サキュバス・クエスト~私の淫魔のヤバイやつ~ 作:マキシマムとと
【Karte.19♡市川香菜(おねぇ)憑依コース♡】
『クリア条件☆弟から「お姉ちゃん大好き♡」の一言を引き出せ☆』
相変わらずの無理難題。
もし魅了系の魔法が使えたなら楽勝なのだが、この世界は横紙破りを許さない。
ーーーしかし。
「もえる」
このクエストを作ったヤツはわかってる。
京太郎がシスコンなことも、それをこじらせて反抗的な態度に出てしまうことも、姉がそれをすべて把握した上でハスハスしていることも、あらゆるすべてを承知の上でこのクエストを作成した。
アタシの第六感に狂いはない。
クエストの立案者はこう言っているのだ。
「このクエストを達成できたなら、それは君がサキュバスとして一流である事の証明となり、永遠に消えることの無い輝かしき栄光へ変わるだろう、見せてみたまえインパラ(淫・天原の略)サキュバス見習いの実力とやらをッ!!」と。
無理難題、だからこそ…そそる。
ぷりちーな京ちゃんから「お姉ちゃん大好き(///∇///)」なんて言葉を万が一にも引き出せた日には、お姉ちゃん死んでもいい…いや、死んでしまう! 死にたいッ!!
だがどうだろう。
現実的に考えてあの京ちゃんが言うか?
キラキラの背景を背負い、ニヒルに口をつりあげて。
「お姉ちゃん、大好きだぜ☆」
いやない。
言うハズがない、それは完全なる解釈違い。
むしろ顔が同じなだけの他人。
言うとすれば、
「はっ…おっ…ねっちゃ……すきぃぃぃ?↑」
だろ!?
いやいやいや、わかってるよ? わかってるともッ!!
気を許す前の女子相手ならともかく、今のアタシは京ちゃんの姉=おねぇだ。
おねぇ相手にあのキョドりトークを見せるか?
あの京ちゃんが?
ない、それこそあり得ない。
あり得ないは別としてすんごく子宮が痛い。
いや、でもそうだな。
お金?
札束で釣って言わせればワンチャンある………る?
確認した財布には千円札が2枚。
ーーー厳しい。
お姉ちゃんもしかして京太郎よりも貧乏なのでは??
「おい、おねぇ」
「ーーーはぅわ!?」
気付けばシーンが始まっていた。
「おねぇいつも疲れてんな」
目の前で、リアルに京太郎すわんが喋ってぅぅぅうぅぅぅうう!!
アタチのちんぱい(心配)してりゅぅぅぅ!!
内心バグまみれなのだが、憑依コースなのが幸いして香菜ちゃん(おねぇ)が無難に受け答えしてくれた。
いくつかのやり取りの後の一言。
「『ありがと♡愛してるよ』」
この一言にだけは自分の言葉を重ねがけする。
「死ね」
姉との嬉しいえちえちデート。
恥ずかしい年頃だもんね♪
照れ隠しした京ちゃんが吸い込まれるように上を見上げ。
「ーーー!?」
本編がスタートした。
即ちサキュバスを超えるモノ。
どシコイんモンスター山田杏奈とのエンカウントである。
◇
ここで状況を説明しておこう!
アタシ=市川香菜&京太郎カップルは現在バーガーショップにて至福の兄弟デートプレイの真っ最中。
そこに後から入ってきたのが山田とお友達の2名。
1人は『にゃあ』こと吉田芹那でもう一人はアタシの憧れの萌子様。
いつもならここに『ばやしこ』こと小林ちひろが加わるのだが、この日は3人で遊んでいたらしい。
山田は京ちゃんの席の真後ろに背中越しで着席。
お互いの存在に気付いているのは2人だけ。
この時点でエモい。
童貞なら死ぬ可能性がある。
そんな状況で姉とのデート姿を目撃された思春期の少年が耐えられるハズもなく。
(可愛い。なんだこの小動物は? 赤面? その顔を両手で隠したうえにプルプルと小刻みに震えるーーーだと?)
子宮が痛い、子宮が痛い、子宮が…あっつうぅぅいッ!!
今鹿は魚人のクオーター。
祖父から受け継いだ魚人のとしての遺伝子が、子宮の中に健康な卵子をプリプリ産み出す。
それがキツい。
無自覚にサキュバスを狂わせる狂死狼様のすべてが、キツいッ!!
咄嗟の判断で今鹿はおねぇとのリンクを出来る限り切断し、煩悩が及ぼす悪影響を可能な限り抑えた。
その間に女子の話題はナンパの成功うんぬんへと切り替わる。
「でも実際町でナンパなんかされんの?」
スーーーと、耳に手をあてて背後の女子トークを聞き取ろうとする京太郎。
山田が振りまくるシャカチキの音で聞き取れずにモンモンを溜め込む京太郎。
(おっ………くはッ♡)
耐えるのよアタシ、アタシはおねぇ、今のアタシはお姉ちゃんなんだーーーでも、か、可愛いが、過ぎて…死ぬッ!!
