サキュバス・クエスト~私の淫魔のヤバイやつ~ 作:マキシマムとと
「う~………♡」
今鹿定番のノックダウンである。
「う~ひ~ぃぃぃ……♡」
千鳥足のままよろよろと辿り着いた場所は親友フラフシュの私室。
ワニ頭の幻獣アーマーンの一族であるフラフシュの部屋はジャングルになっている。
時空間の複写魔法を用いた一室なのだが、その中央に無造作に置かれた折り畳み式の安いベッドがひどく景観を壊している。
ベッドの持ち主はフラフシュだが、今鹿は当然のよう頭から薄いベッドにダイブしてヨダレで敷き布団を汚した。
背中には貼られたお馴染みの『もっとがんばれ♡』の大きな張り紙がマントのようにぺらぺらと揺れる。
『あら…?』
川底で微睡んでいたフラフシュが今鹿の気配を感じとり浮上。
「ーーーあらあら、また失敗したのねぇ」
人間に近い形態に骨格を組み換え、ゆったりと歩む。
『バスタオル』と言う名の呪札。
今鹿が手ずから作った風属性魔法が込められたソレの開封により、体表にある不要な水分を散らして。
その流れで樹木と冷蔵庫を合体させた貯蔵樹を開きドリンクと冷えピタを手に取った。
「ほら、上向いて」
動く気力の無い今鹿をベッドの上で転がし、冷たいドリンク一口…を、少し前に口移しで飲ませたら後でカンカンに怒られた事を思いだして、仕方なく自分の胃に落とした。
「…ん~冷えピタなら良いわよね?」
今鹿が魚人のクオーターであることは承知済み。
発情により過度の排卵状態に陥り患部が発熱する事も。
冷却系統の魔法を覚えられれば一番なのだが、生憎とフラフシュはアーマーン。
基本的には肉弾戦が大好きな筋肉種族だ。
サキュバスに必須の魅了系を覚えればそれだけで容量は限界だった。
子宮の上に冷えピタを直貼りする。
内臓を冷やすのはどうなのかと思ったのだが魚人的にはセーフらしい。
フラフシュは五分ほどその辺で転がり、ぼやんと世界を眺めた。
当たり前にある密林の匂いの中に、若い魔女の香りが混ざる。
ただそれだけで脳の一部から快楽の液が流れた。
「ーーーあ゛~みず、ぐだ、ざい」
「あら、再起動完了ね」
年老いた家猫のようにのったりと動く。
そんな今鹿をフラフシュは甲斐甲斐しく介護する。
この時間が永遠に続けば良いのに。
そんな仄暗い情念をおくびにも出さず、彼女は柔らかく微笑んだ。
◆
「今までで1番惜しかったのはどんなクエストだったのかしら?」
今鹿のクエストは連敗続きだ。
本人は楽しそうなのだがフラフシュからすれば周囲のクソみたいな態度が気に食わない。
「それなら2回目のクエストだね」
復活した今鹿が考える素振りもなく即答した。
そのクエスト内容は。
「【Karte.22♡無機物(カッパ)憑依コース♡】でクリア条件は☆晴れるまでに甘イキ100回☆だね!」
「………へぇ(相変わらず狂ってるわねぇ)」
一般のクエストと何故こうも違うのか。
不思議に思う頭が、同時にもう1つの不思議に辿り着く。
「ーーーん? 無機物…?」
「うん! カッパだね、雨具の!」
「その…カッパ? に憑依して?」
「甘イキ100回だよ!」
ん?
