があまり理想は見ない方が良いと助言しておく」
「美羅さんか…理想を見ない方が良いってどういうことかな?」
「そのままの意味だ。お前は今、この戦争に参加すると言ったな?」
「そうしなきゃ、この世界の人々を救えないし、皆も救えないじゃないか!」
「うむ。確かにな『今』示されてるやり方としては最善だろう。しかしな…相手は動物ではない。長年人間族と戦えるだけの知力と力を持った『人』だ。…お前に皆を守り切れるか?お前に人が殺せるか?」
「当たり前だ!俺がみんなを絶対に死なせない!!それに、君は一体何を言ってるんだ!?誰もそんなこと言ってないだろう!!俺が人殺しをするなんて…!!」
「いや、確認はしたぞ?とある種族を滅ぼすと…お前は言ったではないか」
「一体何の事を言っているんだ!俺は…!!」
「戦争に参加すると言ったではないか。戦争をするとはそういうことなんだよ。それに……イシュタルとやら、爾が望むのは魔人族の滅亡か?」
「当然でしょう。我らが創造神…エヒト様が神敵と認定した者など…生きていること自体が罪です。勇者様には是非魔人族を滅ぼしていただきたい」
「なっ!?イシュタルさん何をっ!?」
「光輝、お前が承諾したのは
もう一度問おうか。天之河光輝、お前に、皆を守れるか?お前に、人が殺せるか?」
それを聞いた途端、何の言葉も発さなくなった光輝。それに合わせ先程まで騒いでいた皆が静まり返り私に視線が集まる。というかサツキちゃんやハジメ達もドン引きしているような気がする。…まあ、元よりこういう雰囲気になるよう発言した。皆が人を殺すという現実を見るように…。又は、殺されるという可能性を見るように……。
畑山先生はサツキちゃんに阻まれていたとはいえそれを気づかれることなく防ごうとしていたんだろう。何せ、最も早く戦争への参加を拒否したのは畑山先生であり、光輝が戦争の参加を宣言し皆が盛り上がっていた時も必死で止めようとしていたのは畑山先生だ。まあ、普段の抜けているところや身体的特徴からマスコットキャラクターに位置付けし、良い意味でも悪い意味でも親しまれているので真剣に話を聞いてくれる生徒などほぼ皆無であったが……。
と、ここで光輝に動きがあった。
「俺は…俺は必ずみんなを守りきって、元の世界に返してみせる!!そんな意地悪を言われたって俺は屈しない!この世界の人々だって救ってみせるさ!!」
「そうか……難儀だな」
殺すと言った相手を救うか…。
それ以降の話は無駄だと感じたのか美羅が座る。
そして美羅は天之河光輝という子供を前に慈愛の満ちた眼差しを送るのだ。哀れに見えて仕方ない…と言った風に。彼の精神は一見、肉体と共に成長しているようでしていない。物事を多角面に見ることが出来ず、己の不利は覚えていないのかすぐに無かったことにする…そして、自分の方が正しいと思うことに愚直に突き進み皆を巻き込む…例えそれが間違ったことだとしても……あぁ、まるで我儘な子供のようじゃないかと…。自身の筋書き通りの人生を送らないと満足できないとは…なんて不自由な男なんだと。
しかしそれとは裏腹に話は進んでいく。
私の助言とも取れない言葉の羅列はあまり意味をなさずに結局戦争には参加するという方向のまま皆戦うことになってしまった。まあ、複雑な表情の者が多く居てくれたので、そういう心構えを持ってくれるだけで嬉しい。
清水くんはサツキちゃんが関わった事によってだいぶ変わってるよ!
正直お前誰だよって言うぐらいには変化したんじゃないかな。
…にしても光輝くんの言い訳みたいなやつ考えるのクソムズイ。あの子本当に一体どうしたらそう解釈するの?って奴本当に多いから……。ちゃんと書けているか不安……。
2022年3月13日 追記
ちょーっとばかし文章を脚色し直しました。