サキュバス・クエスト~私の淫魔のヤバイやつ~   作:マキシマムとと

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2.市川京太郎にも勝てない

 

「クソが…!」

 

試練の間の前で今鹿が毒づく。

光を弾く艶やかな黒髪。

そこにはベッタリと、砕けたタマゴが殻ごと付着している。

 

「フラっちがいなくなった途端イキりやがって」

 

グツグツと煮える憎悪。

サキュバス見習いなんだから、煮込むのは子宮と卵子だけにしとけよ!! とイマジナリー自分が茶化すが、今はあまり笑えない。

 

「ーーークリーン」

 

ため息のついでに無詠唱魔法を発動する才能。

彼女の目指す先がサキュバスではなく、ウィッチや魔法少女であったならーーーそう思わせる魔力の静謐な流れはしかし。

 

「よし! 今日こそクリアしちゃうぞッ!」

 

1番星のようにキラキラと輝く瞳の前には、路傍の石ほどの価値もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【Karte.92♡山田ちゃん体験コース♡】

『クリア条件☆惚・れ・る・な☆』

 

「9292929292」

 

壊れたーーー?

いや、今鹿は…!

 

「92だと? カルテ92の山田体験コース? 死ぬ、ヤバイ。遺書を書かなくては、フラっちと、お婆ちゃんにーーー急いでッ!!」

 

過去最高クラスに研ぎ澄まされた無詠唱魔法が文字を書く。

転送コードを含む青い燐光との干渉すらもすり抜けて、高度な魔法が文字を成す。

生きた証を遺すため、後顧の憂いを断つために。

 

本体が消える寸前に完成した遺書には一言。

 

『僕ヤバで死ねて、今鹿は幸せでした』

 

ありがとう僕ヤバ。

僕ヤバのヤバさを語り継ぎ、この作品がR18指定されていない奇跡について論議を交わしてください。

ありがとう。

2度とこのような悲劇が起こらないことを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそんな、なるの?」

 

今日も快晴。

池のほとりのベンチの上で、完全に脱力した今鹿をフラフシュが膝枕していた。

 

「なるぅぅぅ、なるよぉぉぉぉぉ」

 

瞳には安定の♡マーク。

ヨダレが垂れてフラフシュの太股を少し濡らした。

 

「えっと…カルテ90…?」

 

「92だね、カルテ92副題は『僕は生まれた』主人公、市川京太郎くんの誕生日のお話で日付は3月26日。ちなみにカルテ90は足立くんと萌子様のホワイトデーの話でーーー」

 

そっ。

 

基本的に、オタクに口を開かせてはいけない。

フラフシュに封じられた口をモガモガと動かす今鹿。

 

(ーーーえ! まだ喋ってる!?)

 

今鹿の意識はここにはない。

走り出したら止まらない、誰にも、くぉの! 熱いハートは止められやしないッ!!

 

「も、もぉ…」

 

根負けした、というか比べることすら出来ていないのだが、諦めたフラフシュが手を退けるとまだ続いていた今鹿の『僕ヤバ』レビューが佳境に入っていた。

 

「すんごいのよ! 夜道で後ろからついてくる影を前に立ちはだかる市川! 背中越しに不審者から守られた瞬間のトキメキからしてヤバイんだけどね!? 問題はその後!!」

 

「はぁ…はぁん?」

 

「『怖いだろッ』て叫ぶの! 市川くんはさ、ちっちゃいの。ちっちゃくて可愛くて野良猫みたいなプリティボーイなのよ!? その市川がさ、怖いだろッ! て叫んじゃう市川がさ!! 守ってくれるんだぜ!? も! も! もッ! むーりーだーよおおおおおおおおおお!! クリアさせる気なんてゼロだろ!? これをクリア出来るヤツぁサキュバスじゃねぇわよ!!」

 

早い。

早いぞ今鹿。

 

「あ…あぁね? テンプレ的な?」

 

ぐわん!!

と今鹿の瞳孔が開く。

 

「テンプレ舐めんなし」

 

「いや、ぜんぜん」

 

「テンプレってのはね、フラっち」

 

瞳孔が黒い。

 

「テンプレってのは、道具なのよ」

 

「へ、へぇ…?」

 

「扱う人間によって、凶器にもなれば、世界を滅ぼす核兵器にもなり得る」

 

なり得ないだろう。

 

「桜井のりおは神。新世界の神なの。テンプレに至るまでの道筋のすべてが尊いのよ、わかる? ここまで繋がってきたドチャクソにシコイ2人の歩んだヴァージンロードがあって、その上でのテンプレートなの! 特別なの! もはや結婚待ったなしなの! 中学生なんだぜッ!?」

 

「シーちゃん唾、ツバ飛んでる」

 

「ツバも飛ぶよぉ! 成層圏まで飛んでくよッ!」

 

「飛ばさないでねー? 帰っておいで~」

 

「ダメだ! アタシはこの思いを唾液に込めて、きっとこの偽りの天蓋を貫くのだ! そしてゆくゆくは市川京太郎&杏奈夫妻の第一子としてあの世界に転生するのだ!!」

 

勢いよく立ち上がり、空に高らかに宣言する。

そんな今鹿がくるりと振り返り、太陽を背にフラフシュへと手を伸ばした。

 

「その時はフラっち、君だけは妹として迎え入れてあげるから」

 

お馬鹿な発言。

しかし、それを現実にしかねない真剣で艶かしい魔力の流れ。

飽きることのない友人の雄姿に、フラフシュはただ嬉しそうに微笑んで応えた。

 

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