と小首を傾げて脳を回す。
確かフラフシュは「今までで一番クリアに近かったクエスト」を聞いたハズだ。
「どーーー」
どう聞く? 「どんな性癖してるの?」これは悪手だろう、今鹿は確かに特殊な女の子だが、それなりに常識もある。
自分の特殊性癖を友人に咎められるのはツラタンかもしれない。
(フラフシュはツラタンを意味を2つのランタンーーーつまり、必要以上で無駄な事だと思っている)
「ど、どーーー」
キラキラと、月の無い夜空のように星が煌めく真っ黒の瞳が、フラフシュの言葉を引き出した。
「ドキドキしたの…?」
ギリギリだ。
アウトの可能性が高い。
「どんな性癖」とそんな変わってない気もする。
怒った今鹿は面倒だし、なかなか機嫌が直らないから嫌なのに。
しかしフラフシュの杞憂は。
「めっちゃした!!」
はじけるような今鹿の笑顔が掻き消したのであった。
◇
「あの頃はね~、まだまだ僕ヤバを知らなかったんだぁ」
【僕ヤバ】クエストへの挑戦、初期。
その頃の今鹿は僕ヤバを理解していなかった。
初回に山田杏奈の悩殺スク水登校に敗北し、怒りのリベンジャーとしてただクエストを攻略する事を目的としていたし、原作すら読んでいなかった。
「だからこそ混乱したね」
僕ヤバのようにストーリーに没入して、かつ憑依(もしくは体感)するパターンだけでも珍しいのに、その憑依先が無機物であり、その上にクリア条件が甘イキ100回と言う謎クエストだ。
「このクエスト作ったヤツは脳がお酒で死んでたのかな? て本気で思った。ガキのおままごとを無機物憑依で観察して? それでイケって? アホらしーーーってのが正直な気持ちだったよ? もー僕ヤバからは足を洗おうって思ったし」
Karte.22は雨の話だ。
雨の日の下校時間、玄関で出会う2人。
傘を持たずに待ちぼうけする山田と、カッパ姿で登場する市川。
「杏奈ちゃんがね? コンビニで傘を買ってくるからお前のカッパ貸せよ! てジャイアンする所から始まるんだけどね? 実は杏奈ちゃん傘持ってるのよ、持ってるくせに持ってないフリして京太郎が来るのを待ってたの!! たぶんね! アタシの予想だとね! 雨の中を2人でイチャイチャしながら帰る予定で待ってたんだよ! だけど現れた京太郎がカッパ姿だったから『彼の上着』を身に付ける欲求が発動しちゃったんだと思うんだよねッ!!」
「うん、、、早いわね」
「そう! 恋する乙女の頭脳は高速回転待った無しなの!」
いや違う。
違うぞ今鹿…!
第一まだその時点で恋してるか否かは判然としていない…!
ギリギリ、ギリギリで男友達との新鮮なコミニュケーションに浮かれている線も残っているだろうがッ…!!
「んで、適当に理由つけてコンビニまで買い物に行くんだけど、杏奈ちゃんてばうっかり財布を忘れててね? 京太郎くんが雨の中、走って持ってきてくれるのよ! カバンが濡れないように抱える感じて持ってきてくれるんだけどね? 雨で打たれてる衝撃の心地良さと杏奈ちゃんの『キュン』的な感じ? あともぉ破壊神のアバターを疑うレベルの強烈な京太郎・ザ・上目遣いが劇的にエロかったんだけど、流石にその程度ではイカなかったのよね」
ーーーだけど。
そう呟き、大規模魔法を練るように大気を肺に取り込み、一息で愛を吐き出した。
「その後はもぉ怒涛だったの! カバンから傘が出るじゃん? 「あ、それ壊れてるの!」なんて嘘八百で切り抜ける杏奈ちゃんがまず可愛いし、その後のやり取りはもぉ! 今でもムラムラくるもの、わかる? 雨の中という特殊フィールドを最大限に活用する事で生まれる2人だけの世界。財布が濡れたら嫌だからって、京太郎くんにカッパの前ボタンを外すように杏奈ちゃんが言うのよ! 震える手でボタンを外す京ちゃん、吐息を漏らしながらそれを凝視する杏奈ちゃん!! もぉ、もぉ!! 凄いんだからッ! 空気だけで孕むところだったわよ! あの無自覚と計算によって創り出された絶妙なシコリティはアタシのサキュバス観を一新したよねッ!! その後京ちゃんがさ、杏奈ちゃんに触れないように細心の注意を払いながら、カッパの内側にある杏奈ちゃんのポケットに財布を入れるんだけどさ、もぉこれなんて明らかにアオカンだからね? 時間の流れが途端にゆっくりになってさ、あれってもぉ擬似的な青空の姦通…あ、雨だからアメカンが正しいのかな? ずぷずぷっとアタシ(カッパ)を突き抜けて杏奈ちゃんの中に京太郎の京太郎が入ってくるのよ!? もぉ限界でしたね! 完全にね!! 意識だけで超連続イキしたものッ! たぶんあのクエストの『甘イキ』指定が問題で、普通のガチイキ指定だったら余裕でクリーーーーーー」
オタクに、喋らせては、いけない。
フラフシュは再度、当たり前の失敗に気付いたのであった。