「ねぇ聞いてる?」
今鹿とのリンクが切れかけた事により、市川香菜が本来のストーリーに添う形で京太郎へ話しかけた。
このまま話を進める。これも1つの選択肢だ。
原作の忠実なる崇拝者としての今鹿を優先するのであれば、このままの流れで京太郎の注文内容を眺め「サラダ食べる弟スコスコ♡ 可愛いが過ぎるぞ京ちゃん♡」と弟を無自覚羞恥プレイのドン底に叩き落として場面の切り替えに持っていくべきなのだ。
だが、果たしてそれは正解なのだろうか?
突き詰めた話し、この世界は『良くできた同人誌』の世界に過ぎない。
原作に影響を及ぼすことの無い架空の世界。
良くできた夢、妄想。
何をしても、しなくても変わらない幻。
(ならーーーそれなら…!)
「そう言えばさ」
「ーーーあ?」
「自転車、なんで壊したの?」
京太郎と、ギリギリでその後ろに座る山田にだけ届く音量で必殺を投げる。
「はーーーえ? なん、急に、どした…?」
「ほら、京ちゃんて物持ち良いじゃん? モノを大切にするってゆーか、無駄に乱暴な使い方しないし、きっと理由があったんでしょ? 例えばーーー」
原作ではKarte.121の現時点最新話でも触れられていない、しかし2人を語る上では絶対に外せない大切な思い出。
語らないからこそ、もしくは溜め込んでいるからこそ素晴らしい隠し味になっているのかもしれない。
だが、だがしかし、それでも…!
山田杏奈の集中を感じながら。
アタシは姉として、ファンとして言葉を紡いだ。
「ーーー守りたかった、とか?」
ガタン。
椅子の揺れる音。
その音源がどこからなのかはわからない。
わからなくて、いい。
「ぃ…」
「子猫!」
「…へ?」
「お姉ちゃんの予想ではねぇ! カラスにツンツンされて激ヤバ状態の子猫を発見! 愛と勇気の戦士であるアタシの可愛い京太郎くんは義憤に燃えたぁ! 助ける、今すぐに! だけど距離がある! 今すぐに助けねば子猫の命が…! てな状況だったから、ついつい手に持ってた自転車を投げちゃったんだ! とか? そんな話なんじゃないのぉ? ねぇねぇ京ちゃん、どうなの~?」
うりうり、と下から目線を投げる。
「なッ…なんか買ってくるわ…!!」
席を立ち足早というか、もはや小走りで爆心地を離れる京太郎、そして。
「あ、あの…ちょっとお手洗い、行ってくるね!」
京太郎の後を追いかける山田杏奈。
アタシは知らんぷりする。
当然だ。
この時点ではまだ市川香菜と山田杏奈には何も接点がないのだから。
だからアタシは知らない。
ペコリと小さくお辞儀される気配を感じても気が付かないフリをする。この世界の主役は市川と山田。
それが世界のあるべき姿なのだから。
(~~~てぇてぇ…! 杏奈ちゃんマジすこ。まだ知らないお姉さん相手にお辞儀してくんだよ? なんて良い娘なんだ。これこそが、
下のカウンター前でどんなやり取りがあるのか、それを想像するのが楽しい。
会話に変化があるのか、無いのか。
どちらでも良いし、どちらであれ介入はしない。
ただ愛でる。
野に咲く美しい草花を慈しむように、あの2人の醸し出すシコシコな空気を取り入れる。それこそが、今鹿のジャスティス。
「お帰り~って、どした?」
「あ、ちょっと注文してくる!」
山田が財布を取りに帰ってきた。
と言うことは、原作とほぼ同じ流れなのかな…?
杏奈ちゃんがまた下に降り、入れ替りで上がってきた京太郎が猫のように素早く着席した。
「~~~!!」
顔を赤らめたまま、左手でシャカチキを振りまくる。
右手にはソフトツイスト。
これぁ。
原作ですねぇ…(^q^)ウヒヒヒヒ。
可愛い弟の姿を写真に収めながらその日は満足して家路についた。
(あーーーあれ? いつもは原作が終わったらそこで強制終了するのに…?)
「おねぇ」
「はぇ!? あ…へへ。どしたの京ちゃん」
振り向くと、どこか真面目な表示の彼がいて。
「今日は…その」
(え…え!? なに!? 原作クラッシュした? 愛の告白!?)
「あ…ありが、と///」
ーーーーーープン。
今鹿の記憶はそこで途切れる。
最後の最後、目に焼き付けたのは猫口になった京太郎が顔を赤らめ、目をそらしながら頬を指で掻くという悩殺映像であり、その瞬間今鹿の子宮膨張率は過去最高を記録したのであった。